不動産を相場(時価)より過度に安い価格で売買すると贈与とみなされ、贈与税の負担が大きくなってしまうことがあります。
特に親族間での不動産取引は相続や贈与が一般的なため、親族間売買は税務署から相続税逃れなどを疑われやすく、目を付けられます。そのため、通常の売買以上に適正価格での取引を心がけなければなりません。
このコラムでは、親族間売買における適正価格の考え方とその求め方についてご紹介します。親族間売買を考えていて、売買価格をいくらにすると良いのか迷っている方はぜひ参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- みなし贈与と判断される明確な基準はなく、時価での売買が基本
- 相続税評価額相当額(時価の80%)での売買は贈与にあたらないとした判例があり、適正価格の下限の目安になる
- 不動産の時価(経済的価値)を把握する最も確実な方法は「不動産鑑定評価書の作成」
親族間売買とは
不動産の「親族間売買」とは、親子や兄弟など親族間で行う不動産売買のことです。特に親子間での売買は、「親子間売買」とも呼ばれます。
親族間売買の主なメリットは以下のとおりです。
- 思い入れのある不動産を見ず知らずの他人に譲り渡さなくて良い
- 契約条件を柔軟に決められる
- 相続時や売却時のトラブルを回避できる
通常の不動産売買では、なるべく高く売りたい売主となるべく安く買いたい買主で利益が相反し、両者が合意(妥協)した価格で売買が成立します。しかし、親族間売買は売主と買主が身内同士であり、利益を得ることが目的ではなく、相続対策や名義の一本化を目的として「名義変更(所有権の移転)」の方法として行われるケースが一般的です。そのため、利害が一致することが多く、通常の相場(時価)よりもかなり低い価格で売買されるケースが少なくありません。
このように売買価格を柔軟に決められる点は親族間売買のメリットですが、あまりに安い価格で売買すると「みなし贈与」の問題が生じます。みなし贈与となると贈与税の負担が大きくなるおそれがあるため、親族間であっても時価を基準とした適正価格での売買を基本にしましょう。
親族間売買におけるリスク
親族間売買には、贈与と判断されて贈与税がかかる、住宅ローンを利用しにくいなどのリスクがあります。
税務署からみなし贈与と判断されやすい
不動産を相場(時価)よりも著しく低い価格で売買する「低廉譲渡」を行った場合、税務署から「みなし贈与」と判断されるおそれがあるため注意が必要です。みなし贈与に該当すると、時価と売買価格の差額が贈与として扱われ、売買であっても贈与税の対象になります。
みなし贈与は親族間売買に限った話ではありません。しかし、親族間の不動産取引は相続や贈与が一般的であることから、売買を選んでいる時点で税務署から相続税逃れなど、不正を疑われやすくなります。親族間での不動産売買自体に問題はありませんが、税務署から目をつけられやすくなることに注意が必要です。
銀行の住宅ローン審査が厳しい
親族間売買は住宅ローンの審査が厳しい傾向があり、そもそも親族間売買に対して融資していない金融機関もあります。これは、貸し出した資金を住宅取得以外の用途に悪用されることを金融機関が警戒するためです。特に低廉贈与や相続トラブルなどが疑われるケースでは、金融機関は融資に慎重になります。
住宅ローンが利用できないとなると、買主が購入代金を用意するのが難しくなるため、売主がすぐにお金を必要としない場合は代金を分割払いにする方法もあるでしょう。一方、売主がすぐにお金を必要とするケースでは、親族間売買を対象に融資を行うセゾンファンデックスの「親族間売買ローン」などが選択肢になります。
親族間売買でみなし贈与と判断される基準は?
なるべく売買代金を抑えたい場合、どのくらいの金額までであれば贈与とみなされずに済むのでしょうか。ここでは、みなし贈与にあたらない「適正価格」の考え方について押さえておきましょう。
実際に税務署がみなし贈与と判断するケース
税務署がみなし贈与と判断するのは、不動産を相場(時価)より「著しく低い価格」で売買(譲渡)したときです。これについては、相続税法第7条に「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に、時価との差額を贈与とみなすと定められています。
しかし、どの程度が「著しく低い」に当たるのか明確な基準が示されていないため判断が難しいです。
税務署からみなし贈与と判断されるとどうなる?
みなし贈与と判断された場合、売買された不動産の時価と実際の成約価格の差額が贈与されたとみなされ、贈与税がかかります。
ただし、贈与税には年間110万円の基礎控除があり、その年のすべての贈与による所得をあわせて110万円以下であれば贈与税はかかりません。そのため、少額の不動産売買であれば、みなし贈与になっても贈与税がかからないケースもあります。
みなし贈与と判断されにくい価格とは?
どのくらいの金額であれば「著しく低い価格」に当たるのかを示す明確な基準はありません。しかし、東京地裁の平成19年8️月23日の判例が目安となるでしょう。
この判例では、時価より「著しく」低いとはいえない価格、具体的には相続税評価額相当額(公示価格等(時価)の80%)での譲渡(売買)は低廉譲渡にあたらないとの考えが示されています。
これはあくまで一つの解釈であり、相続税評価額相当額(時価の80%)を超える価格で売買すれば必ずしも、みなし贈与と判断されないというわけではありません。しかし、明確な基準がないなかで有効な目安となります。個人で判断が難しい場合には、税務署などに相談して売買価格を決めると良いでしょう。
親族間売買の適正価格を求める方法は?
親族間売買における適正価格としては、「時価」、あるいは判例で示された「相続税評価額相当額(時価の80%)」が目安になります。いずれにしても、まずは売買する不動産の時価を把握しなければなりません。それには、主に次のような評価方法(価格)が利用されます。
- 不動産鑑定評価額
- 不動産会社の査定価格
- 路線価(相続税評価額)【(市街地の)土地】
- 固定資産税評価額【土地・建物】
不動産鑑定評価額は、不動産評価の専門家である不動産鑑定士が評価した価格です。不動産の経済的価値を示す最も信ぴょう性の高い価格ですが、不動産鑑定には通常数十万円程度の費用がかかります。
不動産会社に査定を依頼すると、一般的な不動産取引における売買価格に近い価格を知ることができるでしょう。
路線価は土地評価の目安としてよく利用される価格です。路線(道路)に面する標準的な宅地1平方メートルあたりの価格を示したもので、路線価が定められている地域の土地の評価基準として利用されます。路線価は地価公示価格(時価)の80%であり、1.25倍した価格が通常の取引価格(時価)の目安です。
相続税評価額(時価の80%)以上であれば「著しく低い価格」とはいえないとした判例があり、路線価による評価額をそのまま目安に売買価格を決めるケースもあります。
さらに、建物の適正価格の目安としては「固定資産税評価額」の利用も一般的です。
路線価や固定資産税評価額は過去の基準日時点の評価額であるため、急な価格変動があると時価と乖離するおそれがあることに注意しましょう。
最も確実な方法は「不動産鑑定評価書の作成」
不動産の時価を把握する最も確実な方法は、不動産鑑定士に鑑定評価してもらうことです。
不動産鑑定評価書を作成できるのは不動産鑑定士のみ
不動産鑑定評価書は、不動産鑑定士が行なった不動産鑑定評価の結果が記載された書類で、国家資格を有する不動産鑑定士だけが作成できます。
不動産鑑定評価書には、不動産の鑑定評価額のほか、評価の条件や評価額決定の理由(根拠)などの項目が詳細に記載されており、主な項目は以下のとおりです。
<不動産鑑定評価書の記載事項>
- 対象不動産
- 対象となった権利
- 鑑定評価額
- 価格時点(価格判定の基準日)
- 依頼目的
- 鑑定評価の条件
- 価格の種類
- 縁故または利害関係の有無
- 鑑定評価額の決定理由
不動産鑑定評価書は、売買価格の妥当性を示す公的な資料としてそのまま税務署などに提出できます。
不動産鑑定評価書を作成するメリット
不動産鑑定評価書を作成するメリットは次のとおりです。
適正な時価(評価額)を把握できる
不動産にはほかに同じものが存在せず、その価格はその不動産の効用、希少性、需要などさまざまな要素をもとに決まります。不動産鑑定評価を行えば、これらの要素を加味した適正な時価を把握できるでしょう。
信頼性が高い
不動産鑑定評価額は、不動産評価の専門家である不動産鑑定士がさまざまな資料をもとに、その知識や経験を駆使して算定する客観的な評価額です。不動産の評価としては最も信ぴょう性が高く、不動産鑑定評価書は適正価格を証明する公的な証拠として利用できます。
不動産鑑定評価書を作成するデメリット
不動産鑑定評価書を作成するデメリットは、費用と時間がかかる点です。
不動産鑑定にかかる費用は、評価対象となる不動産の種類や評価額(規模)、誰(どこ)に鑑定を依頼するかによっても変わりますが、1件あたり20万円程度から、評価する不動産が高額であれば100万円を超えるケースもあります。
また、鑑定評価や評価書の作成には、通常2週間から4週間程度かかるため、スケジュールに余裕を持って依頼しましょう。
おわりに
不動産の親族間売買における適正価格は「時価」が基本で、下限として「相続税評価額相当額(時価の80%)」が目安になります。
不動産の時価を把握するには、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼して、不動産鑑定評価書を作成してもらうのが最も確実な方法です。不動産鑑定評価書の作成費用は決して安くありませんが、税務署に適正価格であることを証明する公的な書類としても利用できます。
贈与とみなされて贈与税を課されたり、ほかの親族との間でトラブルになったりしないよう、不動産の時価を正しく把握し、適正価格での売買を心がけましょう。