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親族間売買のみなし贈与回避の秘訣は路線価にあり!判例から適正価格を知ろう

親族間売買のカギは路線価にあり!適正価格を知ってみなし贈与を回避しよう
セゾンのくらし大研究 編集部

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不動産を相場(時価)より極端に安い価格で売買すると贈与とみなされ、贈与税の負担が大きくなることがあります。しかし、なるべく売買代金は低く抑えたいもの。そのようなときに売買価格の下限の目安になるのが「路線価」です。

このコラムでは、親族間売買の適正価格の考え方と、路線価が売買価格の目安となる理由についてご紹介します。親族間売買を考えていて、売買価格をいくらにすると良いのか迷っている方はぜひ参考にしてください。

この記事を読んでわかること
  • みなし贈与と判断される明確な基準はなく、時価での売買が基本
  • 路線価(相続税評価額相当額・時価の80%)での売買は贈与にあたらないとした判例があり、適正価格の下限の目安になる
  • 時価を下回る価格での売買はみなし贈与と判断されるリスクを伴うため、なるべく時価に近い価格での売買を心がける
04_親族間売買の詳細はこちら

不動産の親族間売買とは?基礎知識を確認

不動産の親族間売買とは?基礎知識を確認

不動産の「親族間売買」とは、親子や兄弟など親族間で行う不動産売買のことです。特に親子間での売買は「親子間売買」とも呼ばれます。

親族間売買の対象範囲

不動産の親族間売買における「親族」の範囲は、特に決まっていません。

民法では親族の範囲を「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」と定めていますが、親族間売買ではこれよりも広い範囲まで含まれると考えられます。

親族間売買のメリット

不動産の親族間売買の主なメリットは以下のとおりです。

  • 思い入れのある不動産を見ず知らずの他人に譲り渡さなくて良い
  • 契約条件を柔軟に決められる
  • 相続時や売却時のトラブルを回避できる

親族間売買は親族が買主になるため、実家のような思い入れのある不動産を見ず知らずの他人に譲り渡さなくて済みます。親族間であれば売買価格や引渡時期、支払方法、そのほかの契約条件にも比較的融通を利かせやすい点もメリットです。

相続発生時に不動産をめぐるトラブルが起きそうな場合は、生前に親子で話し合い、親族間売買で子どもに譲り渡しておくのも有効でしょう。兄弟間で共有になっている不動産があれば、親族間売買によりそのうち一人の単独名義にしておくと将来の相続や売却がスムーズになります。

相続対策や名義の一本化では、売買よりも贈与のほうが有利なケースもあるため、比較して有利な方法を選びましょう。

親族間売買で懸念されるデメリット

不動産の親族間売買には、次のようなデメリットがあります。

  • 住宅ローンの審査が厳しい
  • 税制優遇特例の多くが適用されない
  • 住宅ローン控除を受けられないケースがある
  • 「みなし贈与」を疑われるリスクがある

親族間売買は、貸し出した資金を住宅購入資金以外の用途に使われたり、相続税逃れに利用されたりする可能性があるため、金融機関に懸念されやすく、住宅ローンの審査が通りにくい傾向があります。親族間売買には融資しない金融機関も多いため、住宅ローンを利用できないケースも想定しておきましょう。

また、親子や夫婦(内縁を含む)、生計を同じくする親族、家を売却後にその家で同居する親族などが売買の相手方になる親族間売買では、住宅売却時の税制優遇特例の多くが適用されません。そのため、一般的な売買より税負担が重くなるおそれがあります。

住宅ローン控除は、取得時および取得後も引き続き生計を一にする(同一生計の)親族から住宅を取得した場合には適用されません。

また、不動産の相場(時価)よりも低い価格で売買すると贈与とみなされ、売買であっても贈与税がかかることがあります。これがいわゆる「みなし贈与」です。

親族間売買の成功の秘訣は「適正価格」にある

親族間売買の成功の秘訣は「適正価格」にある

親族間売買は相続対策や名義の一本化など利益を目的としないケースが多く、当事者同士で合意すると1円でも取引が成立します。

しかし、不動産の相場(時価)よりも著しく安い価格で売買すると、税務署から「みなし贈与」と判断され、贈与税の対象になる可能性があるため注意が必要です。贈与税は税率が高いため、負担が大きくなります。

贈与とみなされないためには、親族間であっても「適正価格」で売買することがポイントです。

みなし贈与を具体例で解説

みなし贈与の例としては、本来6,000万円が相場の自宅を、父親が子どもに3,000万円で売却したようなケースが該当します。このケースでは相場(時価)と売買価格との差額である3,000万円が贈与税の対象です。

贈与税には年間110万円の基礎控除があり、税額はその年に贈与を受けた財産の価額から110万円を差し引いた金額に税率をかけて計算します。

贈与税の税率には、贈与する側(みなし贈与の場合、売主)と贈与を受ける側(みなし贈与の場合、買主)の関係によって「一般税率」と「特例税率」の2種類があり、特例税率が適用されるのは、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の方が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けたときです。

最初の例で、自宅を購入した子どもがその年にそれ以外の贈与を受けていなかった場合、3,000万円から基礎控除の110万円を差し引いた2,890万円が贈与税の対象となる課税価格になります。

子どもがその年の1月1日時点で18歳以上であれば特例税率が適用されますが、贈与税額は次の計算のとおりです(計算式は贈与税の速算表より)。

贈与税額(特例税率)=(贈与財産価額3,000万円−基礎控除110万円)×税率45%−控除額265万円=1,035万5,000円

子どもがその年の1月1日時点で18歳未満であれば一般税率が適用されるため、贈与税の負担が増えます(計算式は贈与税の速算表より)。

贈与税額(一般税率)=(贈与財産価額3,000万円−基礎控除110万円)×税率50%−控除額250万円=1,195万円

親族間売買の適正価格は不動産時価の8割以上

税務署がみなし贈与と判断するのは、不動産を相場(時価)より「著しく低い価格」で売買(譲渡)したときです。これは、相続税法第7条の中で「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合(これを「低廉譲渡」といいます)」に、時価との差額を贈与とみなすと定められています。

しかし、どの程度が「低廉譲渡」にあたるのか明確な基準は示されていません。

時価で売買すると確実ではありますが、なるべく売買価格を抑えたいケースでは「時価の8割」が目安になります。これは、相続税評価額相当額(公示価格等(時価)の80%)での譲渡(売買)は低廉譲渡にあたらないとした東京地裁の判例を根拠としたものです。

東京地裁平成19年8️月23日判例における親族間売買のみなし贈与の解釈について

父親のAさんが、息子のBさんに将来的に不動産を渡したいと考えた場合、その方法には3つの選択肢があります。

  1. Aさんが亡くなった後、Bさんが相続する
    • この場合、Bさんは高い相続税を払わなければなりません。
  2. Aさんが生きているうちにBさんに不動産を贈与する
    • この場合、Bさんは贈与税を払う必要があります。
  3. Aさんが生きているうちにBさんに不動産を売却する
    • この場合、Bさんは不動産取得税などを支払い、相続税や贈与税はかかりません。

3番目の選択肢は魅力的です。つまり書類上は有償売買としながらも、中身はわざと安い価格でBさんに不動産を売却することで、相続税や贈与税の高い税金を避けようとといったことです。しかし、相続税法第7条によりこのような租税回避は認められていません。時価よりかなり安い価格で不動産を譲渡した場合、その価格差が贈与とみなされ贈与税がかかるのです。ただし、「時価」や「著しく低い価格」の具体的な基準が法律上定められていないため、国と納税者の解釈が異なり、争われるケースがあります。

東京地裁の平成19年8️月23日の判決は、この点について次のように解釈しました。

時価の解釈

国側は時価を客観的な評価額と主張する一方、納税者側は相続税評価に近い路線価方式の価格(公示地価の8割程度)が時価だと主張しました。裁判所は路線価方式は公平な評価を目的とした方式に過ぎず、相続税法の趣旨から時価は客観的評価額であるという国側の解釈を支持しました。

著しく低い価格の解釈

裁判所は「相続税法第7条は、時価を正確に判断するのが難しく、個人間取引では経済合理性に基づかない価格設定があることを考慮し、一般人の常識から見て価格が明らかに低すぎる場合のみ課税対象としている。つまり『著しく低い価格』とは、その価格に経済的な理由がまったくないことが明白な場合で、個別事案ごとに状況を総合的に勘案し、常識的に価格の開きが大きいかどうかを判断すべきである」と判示しました。

本件では時価の8割程度の価格での売買でしたが、裁判所はこの程度であれば経済合理性を否定できず、「著しく低い価格」に当たらないと納税者側の主張を認めました。

この判例は一つの解釈であり、相続税評価額相当額(時価の80%)を超える価格で売買すると必ずみなし贈与と判断されないわけではありません。しかし、相続税評価額を超える価格での売買であれば税務署も相続税逃れを疑いにくいと考えられ、明確な基準がないなかでは有効な目安といえるでしょう。

不動産の時価を把握する際の参考になるもの

不動産の時価は売買価格を設定する際の基準であるため、時価を正しく把握することが親族間売買の成功には欠かせません。時価を把握するためには、次のようなものが参考になります。

名称概要
不動産鑑定評価額・不動産評価の専門家である不動産鑑定士の評価額
・不動産の経済的価値を示す最も信ぴょう性の高い価格
公示価格
(公示地価・基準地価)
・国や都道府県が公表する土地の取引価格の指標
・自由な取引において通常成立すると考えられる1平方メートルあたりの土地価格
・不動産鑑定士が標準地(基準地)を更地として鑑定評価し、特殊な事情を取り除くための調整を行い算出される
路線価
(相続税評価額)
・道路(路線)に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの価格
・路線価が定められている地域(市街地)の土地等の評価基準
・公示価格の約80%を基準に定められており、相続税・贈与税の計算の基準として用いられる
固定資産税評価額・固定資産課税台帳に記載された固定資産税の課税基準となる土地
・建物の評価額・土地は公示価格(時価)の70%程度
・建物は新築時に再建築価格の50〜70%程度で評価され、その後期間の経過に応じて減価していく(下限は20%)
・固定資産税のほか、都市計画税、登録免許税、不動産取得税、相続税、贈与税の計算の基準としても用いられる
不動産会社の査定額・不動産会社が市場で売却できそうな価格を予想した価格
・一般的な不動産取引における売買価格の目安を把握できる
・査定額は依頼する不動産会社によってばらつきがある
不動産時価を把握するための参考表

路線価は親族間売買の適正価格の参考になる

路線価は親族間売買の適正価格の参考になる

親族間売買の適正価格を把握する最も確実な方法は、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼して評価してもらうことです。しかし、鑑定評価にかかる費用は20万円程度から、対象の不動産が高額であれば100万円を超えるケースもあります。

親族間売買の適正価格を知りたいけれど、なるべくコストは抑えたい。そのような方には「路線価」が参考になります。

路線価とは国税庁が公表する土地の基準価格

路線価は、国税庁が公表している道路に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの価格です。公示価格(時価)の約80%を基準に定められており、主に相続税や贈与税を計算する際の土地評価額の基準として用いられます。

路線価である時価のおおよそ80%の価格での売買はみなし贈与に該当しないとした判例(東京地裁平成19年8️月23日判決)もあることから、路線価は売買価格の下限の目安として考えられます。

全国の路線価は国税庁のWEBサイトで一般に公開されており、ご自身で土地の評価額を計算することができます。費用もかからないため、親族間で話し合って売買価格を決める際の材料として利用しやすいでしょう。

親族間売買で路線価を参考にする場合の注意点

親族間売買で路線価を参考にする場合には、以下の点に注意が必要です。

  • 建物の価格は含まれていない
  • 形状や環境によって土地の価格は変化する
  • 必ずしもみなし贈与に該当しないとは限らない

路線価は土地の評価基準であり、建物の価格は含まれていません。建物の価格を評価する場合は、「固定資産税評価額」が参考になります。また、路線価が定められていない地域があるため、そのような地域の土地の相続税評価額は、固定資産税評価額に一定の倍率(評価倍率)をかけて算出が必要です。

個別の形状や環境によって土地の価格が変化する点にも注意しましょう。路線価は特殊な要因を取り除いた標準的な土地の価格を示す指標であるため、実際に土地の評価額を計算する際には必要に応じて補正を行います。

また、路線価(相続税評価額)で売買しても、時価を下回る価格での売買であることには変わりがありません。みなし贈与と判断されるリスクは残るため、特段の理由がなければ時価で売買するのが基本です。ご自身で判断できない場合は税理士や税務署に相談して判断を仰ぐと良いでしょう。

親族間売買の流れは5ステップ

親族間売買の流れは5ステップ

最後に親族間売買の流れについて確認します。

ステップ1.不動産の名義(所有者)や権利関係を確認する

まずは法務局で売買する不動産の登記事項証明書を取得し、不動産の名義(所有者)や権利関係、抵当権などの担保権が設定されていないか確認しましょう。

共有者がいる場合は、ご自身の持分のみ売却するのか、共有者の同意を得て不動産全体を売却するのかを決める必要があります。抵当権が設定されている場合は、抵当権を抹消してから引き渡しが基本です。売買前に相続が発生しているにもかかわらず相続登記がされていなければ、先に相続登記をしておきます。

ステップ2.契約内容・条件を決める

親族間での不動産取引は、贈与や相続が一般的で、売買はイレギュラーな方法です。なぜ贈与や相続ではなく売買である必要があるのか、その理由と目的を明確にして手続きを進める必要があります。

売買が最善の方法であれば、売主・買主双方で話し合い、具体的な契約内容を決めましょう。契約内容として定めておくべき事項としては、次のようなものが挙げられます。

<契約内容で定めておく事項(例)>

  • 不動産の売買価格
  • 代金の支払方法
  • 契約日
  • 引渡日
  • 所有権の移転時期
  • 契約不適合責任

売買価格は、贈与とみなされないように、不動産の時価をもとに少なくとも路線価(相続税評価額)以上で設定するのが基本です。

後々トラブルにならないよう、親族間売買であっても契約内容はしっかり話し合い、契約は書面で行いましょう。

売買契約は売主と買主が合意できれば成立します。しかし、トラブル防止や登記・税金の手続きをスムーズに進めるには売買契約書の作成が欠かせません。

ステップ3.必要な書類を揃える

売買契約書は正確な情報をもとに作成しなければならず、契約に先立って次のような書類が必要になります。これらの書類は契約内容を決める際にも必要になるため、ステップ2と並行して準備しましょう。

<契約書の作成に必要な書類(例)>

  • 売主・買主の印鑑証明書
  • 売買する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
  • 登記識別情報
  • 土地測量図、境界確認書
  • 建物図面
  • 建築確認通知書・検査済証
  • 設備仕様書
  • 固定資産税・都市計画税納税通知書、固定資産税評価証明書

売買する不動産の種類(土地、一戸建て、マンションなど)や契約内容によって必要な書類は異なり、上記以外の書類が必要になる場合もあります。

ステップ4.売買契約・決済・登記を行う

契約内容が確定したら売買契約書を作成し、売主・買主が署名捺印し、売買契約を締結しましょう。

契約締結後は、売買契約書の内容に従って売買代金の支払い(決済)と不動産の引き渡しを行い、同時に所有権の移転登記を申請します。

不備がなければ1週間程度で登記が完了し、法務局から登記識別情報が通知されると、登記手続きは完了です。

ステップ5.税務手続きを行う

親族間での売買であっても、不動産の売買には次のような税金がかかります。

  • 印紙税……売買契約書の作成時
  • 登録免許税……不動産登記(所有権移転、抵当権設定・抹消)
  • 不動産取得税……不動産の取得時(買主負担)
  • 譲渡所得税……売却益が生じた時(売主負担)
  • 贈与税……みなし贈与と判断された時(買主負担)

譲渡所得や贈与についてはご自身で確定申告が必要なので、忘れないように注意しましょう。

みなし贈与は後から税務署の調査が入って指摘されるケースが多く、贈与税に加え、ペナルティとして延滞税や加算税を課されてしまいます。ペナルティを受けないためにも、そもそもみなし贈与にならない適正価格で売買することが大切です。

親族間売買の際はセゾンファンデックスの「親族間売買ローン」

親族間売買の際はセゾンファンデックスの「親族間売買ローン」

親族間売買は住宅ローンの審査が厳しく、住宅ローンを利用できないケースも想定して購入代金を準備しなければなりません。

住宅ローンの利用が難しく、売主がすぐにお金を必要としない場合は、契約で代金を分割払いにする方法があります。一方、売主がすぐにお金を必要とするケースでは、親族間売買を対象に融資を行うセゾンファンデックスの「親族間売買ローン」などが選択肢になります。

売買がスムーズに進むように、購入代金をどうやって準備するかについてもしっかり考えておきましょう。

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おわりに

路線価(相続税評価額)は、不動産の親族間売買における適正価格の下限の目安になります。

ただし、あくまで「時価」での売買が基本であるため、路線価を参考に売買価格を決めたとしても、時価を下回る価格での売買にはみなし贈与のリスクが残ることに注意が必要です。

住宅ローンが利用できず、購入代金を準備できないために売買代金を抑えたいのであれば、分割払い可能な契約としたり、親族間売買ローンを利用したりする方法もあります。売買代金を抑えたことによりみなし贈与と判断されるリスクを抱えずに済む選択肢があるのであれば、そちらを優先して検討した方が良いでしょう。

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