低廉な空き家を売却しようと思っても、仲介手数料がいくらかかってくるのか理解できていない方は多いでしょう。
近年、空き家が増加傾向にあることが社会問題となっています。国土交通省は低廉な空き家の流通を活発化させるために、6年ぶりに報酬規程を改正しました。
低廉な空き家を売却するうえで、今回の改正を理解しておくことはコスト面において非常に重要です。
この記事では、低廉な空き家を売却する際にかかる仲介手数料の計算方法について、解説します。計算する際の注意点や低廉な空き家によくみられる特徴についても紹介するため、現在、空き家を所有している方の参考になるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
(本記事は2024年8月8日時点の情報です)
低廉な空き家とは?概要について解説
低廉(ていれん)な空き家とは、低価格の空き家のことを指し、具体的には物件価格が800万円以下の土地および建物のことを指します。今回の改正で、2024年7月からは800万円以下の不動産売買について、売主および買主の双方から最大30万円(税抜き)まで報酬を受け取れます。
以前は400万円以下の不動産売買に対して、報酬額の上限は18万円まででした。また、これまで売主のみにこの特例が適用されていましたが、今回の改正で買主にも請求できるようになります。
本来、宅建業者が受け取れる報酬額(仲介手数料)の上限は、宅地建物取引業法に基づいて定められています。売買の場合、売主・買主の一方から受け取れる報酬額は、物件価格に応じて一定の料率を乗じて得た額の合計金額以内までとなります。
そのため、不動産会社は低価格の空き家の取引をしても十分な報酬を得られないことから、低価格の物件の取引に対して消極的になりがちです。その結果、市場に売買されない空き家が残され続けている問題が生じてしまうのです。
そこで今回の改正で、800万円以下の低廉な空き家について、従来の上限額を超えて報酬を請求できるようにしました。この措置は、低価格な空き家の流通を促進し、その活性化を目的としています。
不動産の売買取引で仲介手数料を計算する方法と注意
不動産会社が得られる報酬(仲介手数料)は宅地建物取引業法の第四十六条によって定められた上限額の範囲までです。もし上限を上回る金額を請求すれば法令違反となり、100万円以下の罰金刑が科せられる可能性があります。
そのため、仲介手数料の計算は慎重に行う必要があります。正しい計算方法を知ることは、取引を円滑に進める上で重要です。
以下で不動産売買における仲介手数料の計算方法と注意点について詳しくみていきましょう。
参照元:e-GOV 法令検索 昭和二十七年法律第百七十六号 宅地建物取引業法
基本的な仲介手数料の計算方法
不動産売買において、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は、通常以下の計算式で求められます。
取引価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 取引価格 × 5.5%(上限11万円) |
200万円超400万円以下 | 取引価格 × 4.4% + 2.2万円(上限19.8万円) |
400万円超 | 取引価格 × 3.3% + 6.6万円 |
参照元:不動産売買の仲介手数料はいくら必要?計算方法や値引き交渉の可否などを徹底解説!|公益社団法人全日本不動産協会
取引価格300万円の場合でみていきましょう。このケースですと、200万円超400万円以下に該当するため、以下の計算式になります。
300万円×4.4%+22,000円=154,000円
よって、取引価格300万円の場合の仲介手数料は154,000円となります。
参照元:全日本不動産協会 不動産売買の仲介手数料はいくら必要?計算方法や値引き交渉の可否などを徹底解説!
低廉な空き家における特例計算方法
続いては低廉な空き家の計算方法です。取引価格800万円以下の報酬額の上限が引き上げられます。
取引価格 | 仲介手数料の上限 |
---|---|
200万円以下 | 11万円 |
400万円以下 | 19.8万円 |
400万円超800万円以下 | 33万円 |
例えば、取引価格500万円の低廉な空き家の場合ですと、400万円超800万円以下に該当するため、以下の計算式になります。
500万円 × 3.3% + 66,000円 = 231,000円
このケースでは仲介手数料は231,000円となります。
現地調査費の追加
低廉な空き家については、前述の仲介手数料に加えて、上限内まで現地調査費も追加できます。
現地調査とは現地に出向いて物件がどのようなものなのかを実際に確認する作業のことです。不動産は登記簿や地図、インターネットでは把握できない情報が多々あるため、事前に周辺環境などを確認しておくことが重要です。この現地調査費用の一般的な相場は5~10万円程度といわれています。
仮に取引価格500万円、現地調査費が7万円(税抜)を要した場合の仲介手数料と現地調査費の合計は以下のとおりです。
仲介手数料:500万円×3.3% + 66,000円 = 231,000円
仲介手数料と現地調査費の合計:231,000円 + 77,000円(税込) = 308,000円
このケースですと、33万円の上限内に収まるため特例が適用され、上記の金額まで報酬として受け取れます。
消費税の適用
不動産取引における仲介手数料および現地調査費は消費税の課税対象となり、税率10%が課税されます。そのため、上限額は消費税を加えた金額で計算する必要があります。
前述と同様、取引価格が500万円の物件で仲介手数料が231,000円(税込)、現地調査費が104,000円(税込)を要した場合の仲介手数料と現地調査費の合計をみていきましょう。
仲介手数料と現地調査費の合計:231,000円+104,000円 = 335,500円
※税抜305,000円
このケースですと、税抜価格の段階では33万円以下に収まっていますが、消費税を加えた後の合計金額が335,500円となり、33万円の特例上限をわずかに超えてしまいます。そのため、このケースにおいては特例上限額を超える5,500円部分については報酬として請求されることはありません。
計算時の注意点
低廉な空き家の報酬額を計算する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 低廉な空き家かどうかの確認を忘れないこと
- 現地調査費が加算される可能性を考慮する
- 消費税を必ず計算に入れる
- 上限額を超えていないか最終確認する
まず、現在保有している不動産が「低廉な空き家」に該当しているか確認することです。実際に不動産会社にいくらで売却できるか見積りをもらい、取引価格が800万円以下であるかを確かめます。
次に現地調査費の加算が必要かどうかを確認し、その費用も事前に見積もります。その際に消費税の計算も忘れずに行い、仲介手数料と現地調査費を含む総額が定められた上限額を超えていないか慎重に確認しましょう。
仲介手数料の値引き交渉は可能か?
仲介手数料は法律で上限が定められていますが、その範囲内での値引き交渉は可能です。ただし、交渉の成否は不動産会社の方針や物件の状況によって異なります。
ここからは、交渉するタイミングと注意点について解説します。
交渉のタイミングと進め方
最適なタイミングは、仲介契約を結ぶ前です。複数の不動産会社から見積もりを取り、比較検討することで交渉の余地が生まれやすくなります。
交渉する際は礼儀正しく、かつ建設的な態度で交渉することが重要です。具体的な根拠や理由を示しながら、交渉を進めましょう。
交渉が難しい場合は、他の付加価値サービスの提供を求めるなど、柔軟な対応を心がけることが重要です。
交渉の根拠
交渉する際は、以下の根拠を提示すると説得力を生み出せます。
- 複数の不動産会社を比較して、より安い見積もりを提示された場合
- 物件の売却や購入に至るまでの過程で、自ら積極的に動いた部分がある場合
- 複数の物件を同時に取引する場合
根拠を持ち出せれば交渉を有利に運べるので、事前に検討しておきましょう。
また、以下に当てはまるケースでは、値引きできる可能性を高められます。
- 売却と購入を同じ不動産会社に依頼する場合
- 不動産会社にとって繁忙期や決算期など、契約を急ぐ時期の場合
有利に進めるために、ぜひ取り入れてみてください。
交渉時の注意点
低廉な空き家の場合、仲介手数料の上限が引き上げられた背景を考慮すると、値引き交渉の余地は限られる可能性があります。実際に過度な値引き要求は、不動産会社のサービス低下につながる可能性があるため、適度な範囲で交渉することが重要です。
値引きが難しい場合は、リフォーム相談や引越し業者の紹介など、付帯サービスの充実を求めるのも一案です。
仲介手数料の値引き交渉は必ずしも成功するとは限りませんが、適切に行うことで取引コストを抑える可能性があります。ただし、低廉な空き家の取引では、不動産会社の採算性も考慮する必要があります。交渉の際は、双方にとって納得のいく結果を目指すことが大切です。
最終的には、仲介手数料だけでなく、不動産会社の信頼性、サービスの質、専門知識なども総合的に判断して、最適な選択をすることをおすすめします。
低廉な空き家を売買取引した場合における計算例
では、実際に低廉な空き家を売買取引した場合における計算例をいくつか紹介していきます。
計算例①物件価格150万円で現地調査費3.3万円の物件
物件価格150万円の場合、200万円以下に該当するため、仲介手数料の計算式は「取引価格 × 5.5%」が適用されます。
仲介手数料と現地調査費の合計:150万円×5.5%+33,000円=115,500円(税込)
ただし、200万円以下の場合における上限金額は11万円なので、この場合に請求できるのは11万円までです。
計算例②物件価格500万円で現地調査費5.5万円の物件
物件価格500万円の場合、400万円超に該当するため、仲介手数料の計算式は「取引価格 × 3.3% + 66,000円」が適用されます。
仲介手数料と現地調査費の合計:500万円×3.3%+66,000円+55,000円=286,000円(税込)
400万円超800万円以下の上限金額である33万円を下回っているため、報酬額は286,000円が適用されます。
【参考】物件価格1,200万円の物件
物件価格1,200万円の場合、前述と同様400万円超に該当するため、仲介手数料の計算式は「取引価格 × 3.3% + 66,000円」が適用されます。
仲介手数料と現地調査費の合計:1,200万円×3.3%+66,000円=462,000円(税込)
このケースでは、物件価格が800万円を超えており、低廉な空き家に該当しないため、現地調査費を請求されることはありません。
低廉な空き家によくみられる特徴
低廉な空き家とは800万円以下の物件を指しますが、ではどのような物件に多くみられるのでしょうか。低廉な空き家によくみられる特徴は次の3つです。
- 交通アクセスが悪く過疎地域にある
- 老朽化が進んでいる
- 持ち主が売り急いでいる
以下で順にみていきましょう。
交通アクセスが悪く過疎地域にある
交通アクセスの悪い過疎地域の物件は交通の便が悪く、インフラも整備されていないことから需要が少ない傾向にあります。そのため、これらの物件は不動産市場でなかなか取引されにくく、売却価格を下げざるを得ない状況に陥りやすいです。
老朽化が進んでいる
老朽化が進んでいる物件は建物の寿命が短くなるため、長期にわたって快適に住むことが難しいです。そのうえ老朽化が進むと必要なメンテナンスや修繕の費用が増加し、維持管理のコストがかさんでしまいます。その結果、需要が減少し不動産市場での取引が停滞しやすくなるのです。
具体的には、1981年以前に建てられた物件は旧耐震基準に該当し、震度5強を超える地震に対する耐震性が考慮されていないため、耐震性が低いとされています。このような物件は、安全性の懸念からとくに敬遠されがちです。
さらに長期間空き家となっている物件は、定期的なメンテナンスが行われていないことが多く、老朽化が進行しやすくなります。これによってさらに需要が減少し、市場において買い手がつきにくい状況に陥ります。
持ち主が売り急いでいる
持ち主が物件を売り急いでいる場合は、市場価格よりも低い価格で売り出されることが一般的です。これは、持ち主が相続などで早急に現金を得る必要があるため、売り出し価格を相場よりも安く設定する必要があるからです。
ただし、市場価格から大きく逸脱した価格設定は、購入者が物件に何らかの問題があると誤解されるリスクがあるため、極端に低い価格設定は避けるべきでしょう。価格設定については媒介契約を結んだ不動産会社ときちんと相談し、適正な価格で売り出すことをおすすめします。
低廉な空き家に関するFAQ
最後に低廉な空き家ついてよくある質問に回答していきます。
低廉な空き家に関する条例が改正された背景は?
条例改正の背景には、増加する空き家問題の解消があります。近年、空き家の数が増加していることが社会問題となっており、これらの空き家が倒壊リスクや犯罪の温床を招いているのです。
また、売買価格が低い不動産は仲介手数料も低くなるため、不動産会社にとって取り組むメリットが少なく、市場の流通性が阻害されてしまいます。
このような状況を改善するため、仲介手数料の上限を引き上げて不動産取引を活性化させ、空き家問題の解決に貢献することを目的としています。
仲介手数料はどのタイミングで支払いますか?
仲介手数料は不動産の売買契約が成立したタイミングで支払います。支払い方法は不動産会社によって異なりますが、通常は現金一括払いが原則です。
もし仲介手数料を一括で支払うことが困難な場合は、不動産会社に分割払いが可能か一度相談してみると良いでしょう。
低廉な空き家が売れる見込みがありません。諦めたほうがよろしいでしょうか?
低廉な空き家が売れる見込みがないと感じる場合でも、まずは物件の価値を高める努力をしてみることです。リフォームを行い住みやすさを向上させたり、耐震性能を高めたりすることで、物件に関心を持ってもらえるかもしれません。
しかし、これらの改善には費用がかかり、投じた費用が売値を上回ることも考えられます。もし、物件の立地が比較的良い場合は、建物を解体して更地にすることも選択肢のひとつです。「家は新しく建てたいから土地だけ欲しい」と考える購入希望者にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
リフォームを行うハードルが高いと感じる方は、以下の選択肢も検討してみてください。
- 空き家バンクの活用
⇒多くの自治体が運営している「空き家バンク」に登録することで、物件の露出を増やせる。地方移住や二地域居住を検討している人々に物件情報を提供でき、新たな購入者と出会える可能性が高められる - 自治体の支援制度の利用
⇒ 多くの自治体が空き家対策として、改修費用の一部補助や解体費用の一部助成などの支援制度を設けている。これらを活用することで、費用面での負担を軽減できる可能性がある - 用途変更の検討
⇒ リノベーションを施して賃貸物件として活用したり、地域のコミュニティスペースとして提供したりなど、売却以外の活用方法へ転用する
信頼できる不動産会社がある場合は、一度相談して適切なアドバイスを求めることをおすすめします。また、自治体の空き家対策窓口に相談することで、地域特有の支援制度や活用方法について情報を得られる可能性があります。
諦めるのではなく、これらの選択肢を検討し、積極的に行動することが重要です。さまざまな支援や制度を活用しながら、あなたの物件に最適な解決策を見つけていきましょう。
宅地宅建士が見た「低廉な空き家の仲介手数料」の結論!
2024年7月からの改正により、低廉な空き家について800万円以下の売買までは、売主および買主の双方から最大30万円(税抜)まで報酬を受け取れます。また、仲介手数料に加えて上限内までであれば現地調査費も追加での請求が可能です。
今回の改正で低価格の物件においても積極的な流通が期待でき、低廉な空き家を所有している売主は、これまで以上に売却がしやすくなると考えられます。
また、不動産によっては売却以外の選択肢も検討できます。例えば、リノベーションを施して賃貸物件として活用する方法や、更地にして駐車場として活用する方法などさまざまです。
信頼できる不動産会社がある場合は、一度相談して適切なアドバイスを求めることをおすすめします。