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50歳以降に迎える「収入ダウンの4つの崖」と「見えざる2つの崖」

50歳以降に迎える「収入ダウンの4つの崖」と「見えざる2つの崖」
水上 克朗 ファイナンシャルプランナー

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水上 克朗 ファイナンシャルプランナー

慶応義塾大学卒業後、大手金融機関に入社。会社生活を通じ、14回の部署異動、11回の転勤、11年間の単身赴任、2度の会社合併を経験。これまでのさまざまな経験をするなかで、ファイナンシャルプランナーの知識を活かし、1億円資産の捻出方法を確立する。現在、ライフプラン(住宅・教育・老後の3大資金)、資産運用、保険の加入・見直しなどの観点からアドバイスを行う。また、執筆、監修、相談、講演活動などを積極的に行い、新聞、雑誌、Webの大手媒体で数多く取り上げられている。特に、FP個別相談は年間300件を超える。CFP認定者(日本FP協会)、1級ファイナンシャルプランニング技能士、DC(確定拠出年金)プランナー。著書に「50代から老後の2000万円を貯める方法」「見るだけでお金が貯まる賢者のノート」(2022年7月28日発売)がある。

1.50代半ばから収入は下がり始める

一般的に会社員の収入は、50代前半をピークにその後は下がっていきます。ほとんどの人は、具体的に、いつ、どれくらい下がるかを把握していません。これで老後は本当に大丈夫でしょうか?50歳を過ぎたら知っておきたいのが「収入ダウンの4つの崖」と「見えざる2つの崖」です。50歳以降に収入がダウンするタイミングと必要となる支出を知っておきましょう。

収入ダウン4つの崖

2.収入ダウンの4つの崖

 ①役職定年の崖(55歳ごろ)

これは管理職になった人だけですが、一定の年齢になるとそれまでついていた役職を外れることになる企業があります。たとえば、55歳ごろになると、部長、課長等の肩書きが外れ、その分の年収が下がります。人事院の調査(*1)によれば、500人以上の企業の約3割が役職定年を導入しています。役職定年で年収がいくら下がるかは、企業やその時点での職位で大きく違ってきますが、だいたい2割程度は下がると考えていいでしょう。

「自分は役職についていないから大丈夫」「自分が勤めている会社には役職定年がないから大丈夫」と思う人もいるかもしれませんが安心してはいけません。グループ会社や取引先に出向、転籍などを命じられることで年収が下がることもあるからです。

また、今50代半ばの会社員が入社したのは、平成初めのバブル期です。この世代の社員数が最少の世代の社員数の2〜3倍以上になっている企業も少なくなく、50代半ばの高収入の社員が数多く在籍していることは、企業にとって大きな負担となっています。そこで、多くの企業が、この年代層の社員をターゲットにして給与体系の見直しをすでに行っています。

しかし、55歳というのは、一般的に、住宅ローンを抱えていたり、子どもの大学費も高くなるので、この時期に年収が下がるとなると大きな痛手です。今いる会社の人事評価制度の内容を細かく調べ「どの職位であれば、どんな評価をされたときに、どれくらい年収が下がるのか、それに伴い退職金もいくらになるか」を把握しておきましょう。

*1 人事院「民間企業の勤務条件制度等調査」(2017年)

②定年の崖(60歳ごろ)

高齢者雇用安定法が施行されたことによって、企業は希望者に対して65歳まで社員を雇用することが義務づけられています(70歳までは努力義務)。企業によっては定年を65歳にしたり、定年制を廃止したりするところもありますが、多くの企業は、60歳定年制は維持したまま、希望する社員に対しては再雇用を行うという形を導入しています。現状では、60歳の定年時に約75%の人が、再雇用契約を結び、継続雇用を選択しています。

ただし、給料はぐんと下がります。雇用保険の「高年齢雇用継続給付」がもらえますが、穴埋めできるものではありません。労働政策研究・研修機構の調査によれば、継続雇用を選択した場合、約4割の人が、定年前と比べ賃金が60%以下になるということです(*2)。また、平均年収はフルタイムで働いたとしても374.7万円です。

*2 労働政策研究・研修機構(企業調査)「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」(平成26年)

定年後(60代前半)の年収

③年金生活の崖(65歳ごろ)

再雇用が65歳で終了すると、そこから年金生活となります。70歳まで延長できる人は、ごく稀でしょう。もし新たな働き口を見つけなければ、収入は年金のみとなります。厚労省データによると、厚生年金と基礎年金の月の平均受給額は、男性約16万円、女性約10万円。夫婦別に見ると、夫が会社員で妻が専業主婦の場合は合計約22万円。夫婦とも自営業だった場合は合計でも約11万円にしかなりません。

年金の平均受給月額

④配偶者死別の崖

夫婦合計の年金額でなんとかやりくりしていた家計も、どちらかの死別によりさらに年金額が下がります。たとえば、平均年収が500万円だった夫と専業主婦の妻の家庭で、夫が先に亡くなったとします。すると、夫が受け取っていた年間188万円の年金が支給されなくなります。遺された妻には、夫の厚生年金年間110万円の4分の3の約83万円が支給されるというものの、夫が在命中にその世帯が受け取っていた受給額と比べるとが約105万円も減ることになります。

3.見えざる2つの崖

①病気の崖

病気は「いつなるか」「どれくらいの期間か」「費用はどれくらいかかるか」は予測困難ですが、負担が高額で長期に及ぶと家計のリスクとなります。日本は健康保険の制度が充実しているため、医療費の自己負担は1~3割。これに加えて「高額療養費制度」がありますが、一定の備えは必要です

②介護の崖

介護も「いつから必要になるか」「どの程度の介護が必要か」「公的介護保険でどこまで利用でき、自己負担はいくらか」など、予想が難しい出費のひとつです。なお、「自分の介護」の前に「親の介護」に、50代の子が負担を求められるようになることもあります。

4.50代以降、予想外にかさみがちな出費

4.50代以降、予想外にかさみがちな出費

50代以降に、支出面で増えるものは何があるでしょうか。大きいのは、介護費と医療費です。生命保険文化センターが介護経験者を対象にした調査によると1人当たりの介護費は約580万円です。

施設介護も含めた平均値は月8.3万円で、平均介護期間は約5年1ヵ月(61.1ヵ月)です。ただし、介護はいつまで続くか分かりません。1年未満で終わることもあれば10年以上続くこともあり、当然必要となる費用も介護期間で大きく違ってきます。また、施設入居の場合も老人ホームの種類、入居一時金、介護レベル、地域などによって利用料が大きく違ってきます。介護費用をシミュレーションする際には、親の介護費用と自分(夫婦)の老後の介護費用を考える必要がありますが、「親の介護費用は親のお金の範囲で賄う」のが基本です。いつ終わるか分からない親の介護費用を出してしまったら、最後にくる自分の介護にかけるお金を削ることになってしまいます。そのためには、親の理解を得た上で親の資産状況をしっかりと聞いておくことが大切です。

一方、医療費については、厚生労働省によれば、65~89歳までの自己負担額の平均は191.5万円となっています。介護費と医療費以外で、50代以降、予想以上にかさみがちな出費としては、家のリフォーム代やクルマの買い替え費用、子どもの教育費、子どもの結婚費用援助、子どものマンションの購入費の援助などがあります。

自分の老後資金も考え「何にどれくらい使うか」あらかじめ上限額を決めておくことが大切です。

一人当たりの「介護費」「医療費」の目安

5.50代以降の収入と支出の収支を算出する

生命保険文化センターの調査によると、老後の夫婦2人(65歳以上)の最低日常生活費は月22万円、ゆとりある老後の生活費は月36万円が必要となっています。これ以外に、前述したように、介護費や医療費を準備しておくことや、家のリフォーム代などの出費にも備えておく必要があります。

こうした月々の生活費とそれ以外に必要になる出費を合わせれば、老後にいくらお金が必要になるか、おおよその額を算出することができるはずです。

一方、これからの人生で収入がいくら見込めるかについては、役職定年や再雇用時に収入がどう変わるかや、退職金がいくらになりそうかは、自分が勤めている会社に確認しましょう。また、年金の支給額については、日本年金機構から誕生日に送られてくる「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確かめましょう。自分や世帯の年金額を把握しておくことが大切です。

自分の場合におきかえて、おおよその必要額を具体的に計算してみましょう。必要額は、リタイア後の支出(生活費、イベント費、介護費・医療費など)-リタイア後収入(公的年金、退職金・企業年金・私的年金、65歳時の貯蓄額など)で求められます。もし、足りないことが分かったら、今のうちから何らかの対策を講じておく必要があります。

お金を増やす方法は、①貯める②ムダを省く③運用する④働くの4つの方法しかありません。今からでも遅くはありません。できることから、ひとつひとつ始めましょう。

ちなみに、よく「老後資金は2,000万円必要」といわれていますが、退職後からでも2,000万円を確実に確保する方法があります。それは時給1,072円(東京都の最低賃金)の仕事を、夫婦2人で1日4時間、週5日、10年間続けることです。健康であれば、これができます。 

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