投資用マンションの売却を検討している方にとって、売却のタイミングを決めることは非常に重要なポイントです。できるだけ損をせず、より良い条件で売却したいものですね。
そこでこのコラムでは、投資用マンションを売却するタイミングの見極め方を解説します。投資用マンションをめぐる現状や売却の流れ、注意しておきたい点についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
1.投資用マンションの現状は?
昨今のコロナ禍や、2021年に開催されたオリンピック東京2020大会による経済変化から、不動産価格の下落を心配する方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、2022年現在の投資用マンションの現状について解説します。
1-1.中古マンションの需要は衰えていない
コロナ禍の経済低迷やオリンピック後の不動産価格の変動により、中古マンションの需要や価格の下落を心配する方もいるでしょう。
公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)の2022年1〜3月期レポートによると、中古マンションの成約件数には増減の変化があるものの、価格については上昇傾向です。
このことから中古マンションの需要は衰えていないことが分かります。価格は経済の落ち込みに左右されにくいといえるでしょう。また、オリンピックによる不動産価格の変動は、マイナスには働いていないことが見て取れます。
中古マンション成約物件 | 成約件数(件) | 平米単価(万円) | 価格(万円/㎡) |
2018年1~3月期 | 9,884 | 51.65 | 3,361 |
2019年1~3月期 | 10,268 | 53.07 | 3,435 |
2020年1~3月期 | 10,071 | 54.91 | 3,569 |
2021年1~3月期 | 11,295 | 58.14 | 3,797 |
2022年1~3月期 | 9,311 | 64.06 | 4,110 |
1-2.低金利が続いており、不動産取得に積極的な投資家も
国内の投資活動の推進や景気拡大のため2013年から開始された異次元金融緩和が、2022年で10年目に突入しています。昨今のコロナ禍により、日本では今後も低金利状態が続くと考えられるでしょう。
低金利は、取得コストが低いなど不動産取得において絶好のタイミング。積極的に不動産を取得しようと動く投資家も増えています。
外出制限やリモートワークなどにより、人々の生活において重要視されているのが「家」です。商業用の店舗などと比べて、住居用の家はコロナ禍以前から変わらず需要を保っています。
投資家にとって家賃は安定した収入源となるため、マンションをはじめ賃貸物件への投資が大きく減ることはないでしょう。
2.投資用マンションの売却を考えるタイミングとは
投資用マンションの売却に問題がないことはお分かりいただけたと思います。ここでは、実際に売却を考えるべきタイミングについて、4つのポイントを解説します。
2-1.物件が高値で売却できる不動産市況のとき
不動産市況が良く、投資用マンションの購入金額を売却金額が超えるときは、売りどきです。
不動産の価格を決定する指標の1つに「路線価」があり、社会情勢を反映した土地の価格を示しています。路線価が上がっているときは、所有する不動産が高く売れる可能性があるでしょう。1年に1度評価額が国税庁のサイトに掲載されるので、チェックして確認してみましょう。
2-2.賃貸運用が難しい、または手間となったとき
利益や損得の他に、個人的な事情でマンションの売却を決めなければならないこともあるでしょう。
「所有者が高齢のため賃貸運用が難しい」「毎年の確定申告が負担」「入居者の入れ替わりの手続きが面倒」など、将来への不安や維持管理の手間を感じている場合は、売却を検討するタイミングといえます。
また、ときが経つにつれて下がる減価償却費よりもローンの元金返済の額が大きくなる、デッドクロスの状態が生じるタイミングに注意しましょう。
帳簿上で利益が出ていたとしても、その利益に課される所得税が増えることで、実際の資金繰りであるキャッシュフローがいずれはマイナスになってしまいます。
デッドクロスによる赤字を防ぐため、その状態になるタイミングを逆算し、それまでの間に売却してしまうのが1つの手段なのです。
2-3.修繕費が増えるタイミング
マンションは、築年数に比例して修繕費も増えるもの。築年数が10〜20年の時期には大規模修繕を行うのが一般的です。この修繕費用として、投資用マンションには「修繕積立金」を積み立てることが課されており、年数の経過とともに値上がりしていくことは明白でしょう。
大規模修繕の前後のタイミングは修繕積立金が大きく増加することも多く、所有者の負担が増えるため収益が少なくなってしまいます。
また大規模修繕を行えなかった場合は、マンションの資産価値が下がる可能性も。修繕費が増える前の、築年数が浅く不具合が少ない状態は、売却を考えるのに適したタイミングといえます。
2-4.所得税率が下がる5年を超えたとき
投資用マンションの売却時には所得税や住民税といった税金がかかり、その税率は所有期間5年を区切りにして異なります。税率は2022年現在、所有期間が5年以内の場合は短期譲渡所得で39.63%、5年以上の場合は長期譲渡所得で20.315%です。
所有期間5年を区切りにおよそ2倍の税額となるため、投資用マンションの売却は購入後5年を超えた後に考えるのが良いでしょう。
参照元:No.3211 短期譲渡所得の税額の計算|国税庁|No.3208 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁)
3.投資用マンションを売却する前にしておくこと
投資用マンションは、事前に売却したい時期を決めてスケジュールを立てることが大切。ここでは、投資用マンションの売却に向けた事前準備について解説します。
3-1.管理会社へ連絡する
まずは、マンションの管理会社へ売却の意思を伝えましょう。組合員の資格喪失手続きや、管理費・修繕積立金の精算などをする必要があるため、売却したい気持ちが固まった時点で管理会社に連絡しておくと今後の流れがスムーズです。
3-2.不動産相場を確かめておく
不動産の価格相場がどのくらいなのかを事前に確かめておきましょう。売却の査定額が妥当かどうか判断する材料になる他、買主との価格交渉に役立てられます。
価格相場を調べるには、国土交通省が提供する不動産取引価格情報検索や、不動産ポータルサイトを利用すると良いでしょう。所有物件に類似した物件の市場価格を調べることができます。
3-3.売却に必要な書類を準備しておく
マンションの売却には、本人確認書類や印鑑の他、登記事項証明書(登記簿謄本)、購入した際の売買契約書、重要事項説明書などの書類が必要です。これらの書類の中には発行に時間がかかるものがあり、万が一紛失していた場合はさらに発行手続きに時間を要するため、早めに準備を始めましょう。
3-4.売却にかかる費用を確認する
売却にかかる費用を確認しておくことも大切です。マンションの売却には、不動産仲介会社に支払う仲介手数料や登記費用、住宅ローン返済費用、証明書発行費用などさまざまなものがあります。
マンションを売却する場合、仲介手数料は特に大きな金額を占めるもの。仲介手数料は「売買価格の3%+ 6万円(消費税別)」で計算されます。これは上限として定められた金額で、不動産仲介会社によっては割り引く会社もあるようですので、不動産仲介会社を決める際には仲介手数料の金額を確認しておくと良いでしょう。
3-5.売却後にかかる税金を確認する
マンションを売却した後に発生する税金があることも忘れないでください。印紙税や抵当権抹消にかかわる登録免許税、マンションを売却して利益が出ると所得とみなされ、住民税や所得税がかかるケースもあります。
先に述べたように、住民税や所得税は所有期間5年を区切りにして税率が大きく異なります。
所有期間が5年以内の場合は短期譲渡所得で39.63%、5年以上の場合は長期譲渡所得で20.315%とおよそ2倍の差があるため、利益が発生する可能性が高ければ、売却時期をずらして節税するのもおすすめです。
4.投資用マンションの売却~確定申告までの流れ
投資用マンションの売却をスムーズに行うため、実際に行う手続きの流れを把握しておきましょう。不動産仲介会社の決定から確定申告まで1つずつ解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
4-1.不動産仲介会社を決めて媒介契約を結ぶ
投資用マンション売却にかかる事前準備を行った後、仲介を依頼する不動産仲介会社を決めて媒介契約を結びます。複数社にマンションの査定を依頼し、ご自身で調べた価格相場などとも比較して、依頼する不動産仲介会社を絞りましょう。
マンションの売却において、不動産仲介会社との契約方法には、不動産仲介会社1社のみと契約する「専属専任媒介」や「専任媒介」、複数の不動産仲介会社と契約できる「一般媒介」の3種類の方法があります。
専属専任媒介は、特定の不動産仲介会社に依頼する契約で、1週間に1回の状況報告が義務付けられたもの。専任媒介も同じく特定の不動産仲介会社に依頼する契約ですが、状況報告は2週間に1回です。
一般媒介は、複数の不動産仲介会社へ依頼することができるといった特徴があります。契約方法それぞれでメリットがあるため、ご自身の希望に合った契約ができるよう慎重に選びましょう。
4-2.価格を決めて売り出す
媒介契約を締結し、価格を決めて売り出します。ご自身の希望額や不動産仲介会社の査定額、市場動向などをふまえて決定しましょう。投資用マンションの売却時は、購入希望者と価格交渉を行うのが一般的ですので、値下げ分も考慮して価額を決めるのがポイントです。
売却するマンションに入居者がいる場合は、賃貸人(オーナー)が変わることからオーナーチェンジ物件と呼ばれます。この場合、購入者がマンションの内部を確認できないことから、修理履歴が分かる書類を用意しておくと物件の状況が分かるため検討してもらいやすいでしょう。
4-3.購入希望者と売買条件の交渉を行う
購入希望者が現れたら、不動産仲介会社を通じて連絡が来るので売買条件の交渉を行います。交渉では、価格や代金の支払方法、引き渡し条件、引き渡し希望日などを確認しましょう。
マンションの不具合や欠陥がある場合や、照明や給湯器といった付帯設備の取り決めについては、売買契約締結後にトラブルを起こさないためにも明確にしておくことが大切です。
4-4.売買契約後に引き渡し
売主と買主がともに売買条件に合意すれば、売買契約を結びます。住宅ローンが残っている場合は、ローンの完済や抵当権の抹消といった手続きが必要です。
ローンの残債を全額返済しなければならないため、買主から支払われた売買代金を充てて物件を引き渡す同時決済を行うのが一般的でしょう。マンションの引き渡し当日は、物件や土地の状況を買主が最終確認して、契約完了となります。
4-5.確定申告して税金を納める
投資用マンションの売却後、忘れてはならないのが確定申告です。売却によって利益が生じた場合は、所得税や住民税を納める必要があります。また、損失が出た場合でも必ず確定申告を行いましょう。控除が受けられる可能性があります。
5.投資用マンションを高く売却するためのポイント
投資用マンションの売却を考えるなら、できるだけ損をせず高く売りたいもの。ここでは、より多くの利益を上げるためのコツについて解説します。
5-1.一括査定で、高値で売却する不動産仲介会社を選ぶ
不動産仲介会社を選ぶときは、複数の不動産仲介会社に査定を依頼できる「一括査定サービス」を活用しましょう。
査定額の偏りをなくすためには複数の会社に依頼したいものですが、一社ずつ依頼していくのは時間も手間もかかるため効率的ではありません。一括査定サービスを利用すれば、所有する投資用マンションの物件情報を入力するだけで、査定可能な複数の不動産仲介会社に一度に依頼ができます。
また、査定結果の連絡が同時期に来るため、手間を省きながら比較検討しやすいのもメリットです。
5-2.入居者を埋めた状態で売却する
投資用マンションは、入居者を埋めた状態にすると高値で売却できる可能性が高まります。
マンションが空室状態の場合、想定賃料から割り戻し、価格の妥当性を検証します。その場合、想定した賃料で実際に入居者を確保できるかどうか疑念を抱かれる他、値引き交渉の余地を与えるポイントにもなるでしょう。そのため、入居者が埋まった状態の方が高額売却につながりやすいのです。
また買手側からすると、すでに入居者がいるほうが、購入後の入居者募集の手間もなく家賃収入が見込めるため、安心感が高く成約率も上がるでしょう。
5-3.金利が低いときに売却する
低金利は、投資用マンションの売却に理想的なタイミングです。
投資用マンションの売却価格の査定では、収益性を表す利率「利回り」を用いた収益還元法が一般的です。売却価格は年間の収益を利回りで割って算出されるので、利回りが低いと売却価格は上がることになります。
利回りは金利の変動に比例するため、低金利の時期は利回りも下がる傾向にあり、投資用マンションを高額で売却できるタイミングといえるでしょう。金利の変動をチェックして、低金利の時期を逃さないのがおすすめです。
5-4.大規模修繕後に売却する
投資用マンションは、大規模修繕を行った後も高額売却を叶えやすいといわれています。
マンションの大規模修繕は、築年数が10〜20年の時期に行うのが一般的。物件が良い状態になったばかりの状態は、買手にとって修繕の手間がない他、空室の場合でも入居者が見つかりやすいと考えられるため、売りどきと考えられています。
5-5.外国人投資家も視野に入れる
外国人投資家は高額で購入してくれる可能性があるため、投資用マンション売却の際には視野に入れましょう。
国際市場から見ると日本の不動産市場は、利回りが高く割安なのが特徴です。日本人投資家に比べて外国人投資家は、低い利回りでも物件購入に踏み切ってくれる可能性があり、高値を提示してもらえることも多いでしょう。
6.投資用マンションを売却するときの注意点
最後に、投資用マンションを売却する際に注意しておきたいことを解説します。なるべく好条件でスムーズに売却するため、念頭に置いてくださいね。
6-1.投資家目線で物件アピールをする
投資用マンションを購入する側の投資家目線に立って、物件の魅力をアピールしましょう。
マンションの購入目的は人それぞれ異なるはず。家賃収入による収益や売却目的、節税目的など、さまざまな投資家の目線で見た物件のメリットや魅力を伝えられると良いですね。
6-2.売却価格がローン残債に満たないときは自己資金での補填が必要
投資用マンションにローン残債があっても売却は可能ですが、売却価格がローン残債に満たない場合は自己資金で補填する必要があります。自己負担を発生させないためにも、ローン残債と売却査定額は事前に把握しておきましょう。
6-3.投資物件の売却実績がある不動産仲介会社を選ぶ
投資用マンションの売却は、同様の物件を売却した実績のある不動産仲介会社を選ぶようにしましょう。
これまで説明してきたように、投資用マンションの売却にはタイミングを見極めることに加え、売買のノウハウや税金、契約などさまざまな見識を持ち合わせていることが必要です。投資用物件の売買実績がある不動産仲介会社ならこの点について安心できる他、次の収益物件の買い換えなどの相談もしやすいでしょう。
おわりに
不動産価格は、市場の変化や個別要素によって大きく変化する可能性があります。投資用マンションの売却を考える場合は、市場変化などをしっかり見極めながら長い目で見て検討しましょう。