自宅の修繕やリフォームのために住宅ローンを組みたいと考えても、年齢や健康上の問題で借入できないことがあります。そのような方におすすめしたいのが、住宅金融支援機構が設置し、提携民間金融機関が提供しているリ・バース60です。
今回は、リ・バース60の仕組みやメリット・デメリット、活用事例や申込方法を解説します。高齢になったからといって住宅ローンをあきらめる必要がなくなるかもしれません。
リ・バース60とは
リ・バース60とは、住宅金融支援機構が用意している住宅ローンの一種です。住宅金融支援機構の住宅融資保険システムリ・バース60を活用して各提携金融機関はリバースモーゲージ型住宅ローンを提供しています。
リ・バース60は、60歳以上の方を対象としたご自宅を担保にして、住宅購入や建て替え資金を借りることが出来る住宅ローンです。元金と利息の支払いがある一般的な住宅ローンとは異なり、毎月発生する金利分のみを支払うのが特徴となります。
元本については契約者の死後担保に入れている不動産を売却する、あるいは相続人が元金を一括返済することで返済します。また、使用用途は以下の5つに限定されているのでご注意ください。
- 本人の居住住宅の建設または購入資金
- 子世帯などの居住住宅の取得資金
- 住宅のリフォーム資金
- サービス付き高齢者向け住宅への入居一時金
- 住宅ローンの借り換え資金
なお、よく似た制度に「リバースモーゲージ型住宅ローン」という金融商品があります。こちらは、民間金融機関が発売している商品です。利用可能年齢や融資限度額が金融機関によって異なる他、融資された資金の使用用途も幅広く可能になっていることが多いため、各金融機関にお問い合わせください。
リ・バース60の仕組み
リ・バース60はどのようにして成立しているのでしょうか。インターネット上では「リ・バース60 怖い」「リ・バース60 評判」といった検索結果も出てきます。しかし、仕組みを理解すれば、問題のない金融商品であることがわかるでしょう。
仕組み
リ・バース60は、融資物件等を担保に資金を借り入れる仕組みです。先述のとおり、元金の返済は契約者の生存中は発生せず、利息分のみの支払いとなります。そのため、収入が少なくなりがちなシニア層でも元金の返済を気にすることなく借入が可能です。
担保に入れられた不動産には、抵当権が設定されます。ただし、契約者が亡くなった後、相続人が一括で返済することで抵当権を外すことが可能です。一括返済ができない場合は、ノンリユース型であれば抵当権が設定された不動産を売却することで返済が完了します。
なお、担保物件の売却代金が返済額に満たなかった場合に備えて、「リコース型」と「ノンリコース型」の2種類のプランから選択することが可能です。詳細は「元金返済方法が選べる」で解説しますが、住宅金融支援機構によると、99%の利用者がノンリコース型を選択しています。
利用条件
リ・バース60はその名のとおり、60歳以上を対象にした金融商品です。夫婦で利用する場合は双方が満60歳以上であることが条件ですが、収入が年金のみの方や健康上の不安がある方でもお申込みできます。
さらに、60歳以上であれば何歳でも利用できるため、必要なタイミングで申込むこともできます。つまり、年金生活や健康に不安や問題を抱えていても利用できる、珍しい住宅ローンなのです。
審査内容と審査期間
他の住宅ローン同様、リ・バース60に関しても審査内容は明らかにされていません。しかし、次の条件がリ・バース60を申込む際に重要な項目とされています。
- 物件に不動産的価値があるか
- 年金などの継続収入があるか
- 相続人の同意はなされているか
特に3.に関しては、契約者の死後、トラブルに発展するリスクを回避するために必要な項目です。相続人に無断で借入をしていれば、マイナスの財産として相続人の間で押し付け合いなどに発展してしまう可能性があります。それを防ぐために、審査の段階で相続人の同意が必要となるのです。
審査期間はおおむね2週間程度です。審査が完了すれば申込んだ金融機関で契約書の署名押印を行います。これらの手順を踏んではじめて融資されるため、リ・バース60について、理解した上で申し込めばリ・バース60が怖いものとは一概に言えないでしょう。
リ・バース60のメリット
リ・バース60には、次のようなメリットがあります。
- 年齢の上限がない
- 毎月の支払いは金利分のみ
- 元金返済方法が選べる
年齢の上限がない
リ・バース60には借入時の年齢の上限がなく、満60歳以上であれば申込が可能です。夫婦の場合はお互いが60歳を過ぎている必要がありますが、例えば80歳からでもリ・バース60を利用できるということになります。
日本の平均寿命は男女とも80歳を超えており、定年を迎えても約20年以上の時間が残されるようになりました。医学の進歩の結果ではあるものの、年齢を重ねるうちに、自宅が住みづらくなってしまうことは珍しくありません。そのようなときに住宅購入やリフォーム費用として利用できるリ・バース60は、非常にありがたい存在だと言えるでしょう。
毎月の支払いは金利分のみ
リ・バース60の最大の強みともいうべき点が、月々の支払額の低さです。通常の住宅ローンであれば、元金に金利分を上乗せした額を返済することが必要です。安定収入があれば良いですが、年金収入だけになるとかなり厳しいという方も少なくありません。
しかし、リ・バース60の場合、月々の支払いは発生する金利分のみ。借入額にもよりますが、一般の住宅ローンの1/3以下の負担で済む場合もあります。また、配偶者を連帯保証人に設定している場合、主債務者(契約者)が亡くなっても同様に金利分の支払いのみで引き続きリ・バース60を利用できます。
元金返済方法が選べる
契約者が亡くなった場合は元金の返済が必要になります。返済方法は相続人による一括返済、あるいは抵当権が設定された不動産を売却して返済するという2種類です。このうち、不動産売却による返済となった場合、売却価格によっては返済額に届かない可能性もあります。
足りなかった返済額をどうするのかについては、事前にリコース型とノンリコース型から選択できます。リコース型は不足している債務の返済が必要ですが、ノンリコース型の場合は返済の必要がありません。2020年度申込者の99%がノンリコース型を選択しており、残された遺族への負担を軽くしようとノンリコース型で申込んでいると推測されます。ただし、ノンリコース型の方が、若干金利が高くなる点に注意が必要です。
ちなみに、契約者の死後に不動産を売却し、返済額以上の金額になった場合は相続人に相続されます。この点はリコース型もノンリコース型も同様です。
リ・バース60のデメリット
非常に魅力的なリ・バース60ですが、一方で知っておきたいデメリットも存在します。メリットだけではなくデメリットにも目を向けて、実際に利用するかどうか判断してください。
借入限度額が低め
リ・バース60は、一般的な住宅ローンと比較すると借入限度額が低く設定されています。借入前には担保にする不動産の評価を行いますが、担保評価額の50~60%程度が借入の上限額だと認識しておきましょう。
例えば、不動産評価額が1,500万円の物件の場合、借入限度額は750~900万円となります。仮に借入金を使って住宅購入や建築を行う場合、この限度額内に収める、あるいは別で頭金を用意しなければなりません。無条件で不動産評価額をそのまま借入できるわけではない点にご注意ください。
また、住宅ローンの借り換えを行う場合、現在借りている住宅ローンの残債と担保評価額に注意しなければなりません。もし住宅ローンの残債が担保評価額の50%前後あった場合、リ・バース60による融資を受けられない可能性があります。借入限度額が低いため、いずれにしても別途予算を設けたほうが良いでしょう。
変動金利型で金利上昇のリスクがある
リ・バース60の特徴は、契約者の生存中に元金の返済がなく、金利分のみの返済という点です。この金利は変動型であり、将来的に金利上昇のリスクがあることに注意しなければなりません。
リ・バース60の金利はおおむね3~4.5%に設定されており、一般的な住宅ローンよりも高めに設定されています。加えて毎月変動するため、月によっては家計を圧迫する可能性もあります。2022年3月現在は低金利の状態ではあるものの、今後も低金利が続くとは限りません。今後の景気変動で金利が上昇しても問題ないよう、余裕を持った返済計画と生活資金を確保しておくことが大切です。
元金が減らないため返済が終わらない
リ・バース60は、毎月の支払い金額が一般的な住宅ローンより少ないのが特徴です。しかし、それは金利分のみを支払っているためであり、元金は減っていないことを覚えておかなければなりません。言い換えれば、どれだけ支払っても元金は減っていないということです。
これは長生きするほど金利の支払いが続いてしまうことを指しています。元金の繰り上げ返済も可能ではありますが、借入前の申込時点で、しっかりとした返済計画をシミュレーションしておくことが重要です。
住宅関係費以外に利用できない
リ・バース60のデメリットの一つに、資金用途が住まいに関する用途だけに限定されている点が挙げられます。冒頭でも触れましたが、リ・バース60の借入資金使用範囲は、基本的に次の通りです。
- 本人の居住住宅の建設または購入資金
- 子世帯などの居住住宅の取得資金
- 住宅のリフォーム資金
- サービス付き高齢者向け住宅への入居一時金
- 住宅ローンの借り換え資金
ただし、販売する金融機関によって多少内容が変わります。申込み前の事前確認をしっかり行うことをおすすめします。
リコース型では相続人が元金の残債を返済しなければならない
契約者死後の元金返済方法としてリコース型を選択すると、契約者の死後に相続人に負担が残る場合があります。不動産売却による一括返済を行う場合ですが、もし抵当権を設定されていた不動産の売却価格が元金を下回る場合、不足分を支払わなければならない制度です。
不動産売却後の残債負担がないノンリコース型を選択することが多いようですが、逆に不動産売却をした結果、元金以上の価格で売却できることもあります。この場合は返済額を引いた余剰分は相続人の手元に残ります。
リ・バース60の活用事例
ここからは、リ・バース60の活用事例をいくつかご紹介します。制度としてわかっていても、実例がないとピンとこないという方も少なくありません。以下の事例を参考に、利用するか否かを決めても良いでしょう。
- 子どもが独立した後の転居
子どもが独立したことや住宅の管理が負担になった夫婦が、現在よりも小さな家へ転居する費用として利用。月々の負担も少ないため、年金収入だけで生活している高齢夫婦でも利用しやすい。
- リフォーム工事
長年住んでいて老朽化が目立ってくるほか、バリアフリー工事も兼ねてリフォームを行う費用として利用するケース。老後資金には大きく手をつける必要がない他、今の家に住み続けられるメリットがある。
- シニア向け分譲マンションへの住み替え
一人暮らしに不安を覚えた際に、サービス付き高齢者向け分譲マンションを購入する目的での利用。介護士などが常駐するマンションへの住み替え費用としても使える。
- 住宅ローンの借り換え
定年を迎えたことで収入が減ってしまい、今ある住宅ローンの支払いに不安を感じての借り換え。リ・バース60に借り換えを行うことで、毎月の支払額を軽くできる。
リ・バース60の申込方法
リ・バース60の申込方法は、以下のとおりです。なお。手続きの詳細は金融機関によって異なります。利用を検討している場合は、提携の金融機関に問い合わせてから利用するかどうか判断しましょう。
おわりに
満60歳からでも利用可能な住宅ローンであるリ・バース60ですが、利用前には注意点を把握しておくことが必要です。特に、相続人の負担に関しては慎重に考慮せざるを得ません。申込みの段階で相続人からの承諾は求められるものの、相続人の負担が少なくなるような形にするのが望ましいと言えるでしょう。