国税庁の「令和4年度民間給与実態調査」によると、50代男性の平均年収は691.8万円と他の年代よりも高くなっています。年収のピークを迎える一方で、ライフイベントの転換点にあたり出費もそれなりに見込まれます。また、定年が近いので、きたる老後生活の資金を意識したお金の使い方を心掛けなければ、最悪、老後破産につながるおそれがあります。
50代のお金の使い方で注意しなければならないこと、してはならないことはどのようなものでしょうか。ファイナンシャルプランナーの伊藤貴徳氏が解説します。
50代のお金の使い方が「老後の生活」を大きく左右する
一般的に50代は、仕事では大きなポジションを任され、年収のピークを迎えることが多くなっています。他方で、家庭では、子の独立・結婚、住宅ローンの完済、孫の誕生といったライフイベントもあります。
50代は、収入が増える一方で、支出も増えていくことが多くなる年代だといえます。
そして、その先に待っているのは「定年退職」です。定年が近づくにつれてセカンドライフの準備を意識し始める方も多いのですが、本記事でお伝えしたい一番のポイントは、収入も支出も増える50代だからこそ、50代でお金の使い方を誤ると老後に思うような生活を送ることができなくなる可能性もあるということです。
「老後破産」という言葉が世に浸透して久しいですが、現在では16人に1人が老後破産を迎えてしまうというデータもあります。
さまざまなライフイベントのある50代を楽しみながら、皆さんが思い描くセカンドライフを過ごすために、本記事では特に50代に陥りやすい、「やってはいけない」お金の使い方3選を紹介します。
老後破産に陥らないために知っておくべきこと
老後破産とは、一般的に定年退職を迎えセカンドライフにおいて、収入以上の支出が続き、貯蓄が底をつくことで生活ができなくなることをいいます。
老後破産に陥ってしまう原因として、特に以下が挙げられます。
- 収入額(年金)に生活水準が見合わない
- 固定費(住宅ローンや教育費)が高い
- 医療費等の負担額が大きい
老後破産を起こさせないシンプルかつ究極の法則は「収入-支出」がプラスの状態を維持し続けることです。
自分の家族は毎月の年金をいくらもらえそうなのか(収入)、将来の生活費はいくらくらいかかりそうなのか(支出)、今後の収入と支出をしっかり把握しておきましょう。
まず、収入については、特に重要なのは「公的年金」です。日本年金機構によると、2023年度の夫婦2人世帯の厚生年金(老齢基礎年金を含む標準的な年金額)は22万4,482円となっています。つまり、一般的なサラリーマン夫婦が将来受け取る年金額は毎月22万4,482円ということになります。
次に、支出については、生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える生活費は下記の通りです。
- 最低日常生活費:23.2万円
- ゆとりある老後生活費:37.9万円
また、参考までに、総務省の「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、65歳以降の夫婦の収支は下記のとおりです。
- 収入:24万6,237円
- 支出:26万8,508円
あくまでも一般的なデータに基づく収支バランスですが、65歳以降の生活では、月22,271円が不足するということです。もし年金だけで生活費が足りない場合は、働くか、あるいは、それまでの積み立て、貯金の計画的な取り崩し等で生活費を賄うことになります。だからこそ、50代のお金の使い方がきわめて重要なのです。
以上を基に、50代が特にやってはいけないお金の使い方について解説します。
やってはいけないお金の使い方1:無意識のうちに支出を増やしてしまう
50代になると、多くの方が年収のピークを迎えます。そこで、ありがちなのが、無意識のうちに支出を増やし、生活水準を引き上げてしまうケースです。しかし、それは避けなければなりません。
具体的に挙げられるのは、頻繁な外食や娯楽費、無用な車の買い替え、高級ブランド品の購入、いつもとは違ったグレードの旅行費等です。
50代は、前述の通りさまざまなライフイベントがあり、出費が多くなります。それに加え、老後資金の準備もしておかなければなりません。収入が増えても、生活水準をそれまでと同等に保ち、支出を増やさないようにすることが大切です。
そうしないと、老後資金の不足を招いてしまうことになります。しかも、一般的に老後の収入は大きく下がりますが、老後になった途端に生活水準を大きく下げることは難しいのです。
なお、特に要注意なのは、住宅ローンの完済を迎える人です。ローン完済によって固定費が大幅に下がり、急激に生活に余裕ができますが、浮いたお金は可能な限り使わず、温存しておくべきです。
やってはいけないお金の使い方2:自分のリスク許容度を超えた投資
近年では、世界的な株高を受け、「貯蓄から投資へ」の流れにより資産運用を行う方が増えてきています。また国としても、「NISA」や「iDeCo」など、税制優遇の制度を拡充し、投資による将来の資産形成を推奨する流れになりつつあります。
しかし、「この銘柄は人気があるから」「証券マンにおすすめされたから」という理由でよく理解しないまま株式や投資信託を購入したり、売却を繰り返したりすることは避けなければなりません。最終的な目的地(準備額のゴール)を設定しないまま、売買を繰り返す行為はNGです。
また、株式、投資信託をはじめとした金融商品には「リスク」があります。「リスク」とは価格の振れ幅のことで、商品によって異なります。投資しようとする商品の内容やリスクを十分に理解し、それが自分のリスク許容度の範囲内のものなのか、納得したうえで投資することが必要です。
具体的には、「NISA」を活用して、毎月一定額ずつ、「全世界株式」や「アメリカ株式」の「投資信託」を購入する「つみたて投資」がおすすめです。
NISAは投資での利益(配当、売却益等)が月最大36万円、総額1,800万円まで非課税となる制度です。
なぜ「全世界株式」の「投資信託」がおすすめかというと、世界経済は長い目でみると着実に成長していくことが見込まれるからです。全世界株式の投資信託は、全世界の優良企業に満遍なく投資するものであり、全世界の成長を取り込むことができるうえ、リスクの分散が効いています。加えて、一定額ずつ購入することにより、さらにリスクを抑えることができます。つまり、下落局面ではたくさん購入できるので、あとで上昇局面になったときに大きく増えます。逆に、上昇局面では少ししか投資できないので「高値掴み」のリスクを抑えることができます。
短期的な騰落に一喜一憂せず、頻繁に売買せず、毎月、ただ淡々と一定額ずつ購入していくことが大切です。
50代の資産形成では、老後の生活資金を着実なものとすることが求められます。一般的には、個別の株式などハイリスク商品を頻繁に売買することは避けるべきです。自分のリスク許容度に見合った商品を選び、着実に資産を形成しましょう。
やってはいけないお金の使い方3:ライフステージが変化したにも関わらず、これまでと同じ保険に加入し続ける
子どもの独立も、50代の大きなライフイベントのひとつです。子どもが社会人になると、万が一自分の身に何かあっても、教育費や生活費のことを大きく気にする必要はなくなります。
したがって、もし自分に大きな保険をかけていたら、見直しをするべきです。
特に、「定期特約付終身保険」というタイプの保険は要注意です。ベースに小さな「終身保険」があり、そこに「10年更新」等の更新型の「定期保険」や「医療保険」が付いている保険です。
加入当初は比較的割安な保険料で大きな保障を持つことができますが、ずっと同じ内容で続けていると、更新のたびに保険料が再計算され、高くなっていきます。
よくある例は、社会人になった時に保険に加入し、同じ中身のまま更新を続けてこれまで長いこと加入し続けているというケースです。ひどい例だと、当初は保険料が月1万円くらいだったのが、更新を重ねてきた結果、3〜4倍の保険料になってしまっているということもあります。
「子どもが独立するまでは、保険は必要…」とこれまでなんとか続けてこられたとしても、今後も同じ保険を継続すると、さらに保険料が上昇する可能性もあります。
特に見直しをせずに同じ内容で更新を続けてきた方は一度内容を確認してみましょう。今となっては子どもも社会人となり、大きな保障は必要ないと思ったときには見直しをおすすめします。
保障内容の見直しを図り、死亡保障を抑えて、病気・ケガ・三大疾病と保障と葬儀代のための少額の死亡保障に加入し直すことで月の保険料を45,000円から15,000円程に抑えることができた例もあります。
この先30年生きたとして、保険料が一定と考えた場合、上記のケースでは総額1,080万円の保険料削減となります。
もしも、必要な保障の計算が難しいのであれば、FP等の専門家に相談するのもひとつの方法です。
まとめ
50代がやってはいけないお金の使い方について、3つ挙げて説明してきました。
50代は収入がピークに達することが多く、また、住宅ローンを完済する人は固定費が大幅に下がるなど、無意識のうちに支出が増え、生活水準を高くしてしまうリスクがあります。
しかし、同時に定年が近づくので、長い老後の生活資金を賄うことも考えなければなりません。意識して生活水準を変えないようにすることで、支出を抑えて貯蓄・投資に回し、セカンドライフの赤字を防ぐ必要があります。
また、投資を行う場合は、将来の目標に沿って、自分のリスク許容度に合った商品を選び、中長期的に一定額を淡々と積み立て続けることが大切です。目標のないまま頻繁に売買を行うことは避けましょう。
さらに、保険の見直しは必須です。子どもの独立など、ライフスタイルが変化し、必要な保障が少なくなることが多くなっています。したがって、それまでの保険に漫然と入り続けるのは禁物です。保険を見直して適正な保障内容に改めることで保険料の大幅削減に努めることをおすすめします。