人より所得が多い人ほど、「節税」には敏感です。では、いわゆる「富裕層」と呼ばれる人たちは、どのような節税を実践しているのでしょうか。その答えには意外にも、普通の会社員もすぐにマネできるような手法もあるようで……。本記事では、いま富裕層が実践している節税手法について、税理士の小川明雄氏が解説します。
タワマンに足場、海外不動産…富裕層の「節税手法」が封じられていく昨今
個人の所得税は、一部の所得を除き、各所得の合計額から所得控除の合計額を控除した額、課税される所得金額に税率を掛けて所得税額を計算します。そして、課税される所得金額が大きくなれば税率が高くなっていく「累進課税」となっているため、所得水準が高い人ほど所得税の税率が大きくなります。
これまで「節税」を謳う投資商品はさまざまありました。ここで言う「節税」は、基本的には課税を将来に繰り延べることができるものを指しており、時には課税当局が想定しないような「制度の抜け穴」を活用するようなものもありました。
最近の動向として、「制度の抜け穴」を活用するような「節税」商品が全国的に広がると、毎年の税制改正等によって対策がなされて、それらの投資商品を購入しても節税できないようになります。
民間が開発した「節税」を謳う投資商品が、短期間のうちに制度の改正によって利用できなくなるとなれば、せっかく投資したとしても「節税」できなくなる可能性があります。また、「節税」と謳っている投資商品が、実は税法のルールに則ったものではないとなれば、税務調査を受ける可能性すらあります。
そうしたリスクを踏まえると、国が用意した節税の制度を、趣旨に則って利用することが長期的な節税につながるのではないかと考えます。
40代・勝ち組サラリーマンのAさんが活用することにした「意外な節税手法」
Aさんは一般企業に勤めるサラリーマンで、妻と子ども2人がいます。30代のときに年収1,000万円、40代半ばとなって年収が2,000万円となり、順調に収入を増やしています。
Aさんは、収入が増えるにつれて税金の負担が重く感じてきて、なにか税金を安くできないかと漠然と考えていました。ひとまずインターネットで簡単に検索してみると、法人向けの投資商品や不動産投資のページがたくさん出てきましたが、一方で、NISAやiDeCoといった聞き覚えがある制度の名称が出てきます。
Aさんは、金融資産の運用益に所得税・住民税がかかるということはもちろん理解していましたが、節税という観点では深く考えたことはありませんでした。
NISAは運用益に課税がないため単純でわかりやすいものだし、iDeCoは投資する段階で税金が安くなるという点で、非常に興味が湧いたのです。
Aさんは「NISAとiDeCoなら投資限度額が決まっているから、入れ込みすぎることもない。節税もできるならその分だけ利回りも良くなるはずだし、始めてみよう」と決心し、口座の申し込みをしました。
富裕層も活用する節税手法
個人の節税手段として利用できるものは、適用できる額が大きくないものがほとんどですが、これを一つずつ積み上げていくと、長期的にはかなりの税額を軽減することができると思います。
個人が利用できる節税の手段は住宅ローン控除が有名ですが、金融投資の場面ではiDeCoやNISAの制度を活用することになります。
1.iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)
iDeCoは、確定拠出年金法に定められる「私的な年金制度」で、国民年金や厚生年金とは異なり、加入が任意の制度です。証券会社または銀行などでiDeCoに加入することができます。
制度の概要は下記のとおりです。
・20歳以上65歳未満の方は、原則としてiDeCoの掛金を拠出することができます。拠出できる金額は、各個人の状況によって限度があります。 ・拠出した掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となりますので、所得税と住民税の負担が軽減できます。年末調整または確定申告で記入する必要がります。 ・拠出した掛金については、運用する商品を自分で選択することができます。運用商品は、大きくわけて「元本確保商品」と「投資信託」があります。 ・iDeCo内での金融商品の運用損益は課税されません(iDeCo外で保有する金融商品の運用損益と通算もできない)。 |
・原則として、60歳以上になればiDeCoで運用していた財産を金銭で受け取ることができます。 |
・一時金で受け取る場合には退職所得、年金で受給する場合には雑所得(年金)として課税されるため、受取時の所得税・住民税が軽減される。 |
※詳しい制度の内容については公式サイトをご覧ください。https://www.ideco-koushiki.jp/
拠出時、運用期間、受取時のいずれのタイミングでも所得税・住民税の軽減措置を利用できるため、単に証券口座で投資信託等を保有することに比べれば、税金が安くなる分だけ運用利回りが大きくなる可能性があります。
運用商品はご自身の判断で変えることができるため、拠出財産をどの商品の投資に充てるかをコントロールできます。たとえば半分は元本確保型商品、1/4を国内株式、残額を外国株式、というようにバランスを考えて商品を選択することになります。
長期間の投資になりますから、世界情勢や金融相場だけでなく、各個人のリスク許容度やライフステージの変化に応じて運用商品を都度検討する必要があるでしょう。
2.NISA(ニーサ)
2014年1月から始まった制度で、証券会社や銀行で開設したNISA口座で保有した金融商品については非課税となる制度です。2024年から新しい制度に生まれ変わり、使い勝手が良くなり投資できる金額が大きくなります。
・20歳以上65歳未満の方は、原則としてiDeCoの掛金を拠出することができます。拠出できる金額は、各個人の状況によって限度があります。 ・拠出した掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となりますので、所得税と住民税の負担が軽減できます。年末調整または確定申告で記入する必要がります。 ・拠出した掛金については、運用する商品を自分で選択することができます。運用商品は、大きくわけて「元本確保商品」と「投資信託」があります。 ・iDeCo内での金融商品の運用損益は課税されません(iDeCo外で保有する金融商品の運用損益と通算もできない)。 |
・原則として、60歳以上になればiDeCoで運用していた財産を金銭で受け取ることができます。 |
・一時金で受け取る場合には退職所得、年金で受給する場合には雑所得(年金)として課税されるため、受取時の所得税・住民税が軽減される。 |
※詳しい制度内容は金融庁webサイトをご覧ください。https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/index.html
2023年までの制度に比べて、非課税枠が大きくなり非課税保有期間が恒久化されたことから、iDeCoのような長期分散投資を行うための環境がより整備されたといえます。
注意が必要なのはiDeCoと異なり、投資時に所得控除が適用されるわけではなく、運用損益が非課税となり確定申告が不要という点です。つまり、NISA口座内で運用損が生じた場合、NISA口座外の証券口座の運用益と通算できません。
そのほか、個人が利用できる所得税の節税手法として所得制限がないものを中心にご紹介します。
3.ふるさと納税
自分の選んだ自治体に寄附を行った場合、限度額の範囲内で、住民税と所得税が軽減されます。お住まいの自治体に納付する住民税を、ふるさと納税で選んだ自治体に代わりに納付するイメージです。
大抵の場合、ふるさと納税の返礼品がありますので、実質的に返礼品の分だけ税金が軽減されたことと同じ効果があります。所得が大きい方ほど利用するメリットが大きくなります。
4.生命保険料控除
一定の生命保険料を支払った場合、年末調整や確定申告で所得控除を適用できます。生命保険と医療保険について加入されている方は多いですが、個人年金の控除枠(最大4万円)を活用されている方はあまり多くありません。
保険料支払額のうち限度額までについて、年末調整または確定申告で所得控除を適用でき、所得税・住民税を軽減できます。
5.社会保険料控除
健康保険料や年金保険料を支払った場合、年末調整や確定申告で、所得控除を適用できます。過去の国民年金の学生納付特例猶予などを追納した場合には、年金受給額を増加できる可能性があります。追納した国民年金保険料も社会保険料控除の対象となりますので、所得が多い年に追納するという選択肢が考えられます。
6.医療費控除
多額の医療費がかかった場合、医療費の支払額から保険金や補助金の受取額を差し引いた金額が医療費控除の対象となる可能性があります。年末調整では申告できず、確定申告書の提出が必要となりますから、その点ご留意ください。
7.小規模企業共済
小規模企業共済は、役員または個人事業主のための退職金や年金の積立制度で、中小機構が運営するものです。小規模企業共済に加入した場合、最大月額7万円(年額84万円)の掛金を納付すると、年末調整または確定申告で所得控除を適用でき、所得税・住民税を軽減できます。
退職や廃業時に積み立てた共済金を受け取る際には、退職所得または雑所得(公的年金)で受け取ることができ所得税・住民税を軽減可能です。
まとめ:富裕層の節税は多くの人がマネできる!
個人の節税手法は、いろんなものをコツコツ積上げるというイメージです。富裕層は得するメリットがあることについて、その制度や仕組みを調べて活用しています。NISA、iDeCoをはじめとしてさまざまな制度が用意されていますから、ぜひ検討してみてください。