離婚時に養育費の支払いを取り決めていたけれど、ご自身が再婚する場合はどうなるのか気になる方も多いでしょう。新しく家庭を築けばなにかと費用がかかってしまいます。今回は、養育費は再婚したらどのような影響を受けるのかご紹介しましょう。ご自身が再婚するにあたって、養育費の減額を希望している方や、相手が再婚したので養育費の金額を見直したいという方はぜひ参考にしてみてください。
- 離婚後の養育費の支払いについて、再婚しただけでは親としての扶養義務はなくならないため続けなければならない
- ただし、養育費を受け取る側が再婚して、子どもが再婚相手と養子縁組をしたケースなどは、減額される場合がある
- その他にも、支払う側の収入が減ったり、受け取る側の収入が増えたりしたケースなどもある
- 再婚による養育費の減額や免除が必要と感じた場合は、まず相手と話し合うことが大切
- 話し合いがうまくいかない場合は、弁護士に依頼するのもおすすめ
養育費の支払い義務
親には子どもの扶養義務があり、養育費の支払いは「民法第766条」で定められています。一般的に養育費とは、子どもが健やかに成長し、自立するまでに必要な費用とされているものです。また、離婚や再婚、自己破産をしても、養育費を支払う義務はなくなりません。
原則養育費の支払いは、20歳までとされていますが、親の話し合いである程度期間を決めることは可能です。例えば子どもが専門学校や大学に通っている場合は、学費や生活費が必要となるため、養育費の支払い期間が延長となる可能性もあります。
また、成人しても障害や持病があり、経済的に自立するのが難しい場合も、継続して養育費が必要となるケースが考えられるでしょう。
参照元:e-Gov法令検索|民法第766条母子及び父子並びに寡婦福祉法
参照元:法務省|成年年齢の引下げに伴う養育費の取決めへの影響について
再婚したら養育費はどうなる?
日本では、妻側が子どもを引き取って、夫側から養育費を受け取っているケースが多いのが現状です。離婚時に養育費の支払いに関する取り決めをし、文書を交わしている方もいるでしょう。
しかし、民法第880条では、養育費の支払いに影響を与える事情の変更がある際には、取り決めの変更や取り消しが可能であると明記されています。取り決めの変更や取り消しが可能かどうかは、再婚が事情の変更に該当するのかどうかがポイントです。
ここからは、養育費を受け取る側と支払う側、それぞれのケースについて解説していきましょう。冒頭で説明したとおり、日本で多いケースである養育費を支払う側が夫、養育費を受け取る側が妻と仮定しています。
参照元: e-Gov法令検索|民法880条
参照元:厚生労働省|令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
受け取る側が再婚したら
まずは養育費を受け取っていた元妻が再婚した場合、今後の養育費がどうなるのか説明します。
再婚しただけでは打ち切り・減額にならない
「元妻が再婚したら養育費はもう支払わなくていいのでは?」と、思う方も多いかもしれません。しかし、元妻が再婚しただけでは、子どもと再婚相手に法律上の親子関係は生じません。つまり、元夫の扶養義務が消滅することはないため、養育費は引き続き相手がもらい続けることになります。
子どもが再婚相手と養子縁組すれば減額・免除の可能性あり
子どもが元妻の再婚相手と養子縁組すると、子どもとの間に親子関係が生まれるため、再婚相手に扶養義務が発生します。
その場合、元夫の扶養義務が完全になくなるわけではありませんが、立場としては第二次的な扶養義務者になるため減額、場合によっては免除になる可能性もあるでしょう。ただし、元妻が再婚相手と離婚して養子縁組が解除されると、再び元夫が第一次的扶養義務者になります。
支払う側が再婚したら
次に、元夫側が養育費を支払いながら再婚したケースについて解説します。
再婚しただけで減額になることは少ない
再婚して新しい家庭ができたことによって支出が増えると、養育費の支払いが難しくなることが考えられます。
再婚しただけで養育費が減額となるケースは少ないですが、再婚相手が専業主婦・パートなどで夫の扶養に入る場合は、減額になることも考えられるでしょう。しかし、再婚相手が働ける状態で収入が見込めるのであれば、減額にならないケースもあります。
ただし、婚姻の届出をしていない内縁の妻や同棲相手に対しては、扶養する義務がないため減額されません。
扶養する子どもが増えた場合
再婚相手に連れ子がいて、その子どもと養子縁組をした場合や、再婚相手との間に新たに子どもができた場合は、養育費の減額が認められる可能性が高くなります。
また、前述したように、婚姻の届出をしていない内縁の妻や、同棲相手の子どもを認知していない場合は、扶養義務は発生しないため元妻への養育費は減額されません。
再婚以外の事情で養育費が減額となるケース
ここからは再婚以外の事情で、養育費が減額となるケースについてご紹介します。
支払う側の事情
意図せず収入が減少してしまい、養育費の支払い能力がない場合は、免除や減額ができます。親の扶養義務とは、ご自身と同じ程度の生活を子どもが維持できるようにする義務です。
予期せぬ理由で収入が減り、ご自身の生活が不安定な場合にまで支払う必要はありません。予期せぬ理由には以下のような事例があてはまります。
リストラや倒産
リストラや倒産などによって意図せず退職せざるを得なくなり、養育費を払うことが経済的な負担になる場合は、妥当な減額事由に該当します。
ただし、自己都合で転職し収入が減った場合や、収入が安定しないフリーランスになった場合などは、減額事由として認められないこともあるので注意が必要です。
病気やケガ
病気やケガが原因で医師から就労不能状態と診断されて、長期間復職が見込めず退職した場合などは、収入が減少することから養育費が減額されるケースがあります。ただし、病気やケガが一時的なもので、復職する予定がある場合は養育費が減額できないこともあるでしょう。
受け取る側の事情
一般的に養育費は、裁判所の養育費算定表を用いて、夫と妻の年収から決められるものです。自営か給与かにもよって異なりますが、それぞれの年収が基礎となっています。そのため、元妻の収入が大幅に増えると、元夫が支払う養育費は減額されるでしょう。
養育費減額の請求方法
では、養育費の金額を見直したい場合は、どのような手続きをしたら良いのでしょうか。再婚して家族が増えたことで、相手への養育費の支払いがきつい場合などに、離婚時に取り決めた養育費を減額するための請求方法について解説します。
まずは話し合い
まずは夫側・妻側で養育費の減額について話し合いましょう。話し合いの前に養育費減額となる根拠を把握しておくことが大切です。話し合った結果、お互いが合意したら新しく取り決めた養育費について、書面やメールで記録を残しておくことをおすすめします。
こうすることで、後々トラブルに発展することを避けられるでしょう。一方で、相手と話したくない方や、交渉自体が手間という方は、一連の養育費についての交渉を弁護士に依頼するのもひとつの手です。
ご自身の事情について相談し、弁護士が減額できると判断した場合は、よりスムーズに交渉を行うことができるでしょう。
養育費請求調停
夫側・妻側の話し合いでうまくまとまらなかったときは、家庭裁判所に養育費減額を請求するための調停を申し立てましょう。
調停を利用することには、さまざまなメリットがあります。まず、調停は調停委員を介して交渉を行うため、お互い冷静に話し合うことができるでしょう。これなら、離婚後に相手と話し合いたくない方や、顔を合わせたくない方でも安心です。
現在、住んでいる所を相手に知られたくない場合にも対応できるので、家庭裁判所で確認しましょう。また、調停終了後に、新たな取り決め内容が調停調書として発行されるため、取り決めに関するトラブルを避けられるのもポイントです。
一方で調停のデメリットとしてまずあげられるのが、仕事があっても平日の昼間に時間を割かなければいけないことでしょう。また、養育費減額調停は事情なども含めて、家庭によって調停期間が異なります。調停はだいたい1ヵ月に1回の頻度で開かれ、約半年ほどかかると考えておきましょう。
養育費減額調停を申し立てるには、以下の書類や費用が必要です。
【養育費請求調停の申し立てに必要な書類一覧】
- 養育費調停申立書
- 連絡先などの届出書
- 子ども(未成年者)の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 事情説明書
- 収入を証明できる資料(確定申告書や源泉徴収、給与明細などの写し)
- 子どもひとりにつき収入印紙1,200円
- 郵便切手(金額は裁判所によって異なる)
養育費調停申立書の書式は、裁判所のWEBサイトから印刷することが可能です。これらの書類を、相手が住んでいる地域を担当している家庭裁判所に提出することで手続きができます。
養育費請求調停は、まず養育費の減額を請求する事情を家庭裁判所の調停委員が確認し、その後、その減額が妥当であると判断されたら、調停委員が相手に交渉するという流れです。このように申し立てを行いますが、約半年かけて調停を実施しても話し合いがまとまらないケースもあります。
審判手続
養育費請求調停でも話がまとまらなかった場合は、審判手続を開始します。審判手続は、家庭裁判所の調査官が調べた調査結果や、双方から提出された書類をもとに裁判官が養育費を決める手続きです。
しかし、この結果に納得がいかないこともあるかもしれません。その場合は、2週間以内に不服申し立てをして、高等裁判所で再審理を行う必要があります。審判結果から2週間と期間が短いので、納得がいかない場合は早急に手続きを行いましょう。
再婚時の養育費に関するQ&A
養育費を受け取る相手側の再婚を知ったからといって、勝手に支払いを打ち切る行為にはリスクが伴います。一方で相手が再婚したことを知らずに養育費を支払っていた場合、養育費は返金されるのでしょうか?順番に見てみましょう。
再婚を知った時点で支払いを打ち切るとどうなる?
相手が再婚したことを知ったからといって、一方的に支払いを打ち切ると養育費不払いになり、強制執行されてしまうケースが考えられます。
強制執行とは、ご自身の財産である給与や預貯金、土地や建物などが差し押さえられる制度です。養育費の不払いは、財産を差し押さえられてしまうケースがあることを頭に入れておきましょう。
相手が再婚したからといって、親としての子どもへの扶養義務がなくなるわけではないので、勝手に打ち切るのは避けましょう。また、養育費を滞納してしまった場合にも、養育費遅延金などが発生するおそれがあるため、注意が必要です。まずは、夫側・妻側の双方で話し合うようにするのが基本といえます。
参照元:e-Gov法令検索|滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律
再婚を知らずに支払っていた養育費は返金できる?
すでに相手の再婚相手と子どもが養子縁組の関係であるなど、ご自身に扶養義務がなければ、返還請求できる可能性もあります。
どうしても納得いかないときや、支払ってしまった養育費を諦めきれないときは、弁護士に相談してみましょう。
子どもを養子縁組したら養育費はどれくらい減額になる?
養育費の金額は、裁判所のWEBサイトで公開されている養育費算定表を目安に決められています。よって、受け取る側の再婚後の経済状況を算定表に当てはめて計算した結果と養育費の金額差が、減額の目安金額になるでしょう。
おおよその参考になるかもしれませんが、再婚・連れ子がいることを想定した表ではないため、正しく算出するのは困難です。トラブルがある場合や、双方の意見が相違している場合などは、法律事務所や弁護士に相談することをおすすめします。
おわりに
親は子どもを扶養する義務があるため、再婚しただけでは養育費の支払い義務はなくなりません。しかし、再婚を伴う正当な理由によっては、養育費の免除や減額となるケースも考えられます。
ただし、やむを得ず減額が必要な場合でも、養育費はあくまでも子どもの生活に必要な費用であることを忘れてはいけません。その本質を忘れずに、減額を検討する際は子どもの生活についてきちんと考えることが大切です。養育費の免除や減額を希望する場合は、まずは夫側・妻側の双方で冷静に話し合いましょう。