起業直後や業績が安定しない時期、「明日、資金が足りない……」という切実な場面に直面したことはありませんか?
そんなときに悩むのが「銀行か、ノンバンクか」という選択。低金利が強みの銀行、スピードと柔軟性が持ち味のノンバンク……どちらを選ぶべきなのでしょうか。
そこで本記事では、それぞれのメリット・デメリットや使い分けのポイントについて、公認会計士である辻哲弥氏がわかりやすく解説します。
コロナ禍の「ゼロゼロ融資」が返済期…資金繰りに迫られる経営者

コロナ禍の2020年〜2021年にかけては、国の後押しによる「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保)」が広く実行され、多くの企業が一時的に資金繰りの安定を得ました。
しかし現在は返済期を迎え、元本返済や利払いの負担が経営を圧迫し始めています。さらに、追加融資や借り換えを希望しても、銀行は過去よりも慎重な審査姿勢を強めており、従来のように簡単に資金が出ない状況が顕著になっています。
一方で、物価高・人件費高騰・仕入コストの上昇など外部環境の変化により、運転資金を「急ぎで確保したい」というニーズはこれまで以上に増えています。こうした状況で、経営者が直面するのが 「銀行融資」か「ノンバンク融資」か、という選択です。
・ノンバンクは金利が高めで総負担は大きくなりやすい一方、スピードと柔軟さに優れ、実績が乏しい企業や緊急時でも検討しやすいのが特徴です。
つまり、低コストを取るか、スピードを取るか、それとも両者をどう使い分けるかが、資金繰りを安定させるための重要な判断軸になっているのです。
銀行とノンバンクの違い

まずはタイプごとの特徴を整理してみましょう。
![[図表1]銀行区分の特徴](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/11/789bb48322b4cc9075a157c174303fd1-1024x129.jpg)
出所:筆者作成
銀行のメリット・デメリットは下記のとおりです。
■低金利で長期借入が可能
目安として年1〜2%台の金利で、数千万円規模の融資を受けられるケースもあります(審査結果や保証料の有無により異なります)。
■信用力の向上につながる
銀行融資実績は「第三者からの信用力」として評価され、取引先や他の金融機関からの信頼獲得にもプラスです。
■関係性構築が将来の資金調達に有利
定期的な借入や返済実績を積み重ねることで、追加融資や大型融資にもつながりやすくなります。
■審査に時間と手間がかかる
決算書3期分や事業計画など多くの資料が必要で、審査も2〜4週間かかるのが一般的です。
■赤字・債務超過企業は借入困難
財務状態が悪化している企業は、融資ハードルが高くなります。
■担保や保証協会利用が必要なケースが多い
中小企業の場合、経営者個人保証や不動産担保が求められることもあります。
ノンバンクのメリット・デメリットは下記のとおりです。
■スピード対応に優れる
最短即日〜数日での融資に至る場合もあり、急な資金ニーズへの対応に適しているケースもあります。
■利用ハードルが低い
赤字決算や創業直後でも柔軟に判断されるケースが多く、銀行融資が難しい企業でも利用余地があります。
■担保・保証人不要が一般的
無担保・無保証で借りられるため、経営者のリスクを抑えやすいのも特徴です。
■金利が高め
年5〜15%程度の金利設定が多く、長期利用すれば利息負担は銀行の数倍になることも。
■短期運転資金向けに限定されやすい
数年を超える長期借入には不向きで、大型設備投資などには適さない傾向があります。
■契約条件に注意が必要
返済遅延で一括請求となる「期限の利益喪失条項」など、契約内容を理解せずに利用するとトラブルに発展する可能性があります。
銀行は低金利だが「時間と信用」が必要、ノンバンクは高金利だが「スピードと柔軟さ」が強みです。
注意点とトラブル回避術

「実質金利」で比較する
金利だけでなく、事務手数料・保証料・印紙代などを含めた「実質負担」を確認しましょう。名目金利が低くても、諸費用込みではノンバンクと大差ないケースもあります。
契約書の条項を必ず精査する
特に注意すべきは「期限の利益喪失条項」。返済を1回でも遅延すると、残りの借入金を一括請求されるリスクがあります。契約時にどの条件で発動するかを事前に確認し、資金繰り計画に余裕を持たせておくことが重要です。
将来的な借り換え戦略を視野に入れる
ノンバンクは緊急時の資金調達には有効ですが、金利負担が大きくなりやすいため、中長期的には銀行融資への切り替えを検討するのが現実的です。「当座はノンバンク、安定後は銀行へ」と二段構えの計画を立てておくと安心です。
※本記事で紹介する金利・条件・期間は一般的な目安です。実際の融資可否・条件は、各金融機関の審査方針・与信状況により異なります。
条件別シミュレーションを比較

ここからは、A・B・Cの3つの条件別にみていきましょう。
![[図表2]条件別シミュレーション例(修正版)](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/11/e21332f694055f61eadcb86db217de73-1024x140.jpg)
出所:筆者作成
※前提:元利均等返済方式による概算例です。実際の返済額は金利・諸費用・契約条件により異なります。
ケースA:銀行利用・長期安定型
年商1億円規模で、安定した返済計画を立てやすい企業です。保証料はかかるものの、低金利により総支払額が抑えられるため、中長期の資金繰りに有効といえます。銀行との関係強化にもつながります。
ケースB:ノンバンク利用・中期資金繰り型
ケースBは、銀行融資に時間をかけられない、または追加融資が難しい中小企業向けです。総支払額は銀行融資より高いが、スピードと柔軟性を優先できるのが強みです。成長局面や急な資金需要で役立ちます。
ケースC:ノンバンク利用・緊急対応型
急ぎで300万円を調達する必要があるケースです。即日融資も可能ですが、1年返済+高金利のため、月返済負担が重いのが懸念点といえます。緊急時の資金ショート回避には有効ですが、恒常的な利用には不向き。銀行融資への借り換えを視野に入れるのが現実的です。
最新の金融機関動向(2024〜2025年)

ここからは、昨年から今年にかけての、最新の金融機関動向をみていきましょう。
スコアリング融資の拡大
中小企業融資の現状打破を目指す仕組みとして、「スコアリング融資」などが注目されています。
AIやクラウド会計、POSデータなどを活用したスコアリング審査により、定量的根拠に基づく迅速・公平な審査が可能となりつつあり、審査の迅速化や定量化が進んでいると指摘されています※1。
※1 中小企業融資の現状打破を目指す仕組みとして、「スコアリング融資」などが注目されている(Money map, 2025年)
中小企業融資の現状と未来:スコアリング、LCR、個別審査方式の連携による新たな可能性 – 資金調達マップ。
クラウド会計データとの連携強化
2025年4月、法人カード「UPSIDER」は、銀行API連携のSSO対応により、連携開始までの時間が約4日短縮され、与信枠審査にスムーズに入れるようになったと発表しました※2。
中小企業の資金調達において、freeeやマネーフォワードといったクラウド会計サービスと銀行のシステム連携が進展し、入出金データのリアルタイム取得による与信スピードの向上や、書類手続きの簡略化が可能になってきています。
※2 銀行API連携のSSO対応により、連携開始までの時間が約4日短縮され、与信枠審査にスムーズに入れるようになったと発表。(2025年4月)
Web完結・非対面融資の普及
融資の申し込みから審査・融資実行までを全てオンラインで行えるサービスが広がっています。特に中小企業向けの資金調達では、決算書不要・AI審査・最短即日融資など、スピード・利便性に優れた融資モデルが増えています。
たとえば、三菱UFJ銀行「Biz LENDING」では、申込から借入までペーパーレスで非対面対応。入出金データをもとにAI審査を行い、最短2営業日での融資実行が可能と案内されています※3。
※3 三菱UFJ銀行「Biz LENDING」公式ページ(2025年時点)
「唯一解」はない…自社の「成長シナリオ」が、資金調達の成否を分ける
銀行とノンバンク、どちらが「正解」であるかどうかは、企業の状況や目的によって異なります。
「時間」と「信用」を重視するなら、銀行がいいでしょう。銀行は低金利・長期借入が可能で、金融機関との関係性は将来の大きな資金調達や取引先からの信頼につながります。
一方、スピードと柔軟性を重視するならノンバンクがいいでしょう。即日〜数日の融資スピードは、資金ショートを回避する最後の砦となり得ます。赤字決算や創業直後でも利用できる点は大きな魅力です。
重要なのは「その場しのぎの資金繰り」で終わらせるのではなく、最終的には銀行融資にアクセスできるストーリーをどう描くかです。
ノンバンクで緊急資金を確保し、実績を積んで銀行融資へとステップアップする――こうした二段構えの戦略が、企業の成長を支える現実的な道筋となります。
資金調達は単なるキャッシュ確保の手段ではありません。そこには、経営者の信用力・財務戦略・企業の成長シナリオが反映されます。自社のフェーズや課題に合わせて最適な選択を行うことが、企業価値を高める第一歩となるでしょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の融資商品や金融機関を推奨するものではありません。契約締結の際は、最新の条件・重要事項説明書等をご確認のうえ、必要に応じて専門家へご相談ください。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。