「保険についてもっと知ろう(その1)」はお読みいただけましたでしょうか。初めて保険証券を取り出して、見てみたという方にとっては、どこに何が記載されているのかを探すだけで大変だったかもしれません。しかし、そのようなアクションが実際に取れたあなたのリスク管理能力は着実に上がってきており、その努力を続けていけば今後のあなたの人生は確実に変化していきます。実際のアクションが取れなかった人も、ここで挫けることなく、粘り強く今回の話にもついてきてくださいね。
1.保険約款
今回も質問から始めます。以下の3つの質問にお答えください。
3つの質問
A.「保険約款」(または「約款」)という言葉を見たり聞いたりしたことはありますか?
B. 保険約款に何が書かれているか(規定されているか)ご存知でしょうか?
C. 保険約款を読んだことはありますか?
AやBについては「Yes」と答える方もいらっしゃるかと思いますが、その中でCまで「Yes」とお答えになる人はごく僅かかもしれません。そもそもAやBが「No」という人が多いのではないかと推測します。
保険の契約内容は保険証券に記載されている、ということは「保険についてもっと知ろう(その1)」でお伝えしていますが、保険約款と何が違うのか、と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、保険約款についてご説明します。
そもそも「約款」とは、多数取引のためにあらかじめ作られた定型の契約条項のことをいいます。本来契約は当事者同士で内容を自由に決めるものですが、不特定多数と契約する場合、個々に契約内容を決めていると契約書の作成も管理も大変になるため、定型の契約条項をあらかじめ決めておくことが民法で認められています。
ここから、「保険約款」とは、保険の契約についての詳しい内容や、さまざまな条件について保険会社があらかじめ決めた定型の契約条項、ということになります。
保険約款には、保障/補償の内容はもとより、保険会社が保険契約者または被保険者に求める告知義務や違反した場合の取り決め、保険金の請求方法、保険会社による保険金の支払い方法、保険会社の免責事由、などさまざまなことが規定されています。保険約款は、一般的かつ標準的な条項を定めた普通保険約款と、それを変更、拡充または排除する特別保険約款に分けられます。「保険についてもっと知ろう(その1)」の3-3.で「特約」についてご説明しましたが、保険契約において特約が付されると、この「特別保険約款」が適用されることになります。
この保険約款ですが、保険会社によってあらかじめ決められているものとはいうものの、作成後は監督官庁(保険会社であれば金融庁)による審査を受けており、契約者が不利にならないよう配慮されています。また、保険法という保険契約に関する一般的なルールを定めた法律に規定されているものよりも約款の規定の方が契約者に不利な場合は、その約款は無効となります。
非常に大事なことが規定されていますが、長文なうえに専門用語が多くあり、多くの場合細かな字で記載されていることから、読み切ること、また理解することが難しくなっています。先程の第1章の質問Cで「No」とお答えになられた場合、すなわち読んだことがないという場合は、長さ、難解さ、文字の細かさのいずれか、または複数の理由によって挫折されたということもあるのかと思います。
2.契約のしおり
上述の通り、保険約款は、すべてを読み込み理解するのは難しいものとなっています。そこで保険会社には、「契約のしおり」を用意し、契約時に約款と共に契約者に渡すことが義務付けられています。ほとんどの場合、契約のしおりと保険約款はまとめて1冊になっており、契約のしおりの後に保険約款が綴られているのが一般的です。また、最近はCD-ROMになっていたり、保険会社のWEBサイトから閲覧できるようにもなっていたりします(契約のしおりと保険約款が一体となっていることから、これ以降は2つを合わせて「契約のしおり(約款)」と表記します)。
ここで、1つ試していただきたいことがあります。それはご自身が加入している保険(生命保険、損害保険問わず)の会社のWEBサイトで「契約のしおり(約款)」を見ていただくということです。
これをおすすめする理由、それは、WEBサイトをご覧いただくとお分かりいただけると思いますが、実は保険の内容だけでなく、保険の始期日(=保険期間の初日)によっても保険のしおり(約款)が異なっているということをお分かりいただきたいからなのです。
保険の内容によって「契約のしおり(約款)」が異なるということはお分かりいただけるかと思います。保険の始期日によって異なる点はご説明が必要ですね。この違いというのは、さまざまな状況(例えば法令や制度、世情など)の変化その他の理由によって約款が見直され、改正されることによります。法令や制度が改正されればそれに従わなくてはなりませんからそのために約款を改定する必要がありますし、想定できなかった事態が起きた場合にもそれに対応するために約款を見直し改定する必要がある、ということです。分かり易い例を挙げると、新型コロナウィルス感染症を原因として死亡または約款所定の高度障害状態に該当する場合の対応を規定するため特約条項を改定した、ということです。
3.契約のしおり(約款)を確認しよう
「契約のしおり」には、保険約款の中でも特に大切な事項を抜粋し、それらについて分かり易く解説されています。具体的には、保険金を受け取る際の手続き、保険料の支払い方法、保険料の支払いが困難になった場合のこと、などです。例えていうなら、家電製品における取扱説明書のようなものです。
契約のしおり(約款)は、約款部分を除いてもそれなりのページ数にはなりますが、大体の場合契約のしおりには「目的別目次」という具体的な目的別にどこを見れば良いかというガイドのようなページが設けてありますので、それをもとに気になるところからでも目を通していただければと思います。
「保険についてもっと知ろう(その1)」の3-4では、生命保険を例にして保険証券の「保障内容」の部分にどのような時に保険金が支払われるのかということが記載されているとお伝えしていますが、これは保険金が「支払われない時」もあることを意味しています。保険金が支払われない場合は保険証券には記載はなく、これは契約のしおり(約款)を見るしかありません。契約のしおり(約款)には「給付金が支払われない場合」などの項目がありますので、そこに記されたページを見て内容を確認されることをおすすめします。ご覧になるとお分かりいただけると思いますが、保険の種類ごとに支払われない場合が記されていますが、読んでみれば当たり前の事情(例えば保険契約の前から病気になっていた場合)がほとんどです。具体的な事例も記載されていますので、この機会に内容を確認してみてください。特に入院、手術については、定められた日数を経過せずに新たに入院や手術を受けた場合保険金が支払われない場合に該当することとなりますので、(あまり起きてほしくないことではありますが)万が一の時のために確認されることをおすすめします。
なお、契約のしおり(約款)は保険証券と一緒に保管しておきましょう。なお、契約のしおり(約款)を紛失したまたは捨ててしまったとしても、保険契約が解約されたり保険金が支払われなかったりということはありませんし、上述の通り保険会社のWEBサイトから確認することはできます。
おわりに
いかがでしたでしょうか。契約のしおりという、保険を契約することによって一般的に交付される文書について、今まで見ようとも思わなかった、途中で挫折した、という場合は、この機会にしっかり内容を確認されることをおすすめします。まだ、色々なことをお伝えしていませんので理解できない、難しい、と感じられることもあるかもしれませんが、そこで止まるのではなく、理解を深めようとまずは意識を新たにしていただけたら幸いです。