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退職金の確定申告は不要?還付が受けられるケースとは

退職金の確定申告は不要?還付が受けられるケースとは
セゾンのくらし大研究 編集部

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定年退職の時期が近づくと、退職金の受け取りが楽しみな方は多いでしょう。一方で、退職金は高額になるケースが多いため、「多額の税金を取られるのでは」と心配する方も少なくありません。

しかし、退職金は税制面で大幅に優遇されており、通常の給与と比べて多くの所得控除が適用されます。そのため、支給額に対し、差し引かれる税金の割合が小さくなります。、一方で、制度や確定申告との関係を十分に理解していないと、優遇措置を適切に受けられず、数十万円余計に税金を負担する可能性もあるため注意が必要です。

この記事では、退職金と確定申告の関係を詳しく解説します。「無駄な税金を払いたくない」「退職金で豊かな老後を過ごしたい」とお考えの方は、ぜひ参考にしてください。

退職金の確定申告は原則不要!

退職金の確定申告は原則不要!

退職金の確定申告は、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出すれば、原則として必要ありません。退職金は「分離課税」が採用されているため、書類提出の時点で課税関係は終了し、給与所得や事業所得などとの合算は不要です。

参照元:退職金と税|国税庁

「退職所得の受給に関する申告書」には、退職者や勤務先の情報を記入します。それ以外の記入事項は以下の表を参考にしてください。

記載欄記載対象者
A欄一律で記入
B欄同じ年に他からも退職金を受け取っている方
C欄前年以前から4年以内に退職金を受け取っている方
D欄A欄とB欄の勤続期間に、以前の退職手当と通算している方
E欄B欄もしくはC欄で退職手当がある方

提出先は勤務先や共済組合などの退職金の支払者です。退職前の提出が一般的で、企業は申告書を基に源泉徴収額を計算してから退職金を支給します。

なお、同じ年に他の勤務先から退職手当を受け取った場合は「退職所得の源泉徴収票」の添付が必要です。さらに、障害者に該当する場合は障害者手帳のコピーを、生活保護を受ける場合は生活保護決定通知書の写しを添付する必要があります。

退職金にかかる税金の計算方法

退職金にかかる税金の計算方法

退職金には以下3種類の税金がかかります。

  • 所得税
  • 復興特別所得税
  • 住民税

税金を計算する際は、まず退職所得を以下の式で算出します。

  • 退職所得 =(収入金額 − 退職所得控除額)÷ 2

退職所得控除額は勤続年数により異なり、以下の方法で計算します。

勤続年数控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数−20年)

なお、勤続年数が1年に満たない部分は1年に切り上げます。例えば、20年4ヵ月勤務した場合は勤続年数を21年として計算してください。

退職所得の計算後、それぞれの税率をかけて税額を算出します。

例:退職金2,000万円・勤続年数35年の場合

  1. 退職所得控除額の計算
    ・退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(35年(勤続年数)− 20年)= 1,850万円
  2. 課税退職所得金額の計算
    ・課税退職所得金額 =(2,000万円 − 1,850万円)÷ 2 = 75万円
  3. 所得税の計算
    所得税は累進課税制度が採用されているため、課税所得により税率や控除額が異なります。詳しくは国税庁のホームページを参考にしてください。
    ・所得税 = 75万円 × 5%(所得税率)= 37,500円
  4. 復興特別所得税の計算
    復興特別所得税は所得税額に税率の2.1%をかけて算出します。
    ・復興特別所得税 = 37,500円(所得税額)× 2.1%(税率)= 787円(1円未満の端数切り捨て)
  5. 住民税の計算
    住民税は所得割と均等割で構成されます。
    ・所得割:課税所得 × 10%
    ・均等割:5,000円
    ・住民税 = 75万円 × 10%(所得割)+ 5,000円(均等割)= 80,000円
  6. 税金の合計額
    ・合計税額 = 37,500円 + 787円 + 80,000円 = 118,287円

参照元:国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」「所得税の税率」、総務省「個人住民税

退職金の確定申告が不要でもすべきケース

退職金の確定申告で還付が受けられるケースがある!

退職金は原則として確定申告の必要はありませんが、以下のケースでは申告すると税額を抑えられる可能性があります。

  • 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
  • 年末調整を受けずに退職した
  • 確定申告が必要な控除を適用したい
  • 事業や不動産などの所得で赤字が出た

上記に該当する方は、確定申告を検討してみてください。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない

「退職所得の受給に関する申告書」を未提出の場合、退職金から一律20.42%の所得税(うち0.42%は復興特別所得税)を徴収されます。このため、提出時よりも多く税金を納める可能性があります。

  • 例:退職金2,000万円・勤続年数35年の場合
  • 申告書を提出した場合
    • 退職所得控除額=800万円+70万円×(35年−20年)=1,850万円
    • 課税退職所得金額=2,000万円−1,850万円÷2=75万円
    • 所得税額=75万円×5%(所得税率)=37,500円
  • 申告書を未提出の場合
    • 所得税額=2,000万円(退職金)×20.42%=408.4万円

申告書が未提出の場合、税負担が大きくなるため、確定申告を行って過払い分の還付を受けることをおすすめします。

参照元:国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)

年末調整を受けずに退職した

年末調整を受けずに退職した場合は、確定申告を行うほうがよいでしょう。

年末調整とは、1年間の所得税額を確定する手続きです。毎月源泉徴収される所得税は概算額のため、年末調整で正確な税額を算出します。しかし、1年の途中で退職した場合は年末調整を受けていないため、所得税を多めに納めているケースが多いです。確定申告を行えば、正確な税額を算出し、過払い分の還付を受けられます。

また、年末調整を受けていない場合、以下の控除が適用されていない可能性があります。

控除名主な適用条件控除額
社会保険料控除本人や家族の社会保険料を支払ったとき支払った保険料全額
小規模企業共済等掛金控除小規模企業共済やIDeCoなどの掛金を支払ったとき掛金全額
生命保険料控除生命保険や医療保険の掛金を支払ったとき最大12万円(各種類最大4万円:一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除)
地震保険料控除地震保険の掛金を支払ったとき最大5万円
ひとり親控除ひとりで子どもを育てている親35万円
寡婦控除配偶者とと離婚や死別し、再婚していない女性27万円
障害者控除本人や家族が障害者である場合27万円〜75万円
配偶者控除・配偶者特別控除配偶者の所得が一定額以下の場合最大48万円(控除額は配偶者の所得により異なる)
扶養控除16歳以上の親族を扶養している場合38万円〜63万円
基礎控除すべての納税者48万円

控除にはそれぞれ適用条件があるため、申請前に確認してください。

確定申告が必要な控除を適用したい

年末調整を受けてから退職した場合でも、以下の控除を適用する場合は確定申告が必要です。

控除名主な適用条件控除額
医療費控除1年間の医療費が10万円を超えた場合(支払った医療費 − 保険金等で補填された金額)− 10万円(所得が200万円未満の場合は所得金額の5%)
雑損控除災害や盗難などで資産が損害を受けた場合以下のいずれか大きい方
・(損失額 + 災害関連支出額 − 保険金等) − (総所得金額等) × 10%
・(災害関連支出額 − 保険金等)− 5万円
寄附金控除特定の団体に寄付したときやふるさと納税でワンストップ特例が利用できなかった場合以下のいずれか少ない金額 − 2,000円
・特定寄附金の合計額
・総所得金額の40%相当額

確定申告前に適用条件の確認を忘れないようにしてください。

事業や不動産などの所得で赤字が出た

会社員以外の収入で損失が出た場合は「損益通算」により税負担を抑えられます。損益通算とは、収益と損失を相殺して課税所得を減額する仕組みで、以下の所得が対象です。

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得

例:給与収入500万円・事業の損失100万円の場合

  • 損益通算しなかった場合
    • 課税所得 = 500万円(給与収入)− 144万円(給与所得控除:収入金額 × 20% + 44万円)− 48万円(基礎控除)= 308万円
    • 所得税額 = 308万円 × 10% − 97,500円 = 210,500円
  • 損益通算した場合
    • 課税所得 = 500万円 − 144万円 − 48万円 − 100万円(損失)= 208万円
    • 所得税額 = 208万円 × 10% − 97,500円 = 110,500円

なお、損益通算後も損失が残る場合は、最長で3年間繰越可能です。

参照元:国税庁「損益通算」「所得税の税率」「給与所得控除

退職金の受け取り方別の税額計算方法

死亡退職金を受け取る場合は確定申告が必要?

退職金は一時金として受け取る以外にも、さまざまな受け取り方があります。

  • 年金形式で受け取る場合
  • 死亡退職金として受け取る場合

上記の場合は税金の計算方法が変わるため、該当する方は確認してください。

年金形式で受け取る場合

退職金を年金形式で受け取る場合は「雑所得」となり、退職所得控除は適用されません。

退職年金は公的年金と合算して所得税を計算します。課税所得は国税庁の速算表より次の式で求められます。

例:公的年金額:360万円、企業年金額:360万円の場合

  • 課税所得 = 720万円 × 0.85 − 68.5万円 = 543.5万円

この金額から各種控除を差し引いて、所得税額を算出します。

なお、以下の条件すべてに該当する場合は確定申告の必要はありません。

  • 公的年金等の収入額が400万円以下
  • 公的年金等に係る雑所得以外の所得が20万円以下

参照元:国税庁「公的年金等の課税関係

死亡退職金として受け取る場合

退職者が亡くなった場合、死亡退職金として遺族が受け取るケースがあります。その場合、退職金は所得税の対象から外れ、確定申告は不要です。ただし、「みなし相続財産」と なり相続税の課税対象になります。なお、みなし相続財産になる退職金は以下のとおりです。

  • 支給が本人の死亡後3年以内に確定したもの
  • 生前に退職した場合で、支給が本人の死亡後3年以内に確定したもの

相続税の課税対象となる金額は、死亡退職金から非課税額を差し引いた額です。非課税額は以下の式で算出します。

非課税額 = 500万円 × 法定相続人の数

配偶者と子どもは必ず法定相続人になりますが、以下に該当する場合は他の方も対象です。

  • 子どもが亡くなった場合は孫
  • 子どもがいない場合は親
  • 親が亡くなった場合は祖父母
  • 子ども・親・祖父母がいない場合は兄弟
  • 兄弟が亡くなった場合は甥・姪
  • 例:死亡退職金2,000万円・家族:妻・子ども2人の場合
  • 非課税額 = 500万円 × 3(法定相続人の数)= 1,500万円
  • 課税対象額 = 2,000万円 − 1,500万円 = 500万円

なお、死後3年経過して支給された場合は、遺族の一時所得とみなされ所得税の課税対象になるため、確定申告が必要です。

参照元:No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金|国税庁死亡による退職の場合|国税庁

確定申告の流れ

確定申告を申請する際の流れ

確定申告は以下の流れで行います。

  • 必要書類を準備する
  • 申告書を作成する
  • 書類を税務署に提出する

スムーズに進めるために、事前の準備をしっかり行いましょう。

1:必要書類を準備する

確定申告をする際は、必要書類の準備から始めましょう。

書類は国税庁のホームページや税務署、確定申告会場などで入手できます。他に必要なものは以下を参考にしてください。

<確定申告の際の必要書類>

必要書類備考
確定申告書電子申告の場合は用紙不要
収支内訳書もしくは青色申告決算書事業所得や不動産所得がある場合
書類以外の必要なもの金融機関の口座情報還付金の受取先
マイナンバーカードまたは通知カードと本人確認書類確定申告書に要記載
必要があれば準備するもの生命保険等の控除証明書や寄附金受領証明書など所得控除のために必要
源泉徴収票給与所得がある方

2:申告書を作成する

確定申告書は以下の方法で作成できます。

  • 紙面に手書きで記入する
    電卓や表計算ソフトを使って計算しながら記入します。
  • 確定申告ソフトを使う
    必要項目を入力するだけで、簡単に申告書を作成できます。無料・有料のソフトウェアが各社から提供されています。
  • 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使う
    国税庁が提供するオンラインサービスで、質問に答えていくだけで簡単に申告書を作成できます。手書きの流れに沿って計算・集計も可能です。
  • 税理士などの専門家に依頼する
    費用は数万円〜数十万円かかる場合がありますが、専門的なアドバイスを受けられます。

3:書類を税務署に提出する

書類が用意できたら、提出期間内に税務署へ提出して手続きは完了です。期間は通常2月16日から3月15日までで、提出方法は以下のとおりです。

  • 直接持参する
    税務署の営業時間内なら窓口に、時間外なら時間外収受箱に提出します。記入内容のチェックはしてもらえませんが、提出書類の確認は行われるため、確定申告が初めての場合でも安心です。
    ただし、確定申告の時期は税務署が混雑しやすく、手続きに時間がかかることもあります。特に締め切りが近づくと混雑が激しくなるため、早めの提出がおすすめです。
  • 郵送する
    確定申告書は、納税地を管轄する税務署へ郵送で提出することも可能です。郵送する場合は、切手を貼った返信用封筒と控えの申告書を同封してください。
  • e-Taxで提出する
    「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」を利用してインターネット上で提出します。e-Taxは通常1月上旬から申告できるため、年末に退職金を受け取った場合はすぐに確定申告できます。

確定申告を忘れた!しないとどうなるの?

確定申告を忘れた!しないとどうなるの?

確定申告を忘れた場合、状況により対処法が異なります。

  • 納める税金があるときは延滞税などがかかる
  • 還付がある場合はさかのぼって申請できる

申告忘れに気が付いたら、早急に対応するようにしましょう。

納める税金があるときは延滞税などがかかる

確定申告を忘れて納税が遅れると、延滞税がかかる可能性があります。

令和7年の延滞税率は以下のとおりです。

  • 納期限の翌日から2ヵ月を経過する日まで:2.4%
  • 2ヵ月経過以降:8.7%

余計な税負担を増やさないためにも、確定申告と納税は期限内に済ませましょう。

参照元:国税庁「延滞税の計算方法」「延滞税の割合

還付がある場合はさかのぼって申請できる

確定申告で税金の還付を受ける場合は、5年前までさかのぼって申請できます。還付申告は通常の確定申告と同じ書類です。申告後1ヵ月程度で還付金が入金されます。

退職後の生活で気をつけるべきポイント

退職後の生活で気をつけるべきポイント

退職後の生活で注意すべき点を紹介します。

  • 退職翌年の住民税は負担が大きい
  • 年金の支給開始時期によって支給額が変わる

特に、年金は老後の生活を支える大きな柱になるため、しっかりと確認しておきましょう。

退職翌年の住民税は負担が大きい

給与所得にかかる住民税は、翌年6月以降に納税する必要があります。また、退職金に課せられる住民税も退職の翌年となります。

退職後は収入が減少するケースが多いため、納税を見据えた資金計画が重要です。

年金の支給開始時期によって支給額が変わる

生活に余裕がある場合は、年金の支給を遅らせることで受給額を増やせます。

年金は65歳を基準に、1ヵ月支給を遅らせるごとに0.7%増額されます。年齢ごとの主な増額率は以下のとおりです。

年齢増額率年齢増額率
66歳8.4%71歳50.4%
67歳16.8%72歳58.8%
68歳25.2%73歳67.2%
69歳33.6%74歳75.6%
70歳42.0%75歳84.0%

なお、基礎年金(国民年金)と厚生年金のどちらか一方のみの繰り下げも可能です。

参照元:日本年金機構「年金の繰下げ受給

おわりに

退職金の確定申告は原則必要ありませんが、以下に該当する場合は税額を抑えられる可能性があるため、申告したほうがよいでしょう。

  • 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない
  • 年末調整を受けずに退職した
  • 医療費控除や雑損控除などを適用したい
  • 事業所得や不動産所得などで損失が出た

また、死亡退職金として受け取る場合や年金で受給する場合は、税金の計算方法が変わるため、事前に確認が必要です。

退職金に関する税制度への理解を深め、老後の資産を有意義に活用してください。

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