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【確定申告シリーズ】家賃に車、水道光熱費…個人事業主はどこまで経費に計上できる?「家事按分」の考え方

辻 哲弥(税理士・公認会計士)

執筆者

税理士・公認会計士

辻 哲弥

有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事。23歳時、「日本一若い会計事務所」として”ACLEAN(アクリーン)会計事務所”を開業。スタートアップ、マイクロ法人を中心とした税務業務や補助金・融資等の資金調達支援、経理を対象とした業務改善コンサルティングを展開。 2023年に同事務所を”税理士法人グランサーズ”と統合。同法人の代表に就任。中小企業の税務顧問対応、内部統制構築支援、組織再編支援、事業承継・企業のクラウドサービス活用と経理効率化サービスも提供。また、自身のボディメイクの経験を活かした健康経営に関するコンサルティングも得意としている。YouTube「社長の資産防衛チャンネル」絶賛配信中。

個人事業主の場合、プライベートで支出する費用と事業のために支出した費用が混在することがあります。たとえば、水光熱費やインターネットの費用、ガソリン代等です。それらの費用のうち、事業のために支出した費用を選り分けて経費計上するルールを「家事按分」といいます。家事按分が認められる費目と、その計算方法について、税理士・辻哲弥氏(税理士法人グランサーズ共同代表)が解説します。

家事按分とは?

家事按分とは?

個人事業主が自宅を事務所としている場合、家賃や水道光熱費など、業務に使われた分は経費として計上することができます。ただしこれらはプライベートでも使用しているため、支出に対し業務利用の割合を計算し、規定のルールに則り業務利用分のみを経費として計上します。

これを家事按分といいます。

家事按分の割合には明確な定義はなく、客観的に判断して「明確な根拠に基づいて計算されている」ということが説明できれば、個人事業主が自ら基準を定めることができます。

家事按分できる経費科目と計算方法

家事按分できる経費科目と計算方法

一般的に経費として家事按分が可能な以下の5種類の項目について、計算方法と、どれくらい経費計上できるか、みていきましょう。

(1)家賃
(2)電気料金
(3)ガス、水道代
(4)通信費
(5)自動車関連費

(1)家賃(勘定科目:地代家賃)

家賃は、物件の全体の床面積のうち、事業に使用しているスペースの床面積の割合に相当する分の額について、「地代家賃」として計上できます。

たとえば、床面積60㎡の2LDKの賃貸物件に住んでおり、そのうちの1部屋(10㎡)を事業に使用している場合、毎月の支払家賃を12万円とすると、「地代家賃」として計上できる経費は以下のように計算できます。

 按分割合=10㎡÷60㎡=1/6

 ⇒地代家賃=12万円×1/6=2万円

「地代家賃」として計上できる家賃は、12万円のうち2万円となります。

また、賃貸物件の場合、管理費や共益費も計算に含めることができます。

(2)電気料金(勘定科目:水道光熱費)

電気料金は、以下の2種類の計算方法で家事按分により「水道光熱費」として計上できます。

  • 方法1:業務利用する電源の差し込み口(コンセント)の数で計算
  • 方法2:業務で利用した時間や日数で計算

【方法1の例】

月の電気料金が8,000円、自宅の電源の差し込み口が20個で、そのうち5個を業務利用する場合、「水道光熱費」として計上できる経費は以下のように計算できます。

按分割合=5個÷20個=1/4

⇒水道光熱費=8,000円×1/4=2,000円

「水道光熱費」として計上できる電気料金は、8,000円のうち2,000円となります。

【方法2の例】

月の電気料金が8,000円、業務時間が1日7時間、週に6日間の場合、「水道光熱費」として計上できる経費は以下のように計算できます。

按分割合=1週間の業務時間÷1週間の総時間数=(7時間×6日)÷(24時間×7日)= 1/4

⇒水道光熱費(円)= 8,000円×1/4=2,000円

「水道光熱費」として計上できる電気料金は、8,000円のうち2,000円となります。

(3)ガス、水道代(勘定科目:水道光熱費)

ガス代や水道代は、事業で使用した時間や日数から家事按分により計上できます。

たとえば、月のガス代・水道代が1万円、業務時間が1日7時間、週に6日間の場合、「水道光熱費」として計上できる経費は以下のように計算できます。

按分割合=1週間の業務時間÷1週間の総時間数=(7時間×6日)÷(24時間×7日)=1/4

⇒水道光熱費=1万円×1/4=2,500円

「水道光熱費」として計上できるガスや水道代は、1万円のうち2,500円となります。

(4)通信費

勘定科目:「通信費」

自宅のインターネット回線を業務でも使用している場合は、通信費として家事按分により計上できます。

たとえば、月のインターネット料金が6,000円、業務時間が1日7時間、週に6日間の場合、「通信費」として計上できる経費は以下のように計算できます。

按分割合=1週間の業務時間÷1週間の総時間数=(7時間×6日)÷(24時間×7日)= 1/4

⇒通信費=6,000円×1/4=1,500円

「通信費」として計上できるインターネット料金は、6,000円のうち1,500円となります。

(5)自動車関連費(勘定科目:旅費交通費)

保有する自動車を事業とプライベートの両方で使用する場合、事業で使用した時間や日数、走行距離から家事按分により計上できます。

家事按分により計上する主な自動車関連費は、ガソリン代、駐車場代、自動車保険料、自動車税、車検費用、修繕費などが挙げられます。

たとえば、自家用車の1か月の走行距離が500km、そのうち業務で100km走行した場合、1か月に支払うガソリン代が5,000円であれば、「旅費交通費」として計上できる経費は以下のように計算できます。

按分割合=100km÷500km=1/5

⇒旅費交通費=5,000円×1/5=1,000円

「旅費交通費」として計上できるガソリン代は、5,000円のうち1,000円となります。

また、業務中に使用した高速道路やコインパーキングなどの料金は、全額経費として計上できます。

家事按分で経費計上できないもの

家事按分で経費計上できないもの

これまで家事按分できる主な項目を見てきましたが、客観的に見て「業務とプライベートの区別がつかない」とされる具体例を紹介します。

経費計上できないもの(1)仕事用の衣類の購入費

スーツや靴、鞄や眼鏡など、業務に用いるために購入したとしても、衣類など身につけるものはほとんどがプライベートでも使うことができます。その場合「業務のためだけに使用するもの」と判断できないため、経費として計上することができません。

ただし、例えば、式典に出席するために礼服を購入し、その式典以外着用しないことを証明できる場合、必要経費として計上することができます。

経費計上できないもの(2)クライアントの同行していない食事代

カフェなどで業務にまつわる作業を1人でしている場合、飲み物代のみであれば「場所代」として経費に計上することができます。しかし、食べ物代の場合は「業務のみに必要」と判断できないため、経費として計上することができません。

ただし、クライアントが同行していた場合の食事代は、業務に直接かかわるとして「会議費」「接待交際費」として計上することができます。

経費計上できないもの(3)食事付き宿泊プランの宿泊費

出張のための宿泊費は基本的に経費として計上できますが、朝食付きプラン等、業務と関係のない飲食を含む宿泊費については業務に必要な支出ではないとされます。

経費計上できないもの(4)持ち家の住宅ローンの元本

住宅ローンを返済している持ち家の個人事業主の場合、返済金額のうち元本部分は経費にはなりません。なぜなら、元本部分は「借入金の返済」という扱いになるためです。

ただし、住宅ローンの金利分については、事業割合部分のみに対して経費として計上することができます。

ここで注意が必要となるのは、住宅ローン控除(住宅ローン減税)を受ける場合です。

住宅ローン控除は居住用(プライベートでの使用)の部分を対象としているため、持ち家での生活のうち事業用の割合が50%を超えると、住宅ローン控除が受けられなくなります。また、事業用の割合が50%以下でも、事業割合部分に対しては住宅ローン控除を受けられません。

住宅ローン控除を全額受けるためには事業用の割合が10%以下となっている必要があるため、節税効果の高い住宅ローン控除を受けるのか、事業用割合を増やして経費計上するのか、どちらを優先するかを事前に十分に検討しましょう。

なお、住宅ローンの返済金額の元本部分は計上できませんが、建物取得額は減価償却の処理により、事業割合部分のみに対して経費として計上することができます。減価償却とは設備や機材といった資産の費用を、一定年数で配分する会計処理です。建物は時間の経過とともに価値が減少するため、価値の減少分を「減価償却費」として計上できるのです。

また、固定資産税の支払いも、建物取得額と同様に事業割合部分のみに対して経費計上できます。

経費計上できないもの(5)大学院の授業料

大学で学んだ学問や研究が業務に役立つことはあるかもしれませんが、授業料や奨学金の元本返済部分、利息部分も原則として経費計上することができません。

家事按分を行う場合の注意点

家事按分を行う場合の注意点

家事按分の割合には明確な定義はなく、客観的に判断したときに「明確な根拠に基づいて計算されている」ということが提示できれば、個人事業主が基準を定めることができると説明しました。

ここで重要なのは、「明確な根拠に基づいて計算されている」という根拠を形として残しておくことです。

確定申告の際、家事按分を算出した根拠となる資料の提出は求められていませんが、根拠資料の保管は義務付けられています。

たとえば、自宅兼事務所の間取り図や、作業時間の記録・履歴など、家事按分をした際の算出に用いた資料は必ず残しておきましょう。

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