キャリアアップや環境を変化させるために40代・50代で早期退職を考えている方も増えてきている一方で、いざ退職となったとき、手続きの流れや詳しい内容については知らないという方も多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは退職手続きの流れや、勤務先に返却したり受け取ったりするものなどをまとめています。参考にしてみてください。
1.退職手続きの流れを確認
退職手続きの大まかな流れは、以下のとおりです。それぞれの項目の詳細と押さえておきたいポイントについてまとめていきます。
【退職手続きの流れ】
- 退職する旨を勤務先に伝える
- 退職願を作成、提出する
- 引き継ぎ、挨拶まわりを行う
- 最終出社
- 保険などの手続きを行う
1-1.退職する旨を勤務先に伝える
退職したいという意志を勤務先に伝えるのが第1段階です。期間が定められていない正社員の形での雇用契約の場合、民法上は2週間前までの申告で良いとされているものの、退職の意志は1〜3ヵ月前までに伝えるケースが多いとされます。
ただし、申告時期について就業規則に決まりがある場合は、それに従いましょう。
後任者への業務の引き継ぎをしっかりと行って円満退社するためにも、早めに伝えておくのがベストでしょう。
同僚や先輩に退職について相談しておきたい方も多いと思います。しかし本人以外から上司に退職の意志が伝わったなどのトラブルが起きる恐れがあるため、まずは直属の上司に退職の意向を伝えるようにしましょう。
ただ、退職の意志を伝えても引き止められる場合もあるかもしれません。そのような場合でも、労働者には退職の自由があり、原則として申告から2週間で雇用契約が終了すると民法627条に定められているので、意志を押し通して問題ありません。
1-2.退職願を作成、提出する
続いて退職の2週間〜1ヵ月前までに退職願を作成し、提出します。提出しなくても法的に問題はないものの、勤務先によっては就業規則で提出が定められていることもあるため、上司などに確認すると安心です。
退職願はすべて手書きでもかまいませんが、Webサイトでテンプレートをダウンロードして活用するのもひとつの手です。
退職を勤務先に願い出るための書類である退職願は、退職理由や退職希望日、提出する年月日などを記載して提出します。よく混同されるものとして退職届や辞表が挙げられますが、退職届は退職が決まってから勤務先に届け出るためのものです。
また辞表は社長や取締役といった雇用関係にない方が役職を辞するために届け出るものなので、退職したい意志を示す場合は退職願を提出しましょう。
1-3.引継ぎ、挨拶まわりを行う
退職願が受理されたら、退職前までに後任者に業務内容や顧客リストなどを引き継いでいきます。
最後に出社する日から逆算し、スケジュールを立てて引き継いでいくとスムーズです。後任者に向けて、引き継ぎ資料をまとめておくと良いでしょう。後任者がなかなか決まらない場合もあるので、引継ぎ資料は、誰が見ても分かりやすい資料を作っておくと安心です。
引き継ぎと同時に取引先との関わりがある場合には、挨拶まわりも欠かせません。また挨拶まわりのときには後任者をたてて、取引先に紹介すると良いでしょう。
なお、企業によっては退職することを社外に伝えるのを良しとしないこともあるため、勤務先の意向に沿って行いましょう。
1-4.最終出社
次は最終出社日です。
最終出社日にはメールや対面で退職の挨拶をするほか、備品の返却や必要書類を受け取りましょう。一部の書類では勤務先に申請が必要なものもあるため、事前に確認しましょう。
返却するものや受け取る書類などは後ほど詳しく説明していきます。返却するものや受け取るものに、漏れがないようにするためにチェックリストを作成しておくと分かりやすいでしょう。
1-5.保険などの手続きを行う
勤務先から受け取った書類をもとに、保険や年金、税金などの各種手続きを行う必要があります。手続きにはそれぞれ期限があるので、忘れないよう早めに対応しましょう。
手続きの詳しい内容に関しても後ほどお伝えします。なお、次の就職先が決まっているかどうかで手続きの内容が異なってくるため、注意しましょう。
2.退職時に勤務先に返すもの【4項目】
退職時に勤務先に返却するものは、大まかに分けると以下の4項目です。それぞれ具体例を挙げながら詳しくご紹介します。
【勤務先に返却するもの】
- 健康保険被保険者証
- 身分証明書
- 会社支給のもの
- 資料、データなど
2-1.健康保険被保険者証(保険証)
勤務先で支給されていた保険証は配偶者や子どもなどの扶養家族分も含めて返却する必要があり、退社とともに無効になります。
次の保険証が発行されるまでは受診の際は窓口負担が全額負担になるため、病院受診の際には現金を多めに持っておくと安心です。
2-2.身分証明書
その企業の社員であることが証明できるようなものはすべて返却する必要があります。返却を忘れてしまうと問題に発展してしまう場合もあるため、必ず返却するようにしましょう。
【例】
- 社員証
- 名刺
- カードキー
- 社章 など
2-3.会社支給のもの
会社支給の備品や経費で購入したものは、筆記用具など細かいものもすべて返却します。
会社支給というわけではありませんが、取引先や営業先などで受け取った名刺も顧客情報になるので返却しなければなりません。
【例】
- パソコン、タブレット
- 携帯電話
- 顧客情報(取引先の名刺を含む)
- 通勤定期券(費用が会社負担のもの)
- 筆記用具(費用が会社負担のもの)
- 書籍等(費用が会社負担のもの)
- ロッカーのカギ
- 制服・作業着 など
2-4.資料、マニュアルなど
作成した書類やデータなど、業務に関わるものはすべて返却します。とくに機密情報が記載された書類などは社外に持ち出したことで情報漏洩などのトラブルになりかねないため、確実に返却しましょう。
【例】
- 資料、書類
- 契約書
- マニュアル
- データ、パスワード
3.退職時に勤務先から受け取るもの【5項目】
退職時に勤務先から受け取るものは、主に以下の5項目になります。退職日に受け取れるものばかりではなく、後日交付される書類もあるので注意しましょう。それでは詳細について見ていきましょう。
【受け取るもの】 ★重要★
- 雇用保険被保険者離職票(離職票)
- 雇用保険被保険者証
- 退職証明書
- 源泉徴収票
- 年金手帳
3-1.雇用保険被保険者離職票(離職票)
離職票とは、離職したことを証明する書類であり、退職した方がハローワークで求職の申し込み、失業給付の受給申請を行うために欠かせない必要な書類です。
離職票は、ハローワークが発行します。なお、前職の退職からすぐに次の企業に入社するため失業給付を受給しない場合には、離職票は必要ありません。
離職票は退職日から10日以内に郵送されます。2週間以上経っても離職票が届かない際には、失業手当の申請に影響が出る可能性があるため、いつもらえるか確認すると良いでしょう。
管轄のハローワークは、お住まいの住所地により異なります。東京都のハローワークは下記より確認いただけます。
3-2.雇用保険被保険者証
雇用保険加入時に発行される書類である雇用保険被保険者証は、失業給付・教育訓練給付金の受給や再就職の際に必要なものです。
紛失を避けるために企業が保管していることも多いので、その場合は忘れずに受け取りましょう。
返却されていて紛失してしまっているときには、雇用保険被保険者番号が分かればハローワークで再発行できます。
雇用保険被保険者番号は勤務先で聞く、または離職票を持っている場合には離職票に記載されているので、そこで確認しましょう。
3-3.退職証明書
退職証明書とは勤めていた企業から退職したという事実を証明するもので、企業に申請して発行してもらう書類です。
保険や年金、失業給付の手続きに使えるほか、退職の事実確認のために転職先の企業が退職証明書の提出を求めるケースもあります。
退職証明書の内容は企業によって異なるので、転職先から記載項目に指定がある場合は、勤務先に記載が必要な項目を伝え記入してもらいましょう。
離職票も内容としては似ていますが、退職証明書は離職票よりも早く発行されるため、手続きの際に代わりの書類として使用されることが多いようです。
また離職票は公的文書で発行が義務付けられている一方、退職証明書は私的文書で発行に義務はありません。
3-4.源泉徴収票
源泉徴収票は、年間の給与額と支払った税額が記載された書類で、退職後1ヵ月以内に交付が義務付けられています。
転職先での年末調整をしない場合や、年内に再就職しない場合には、翌年の確定申告で必要になります。発行後に紛失してしまった場合には、元の勤務先に伝えて再発行してもらいましょう。
3-5.年金手帳
厚生年金の加入者である旨を証明する年金手帳は、紛失防止のため企業で保管していることが多いものです。
普段あまり使うことがない分忘れてしまいがちなので、手元にあるか確認しておきましょう。
年金手帳は転職先に提出が必要なものですが、2022年4月に廃止されたため、紛失した場合には再発行できません。
紛失した場合は代わりに日本年金機構から基礎年金番号通知書を発行してもらえるほか、マイナンバーでも基礎年金番号と同様の手続きができます。
4.退職後に行う各種手続き
退職後に行う手続きは以下のようになります。なお、退職したら全員がすべての手続きを行う必要があるわけではなく、対象者のみが手続きを行う必要があります。
【退職後の各種手続き】
- 失業給付
- 健康保険
- 年金
- 住民税
- 所得税
4-1.失業給付
失業給付とは、失業して求職活動を行っている間の生活をサポートするための給付です。以下の条件に当てはまる方が受給できます。
離職票などを用意してハローワークで手続きを行い、説明会への参加やハローワークに通うなどの条件を満たしたうえで、失業給付が受け取れます。
なお、退職時に次の就職先が決まっている方は手続き不要です。
- 就職する積極的な意思があり、就職できる能力を持っているものの、職業に就くことができない「失業の状態」であること。
- 自己都合による一般の離職者で、離職以前の2年間で被保険者期間が合計12ヵ月以上あること。
ただし、特定受給資格者又は特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可。
参照元:ハローワークインターネットサービス – 基本手当について
4-2.健康保険
退職日から健康保険が無効になるため、すぐ転職しないまたは働くつもりがない場合には、国民健康保険への加入、健康保険の任意継続、勤務している家族の扶養に入るといった方法から選ぶことになります。
国民健康保険は在住する市町村で加入するもので、倒産や解雇による離職の方などは負担額が軽減される場合もあるでしょう。
また退職後も引き続き企業の保険を利用できる制度が健康保険の任意継続で、最長2年間継続可能です。退職日までの間に継続して2ヵ月以上被保険者期間があり、退職の翌日から20日以内に規定の申出書を提出した方が任意継続の対象となります。
家族に扶養してもらう場合は、家族の勤務先の健康保険組合などに申請しましょう。
一方、すぐ次の企業に就職する方は、就職先に「健康保険資格喪失証明書」を提出すれば1週間ほどで新しい保険証が発行されます。
関連記事:退職後の健康保険はどう選ぶ?国民健康保険や任意継続など、3つの選択肢の注意点と手続き方法を解説
4-3.年金
企業を退職した、または次の就職までに1ヵ月以上期間が空くといった場合には厚生年金ではなく国民年金に加入するため、切り替えの手続きが必要です。退職日の翌日から14日以内に市区町村の役場で手続きをする必要があります。
すぐ次の企業に就職する方は、就職先に年金手帳や基礎年金番号通知書を提出すれば企業側が手続きしてくれるため、窓口での手続きは不要です。
関連記事:退職したら確定拠出年金の手続きが必要?ケース別の手続き方法や脱退一時金、よくある疑問を徹底解説
4-4.住民税
住民税の支払方法は、退職したのが何月かによって異なります。1〜5月に退職した場合は給与から一括で天引きされるため、手取り額が通常よりも少なくなるでしょう。
6〜12月に退職した場合には、ご自身で納める普通徴収になり、一括または分割の2つの納付方法から選べます。普通徴収への切り替えは退職する企業で行ってもらいましょう。
転職先の企業が決まっている場合には、転職先が普通徴収から、給与から天引きされる特別徴収への切り替え手続きをしてくれます。
関連記事:退職後の住民税の支払いはどうなる?納付方法と注意点、よくある疑問を徹底解説!
4-5.所得税
給与からさまざまな控除を差し引いた金額に課せられる所得税は給与額を予測して天引きされ、確定後に年末調整で過不足分を調整しています。
すぐに転職する場合は新たな勤務先に源泉徴収票を提出して年末調整を行いますが、11月下旬以降の入社になると間に合わない可能性があるため、間に合うかどうか確認が必要です。
すぐに転職しない場合や年末調整に間に合わなかった場合、すぐ転職する場合でも年収が2,000万円を超える、雑所得などで年20万円を超えるの収入がある場合などは、ご自身で確定申告が必要になります。期限までに確定申告をしないと無申告加算税や延滞税がかかるため、期限には注意してくださいね。
参照元:No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
おわりに
退職すると、さまざまな書類や手続きが必要になります。面倒だからと放置していると、受け取れるはずのお金を受け取ることができなかったり、期限が過ぎて手続きができなくなったりと損をしてしまうかもしれません。
退職に関する知識を得たうえで、分からないことは専門家にサポートしてもらいながらきちんと手続きを行いましょう。
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