この記事では共有者全員持分全部移転について取り上げています。共有者全員持分全部移転は所有権移転と類似しているため、混乱しやすいものの、完全に同一にするという性質のものではありません。共有者全員持分全部移転と所有権の移転では、どのような違いがあるのかを確認しながら、登記に関して解説していきます。
共有者全員持分全部移転とは
まず知っておくべきことは、持分移転登記とはどのようなものなのかということです。
持分移転登記とは、1つの不動産が共有で持分がある場合、その中の一部の登記のみを移転する登記のことをいいます。そして持分移転登記をすることで新たな共有者が誕生することになり、共有者としての権利が生じることになります。
ここで気になるのは、一般的な所有権移転登記とどのように違うのかということです。
所有権移転登記の場合、持分は分かれておらず、1つの不動産の持分は100%持主のものとなっています。共有所有の場合は、その中の一部となるため、2人で対等な割合で共有しているときには、持分はそれぞれ50%ずつ所有するということになります。
つまり共有者全員持分全部移転とは、不動産を複数人で共有しそれぞれ持分がある場合、全員で全ての持分を1つにまとめて所有権を移転するということです。
持分移転登記が必要になる場合
持分移転登記が必要になるような場合は、どのようなケースでしょうか。持分移転登記が必要になるケースは、主に下記のようなケースです。
(1)持分を売買する場合
持分を売買する場合には、新たな所有者を確定させるために持分を登記します。
(2)持分を贈与する場合
持分を贈与する場合には、共有者が変わるため、登記が必要です。
(3)持分を放棄する場合
持分を放棄して、自身の権利や義務を放棄するために登記が必要です。
(4)共有分割をする場合
1つの不動産を複数人で共有するために登記します。
(5)共有者が亡くなった場合
共有者が亡くなったときには、相続人が登記します。
(6)離婚により財産分与をする場合
離婚をして財産を分与する場合には、分与を受けたものが新たな所有者になるために登記します。
なお、離婚による財産分与で共有状態を解消する場合、相手に共有持分を買い取る資金が手元になければ、セゾンファンデックスの遺産分割ローンがおすすめです。不動産の担保価値を評価する柔軟な審査により銀行融資では難しい親族間売買に利用できます。
(7)登記上の誤りを修正する場合
もしすでに登記している内容が間違っている場合には、正しい内容に修正するために登記します。
持分移転登記にかかる費用
共有者になれば、義務だけでなく権利も生じます。持分の移転を行ったときには、登記することになります。とはいえ、そこで気になるのが費用についてです。持分移転登記をする場合には、どのような費用がかかり、どれくらいの費用が必要になるのでしょうか。
持分移転登記をする場合、以下の2つの費用がかかります。
- 登録免許税
- 司法書士報酬(登記手続きを依頼した場合)
●登録免許税
登録免許税とは、登記を申請するときに国に納めなければならない税金のことです。
共有者全員持分全部移転の登記を申請する場合の登録免許税は、下記のとおりです。
(不動産の固定資産税評価額) × (税率) = (登録免許税)
不動産の固定資産税評価額は毎年、市区町村から送られてくる納付書に添付されていますので、すぐに確認できます。
一方の税率は、譲渡される理由によって異なってきます。
例えば売買の場合、土地の税率は1.5%(令和5年3月31日まで)です。建物は原則2.0%となっていますが、0.3%(令和6年3月31日まで)に引き下げられます。なお、贈与等が理由の場合には土地も建物も2.0%です。
では、実際にどれくらいの費用がかかるのか、例をもとに計算してみましょう。
固定資産税評価額5,000万円の土地を3月1日に売却した場合です。
5,000万円×0.015(1.5%)=750,000円。登録免許税は750,000円かかることになります。
また登記をする場合、原因が同じときには、固定資産税評価額も税率も同じとなっているため、所有権移転をする場合と、共有者全員持分全部移転をする場合とでは登録免許税が変わることはありません。
なお、下記の所有権の保存等は令和6年3月31日まで軽減措置が取られています。
(1)住宅用家屋の所有権の保存の登記
10000分の15
※特定認定長期優良住宅等に該当するものは1000分の1などの軽減あり
(2)住宅用家屋の所有権の移転の登記
1000分の3
(3)住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定の登記
1000分の1
●司法書士報酬
登記を司法書士に依頼する場合は、司法書士への報酬が必要です。費用は事務所によってかなり違いがあるのですが、目安としては一般的に30,000円〜80,000円程度かかります。
自身で登記をすることも可能です。とはいえ、揃えなければならない書類や手続きの仕方も分かりにくい場合もあり、自身で行うとかえって時間がかかってしまい、心身ともに疲れてしまうことも考えられます。
司法書士の費用は必要経費と割り切って、プロにおまかせするのが安心です。
登記申請手続きを自身で行う場合の流れ
今後のためにも、登記の申請は自身で行いたいという方もいると思います。どのような流れになるのかを解説します。
大まかな流れは、下記のとおりです。
- 必要書類の準備
- 法務局に申請
- 登記識別情報の受領
では、1~3の3ステップを詳しく解説していきます。
(1)必要書類の準備
手続きに必要な書類は、下記の4つです。
- 登記識別情報(登記済証)
- 登記原因証明情報
- 印鑑登録証明書
- 住民票
ただし、内容によってはこの4つの他にプラスして書類を揃える必要があります。どのような書類が必要になるのか、あらかじめ法務局で確認しておきましょう。
- 登記識別情報(登記済証)
いわゆる権利証のことです。現在では「登記識別情報通知」という名称の書類となります。
- 登記原因証明情報
登記原因証明情報とは、登記を申請する際にその理由は何か、事実や法律行為(売買など)を記載した書類のことです。
例えば売買したときには、取引があったことがわかる売買契約書と、代金の受け渡しがあったことを示す領収書があれば、登記原因証明情報とすることができます。
ただし、このケースでは、売買契約書や領収書の原本を法務局に提出しなければなりません。原本そのものは、登記が終われば手元に返ってくるものなので抵抗のある方も多いのではないでしょうか。
大事な書類だからこそ心配ということで、別途「登記原因証明情報」という報告形式の書類を作成するのが一般的です。
- 印鑑登録証明書
印鑑登録証明書は、発行から3ヵ月以内のものを準備しなければなりません。
- 住民票
住民票に有効期限はありませんので、住所地の役所などへ出向いて発行してもらいましょう。
(2)法務局に申請
登記の申請をする場合、以下のような内容を記入することになります。
・登記の目的
全部移転の場合は、〇〇持分全部移転と書きます。
・原因
日付と法律行為(売買など)を書きます。
・当事者
権利者と義務者の住所、持分、連絡先を記入し押印します。
・添付情報
申請書と一緒に提出する書類を記載します。
・登記識別情報を提供することができない理由
登記識別情報通知がある場合には、チェックは不要です。
・登記識別情報の通知
この欄にチェックを入れると、登記の完了後に登記識別情報が発行されませんので注意が必要です。なお、登記識別情報がないと、将来この土地を売却をしたり担保権を設定したりするときに、余計な手間や費用がかかってしまいます。
・申請日と法務局
申請書を提出する日と、管轄法務局を記載します。
・課税価格
(固定資産税評価額)×(持分)=課税価格
・登録免許税
(上記の課税価格)×(所定の税率)=登録免許税額
・不動産の表示
持分を移転する不動産の表示を、登記簿のとおりに記載すればOKです。
申請方法は3つです。
- 法務局の窓口に行って提出する
- 書類を法務局に郵送する
- インターネットで申請する
(3)登記識別情報の受領
登記が完了すると、新たな登記識別情報が発行されます。登記識別情報を法務局で受け取るときには、原則として本人が出向き身分証明書を提示しなければなりません。
郵送でも受け取ることができますが、その場合はその旨を申請書に記載しておく必要があります。また申請するときには、申請書と一緒に返信用封筒の提出が必要になります。本人(個人)が申請したときには、本人限定受取郵便によって郵送されます。