不動産の親族間売買は、親から子どもに生前に不動産を譲り渡す場合や、親子や兄弟同士で共有している不動産を単独名義に変える場合などに利用されます。
親族間で不動産を譲り渡す方法としては相続や贈与が一般的で、売買はイレギュラーな方法です。そのため、税務署から相続税逃れを疑われやすい、税制優遇の対象にならない、住宅ローンを利用しにくいといった問題も生じます。
このコラムでは、不動産の親族間売買とはどのような方法なのか、メリットや利用目的など概要を解説します。親族間売買を行う際に注意すべき点や売買を成功させるためのポイントもご紹介しますので、親族間で不動産の売買を検討している方はぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 相続対策や共有状態の解消、資金援助などに利用される
- 見ず知らずの他人に不動産を譲り渡さずに済む点や契約内容を柔軟に決められる点がメリット
- みなし贈与として贈与税がかかる場合がある、税制優遇特例の多くが対象外、住宅ローンが利用しにくいといったデメリットがある
- みなし贈与とならないよう、適正価格(時価)での売買が基本
- 一括払いが難しく一般の住宅ローンも利用できないケースでは、分割払いが可能な契約にしたり、親族間売買ローンを利用したりする対策が必要
1.親族間売買の概要
不動産の「親族間売買」とはどのようなものなのか、まずは一般的な売買との違いやメリット、目的を押さえておきましょう。
1-1.親族間売買とは
不動産の「親族間売買」とは、親子や兄弟など親族間で行う不動産売買のことです。特に親子間での売買は、「親子間売買」とも呼ばれます。
一般の不動産売買と基本的な部分は変わりません。ただし、契約条件をより柔軟に決められる点や、税制面、住宅ローンの審査などに違いがあります。
<親族間売買と一般の売買との主な違い>
- 売主と買主で利害が一致するケースも多く、一般の不動産売買の相場より低い価格で売買が成立しやすい
- 税制上の優遇措置を受けられないケースが多い
- 住宅ローンの審査が通りにくい(融資対象外としている金融機関もある)
1-2.親族間売買の主なメリット
不動産の親族間売買には、主に次のようなメリットがあります。
- 思い入れのある不動産を見ず知らずの他人に譲り渡さなくて良い
- 契約条件を柔軟に決められる
- 相続時や売却時のトラブルを回避できる
親族間売買は親族が買主になるため、実家のような思い入れのある不動産を見ず知らずの他人に譲り渡さなくて済みます。親族間であれば売買価格や引渡時期、支払方法、そのほかの契約条件にも比較的融通を利かせやすい点もメリットです。
相続発生時に不動産を巡るトラブルが起きそうな場合は、生前に親子で話し合い、親族間売買で子どもに譲り渡しておくと良いでしょう。兄弟間で共有になっている不動産があれば、親族間売買でそのうち一人の単独名義にしておくと将来の相続や売却がスムーズになります。
相続対策や名義の一本化を検討するのであれば、贈与とも比較して有利な方法を選びましょう。
1-3.親族間売買をする主な目的
不動産の親族間売買をする主な目的は、相続対策などで生前に子どもへ不動産を譲り渡したり、親族間で共有している不動産を単独名義に変更したりすることです。不動産以外に財産がなく、金銭的に困っている親族を援助するため、あるいは競売にかけられそうな実家を守るために利用されることもあります。
相続対策をしたい
相続発生時に不動産を巡って親族間でトラブルが起きそうな場合は、生前に親族間売買で不動産を譲り渡しておくのも有効な対策です。譲り渡したい方に不動産を譲れるほか、不動産が現金に変わることで相続時に財産を分割しやすくなるメリットもあります。
ただし、不動産の相続税評価額は本来の評価額よりも低くなるケースが多く、不動産を売却して現金に変えてしまうと相続税の負担が増えるおそれがあるため、相続税がかかる見込みの方は注意しましょう。
親が住んでいた家を引き継ぎたい
親が高齢者施設への入居や住み替えを考えており、子どもが実家に住むことを希望しているケースでも親族間売買が利用されます。
親が受け取った代金は、高齢者施設の入居費用や住み替え資金、老後資金などに利用が可能です。親にお金がなくて子どもが援助するケースは、誰がいくら支援するのかで兄弟間に不公平が生じがちですが、実家を引き継ぐ対価としてお金を渡すのであれば納得感があるでしょう。
住宅ローンの返済が厳しいが同じ家に住み続けたい
住宅ローンの返済が長期にわたって滞ると一括返済を求められます。返済できなければ担保となっている自宅は競売にかけられ、家を手放さなくてはなりません。このような事態を回避し、自宅に住み続ける方法として親族間売買が利用されるケースがあります。
例えば、実家が担保になっている親の借金の返済が滞り、強制執行により売却されそうな実家を守るため、子どもが親族間売買で買い取るケースです。実家を取得した子どもが使用貸借の形で親に無償で貸し付ければ、親はそのまま実家に住み続けられます。
2.親族間売買をする主な目的
不動産の親族間売買における「親族」の範囲は、特に決まっていません。
民法では親族の範囲を「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」と定めていますが、親族間売買ではこれよりも広い範囲まで含まれると考えられます。
3.親族間売買の際に注意したいポイント
親族間売買は贈与とみなされて贈与税がかかったり、住宅ローンの審査に通りにくくなったりしやすいため注意が必要です。税制優遇制度の対象外となって、通常の売買より負担が増えるケースもあります。
3-1.贈与税がかかる可能性がある
不動産売買で利益(譲渡益)が出たときは、売主に所得税と住民税がかかりますが、これは親族間売買でも同じです。
注意が必要なのは、一般的な不動産売買における相場より著しく低い価格で売買が成立したとき。この場合には、「みなし贈与」と判断され、一般的な売買価格との差額に贈与税がかかる場合があります。
一般の不動産売買でも、みなし贈与になるケースはありますが、身内同士が当事者となる親族間売買では低額で売買されるケースが多く、税務署からは相続税逃れなどを疑われやすいため、特に注意が必要です。
3-2.住宅ローンの審査に通りにくい
不動産は金額が大きいため、住宅ローンを利用して購入する予定の方も多いでしょう。しかし、親族間売買は住宅ローンの審査に通りにくい傾向があります。親族間売買には融資しない金融機関も多く、住宅ローンを利用できないケースも想定しておかなければなりません。
審査が厳しくなる理由は、住宅の購入資金として貸し出した資金を別の用途に使われたり、相続税逃れに利用されたりして悪用されることを金融機関が警戒するためです。親族間での不動産の所有権移転は、相続または贈与が一般的であるため、あえて売買を選ぶのには何か裏があるのではないかと疑われやすくなります。
代金を一括で支払えず、住宅ローンも利用できないケースでは、当事者同士で話し合って代金の分割払いが可能な契約とする「親族間売買ローン」を利用するなどの対策が必要になるでしょう。
3-3.住宅売却時の税制優遇特例を受けられないことがある
親子や夫婦(内縁を含む)、生計を同じくする親族、家を売却後にその家で同居する親族などが売買の相手方になる親族間売買では、住宅売却時の税制優遇特例を受けられないことがあります。
住宅売却時の税制優遇特例のうち、親族間売買では次のような特例が適用されません。
- マイホーム(居住用財産)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
- 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例
- マイホーム(居住用財産)を売ったときの軽減税率の特例(10年超所有軽減税率の特例)
- 特定の居住用財産の買換えの特例
- マイホーム(居住用財産)を買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホーム(居住用財産)の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
このほか「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例」は、配偶者や親族などから住宅を取得した場合、これらの方との請負契約により住宅を建てた場合には適用されません。
3-4.生計を一にする親族間での売買は住宅ローン控除が受けられない
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、取得時および取得後も引き続き生計を一にする(同一生計の)親族から住宅を取得した場合には適用されないため注意しましょう。
別居であっても、生活費などを常に仕送りしている場合、仕事や学校の休みには帰省して起居を共にしている場合には生計を一にしているものとして取り扱われます。
同一生計でなければ、親族間売買で取得した住宅であっても住宅ローン控除の適用対象です。
4.親族間売買を円滑に進め、成功へ導くポイント
親族間売買を円滑にすすめて成功させるためには、押さえておきたいポイントがあります。
4-1.適正価格を意識する
売買価格は売主と買主が合意すると売買価格がいくらでも取引は成立しますが、一般的に売買される相場に対して著しく低い価格で売買すると贈与とみなされ、贈与税の負担が大きくなるおそれがあります。これを避けるには、適正価格を意識した金額で売買することがポイントです。
適正価格に明確な基準がないため判断の難しいポイントですが、次のような金額が目安となります。
- 不動産鑑定評価額
- 不動産会社の査定価格
- 路線価による評価額(相続税評価額)【(市街地の)土地】
- 固定資産税評価額【土地・建物】
不動産鑑定評価額は、不動産評価の専門家である不動産鑑定士が評価した価格です。不動産の経済的価値を示す最も信ぴょう性の高い価格ですが、不動産鑑定には通常数十万円程度の費用がかかります。
不動産会社に査定を依頼すると、一般的な不動産取引における売買価格に近い価格を知ることができるでしょう。
路線価による評価額は、土地の適正価格の目安としてよく利用される方法です。路線価は路線(道路)に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの価格を示したもので、路線価が定められている地域の土地の評価基準として利用されます。路線価は地価公示価格(時価)の80%で、1.25倍した価格が取引価格(時価)の目安です。
相続税評価額(時価の80%)以上であれば「著しく低い価格」とはいえないとする判例(※)もあり、路線価による評価額をそのまま目安に売買価格を決めるケースもあります(※東京地裁平成19年8月23日判決)。
建物の適正価格の目安としては「固定資産税評価額」の利用も一般的です。
路線価や固定資産税評価額は過去の基準日時点の評価額であり、急な価格変動があると時価と乖離するおそれがあるため注意しましょう。
4-2.ほかの相続人の同意を得ておく
親族間売買の当事者以外に将来相続人となる見込みの方がいるケースでは、親族間売買についてその方とも情報を共有し、売買について同意を得ておくことも大切です。
売買自体は当事者間の合意さえあれば成立します。しかし、ほかの相続人の同意なく勝手に話を進めてしまうと、後々トラブルに発展してしまうおそれがあるためです。
4-3.売買契約書を作成する
身内同士で行う親族間売買であっても、トラブルを回避するため「不動産売買契約書」は作成しておきましょう。
不動産売買契約書を作成することで契約内容が明確になり、売買の当事者以外に取引内容を示す証拠になります。税務署に贈与ではなく売買であることを示すためにも、不動産売買契約書が必要です。
4-4.セゾンファンデックスの親族間売買ローンを利用する
親族間売買は住宅ローンの審査が厳しく、親族間売買の住宅ローンを取り扱わない金融機関も少なくありません。住宅ローンが利用できないケースでは、代金の分割払いが可能な契約としておく、セゾンファンデックスなどが提供している「親族間売買ローン」を利用するといった対策が必要です。
セゾンファンデックスの「親族間売買ローン」は、親族間売買や兄弟間の持分の買取資金などに利用できるローン商品です。親族間売買を理由にほかの金融機関で断られてしまった場合でも相談や審査が可能なので、選択肢として持っておくと良いでしょう。
おわりに
親族間売買は見ず知らずの他人に不動産を譲り渡さずに済み、比較的柔軟に契約内容を決められるメリットがあるため、相続対策や共有状態の解消、資金援助などに利用されます。
みなし贈与として贈与税がかかる場合がある、ほとんどの税制優遇特例が対象外、住宅ローンが利用しにくいといったデメリットもあるため、贈与や相続も含めて有利な方法を選ぶことが大切です。
親族間売買を選んだ場合は、みなし贈与とならないように適正価格(時価)で売買しましょう。一般の住宅ローンが利用できないケースでは、分割払いが可能な契約とする、あるいは親族間売買ローンの利用を検討すると良いでしょう。