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個人での開業前の準備費用は経費にできるの?

セゾンのくらし大研究 編集部

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個人で事業を始めようと考えている方で、いきなり税務署へ事業開始届を提出する方は少ないのではないでしょうか。ご自身で事業を始めようと考えた時、まずはどんな事業ができるかを考えて、セミナーを受講したり、その事業で使用するパソコンなどの必要なものを購入すると思います。 

この開業前の準備にかかった費用を、開業後に経費として認められるのかが気になる方も多いでしょう。このコラムでは、開業前にかかった準備費用の処理について、節税効果も含めて詳しく解説します。 

1.開業費とは

開業費とは

1-1.開業費は開業前の準備にかかった費用 

個人で開業する際、一般的に開業へ向けた準備のためにさまざまなことにお金を支出することになると思います。例えば、事前にその事業で使用するパソコン、プリンターや机、椅子といった備品を購入したり、開業のためのセミナーを受講したり、さまざまなことへの支出が伴います。これらの開業前の準備にかかった費用を「開業費」といいます。 

1-2.開業費は繰延資産に計上して償却して費用化する 

開業費としてかかった費用は、その事業を営む上で、その将来にわたって効果を発揮するものです。例えば、購入したパソコンなどは、通常、数年間にわたって使用しますし、セミナーを受講して身に付けたことは、その事業を営んでいる間で役に立って効果を発揮し続けます。 

そこでこの開業費については、会計上および税務上、開業初年度で全額を費用とするのではなく、事業開始日で全額を「繰延資産」という資産の科目で計上し、開業日以後の将来に繰り延べて費用化することとしています。 

では、開業費は何年間で償却すれば良いでしょうか?通常、事業を何年間続けるかは、開業当初から決まっているものではありません。これについて、会計上では、開業費の効果は概ね5年間であるとして「5年」で均等償却をすることとしています。しかし、税法上では「60ヵ月の均等償却」もしくは「任意償却」のどちらかで良いとされています。 

2.開業費の範囲 

開業費の範囲

2-1.開業費はいつまで遡って認められるのか 

開業前にその準備にかかった費用は、開業費として繰延資産に計上すると説明しました。では、開業前のいつまで遡って開業費とできるかが気になるでしょう。 

これについては、税法上、特に明確な決まりはないため、開業に向けた準備費用だということを証明できれば、数年前のものでも開業費とすることができることになります。しかし、この時に重要なのは、その費用を支払った際の領収書や請求書といった証憑を保管しておくことはもちろんですが、本当に開業するための準備にかかった費用だということを証明できることです。そのためには、購入目的や使途などを記録しておくなど、客観的にそのことを証明できるようにして、税務署に開業前の準備費用だということを説明できるように備えておくことが必要です。 

また、理論上は数年前にかかった費用も開業費とすることは可能ですが、一般的には、概ね開業前の数ヵ月から半年程度、長くても1年以内の準備費用を開業費とするのが妥当なようです。 

2-2.開業費として認められる範囲 

次に、具体的に開業費として認められる範囲について確認しましょう。これついては特に明確な決まりはありません。そのため、開業の準備にかかった費用であれば、概ねすべてを開業費とすることができます。では、具体的に開業費に「できるもの、できないもの」の例を見ていきましょう。 

<開業費にできるもの例> 

  • 開業前に受講したセミナーへの受講費用 
  • 開業前に購入したパソコン、プリンターなどの購入費用 
  • 開業前に準備したホームページなどWEBサイトの構築費用 
  • 開業前にかかった市場調査費用(旅費やガソリン代などを含む) 
  • 開業前にかかった通信費用や打ち合わせ費用 
  • 開業前に配布するチラシや名刺作成などの広告宣伝費用 
  • 開業前に借りた借入金の開業前までに発生した利子(支払利息) 

ここで重要なことは、「開業前に開業の準備でかかったもの」ということです。開業に関係のないもの、また税務署へ提出した事業開始届の事業開始日以降にかかったものは開業費にはできませんので注意してください。 

<開業費にできないもの例> 

10万円以上の備品などの資産 

1つあたりの購入費用が10万円以上する備品などは、固定資産に計上しなければならないため、繰延資産である開業費にはできません。 

固定資産は購入後、その種類や使用年数によって減価償却して費用化していきます。償却に際しては、税法で資産の種類毎に定められた基準で行いましょう。 

参照元:国税庁 

・敷金・礼金 

開業しようとした時に、仕事場所として事務所を借りる方がいると思います。この時に発生する敷金、礼金は固定資産に計上しなければならないため開業費にすることができません。 

敷金は、将来その事務所を解約した時に原状回復費を精算してその残金が返金されます。敷金はその事務所の賃貸をうけている間の「預入金」という性質のものであって、そもそも費用ではありません。 

礼金は、一般的に敷金のように返金されるものではありませんが、貸主への謝礼金という一時的性質のもので固定資産に計上すると決められているためです。また、この固定資産に計上した礼金は、開業後に償却して費用化していくことになります。 

・仕入代金 

開業後にすぐに売上を上げて円滑に事業を進める目的で、開業前に商品の仕入をする場合があると思います。しかし、この商品の仕入は開業後に販売をして利益を得るためのもので、売り上げた時に初めて「売上原価」という費用になります。そのため開業前にかかったものでも、開業前の費用ではないため開業費にはできません。開業前にかかった仕入費用は開業時に「商品在庫」という棚卸資産に計上します。 

3.開業費の償却による節税効果 

開業費の償却による節税効果 

3-1.税務上の任意償却による節税効果 

開業費の償却について、税法上は「任意償却」でも良いとされていると説明しました。この任意償却とは、その年に償却する金額を「0円から開業費の全額まで」の範囲で自由に決めて償却することができる償却方法です。 

このことによって、開業費の償却時期を上手く利用することで毎年の節税効果が生まれます。例えば、開業初年度は、事業が軌道に乗らずに赤字となることがあります。この時には開業費の償却を行わずに、翌年以降の事業が軌道に乗って黒字化した時に開業費を償却すれば、その年の課税所得を低く抑えて節税することができるのです。また、この年に償却する金額については、自身で自由に決められますので、利益が大きければ開業費の全額でも構いませんし、翌年以降を見越して一部の金額でも構いません。 

所得税は、利益が「0円」でも「▲50万円」でも「0円」で変わりません。また税法上、開業費の償却期間についての特段の規定もないので、利益が出ていない時に無理に償却費を計上するのはもったいないので、翌年以降の利益が出た時に取っておくと良いでしょう。 

参照元:国税庁

3-2.開業費の仕訳処理 

最後に開業費の計上の仕方について、開業費を計上する時、開業後に償却する時、それぞれ複式簿記での仕訳方法について説明します。 

(例)開業前に受講したセミナーの受講費用50万円を開業費として計上し、5年間で毎年10万円ずつ償却して費用化していく。 

<開業費に計上する時> 

開業日の日付で、借方には「開業費」の勘定科目、貸方には「元入金」の勘定科目で仕訳を起票します。 

借方 金額 貸方 金額 
開業費 ¥500,000 元入金 ¥500,000 

この時、貸方の勘定科目の「元入金」は、個人事業主が事業を開始する時にその事業に元入れした資金のことで、法人の資本金に該当するものです。 

また、この他にも開業費として計上するものがあれば、個々に開業費として計上しても、複数をまとめて合計金額で計上してもどちらでも構いません。ただし、複数をまとめて合計金額で計上する時は、その内容が分かるように必ず明細を作成する必要があります。 

<開業費を償却する時> 

1年間の決算をする決算日12月31日で、10万円の償却費を、借方には「繰延資産償却費」の勘定科目、貸方には「開業費」の勘定科目で仕訳を起票します。 

借方 金額 貸方 金額 
繰延資産償却費 ¥100,000 開業費 ¥100,000 

このように開業前に支出した開業費を「償却費」として費用化することで、その年の利益を圧縮することができ、その年の課税所得を圧縮して節税ができるのです。 

おわりに 

個人での開業前の準備費用は開業時に「開業費」として繰延資産に計上して、開業後に償却をして経費に計上できることを説明しました。特に税法上では、開業費を償却する際は「任意償却」で良いとされていることから、この任意償却を上手に使うことで、大きな節税効果を発揮することをお分かりいただけたことと思います。 

今後の事業展開を見通して、開業費の任意償却で償却時期を上手に調節して節税してはいかがでしょうか。

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