資金繰りの安定は、中小企業にとって死活問題です。しかし、銀行融資は審査や手続きに時間を要する場合があり、急な資金需要に対応しづらい場面もあります。そこで注目されるのが、スピードと柔軟性を特徴とする商品もある「ビジネスローン」です。
本記事では、税理士・公認会計士である辻哲弥氏が、成功・失敗事例を交えながら、賢い資金調達のポイントと注意点を解説します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の節税や投資の勧誘ではありません。税制・社会保険料率は改定される可能性があります。最終判断は必ず税理士等の専門家にご確認ください。
資金調達は経営の“生命線”…銀行融資の弱点を補う、「ビジネスローン」の魅力

中小企業や個人事業主にとって、資金繰りの安定はまさに経営の生命線です。仕入れや人件費の支払い、設備投資など、日々の経営活動の裏側には常に資金需要が存在します。
資金調達の方法はさまざまですが、一番に思いつく「銀行融資」は、低金利という強みがある一方で、審査が厳格で、実行までに時間を要するという弱点があります。
こうしたなか、「ビジネスローン」はスピードと柔軟性に優れた資金調達手段として、多くの経営者に選ばれています。
数日〜1週間で審査が完了する商品もあり、担保や保証人を求めないタイプも見られます(取扱いや審査内容によって異なります)。必要なときに資金を確保しやすい点が、多くの経営者にとって魅力となっています。
とはいえ、筆者が公認会計士・税理士として数多くの中小企業を見てきたなかでは、ビジネスローンを上手に活用して成長につなげた成功事例もあれば、逆に借入が重荷となり経営を圧迫したという失敗事例もあります。
本記事では、具体的な成功例と失敗例を紹介しながら、経営者が押さえておくべき資金調達のポイントをみていきましょう。
「つなぎ資金」を“攻めの一手”に…「ビジネスローン」成功事例

事例1.設備投資で売上拡大に成功した中小企業A
製造業を営む中小企業Aは、新しい機械を導入するために1,000万円を5年返済で借り入れました。借入前に綿密な返済計画を立て、事業計画と連動させることで無理のない資金繰りを実現。生産効率が大幅に改善し、売上は前年比110%に伸長。
資金使途が明確にし、返済計画と事業計画を連動させていた点が成功の決め手となりました。
事例2.借入金の一部を販促に“投資”…経営安定化を果たした飲食店B
飲食店Bは、仕入れや人件費の支払いが重なり資金繰りが悪化。そこで800万円を3年返済で借り入れ、支払いと入金のタイミングのズレを解消しました。
さらに、借入金の一部をデリバリー導入や販促に投資したことで新しい顧客層を開拓。結果として売上が回復し、キャッシュフローも改善、経営は安定化しました。
単なる「つなぎ資金」ではなく、将来の売上回復につながる施策に資金を投じたことが成果につながりました。
事例3.繁忙期と入金ギャップを埋めるため「短期借入」を行ったアパレル業C
アパレル業のC社は、繁忙期に仕入資金が集中する一方で、売上入金は数ヵ月先という課題を抱えていました。
そこで、500万円を1年以内の短期借入で確保。繁忙期の在庫を十分に仕入れた結果、販売機会を逃さずに売上を確保し、予定どおり完済。金利負担も抑えられ、計画的に返済を完了しました。
資金需要と回収サイクルを正確に見極め、短期借入で効率的に対応できたことが、成功の秘訣でした。
このように、ビジネスローンの活用が経営の安定化につながった企業もある一方で、なかにはビジネスローンの利用がかえって経営を圧迫したという事例もあります。
経営を圧迫した…「ビジネスローン」失敗事例
事例1.将来の成長を“過信”…過剰借入で返済不能になった小売業D
小売業を営むD社は、将来の成長を過信して1,000万円を借入。しかし、想定していた売上拡大は実現せず、返済負担が経営を圧迫し、やがて資金ショートに陥り、事業継続が困難になりました。
借入額の見極めが甘く、将来のキャッシュフローを十分に検証していなかった点が問題でした。
事例2.計画不足で返済遅延…銀行融資も不可能となったサービス業E
サービス業者Eは、返済スケジュールを十分に検討しないまま、500万円を借り入れました。売上見込みは甘く、資金管理の仕組みも不十分だったため、返済遅延が頻発。最終的には信用情報に延滞履歴が残り、その後の銀行融資が難しくなりました。
返済計画を実行できるレベルまで落とし込んでおらず、資金管理体制も整っていなかった点が致命的でした。
事例3.売上悪化により返済不能になった小売業者
小売業のF社は、将来の拡大を見越して700万円を借り入れました。しかし、競合の増加に加え、コロナ禍の影響により売上が急落。返済資金を確保できず、資金繰りは一気に悪化しました。
F社の問題点は、売上予測に依存しすぎてしまい、外部環境の変化を見越したリスク管理を怠っていた点です。
明暗を分けた夢と現実の“距離”

成功した3社と失敗した3社で明暗を分けたのは、下記の4つのポイントです。
・返済計画の具体性
・リスク管理の有無
・専門家の活用
成功企業はいずれも、「借入金をどのように活用するか」を明確に定めていました。設備投資、運転資金、販促など、目的と効果が結びついているため、資金が成果につながりやすかったといえます。
一方、失敗事例では「とりあえず借りておこう」という発想で資金使途が曖昧なケースでは、結果的に事業成長に結びつかず、返済負担だけが残る傾向が見られました。
また、数字に落とし込んだ計画は、経営判断を冷静にさせる効果もあります。
成功企業が毎月の返済額をキャッシュフローに組み込み、「売上がこの程度なら返せる」という現実的な計画を立てていた一方で、失敗企業は返済額のシミュレーションをせず、希望的観測に頼った計画を立ててしまい、資金繰りが破綻。
遅延や資金ショートに直結しました。
さらに、A~C社は、景気変動や競合の動きといった外部リスクを想定したうえで「もし売上が想定より低下したらどうするか」という代替案を持っていました。資金繰りに余裕をもたせることで、突発的な変化にも対応できたのです。
しかし、D~F社は「売上は伸び続ける」という前提に依存してしまい、外部要因に備えたシナリオを持っていなかったため、一度の環境変化で一気に資金繰りが悪化しました。
ビジネスローンを活用する際には、公認会計士や税理士といった専門家に相談し、数字に裏付けられた計画を立てることで、客観的な視点が加わり、経営者の思い込みを避けることができます。
こうした第三者の助言を得ず、自分の勘や経験だけで判断してしまうと、資金調達のリスクを過小評価し、借入が経営を圧迫する要因となることもあります。
「借りられる額」と「返せる額」は一致しない…ビジネスローン利用時のポイント

1.無理のない借入額を見極める
金融機関が提示する「借りられる額」と、実際に「返せる額」は必ずしも一致しません。重要なのは、売上や利益、キャッシュフローを冷静に分析し、返済に耐えられる範囲で借入額を決めることです。
過大な借入は一時的な安心感をもたらす一方で、返済負担が経営を圧迫するリスクを伴います。
2.返済計画を具体的に立てる
借入を検討する際は、毎月の返済額をシミュレーションし、入金サイクルとの整合性を必ず確認しましょう。
「売上の回収が遅れる月に資金ショートしないか」「季節変動で支払いが偏らないか」といった視点も重要です。計画を数字で示すことで、経営の見通しが立ちやすくなります。
3.信頼できる金融機関を選ぶ
資金調達の成否は金利だけで決まるものではありません。相談しやすい担当者がいるか、借り換えや条件変更に柔軟に応じてくれるか、といった点も長期的には大きな差になります。
金融機関との関係性は「金利以上の安心感」をもたらし、将来的な追加融資や経営支援につながります。
4.専門家に相談する
資金調達は単なる資金繰りの手段ではなく、経営戦略の一部です。会計士や税理士に相談することで、資金繰りが本業の成長を阻害しないようにプランを整えることができます。
特に中小企業では、経営者一人の判断で動くことが多いからこそ、第三者の客観的な意見がリスク回避に直結します。
ビジネスローンを“強力な武器”にするために
ビジネスローンは、適切に活用すれば売上拡大や資金繰りの安定を支える有効な手段となり得ます。しかし一方で、使い方を誤れば経営を圧迫し、事業継続そのものを危うくするリスクもあります。
公認会計士・税理士として強調したいのは、借入は目的ではなく、あくまで企業の成長を支えるための手段であるという点です。自社の戦略に沿った資金調達を行い、健全で強い経営基盤を築いていきましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、制度・税率・料率は改定される可能性があります。融資可否・条件・金利・上限額・審査期間などは各社の審査・商品設計・時点により異なります。契約締結前に商品概要・重要事項説明書・契約条項をご確認のうえ、必要に応じて専門家(税理士・公認会計士・弁護士等)へご相談ください。なお、成果や節税効果を保証するものではありません。
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