株式投資の魅力として、売買差益・配当収入・株主優待が挙げられますが、投資をする上で気になることのひとつが「購入と売買のタイミング」です。株価はさまざまな要因で値動きをしますが、比較的株価が動きやすい要因として『決算発表』が挙げられます。今回のコラムでは、決算発表と株価がどう関係があるのか?という部分を解説していきますので、ぜひこの機会に理解を深めていただければと思います。
1. 決算発表とは
決算発表とは、企業が自社の最新の経営状況・財務状況(決算)を公表することを指し、本決算、中間決算、連結決算ともに「決算短信」の発表と説明、会見などが行われます。
決算は企業の年間の営業活動による収支や財産状態を計算してまとめる行為であり、それを証券取引所の要請により、その情報を開示するという行為が決算発表です。決算発表は投資を判断するうえで重要な情報となる内容であるため、『適時開示制度』の一環として実施されています。
【決算短信】とは?
決算短信とは、企業の決算発表の内容をまとめた書類のことです。投資を行う際の判断の資料となる「有価証券報告書」は、決算の3ヵ月以上後にしか発表されないため、企業の決算結果などをなるべく早く投資家へ知らせるために、証券取引所が各上場企業に対して決算短信の作成を要請し、各企業が作成しています。決算短信は決算後、1〜2カ月後に証券取引所やメディアに発表されます。また、多くの企業が自社のホームページで決算短信を掲載しています。
決算短信は、憶測の部分も含まれており正式な決算発表ではありませんが、投資を行う際の大きな参考資料のひとつとなっています。
【適時開示制度】とは?
適時開示制度は(1)金融商品取引法に基づく法定開示制度と、(2)証券取引所が有価証券上場企業に要請している適時開示制度の2種類があります。(1)の場合は有価証券届出書、有価証券報告書、四半期報告書などの開示が必要です。(2)の場合は、証券取引所の規則に基づき、決算短信等を用意の上報道機関等を通じて投資家に伝達することが要請されています。
決算の内容は、金融庁が運営するEDINET「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」により閲覧することが可能で、「有価証券報告書」「有価証券届出書」「大量保有報告書」などの書類が開示されています。また、東京証券取引所が構築・運営している適時開示情報閲覧サービスでも決算の内容が閲覧できますが、各企業も自社のホームページのIR(Investor Relations)コーナー等で決算の内容を開示しています。
基本的には上場企業以外ではこの決算発表は実施されることはありませんが、未上場の企業でも決算内容を自社のホームページに掲載することはあります。
1-1. 決算発表の時期
決算日は企業の判断で自由に設定することが可能ですが、上場企業の場合は3月31日とするケースが多く決算発表の時期はそれに対応する形で設定されています。もちろん2月末日を決算日にするような上場企業もあり、その決算発表はそれに対応する形で実施されています。
決算は年度末の本決算と年度の中間時点で行う中間決算の3つに大きく分かれます。しかし、金融商品取引法では四半期ごとの決算内容の開示義務があり、証券取引所は四半期ごとに決算短信の開示を要請しています。
そのため上場企業の多くは、3月末は本決算(第4四半期決算)、6月末は第1四半期決算、9月末は中間決算(第2四半期決算)、12月末は第3四半期決算という形で決算発表を実施しています。ちなみに四半期ごとの決算発表の時期は各上場企業により異なり、決算短信の作成・開示については、証券取引所から遅くとも決算期末後45日以内(45日目が休日の場合は翌営業日)、決算期末後30日以内が望ましいと要請されています。
1-2. 決算発表のスケジュール
日系の上場企業の場合、3月期決算が多いため、その場合は以下のようなスケジュールになることがほとんどです。
【3月決算の場合】
■4-5月:通期決算(本決算)発表
■7-8月:Q1決算発表
■10-11月:Q2決算発表
■1-2月:Q3決算発表
日本では決算月に3月、9月、12月を選んでいる企業が多いですが、各々の企業によって決算発表日は異なります。
1-3. 四半期決算とは
四半期決算とは、1年を4期に分けて3カ月に1回行われる決算のことを指し、決算発表と同時に配当の増額(増配)が発表される場合もあります。
四半期決算で発表される成績は3カ月ごとのものではなく、事業年度開始月からの累計となります。
例えば、3月期決算の企業なら、
■Q1:4-6月
■Q2:4-9月
■Q3:4-12月
の業績が発表されます。
2. 決算発表に関わる影響
2-1. 投資での影響
好決算を発表した企業の株価が上昇すれば、売却によるキャピタルゲインや増配によるインカムゲインなどで、投資家は大きなリターンが得られるでしょう。逆に決算内容が悪ければ、株価は下がり含み損や売却損を被ったり、配当を得られなかったりするというリスクに陥ることもあります。
投資家や、企業へ資金を提供する金融機関等は、その企業の決算発表の内容により行動が大きく変わることがあります。
決算情報は改正金融商品取引法のフェア・ディスクロージャー・ルールの中で「重要情報」と位置付けられています。もし株式を保有している企業の決算発表の内容が悪ければ株価が大幅に下がる恐れもあるので、リスクの回避や低減に向けた行動も必要になります。
そのため投資家には決算発表の前後での適切な対応が求められ、その企業の債券を購入している投資家においては売却を検討することも必要になるでしょう。また、決算発表の内容が悪い企業に融資している金融機関等は今後の資金提供について慎重な姿勢へと変更することも考えなくてはいけない場合もあります。
【フェア・ディスクロージャー・ルール】とは?
上場企業などの有価証券の発行者が、株価に影響を及ぼすような未公表の重要な情報を公表前に特定の第三者に提供することを原則として禁じるルール
2-2. 商品・サービス利用での影響
企業の決算発表の内容で影響を受けるのは投資家や資金提供者等だけでなく、その企業の商品・サービスを利用する個人や事業者にも影響が及ぶ可能性があります。
決算発表の結果を受けて金融機関等が資金の提供を控えるようになると、その企業は資金繰りが悪化し事業の継続に支障が出ることもあります。その結果、その企業が提供している商品・サービス等の供給が困難となり、ユーザーは利用できなくなることもあります。
資金提供が完全に受けられないとなると、最悪その企業が倒産に追い込まれてしまう可能性もあります。
2-3. 消費者への影響
消費者への決算の影響としては企業の期末セールが挙げられます。消費者向けだけではないですが、企業のなかには決算を迎えるにあたって良好な業績の達成や節税を目的に「在庫一掃セール」などの大売り出しを実施する企業が少なくありません。
それにより、通常よりも低い価格で商品を購入できたり、有利なサービスを割安な価格で利用できたりと、消費者である私たちにとってはこうした企業の決算にまつわるイベントは日々の暮らしのプラスになります。
3. 決算で見るべきポイント
決算で必ず見るべきポイントとして、次の3つが挙げられます。
3-1. 伸び率
1つ目のポイントは、「売上高」「営業利益」「経常利益」「純利益」といった成績が、前月比や前年同期比でどれだけ伸びているか、です。
単に前月比や前年同期比でプラスだったかどうかだけではなく、伸び率が鈍化しているのか、それとも加速しているのかも重要なポイントです。伸び率がイマイチだと、その企業の今後の成長性に陰りがあると受け止められ、株価の下落につながることもあります。
3-2. 業績見通しの修正
第1〜3四半期においては「今期の通期業績見通し」が明らかになり、第4四半期(通期決算)では「来期の通期業績見通し」が明らかにされることが一般的です。ここで見通しが良くなる場合は「上方修正」をし、見通しが悪くなる場合には「下方修正」をします。
この業績見通しは「未定」とされるケースもありますが、通常は「上方修正されたか」「下方修正されたか」、それとも「修正はなかったか」などがチェックされます。上方修正は投資家からプラスに受け止められるケースが多く、株価の上昇につながりやすくなっています。
3-3. コンセンサス
投資家にとっては、「コンセンサス」と呼ばれる市場予想が通常の業績予想より良かったのか、それとも悪かったのか、ということも意思決定の重要な判断材料のひとつとなります。コンセンサスとは、英語で『consensus:合意、意志の一致』を表す言葉で、アナリストや市場参加者たちの予想の平均値のことを指して用いられます。
コンセンサスを上回る業績なら「期待以上」、コンセンサスを下回る業績なら「期待外れ」ということになります。例えば、売上高が前年同期比で50%増でもコンセンサスが80%増だった場合、「予想していたよりも成長率が低い」と受け止め、株を売ってしまう投資家もいるでしょう。
また「サプライズ決算」として、市場の予想を裏切るような決算となった場合、好決算かどうかに関わらず相場が大きく動くことがあります。
4. 決算後の株価の動向
株価の上昇、下降は事前予想との乖離に左右されやすくなっています。
そもそも株式市場は、買いたい人が多ければ株価が上がり、売りたい人が多ければ下がるという、需要と供給の関係で成り立っています。そのため、市場の期待感が株式への買い気配を生み出す大きな要因となります。
どんなに好決算な企業でも材料出尽くし感で投資家がこぞって利益確定させるために売りに走る場合があります。逆に、どんな悪い決算を出したとしても「最悪期を脱した」などという点から投資家が買いを入れる場合もあります。
決算発表で業績が良くても株価が下がったり、業績が悪くても株価が上昇することがあるため、単純に決算内容が良い・悪いだけでは株価の動向は判断できません。重要なのは、「市場の予測とどのような違いがあったか?」という点です。
そのため、日々情報収集をして、市場動向をチェックしておく必要があります。
おわりに
実際に株式投資を行う際には「なぜ上がったのか」「なぜ下がったのか」、その理由となる投資家の心理を冷静に分析することが重要です。
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