土地の相続などがきっかけでアパート経営を検討している方のなかには、アパート建築にいくら費用がかかるのか気になる方も多いのではないでしょうか。収益の見通しや資金計画を立てるためには、建築費の相場を把握することが大切です。
この記事では、アパート建築費の相場について、坪単価や諸経費の内訳を詳しく解説します。最後まで読んでいただければアパート建築に必要な費用がわかり、具体的な予算計画を立てられるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 「坪単価×延べ床面積」でアパートの本体工事費の相場がわかる
- 坪単価はアパートの構造や地域により異なるため、条件に合った坪単価を把握することが大切
- 本体工事費以外に、付帯工事費と税金などの諸費用も想定しておく
- ローンを組む場合は建築費の3〜4割ほどの自己資金が必要
アパート建築費の相場を知ろう
アパートの建築費の目安を知るには、坪単価の相場を把握する必要があります。坪単価とは、1坪あたりの建物の建築費用です。具体的には、坪単価に建物の延べ床面積(建物の各階の面積を合計したもの)をかけることで、建築費を概算できます。
例えば、坪単価の相場が100万円の場合、1階30坪、2階30坪の2階建てアパートの建築費は以下のとおりです。
- 坪単価100万円×延べ床面積60坪(1階30坪+2階30坪)=6,000万円
アパートの延べ床面積は、敷地の容積率の制限により最大値が決まります。容積率とは、敷地面積に対する延べ床面積の割合です。
- 容積率(%)=延べ床面積÷敷地面積
つまり、敷地が決まればおおよそのアパートの規模がわかるため、建築費を予測できます。例えば、以下の条件で建築費用を計算してみましょう。
【条件】
- 敷地面積:100坪
- 容積率の上限:200%
- 坪単価:100万円/坪
この敷地に建てられるアパートの最大延べ床面積は、以下のとおりです。
- 敷地面積100坪×容積率200%=200坪
限界まで広いアパートを建てた場合の建築費は、以下のように算出できます。
- 最大延べ床面積200坪×坪単価100万円=2億円
なお、敷地面積が㎡で示されている場合は、1㎡=0.3025坪として換算しましょう。
アパートの構造の違いによって坪単価が変わってくる
アパートの坪単価の相場は、構造により異なります。建物の構造は大きく分けて4種類あり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
構造 | メリット | デメリット |
木造 | ・比較的安価 ・設計の自由度が高い ・軽量で地盤への負荷が小さい ・通気性が高い | ・耐用年数が短い ・腐朽やシロアリ被害のリスクがある ・音が響きやすい |
鉄骨造(S造) | ・比較的安価 ・木造より強度が高い ・RC造より軽量 | ・火災に弱い ・通気性、断熱性が低い ・音が響きやすい |
鉄筋コンクリート造(RC造) | ・耐用年数が長い ・柱、梁が少ない大空間を作りやすい ・耐震、耐火面で優れている ・防音性が高い | ・建築費用が高い ・工事期間が長い ・建物重量が重く、地盤改良が必要な場合がある |
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) | ・耐用年数が長い ・柱、梁が少ない大空間を作りやすい ・耐震、耐火面で優れている ・防音性が高い | ・建築費用が高い ・工事期間が長い ・建物重量が重く、地盤改良が必要な場合が多い |
アパートで主に使われるのは、木造と鉄骨造です。鉄骨造とは、建物の骨組みに鋼材を使用した構造で、鋼材の厚みにより軽量鉄骨(6mm未満の鋼材を使用したもの)と重量鉄骨(6mm以上の鋼材を使用したもの)の2つに分けられます。
3階建て以上のアパートは重量鉄骨造、1〜2階建てのアパートは木造か軽量鉄骨造が採用される場合が多いです。
鉄筋コンクリート造は、骨組みに鉄筋コンクリートを使用した構造です。鉄筋コンクリートはコンクリートに芯材として鉄筋を組み合わせたもので、強度が高いため3階建て以上のアパートを建てる際に採用される場合があります。
鉄骨鉄筋コンクリートは、鉄筋コンクリートに鉄骨を加えてさらに強度を高めた構造です。アパートよりも、高層ビルや高層マンションなどで多く採用されています。
厚生労働省の建築着工統計調査によると、構造別のアパートの坪単価は以下のとおりです。
構造 | 坪単価の相場 |
木造 | 56万円〜89万円 |
鉄骨造(S造) | 63万円〜119万円 |
鉄筋コンクリート造(RC造) | 100万円〜119万円 |
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) | 79万円〜112万円 |
強度が高い構造ほど坪単価が高い傾向があります。特徴と費用の両方を考慮したうえでアパートの構造を選びましょう。
坪単価は地域差もある
アパートの建築費の坪単価には地域差も見られます。厚生労働省の建築着工統計調査によると、主な都市の坪単価の相場は以下のとおりです。
地域 | 平均坪単価 |
北海道 | 63万円 |
東京 | 109万円 |
静岡 | 79万円 |
愛知 | 86万円 |
大阪 | 83万円 |
福岡 | 76万円 |
沖縄 | 83万円 |
北海道と東京の平均坪単価には約46万円の差があります。仮に100坪のアパートを建てると4,600万円もの差が生じ、地域による建築費の変動が大きいことがわかります。
参照元:国土交通省|建築物着工統計調査|住宅着工統計2022年度 34表
アパート建築費の内訳は大きく分けて3つ
坪単価を使うとアパートの本体工事費の目安がわかりますが、アパート建築では本体工事以外にも費用が発生します。
アパート建築費の内訳は、大きく分けて以下の3つです。
- 建築費の大部分を占める本体工事費
- 地盤改良費などの付帯工事費
- 税金や手数料などの諸費用
建築費用の総額を把握するためにも、具体的な内容を詳しく見ていきましょう。
建築費の大部分を占める本体工事費(本体価格)
本体工事費とは、建物本体を建てるために必要な材料費や施工費のことを指します。アパート建築では、建築費総額に対して本体工事費がおよそ7〜8割を占めます。
本体工事費に含まれる項目は、以下のとおりです。
項目 | 概要 |
基礎工事 | ・建物の基礎部分の工事 ・基礎とは、鉄筋を組み、コンクリートを流し込んで固めた土台のこと |
躯体(くたい)工事 | ・建物の躯体部分の工事 ・躯体(くたい)とは、柱、壁、床、屋根などの建物を支える構造体のこと |
外装工事 | ・外壁や屋根、窓、バルコニーなどの工事 |
内装工事 | ・床材、壁紙、天井材、扉、収納、手すりなどの工事 |
水回り設備 | ・ユニットバス、トイレ、キッチン、受水槽などの設備本体 |
給排水衛生設備工事 | ・水回り設備の設置・配管工事 |
電気工事 | ・ブレーカー、照明、コンセントなどの設置工事 |
空調工事 | ・エアコンなどの設置工事外壁や屋根、窓、バルコニーなどの工事 |
なお、本体工事費に含まれる内容は、建築会社により多少異なります。建築会社が提示する坪単価の基準も異なるため、比較する場合は正式な見積もりを依頼し、内訳を確認することをおすすめします。
地盤改良費などの付帯工事費
付帯工事費とは、アパート本体以外にかかる工事費用で、相場は本体工事費の1〜2割ほどです。付帯工事に含まれる主な項目は、以下のとおりです。
項目 | 概要 |
仮設工事 | ・工事現場の仮囲い、足場、仮設トイレなどの設置工事 ・交通整理のためのガードマンの人件費 |
解体工事 | ・建築予定地に既存の建物などがある場合に必要な工事 |
地盤改良工事 | ・アパートを建てるために必要な地盤強度が不足していた場合に、強固材を混ぜたり杭を埋め込んで補強する工事 |
造成費 | ・土地に傾斜や段差がある場合に、平らにする工事 |
ライフライン引き込み工事費 | ・電気・ガス・水道を引き込む工事 ・新しく造成した土地などで必要な場合が多い |
外構工事費 | ・駐車場、フェンス、生垣、門柱などの工事 |
その他 | ・郵便受けや宅配ボックスなどの設置工事 |
付帯工事のなかでも地盤改良工事は地盤調査の結果に左右されるため、追加費用が発生してトラブルになるケースが少なくありません。余裕を持った資金計画を立てておきましょう。
税金や手数料などの諸費用
アパートを建築する際は、工事のほかに以下の諸費用がかかります。諸費用は、合計で本体工事費の1割程度になる場合が多いです。
項目 | 概要 |
現況調査費用 | ・設計のために、敷地の状況調査や測量調査をする費用 |
設計費用 | ・ハウスメーカーに設計と工事をまとめて発注する場合は本体工事費の1〜3%が目安 ・設計専門会社に依頼する場合は本体工事費の7〜8%が目安 ・建築確認申請などの費用も含まれる |
地盤調査費用 | ・地盤の強度や状態を調査する費用 ・結果により地盤改良工事を実施するか判断する |
祭典費用 | ・地鎮祭、上棟式、竣工式などの費用 |
不動産取得税 | ・新築アパートを取得した際に納める税金 ・取得した不動産の価格(標準課税額)の4%(2024年3月31日までの取得分は3%に軽減) |
登録免許税 | ・新築アパートの登記手続きの際に納める税金 ・登記する不動産の価格(標準課税額)の0.4%(2024年3月31日までの登記分は0.15%に軽減) |
印紙税 | ・工事契約を交わす際に納める税金 ・「収入印紙」を購入して契約書に貼り付けると納税の証明になる |
保険料 | ・火災保険料、地震保険料、損害保険料などの数年分を前払いする場合が多い |
ローン手数料 | ・ローンを借り入れる際の事務手数料や保証料 ・借入金額の0.5〜2%程度が目安 |
広告費用 | ・入居者募集のために、広告や看板を作成する費用 |
なお、省エネ性能やバリアフリーなどの一定の基準を満たしたアパートは、税制優遇制度により税金の負担を減らせる場合があります。
打ち合わせの段階から建築会社に相談し、節税対策も視野に入れて計画を進めることをおすすめします。
ローンを組むならセゾンの「不動産フリーローン」
アパートの建築費は高額なため、大半の方はローンを利用して資金を準備します。
セゾンの不動産フリーローンは、銀行などのローンよりも融資までの期間が短く、スムーズに資金を調達できます。
アパート建築だけではなく、教育費用やリフォーム費用など複数用途の借り入れも同時に申し込み可能です。相続などのライフイベントでまとまった資金が必要な方は、ぜひご検討ください。
参照元:イエウール|アパート建築費の相場、HOME4U|アパート建築費の相場、大阪府|不動産取得税の計算式と税率、国税庁|登録免許税軽減措置に関するお知らせ
アパート建築費をシミュレーションしてみよう!
ここまで紹介した相場費用をもとに、アパート建築費を具体例でシミュレーションしてみましょう。アパートの規模別に以下の3パターンを想定します。
- 30坪、軽量鉄骨造、3階建てのアパートの場合
- 50坪、木造、2階建てアパートの場合
- 100坪、軽量鉄骨造、2階建てアパートの場合
ご自身の想定条件に近い例を参考に、建築費用のイメージをつかみましょう。
30坪、軽量鉄骨造、3階建てのアパートの場合
まずは、比較的小さい規模の30坪のアパートをシミュレーションしましょう。東京や大阪のような地価の高い都市で狭い敷地にアパートを建てる場合を想定しています。
【建築条件】
- 30坪
- 構造:軽量鉄骨造(坪単価63万円〜119万円)
- 階数:3階建て
【建築費の目安】
項目 | 費用 |
本体工事費 | 坪単価63万円〜119万円×延べ床面積90坪(30坪×3階) =5,670万円〜1億710万円 |
付帯工事費 | 本体工事費×10% =567万円〜1,071万円 |
諸経費 | 本体工事費×10% =567万円〜1,071万円 |
合計 | 6,804万円〜1億2,852万円 |
30坪ほどのアパートの場合は、この事例のように階数を増やして部屋数を確保するのがおすすめです。
間取りは単身者向けのワンルームもしくは1Kが適しているでしょう。単身者向けのワンルームは1部屋あたり7坪ほどが目安のため、1フロアに4戸ほど確保できます。
仮に家賃6万円で全室入居した場合、単純計算で毎月72万円(12戸×6万円)の家賃収入が得られるイメージです。
50坪、木造、2階建てアパートの場合
次に平均的な広さである50坪のアパートを建てる場合を想定します。
【建築条件】
- 50坪
- 構造:木造(坪単価56万円〜89万円)
- 階数:2階建て
【建築費の目安】
項目 | 費用 |
本体工事費 | 坪単価56万円〜89万円×延べ床面積100坪(50坪×2階) =5,600万円〜8,900万円 |
付帯工事費 | 本体工事費×10% =560万円〜890万円 |
諸経費 | 本体工事費×10% =560万円〜890万円 |
合計 | 6,160万円〜1億680万円 |
50坪ほどの大きさの場合は、単身者向けもしくはコンパクトな家族向けの間取りのアパートがおすすめです。
1戸を2層に分けたメゾネットタイプにすれば、空間を有効活用できるでしょう。1フロアに3戸ほど確保できます。
100坪、軽量鉄骨造、2階建てアパートの場合
最後に、100坪のアパートの建築費をシミュレーションします。都市郊外などに広めの敷地が確保できた場合を想定しています。
【建築条件】
- 100坪
- 構造:軽量鉄骨造(坪単価63万円〜119万円)
- 階数:2階建て
【建築費の目安】
項目 | 費用 |
本体工事費 | 坪単価63万円〜119万円×延べ床面積200坪(100坪×2階) =1億2,600万円〜2億3,800万円 |
付帯工事費 | 本体工事費×10% =1,260万円〜2,380万円 |
諸経費 | 本体工事費×10% =1,260万円〜2,380万円 |
合計 | 1億5,120万円〜2億8,560万円 |
100坪ほどの広さがあれば、ファミリー向けの間取りにするのがおすすめです。一般的な2LDKでも1フロアに4戸まで確保できます。
単身者向けのアパートに比べて家賃を高めに設定でき、入居者が長く住み続ける傾向があるため安定した経営が期待できるでしょう。
アパートを建てるのに必要な自己資金はどのくらい?
アパートを建てる場合はローンを利用する方が大半ですが、ローンを借りるためにはある程度の自己資金が必要です。
アパート建築の自己資金は、建築費用総額の最低1割は準備しておきましょう。自己資金が極端に少ないと、ローンの審査に通らない恐れがあります。
なお、自己資金が多いほど返済能力が高いとみなされ、審査にとおりやすくなったり、また好条件で融資を受けられたりする可能性が高いです。可能なら、3〜4割ほど準備しておきましょう。
例えば、建築費用総額が1億円のアパートを建てる場合は、1,000万円〜4,000万円ほどの自己資金が必要です。
アパート建築費を安く抑えたいなら
シミュレーション結果からわかるように、アパート建築には高額な費用がかかります。アパートの建築費を少しでも安く抑えるためには、以下の4点を意識しましょう。
- 複数の建築会社から相見積もりを取る
- 設計と施工を同じ建築会社へ依頼する
- 建物の形を凹凸のないシンプルなものにする
- 設備のグレードや間取りを見直す
順番に解説します。
複数の建築会社から相見積もりを取る
アパートの建築費の見積もりは、複数の建築会社に依頼しましょう。複数社の見積もりを比較することで内容の妥当性を検証でき、値下げ交渉の資料としても活用できます。
また、見積もりを依頼する際は、アパート経営の収支シミュレーションも合わせて依頼することをおすすめします。
アパート経営には家賃収入の変動や設備の老朽化、空き室の発生などのリスクがあるため、長期的な目線で収支を検討することが大切です。
資産価値の高いアパートを建てるためにも、優れた提案ができて信頼できる建築会社を見つけましょう。
設計と施工を同じ建築会社へ依頼する
アパートの建築費を安く抑えたい場合は、設計と施工を同じ建築会社へ依頼する「設計施工一貫方式(デザインビルド方式)」がおすすめです。
設計と施工を別の建築会社へ依頼する「設計施工分離方式」よりも、図面などの共有の手間や人件費の面でコストカットできるため、設計費用を抑えられます。
なお、デザインで差別化したアパートを建てたい方は、専門の設計会社に依頼できる設計施工分離方式を検討するのも良いでしょう。
建物の形を凹凸のないシンプルなものにする
アパートの建築費を少しでも安く抑えるためには、建物の形をシンプルにすることを意識しましょう。
凹凸の多い複雑な形状の建物は、材料費や施工費が高くなります。標準的な部材が使えず特注品が必要になったり、職人の施工技術が必要になったりするためです。
また、複雑な形状の建物は部屋の不自然な場所に柱や梁が出やすく、家具や家電を配置しにくいため入居者に避けられるリスクもあります。
敷地の形状が複雑などの特別な理由がなければ、四角いシンプルな建物にするのが無難です。
設備のグレードや間取りを見直す
想定したよりもアパートの建築費が高額になった場合は、設備のグレードや間取りを見直しましょう。
部屋数が多い場合は、設備のグレードをワンランク下げるだけでもかなりのコストカットにつながります。また、シンプルな間取りは建築費を抑えられるだけでなく、入居者からも好まれる傾向があります。
建築時に間取りや設備をシンプルにしておくと、老朽化して更新したり補修したりする際の費用も抑えられるためおすすめです。
おわりに
アパートの建築費の相場は「坪単価×延べ床面積」で概算できます。坪単価はアパートの構造や地域により差があるため、条件に合った坪単価を使いましょう。
アパートを建てる際は、本体工事費以外に付帯工事費や税金などの諸費用がかかります。ローンを利用して建築資金を準備する場合は、3〜4割ほどの自己資金を用意しておきましょう。
なお、建築を進めるなかで追加費用が発生する可能性もあるため、余裕を持った資金計画を立てることをおすすめします。