世界銀行は大半の国や地域について、2023年の成長率予測を下方修正し、世界経済がリセッション(景気後退)入りする可能性があることを警告しました。インフレによりモノの値上げが続き、貨幣価値が下がり、日々の生活を圧迫する厳しい現状のなか、家計を守るにはどう対処すれば良いのでしょうか? FPの牧元拓也氏が分かりやすく解説します。
1.2023年の「世界的なリセッション」とは?
1月10日に世界銀行が発表した2023年の「世界経済見通し」では、今年の世界経済の成長は急激に減速し、過去30年間で3番目に弱いペースになると予測されています。2022年6月時点の世界の成長率予測は3%でしたが、今回の予測では1.7%に下方修正されました。世界経済がリセッション(景気後退)入りする可能性があることを警告しています。
世界銀行が警鐘を鳴らすのには、①ロシアのウクライナ侵攻による継続的な混乱、②インフレの高止まりと金利上昇が背景として挙げられます。特にインフレは私たちの生活にも大きな影響があります。
インフレとはモノやサービスの値段(物価)が上がることを指します。例えば、インフレにより物価が2倍になると、1本100円で買えるバナナは200円出さないと買えなくなります。その時点の100円では1/2本のバナナしか買えないということになります。
帝国データバンクによる上昇する主要飲食料メーカーの調査では、2022年は2万822品目で値上げが実施され、値上げ率平均は14%という結果でした。2023年も多くの商品の値上げの実施が予定されています。
※参考:帝国データバンク 食品値上げ、来年 7000 品目突破22 年比 1.5 倍超ペース
また、2021年9月以降、電気代の値上がりも続いています。日本は発電の70%以上を火力発電でまかなっています。火力発電には、天然ガスや石炭、石油などの資源エネルギーを使っており、その大部分を輸入に頼っています。
昨今のロシアのウクライナ侵攻により、欧米諸国を中心にロシアへ制裁を課したことで、ロシア産石油や天然ガスの供給が制限されるなど、これまでどおり輸入することが難しく、世界中で資源エネルギーの価格が高騰しています。この影響で日本の電気会社も値上げせざるを得ない状況となっています。
最も電気料金の低かった2021年2月と直近の2022年10月を比較すると、151%も上昇しており、2023年も引き続き値上がりすることが予想されています。
実際に、総務省が発表している消費者物価指数CPI(前年比)の推移をみると、2022年4月以降は2%を超える上昇が続いており、2022年10月~12月の3ヵ月間では、2022年10月……+3.7%、11月……+3.8%、12月……+4.0%となっています。4%以上の上昇は40年ぶりとなっており、今後も物価上昇が続く可能性は高いと考えられます。
2.家庭へはどんな影響がある?世帯年収700万円・35歳Aさんの家計を例に解説
【家族構成】
- Aさん(35歳)
- 配偶者(30歳)
- 子ども(2歳)
【年収】
- Aさん:年収400万円
- Aさんの配偶者:年収300万円
- 世帯年収:700万円
【現在の貯蓄額】
- 400万円
【収支】
- 世帯の給与所得:46万円
- ※手取りは年収×80%で計算しています。
- 毎月の生活費:40万円
- 食費7.5万円
- 夫婦お小遣い7万円
- 水道光熱費2.5万円
- 通信費1.5万円
- 娯楽費3万円
- 保険料3万円
- 住宅ローン9万円
- 雑費3万円
- 保育園3.5万円
- 合計40万円
- 毎月の貯蓄:6万円
夫婦共働きで毎月6万円の貯金をしているAさん夫婦。インフレにより食料品や日用品が値上がりしているものの、外食の回数を減らすなどの工夫をしています。しかし、電気代の値上がりの影響で水道光熱費が2.5万円から4万円に。インフレに合わせて給料がすぐに上がるわけもなく毎月の貯金額が6万円から4.5万円になります。それでも年間54万円の貯金ができますが、今後の電気代のさらなる値上げや将来の教育費を考えると不安が残ります。
また、仮に手元にある100万円が2%のインフレの影響を30年間受け続けると、実質的な価値が55万円になります。いまだと100万円分買えるものが55万円分しか買えなくなるともいえます。Aさんの場合、同条件ですと400万円の預貯金の価値は65歳時点で220万円になってしまうことになります。
すぐに給料を上げることやインフレについてはコントロールできるものではありません。なにか将来に向けて対策できることはあるのでしょうか?一般家庭でも実践できる資産運用方法をご紹介いたします。
3.インフレに負けない資産運用の方法
家計状況を改善する方法は基本的に①収入を上げる、②支出を減らす、③資産運用で増やす、以上の3つです。収入を上げるのは不可能ではないですが、会社員がコントロールしやすいものではありません。また、支出を減らすことは最低限必要ですが、限界があります。ここでは資産運用という観点でお伝えいたします。
一般的に株式や投資信託などの有価証券、金・不動産などの現物資産はインフレに強い資産といわれています。株式の場合、企業はインフレの際に自社の製品価格を上げて収益を増やすことができます。不動産の場合、インフレによりモノの値段が上がり、お金の価値が下がる状況下では有利に働くと考えられます。
このようにインフレに強い資産運用といっても不動産投資や株式投資などさまざまありますが、ご家庭で実践しやすいのは、少額から始めることができ、投資先の分散が容易な投資信託での運用です。投資信託は、投資家から集めたお金で株式や債券に分散投資する運用商品です。分散される点も良いですが、なにより100円から始めることができるので実践しやすいです。
世界銀行が2023年はリセッション(景気後退)する可能性を予測していますが、これまで世界経済は成長しています。世界株式の1973年〜2021年末までの約半世紀のデータを見ると、平均7%で上昇しています。10%上がる年、20%下がる年、30%上がる年などを繰り返し、年平均にすると毎年7%で上昇していた、というイメージです。
これには技術革新などのさまざまな要因がありますが、人口の増加が大きいと考えられます。2022年11月には、世界人口が80億になったと国連が発表しています。人口統計の予測では2050年頃には100億人になるといわれています。人口が増えると、それだけ食料や住む場所も必要になり、経済的な需要が生まれます。総合的に見ると世界中の企業の業績規模も拡大し、世界中の株価も上昇していくことが考えられます。
仮に今後の世界株式の上昇が7%ではなく5%だったとしましょう。その場合、Aさんが毎月3万円の積立を30年間行うとどうなるでしょうか。
投資した金額は1,080万円(3万円×12ヵ月×30年)ですが、30年後には2,500万円程度になっています。
もちろん、価格変動のリスクもあるので30年後に必ず2,500万円になっているというわけではありませんし、時間もかかりますが、それでも預金していたら1,080万円だったお金が倍以上になるのであれば充分にインフレ対策になるといえるのではないでしょうか。
購入方法としては、運用益が非課税になるNISA制度の活用や、60歳まで引き出すことはできないですが所得控除になるiDeCoを活用するのが良いでしょう。
一般的に生活費の半年から1年分の預貯金は不測の事態に備えて確保したほうが良いといわれています。Aさんの場合は毎月の生活費が40万円で預貯金が400万円ですので、インフレに負けてしまうからといって預貯金まで運用するのは得策とはいえません。1年分以上の貯蓄があるご家庭の場合は預貯金を活用して資産運用することも選択肢のひとつです。
資産運用を行う際に重要なリスクとリターンの考え方についてお伝えいたします。特にリスクへの正しい理解が大切です。リスクとは「損をしてしまう」、「値下がりすること」などとイメージされる方が多いと思いますが、実際は値動きの幅を指します。つまり、下がるだけでなく上がることも含めた振れ幅をリスクといいます。
世界株式を中心とした投資信託で運用する場合、6%前後のリターンが期待できますが、その際のリスク(振れ幅)は30%〜40%程度です。これは〇〇ショックや〇〇バブル崩壊などの経済的影響で株式市場が大きく下落する場合に、1年間でどの程度下がるかの目安になります。
仮に100万円を運用し、翌年に60万円になっても心理的に大丈夫であればリスクを取って株式中心で運用をしても良いですが、耐えられないのであれば運用額を減らすか、株式だけでなく債券などの安全資産も組み合わせて運用することをおすすめします。
いずれにしてもインフレが続くようであれば、預金として置いておくのもリスクとなるので、ご家庭に合った金額で資産運用を実践してみてください。