上場廃止とは、東京証券取引所(東証)のような金融商品取引所に上場して取引されている銘柄が、取引所で取引できなくなることをいいます。
保有している株が上場廃止になったらどうなってしまうのか、不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
上場廃止といっても、その理由によって明暗は大きく分かれ、株が紙切れ(無価値)になってしまうこともあれば、儲かることもあります。大切なのは、ちゃんと理由を把握して適切に対処すること、紙切れになってしまうような株に投資しないことです。
保有している株が上場廃止になっても焦らず対処できるよう、上場廃止について正しく理解しておきましょう。
- 上場廃止とは、金融商品取引所に上場している株式(上場銘柄)が、取引所で取引できなくなること
- 上場廃止が決まっても、通常1ヶ月程度は取引できる
- 倒産(破産)のようなネガティブな理由での上場廃止はほとんどない
- 経営戦略による自主的な上場廃止では株価が上がりやすい
そもそも上場廃止とは何か?
そもそも上場廃止とはどんな状態をいい、上場廃止になった株はどうなるのでしょうか。
上場廃止について
上場廃止とは、金融商品取引所に上場している株式(上場銘柄)が、取引所で取引できなくなることをいいます。
各取引所が定めている上場廃止基準に該当した会社を取引所が強制的に上場廃止にする場合と、上場会社が取引所に申請して自主的に上場廃止になる場合があります。
上場廃止が決定しても一定期間は取引できる
上場廃止が決まっても、通常、一定期間はそのまま取引が可能です。すぐに取引できなくなるわけではないため、冷静に対処しましょう。
上場廃止基準に該当するか、上場会社からの上場廃止申請によって上場廃止が決まった銘柄は、「整理銘柄」に指定されます。
これは上場廃止になると自由な取引が難しくなるため、投資家に注意を促すために設けられている仕組みです。整理銘柄に指定された銘柄は、原則として指定から1ヵ月間は取引が継続され、その後で上場廃止になります。投資家は、この間に保有株を売却するなどの対応を取れます。
上場廃止が決まってはいないものの、上場廃止基準に該当するおそれがある銘柄は、「監理銘柄」に指定されます。これは、上場廃止になる可能性が高いことを投資家に周知し、注意を促すための仕組みです。
監理銘柄に指定された後、上場廃止基準に該当する可能性がなくなれば指定は解除されます。上場廃止が決まった場合は、整理銘柄に指定され、原則その1ヵ月後に上場廃止になります。
上場廃止で株が紙切れになるとは?
株式が上場廃止になると、「紙切れになる」といった表現がされることがあります。これは、かつて上場会社でも紙の株券が発行されていた名残です。
経営破綻が原因で株式が上場廃止になった場合、基本的に株式(株券)は価値を失います。これを、文字通り「(株券が)紙切れになる」と表現したのです。なお、上場会社の株券は2009年に廃止され、現在はすべて電子データで管理されているため、有効な紙の株券は存在しません。
なぜ上場廃止になるのか?
上場廃止になる理由は、上場廃止基準に該当した場合と、経営戦略により上場廃止を選択する場合の大きく2つに分けられます。
上場廃止の理由によって、その後の明暗は大きく分かれるため、保有株の上場廃止が決まったときは理由を確認して、対応しましょう。
上場廃止基準に該当した場合(強制的な上場廃止)
上場維持基準を下回った、破産手続きの開始など、金融商品取引所の定める上場廃止基準に該当した場合は上場廃止になります。このようなネガティブな理由による上場廃止では、通常、株価は下落します。
東京証券取引所などを傘下に持つ日本取引所グループでは、次のような上場廃止基準を定めています。
上場廃止基準(日本取引所グループ)
項目 | 上場廃止基準 |
上場維持基準への不適合 | 上場維持基準に適合しなくなったときから原則1年以内(※1)に上場維持基準に適合しなかったとき |
有価証券報告書等の提出遅延 | 監査報告書または四半期レビュー報告書を添付した有価証券報告書または、四半期報告書を法定提出期限経過後1ヵ月以内に提出しない場合(提出期限延長の承認を得た場合は、承認を得た期間の経過後8日目までに提出しない場合) |
虚偽記載または不適正意見等 | 次のいずれかに該当し、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であると取引所が認めるとき ・有価証券報告書等に虚偽記載を行った場合 ・監査報告書または四半期レビュー報告書に「不適正意見」または「意見の表明をしない」旨等が記載された場合 |
特別注意銘柄等 | 次のいずれかに該当したとき ・特別注意銘柄(※2)の指定要件に該当するにもかかわらず、内部監理体制等が適切に整備される、または適切に運用される見込みがないと取引所が認める場合 ・特別注意銘柄の指定後に、内部監理体制等が適切に整備される、または適切に運用される見込みがなくなったと取引所が認める場合 ・特別注意銘柄へ指定されてから1年経過後の審査までに、内部監理体制等が適切に整備されていると認められない場合や、その後に迎える事業年度の末日以降の審査までに、内部管理体制等が適切に運用されていると認められない場合 ・特別注意銘柄への指定後に、内部管理体制等が適切に整備され、運用されていると認めたものの、経過観察の対象として特別注意銘柄の指定を継続された後、内部管理体制等が再び適切に整備され運用されていると認められない状態となった場合 |
上場規約違反等 | 次のいずれかに該当したとき ・上場契約に関する重大な違反を行った場合 ・新規上場申請等に係る宣誓事項について重大な違反を行った場合 ・上場契約の当事者でなくなることとなった場合 ・新規上場の申請に係る宣誓書において宣誓した事項について違反を行い、新規上場に係る基準に適合していなかったと取引所が認めた場合において、1年以内に新規上場審査に準じた上場適格性の審査に適合しなかったとき |
その他 | ・銀行取引の停止 ・破産手続 ・再生手続・更生手続 ・事業活動の停止 ・不適当な合併等支配株主との取引の健全性の毀損(第三者割当により支配株主が異動した場合) ・株式事務代行機関への不委託 ・株式の譲渡制限 ・完全子会社化 ・指定振替機関における取扱いの対象外 ・株主の権利の不当な制限 ・全部取得 ・株式等売渡請求による取得 ・株式併合 ・反社会的勢力の関与 ・その他(公益またはは投資者保護) |
※出典:日本取引所グループ|上場廃止基準の概要|上場廃止基準(各市場共通)をもとに作成
※1:上場維持基準の売買高の場合は6ヵ月、流通株式比率、純資産の額については例外規定あり
※2:有価証券報告書等の虚偽記載など上場廃止基準に抵触するおそれがあったものの、金融商品取引所の審査において上場廃止に至らなかった銘柄のうち、内部監理体制等を改善する必要性が高いと取引所が判断し、投資者に注意喚起を図るために指定する銘柄のこと
2023年には61社が上場廃止になっていますが、経営戦略ではない理由での上場廃止は3社、うち、破産によるものはありません(2022年には1件)。上場廃止というと、破産のようなネガティブな理由をイメージする方も多いかもしれませんが、経営戦略によって自主的に上場廃止を選択したケースがほとんどを占めています。
2023年、東証上場銘柄のうち経営戦略によらない理由で上場廃止になったのは次のような銘柄です。
上場廃止日 | 銘柄名 | コード | 市場区分 | 上場廃止理由 |
2023/12/30 | ルーデン・ホールディングス | 1400 | グロース | 内部管理体制確認書の提出前で、内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと当取引所が認める場合 |
2023/08/04 | ディー・ディー・エス | 3782 | グロース | 内部管理体制確認書の提出前で、内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと当取引所が認める場合 |
2023/04/30 | アジア開発キャピタル | 9318 | スタンダード | 内部管理体制確認書が再提出され、内部管理体制等について改善がなされなかったと当取引所が認める場合 |
経営戦略により上場廃止を選択した場合(自主的な上場廃止)
上場廃止の多くを占めているのが、完全子会社化や合併、MBO(Management Buyout:経営陣による買収)による非上場化など、経営戦略によって自主的に上場廃止を選択するケースです。
上場廃止によって、外部の投資家に株式を取得されて経営に関与されるリスクがなくなります。また、短期的な利益を求める株主の評価を気にせずに済むため、中長期的な視点で企業の成長につながる経営がしやすくなる点もメリットです。
経営戦略により上場廃止になる場合の例
完全子会社化 | 上場会社が株式交換または株式移転により他の会社の完全子会社となる場合 |
全部取得 | 上場会社が自社の株式の全部を取得する場合(MBO、敵対的買収の回避など) |
株式等売渡請求による取得 | 総株主の議決権の10分の9️以上を保有する「特別支配株主」が、他の株主が保有する株式を強制的に取得する場合 |
株式併合 | 上場会社が特定の者以外の株主が所有するすべての株式を1株に満たない端数となる割合で株式併合を行う場合 |
経営戦略による上場廃止では、会社(株式)の価値がなくなるわけではなく、上場廃止までに株価が上昇して儲かるケースもあります。
上場廃止で儲かるとはどういうこと?
上場廃止で儲かる可能性があるのは、自社による株式の取得や他の会社による買収に伴い、TOB(株式公開買付)が行われる場合です。
TOBでプレミアム価格に
TOB(Take Over Bid)とは、買付期間、買付価格、買付予定株数などを公表し、取引所を介さず不特定多数の株主から直接株式を買い付けることをいいます。
買付者はなるべく既存株主が不利にならないよう、また他の株主が保有する株式を売ってもらえるよう、通常は市場価格にプレミアムを上乗せした買付価格を設定します。TOBの対象となった株式を保有していれば、このプレミアム分だけ儲かるというわけです。
実際の事例をチェック
上場廃止によって株価がどうなるのか、実際の事例でみてみましょう。
プレナスの場合(経営戦略により上場廃止を選択した例)
「プレナス(9945)」は、持ち帰り弁当店の「ほっともっと」や定食屋「やよい軒」などを展開している会社です。2022年10月に創業家が全株式を取得するMBOを目的としてTOBを実施し、2023年2月24日付で上場廃止になりました。
プレナスの株価推移(2003年3️月〜2023年2️月)
公開買付価格は1株あたり2,640円。直前(2022年10月14日)の終値1,920円に38%のプレミアムが上乗せされました。
買付期間初日の17日の株価はストップ高の2,320円、翌18日には公開買付価格にさや寄せする形で2,635円を付けます。その後の株価は公開買付価格付近で推移し、2023年2月22日に2,634円で最後の取引を終えました。
公開買付価格は2007年3月以降に付けた高値を上回る水準です。取得時期や取得価格にもよりますが、TOB公表前にプレナス株を保有した株主は、TOBに応じるか、市場で売却して儲かった可能性が高いでしょう。
テラの場合(上場廃止基準に該当した例)
「テラ(2191)」は、がん免疫細胞療法を手がける東大発のスタートアップとして注目され、2009年に当時のジャスダック・ネオ市場に上場を果たしたバイオベンチャーです。2022年8月5日に東京地裁から破産手続開始決定を受けて、2023年8️月23日付で上場廃止になっています。
テラの株価推移(2018年9️月〜2022年8月)
テラの株価は、長い間低迷していましたが、2020年4️月に新型コロナウイルスの治療薬の開発を発表し、6月9️日には一時2,175円まで急騰しました。
しかし、治療薬開発に対する疑惑が相次ぎ、12月28日にはピーク時の10分の1まで下落します。資金調達に関する法令違反や有価証券報告書における重要事項の不記載などガバナンス面の不祥事も続いて信用は失墜、破産に至りました。破産手続開始決定を受けて株価は下落、最後は2円で取引を終えています。
破産が理由で上場廃止が決まった場合、基本的に株式の価値はなくなるため、上場廃止までに株価は下落していきます。
上場廃止で気になるポイント
上場廃止になった株や会社はどうなってしまうのか、上場廃止となった後の対応とあわせて確認しておきましょう。
上場廃止後の残高はどうなる?
上場廃止になった株式の証券会社での取扱いは、電子化された上場株式の管理を行う証券保管振替機構(以下、機構)で取扱いが継続されるかどうかで異なります。
上場廃止になった株式は、原則として取引所における最終売買決済日の翌営業日に機構での取扱いも廃止されます。機構での取扱いが継続されるのは、次の4つの条件をすべて満たす場合です。
【上場廃止銘柄の機構での取扱い継続条件】
- 「会社の解散(合併による解散を除く)」「民事再生手続開始の申立て」「会社更生手続開始の申立て」のいずれかの理由による上場廃止であること
- 機構の取扱継続期間において、機構が定める業務処理の方法に従うことを発行社が再度確認していること
- 機構の取扱継続期間において、発行者と指定株主名簿管理人との契約が継続していること
- 機構の取扱継続期間において、発行者が機構の定める手数料を支払うこと
機構での取り扱いが廃止された株式
機構での取扱いが廃止された株式は、証券会社での管理もできなくなります。株式は証券会社の口座から払い出され、預かり残高からその株式の残高はなくなります。
上場廃止になっただけでは、株式の価値や株主としての権利は失われないため、その後は発行会社の株主名簿で管理されます。
機構での取り扱いが継続された株式
機構での取扱いが継続された株式は、証券会社での管理が継続されます。上場廃止時に特定口座で計算対象残高として管理されていた場合は、「特定管理口座」、一般口座で管理されていた場合は、そのまま一般口座で管理されます。
上場廃止になった場合、損益通算は可能か?
通常の上場株式の取引では、損失を他の上場株式等の取引で生じた利益と相殺して損益を計算する、「損益通算」が可能です。
上場廃止になった株式の場合は、機構での取扱いが継続され、特定管理口座で管理されているものに限り、次のいずれかに該当して無価値になった場合に「みなし譲渡損失(無価値化損失)」が認められ、損益通算が可能です。
【みなし譲渡損失の特例の適用を受けられる無価値化の条件(無価値化事由)】
- 清算結了(合併を除く)
- 破産手続開始の決定
- 会社更生計画に基づく100%減資
- 民事更生計画に基づく100%減資
- 預金保険法の規定による特別危機管理開始の決定(金融機関の国有化)
損益通算には、みなし譲渡損失(無価値化損失)が認められた場合に証券会社から発行される「価値喪失株式に係る証明書」を添付して、確定申告が必要です。
次の場合には、みなし譲渡損失は認められず、損益通算はできません。
- 上場廃止時に機構での取扱いが廃止された場合(特定管理口座で管理されていない場合)
- 機構での取扱いが廃止された後に無価値化事由が生じた場合
- 特定管理口座から株式が払い出された後に無価値化事由が生じた場合
- 売買最終日時点(※)で特定口座に保護預かりされていない場合(※上場廃止日前に株式が無価値化した場合は、株式が無価値化した時点)
- 売買最終日時点で特定管理口座が開設されていない場合
なお、上場廃止前に市場で売却した場合は、通常の取引と同じように損益通算ができます。
上場廃止になった場合、会社のデメリットは?
経営戦略として上場廃止を選択した場合でも、会社には次のようなデメリットが考えられます。
- 信用力やブランドイメージが低下する
- 株式市場を通じた資金調達ができなくなる
上場廃止によって「上場企業」のブランドがなくなれば、顧客や取引先からのイメージ低下や売上の減少につながるおそれがあります。信用力が低下して金融機関から融資を受けにくくなる、株式市場を通じた資金調達ができなくなるなど、資金繰りへの影響も懸念されます。
上場廃止になった場合、その企業で働く社員はどうなる?
倒産が理由の上場廃止でなければ事業は継続されます。そのため、すぐに社員が失業するわけではありません。
とはいえ、経営方針などが変わり、配置転換や転勤によって勤務環境や仕事内容が変わったり、リストラや早期退職などの対象になったりする可能性はあります。
再上場することはできる?
あらためて上場審査をクリアすれば、再上場することが可能です。なお、再上場の審査では、新規上場時の基準のほかに、審査項目が追加される場合があります。
たとえばMBOにより上場廃止となった後に再上場する場合、日本取引所グループでは、投資家保護の観点から、通常の上場審査に加え、次のような項目が審査されます。
【MBO後の再上場審査における追加審査項目】
- MBOと再上場の関連性が高くないか
(主導者(経営者・株主)の同一性・連続性、MBOから再上場までの期間の長短などを確認) - プレミアム配分の適切性・MBO実施の合理性が低くないか
(MBO時の手続きのMBO指針への準拠性、MBO時の計画とMBO後の進捗とのかい離についての説明が十分に説得力のあるものであるかなどを確認)
参照元:日本取引所グループ|2024 新規上場ガイドブック(プライム市場編)
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銘柄分析ができるようになる
企業の業績や財務状態など、いわゆる「ファンダメンタルズ」から、成長性や安定性などを分析できるようになりましょう。
ファンダメンタルズ分析を身につければ、成長が期待できる会社を探し出しやすくなるほか、上場廃止基準に該当して紙切れになってしまうような「リスクの高い」会社を避けるのにも役立ちます。
情報収集に努める
株式投資では、投資先の分析・選択に情報収集が欠かせません。四季報などの書籍や新聞、企業の決算資料・プレスリリース、証券会社などのレポート、EDINETやTDnetなどの情報開示サービスを活用して日頃から情報収集に努めましょう。
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おわりに
上場廃止というとネガティブな印象を持たれがちですが、経営戦略として実施される場合は株価が上昇し、既存の株主に有利に働くこともあります。
上場廃止になってもすぐに取引できなくなるわけではないので、理由をしっかり把握して、適切に対処できるようにしておきましょう。