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そのFIRE、ちょっと待った!(Part3):資産形成の基本

そのFIRE、ちょっと待った!
岡部 達磨(ライフバランスプロデューサー)

監修者
岡部 達磨(ライフバランスプロデューサー)

いつ死んでも後悔しない、自分なりの幸せな人生をどうしたら構築できるか考え、学び、行動し、現在それを実現。月の半分以上はゴルフをしつつ、自分らしい理想の人生を手に入れたいと本気で思う人に寄り添うトータルコンサルタントとして活動中。これまでプロ野球選手、医師や経営者をメインに1,000件以上のコンサルティング実績。 2級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格)

「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」、「そのFIRE、ちょっと待った!(Part2)」で、なぜそのように言うかという理由をご説明しましたが、このコラムではさらにその続きで、お伝えしていない理由についてご説明していきます。

1.理由おさらい

 「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」、「そのFIRE、ちょっと待った!(Part2)」でご説明した、なぜそのように言うかという理由について、少しおさらいしたいと思います。詳しい内容についてはそれぞれのコラムをご覧ください。

「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」でご説明したのは、何のためにFIREを目指し、資産形成するのかということが明確になっていない、ということでした。「仕事に縛られない自由な生活」に憧れを抱いただけで、ゴールを明確にしないままFIREを目指した方の末路についても事例を挙げてご紹介しました。本来手段であるはずの、資産形成することや、FIREすることそのものが目的となってしまっていては本末転倒であり、本来の目的と手段を定めた上で決断した方が良いとお伝えしました。

「そのFIRE、ちょっと待った!(Part2)」でご説明したのは、マネーリテラシーの低さから判断を誤ってしまう危険性がある、ということでした。マネーリテラシーとは、お金と上手に付き合っていくために必要な知識やスキル、お金について正確に理解し活かせる能力、のことをいいますが、それが低いとどういうことが起きると想定されるかをご紹介しています。ほとんどの方は家庭でも学校でもお金についての教育を受けていないためマネーリテラシーが低くても仕方のないことではありますが、FIREを目指す・目指さないに関わらずとも、お金と向き合い、リテラシーを上げることは大事なことだとお伝えしました。

2.さらなる理由

さて、「そのFIRE、ちょっと待った!」というさらなる理由ですが、それは、FIREではご自身が本当に望む理想の人生を実現させることはできない、ということです。

どういうことか、次でご説明しましょう。

あなたの望む理想の人生、幸せな人生、いつ死んでも後悔しない人生を実現させるために必要なものは何でしょうか?もちろんお金は必要ですが、お金が全てではありませんし、理想的な幸せはお金だけでは手に入らないでしょう。もちろんお金を使う「時間」も必要です。ではお金と時間さえあれば、実現できるでしょうか?

FIREという概念では「お金」と「自由な時間」を手に入れることだけを目指しています。理想の人生がどういうものかにもよりますので一概に断言することはできませんが、この2つを手に入れただけでは実現しないことが多いでしょう。

ここで、「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」でご紹介した事例をもう一度見てみましょう。この方たちは、FIREを実現したのに全く幸せになれていませんでした。それはなぜでしょうか?Part1のコラムでご紹介した通り、「理想の人生」がどういうものかというゴールを明確にしていなかったというのがその1番の理由ではありますが、それだけではありません。明確にしていたとしてもFIREだけでは実現するのは難しいでしょう。「FIRE達成後、田舎暮しに憧れていたことを思い出し移住」という事例の方は、理想とする望む暮らしを手に入れましたが、ご近所づきあいが苦痛で苦労されていました。また「映画好きで1日中映画を見て過ごした」事例の方は、人とのつながりがないことによる「孤独感」をおぼえています。

これらの事例からわかることは、仙人のように一人で山にこもって生活するのが理想の人生、という人を除けば、人や社会と繋がり、交流するというのは生きていく限り必要な要素だということです。所属するコミュニティ(地域、組織等)により濃淡、深浅の程度の違いはありますが、人や社会とのつながりや交流を上手く育んでいかないと幸せにはなりにくいでしょう。

「お金」と「自由な時間」を得ることにとらわれ、他に大事なことがあることに気付かず、目を配ることができず、構築できなければ、たとえFIREを達成し理想の人生を手に入れたように見えても、実はそれはまやかしの理想の人生でしかないといえるでしょう。

3.仕事とは?

仕事

突然ですが、仕事とは何でしょうか?「働く」とはどういうことでしょうか?FIREに憧れ目指そうとしている方に尋ねたいのは、「仕事についてよく考えたことはありますか?」ということです。

FIREを目指す方は、現在の仕事に不満があり辞めたいと思っている方がほとんどです。もちろん現在の状況を変えるために行動するのは良いことです。ただし、RE(早期引退)した後、つまり仕事を辞めた後、もう仕事はしないのでしょうか。

多くのサラリーマンにとって、仕事は「お金を稼ぐ手段」がその答えになると思います。なかには、仕事はあなたの情熱を傾ける何かのため、その必要資金を稼ぐためと割り切っている方もいるでしょう。お金がないから仕事をするのであり、お金が充分にあったら仕事はしない、そういう軸でしか「仕事」を見ていないとすればそれは残念なことです。お金持ちの方が全く仕事をしていないかというとそんなことはありません。世界を見渡してみれば、そんな例はいくつも挙げることができます。なぜ彼らは仕事をしているのでしょうか。お金持ちの方たちは、したくて仕事をしていますし、仕事を楽しんでいます。苦労することもあるでしょうが、仕事によって得られる充実感、やりがい、生きがいといった他では得られない精神的充足を得ているのです。

ここではっきりさせておくことがあります。お金がないから仕事をしているという意識でいる方は、実は仕事をしているのではなく働いているにすぎないのです。

「働くこと」と「仕事をすること」の違いは、ご存知でしょうか?それぞれの方により色々な解釈があるでしょうが、1つ参考になる定義をご紹介します。それはドイツの哲学者であるハンナ・アーレント(1906年~1975年)が記した「人間の条件」という本での定義です。そのなかでは、労働は「人間の肉体の生物学的過程に対応する活動である」、仕事は「人間存在の非自然性に対応する活動力である」と定義し、この2つを明確に区別しています。わかりやすくいえば、労働は「生活費を稼ぐための活動」、仕事は「自分の使命と思える活動」ということになります。

ご自身が本当に望む人生を考えた時、RE(早期引退)は必要でしょうか?今の仕事(会社)が嫌でFIREを目指すとすれば、それはそもそも働くこと自体が嫌なのでしょうか?仕事が嫌なのでしょうか?理想の人生を考える際には、このことも一緒に考えていただきたいと思います。働いていることは嫌でも、それとは別にしたいこと(仕事)があるのであれば、それはFIREをしなくても実現できます。仕事が嫌という場合、「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」でご紹介した最初の事例を見ていただきたいと思います。遊んで暮らすことがあなたの望む理想の人生だとしても、ただ遊んで暮らすことはいつか飽きますしつまらなくなります。時間もお金も自由になった人(あなた)と遊んでくれる方はそういませんし、遊んで得られる満足感は人間の習性として暫くすると感じなくなってしまうからです。

仕事をすることで、人や社会とつながることもでき、先述した人間関係を構築できます。「仕事をする」方たちとのつながりですから、「働く」ことで悩むような人間関係にはならないはずです。仕事を通じて知り合う方たちと、お互い刺激しあい、助け合い、切磋琢磨することで得られる高揚感、達成感、充実感、満足感などの精神的充足は、仕事を続けていく限り延々と得ることができます。仕事は本来楽しいものなのです。

FIREはあがりではありませんし、FIREを達成したから安泰というものではありません。いつなんどき「FI」の状態が崩れるかわかりません。「そのFIRE、ちょっと待った!(Part1)」でご紹介した事例のように、仕事をしていない、働いていない期間が長いと、再び職を探すのは困難になります。

「幸せな」人生には「仕事をする」ことは大事な要素です。FIREによって「仕事」から引退してしまっては、理想の人生で本当の幸福感は得られないでしょう。仕事、働くことに不満があってFIREに走るのではなく、そもそもあなたにとって「仕事とは何か」、「自分が一生続けていける仕事は何か」をまず考えていただきたいと思います。

4.理想の人生を得るためには

これまでご説明したことで、FIREではあなたが「本当に」望む理想の人生を実現させることはできない、ということはお分かりいただけたでしょうか。人間関係を大事にする、仕事をする、これら抜きには本当に幸せな人生は送れません。

人間関係について、ハーバード大学による有名な追跡調査結果があります。それは、ハーバード大学成人発達研究が75年間にわたって追跡調査をした結果、「幸福な人生を送るために一番大切なものは『良い人間関係を築くこと」ということが明らかになった」というものです。さらに、脳や病気になるリスク軽減など様々な影響を与えているのだそうです。

寿命はどんどん延び、「人生100年時代」といわれて久しく、定年も70歳になろうとしています。何歳まで生きるかは誰にもわかりませんが、これからの時代、定年ということに縛られることなく一生ご自身にとってやりがいのある仕事をしていくという考え方が、今からの時代には合っているのではないかと思っています。仕事はお金以上に得られるものが沢山あります。仕事によって何らかの形で誰かの役に立ち(社会貢献でき)、人とつながり、精神的充足感を得る、これが健全で幸せな人生だと私は考えます。変化の激しい世の中にあっても一生続けられる仕事を探し、どれだけ時代が変わっても通用するスキルを身に付け、人脈を構築することに時間をかけることがこれからの時代を生きるには大切なことではないでしょうか。

おわりに

「宝くじで高額当選した人でも自己破産している」、こんな話を聞いたり読んだりしたことはありませんか?なぜそんなことが起こるのでしょうか。高額当選は、一瞬でFIREの状態を作り出します。これまでこのコラムを含め3回にわたり、「そのFIRE、ちょっと待った!」と言う理由についてご説明してきましたが、これを全てお読みくださった方はその理由がお分かりのことと思います。もちろんこれが理由のすべてではありませんが、大きな要素となっていることは間違いないでしょう。

「お金」と「自由な時間」を得られる、というのは魅力的に映ること、憧れることはよく分かります。しかし、それだけにとらわれると、本当に大切なことは見えてきません。自分が本当に望む人生はどういうものかをまずはよく考え、その上で必要なものを構築していっていただきたいと思います。

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