アパート、マンションなどの賃貸住宅を退去する際、退去費用を請求されるのが一般的です。しかし、大家から退去費用として金銭の請求があったとしても、中には払う必要がないものも存在します。一方で、主に借主の不注意が原因となった部屋の傷みについては退去費用を請求されることが多いため注意が必要です。
この記事では、賃貸住宅の退去費用の相場を、高額請求されないための注意点にも触れながら解説します。
- 退去費用とは、原状回復費用とハウスクリーニング費用の合計額を指す
- 間取りや居住年数によっても退去費用は異なるため事前に確認することが重要である
- 大家や管理会社から示された退去費用に納得がいかない場合は、内容を確認したうえで交渉する必要がある
- 大家や管理会社との交渉が不調に終わった場合は、専門家・専門機関への相談や調停・訴訟も視野に入れる


退去費用の基本知識と相場

退去費用とは、賃貸住宅から退去する際に大家に対し支払う原状回復費用とハウスクリーニング費用の合計額のことです。退去費用は、基本的に原状回復費用の総額から通常損耗分を差し引く形で計算します。なお、混同されがちな言葉として「敷金」があります。これは、入居する際に大家に対し支払う金銭の一種ではありますが、退去する際は原状回復費用に充当し、残額があれば借主に返還する仕組みです。
なお、退去費用を巡っては、本来借主が支払う義務がないものまで請求される、数十万円など高額な請求になるなどの理由で、トラブルが起きがちです。国民生活センターによれば、同センターのデータベース「PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)」に登録された賃貸住宅の原状回復に関するトラブルの件数は、以下のように推移していました(2024年5月31日現在)。
2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|
相談件数※ | 14,112 | 12,884 | 13,247 |
参照:賃貸住宅の原状回復トラブル(各種相談の件数や傾向)_国民生活センター
毎年1万件以上の相談が寄せられている以上、自分が巻き込まれることも十分にあり得ます。
退去費用に含まれる項目と内訳
退去費用には、原状回復費用とハウスクリーニング費用が含まれます。原状回復費用の具体例として挙げられるのは、エアコンなど設備の修繕や壁紙・床材の張り替え費などです。一方、ハウスクリーニングではキッチン、トイレ、浴室、エアコン、床、壁紙の清掃・洗浄にかかる費用を指します。
原状回復費用とハウスクリーニング費用の違い
比較項目 | 原状回復費用 | ハウスクリーニング費用 |
---|---|---|
定義 | 退去時に賃借人=借主が、一定の範囲で部屋を元の状態にするために支払う費用 | 借主の退去時に行う、部屋の清掃作業にかかる費用 |
法的根拠 | 民法第621条(賃借人の原状回復義務) | – |
費用負担の原則 | 部屋の傷や汚れが「原状回復」にあたる場合は借主が、「経年劣化」や「通常損耗」に当たる場合は貸主が負担 | 原則として貸主が負担 |
対象範囲 | 借主が負担するのは、不注意により壊れた・汚れた部分を直すこと | 通常の使い方を大きく逸脱していた場合は、借主が費用を負担することもある |
具体例 | タバコのヤニによる汚れ、臭い、焦げ跡 クロスについた大きな傷や穴、落書き | キッチン・水回り・床・壁紙(クロス)・窓やサッシの清掃 エアコンのクリーニングやワックス掛け |
なお、畳の表替えや襖の張り替えなどの費用についても、賃貸借契約に特約を盛り込むことにより、借主の負担とすることが可能です。特約を確認する際の確認フローと、チェックポイントについてまとめました。
確認フロー | 1.不動産会社の担当者から重要事項説明がある 2.重要事項説明書の中に特約も含めた退去費用の扱いがあるため、説明を受ける 3.疑問点があれば質問する |
チェックポイント | ・特約に必要性や客観的かつ合理的な理由があるか ・借主が特約により原状回復義務を超えた義務を負うことを理解しているか ・借主が特約による義務負担の意思表明をしているか (つまり、大家が一方的に条件を示したとしても、借主が納得しなければ特約を含めた賃貸借契約は成立しない) |
間取り別・居住年数別の退去費用相場
退去費用の相場は、間取りや居住年数によっても異なります。また、あくまで目安である以上、実際にかかる費用は個々のケースによって異なるため、事前の確認が重要です。
まず、間取り別の退去費用の相場は以下のようになっています。
間取り別の退去費用相場
間取り | 退去費用(相場) |
---|---|
ワンルーム・1K | 15,000~30,000円 |
1DK・1LDK | 20,000~50,000円 |
2DK・2LDK | 30,000~80,000円 |
3DK・3LDK | 50,000~100,000円 |
4DK・4LDK | 90,000円~ |
また、居住年数が長くなればなるほど、退去費用も安くなるのが実情です。こちらのグラフからもわかるように、設備の耐用年数が6~8年の場合、居住期間が6~8年になれば借主による原状回復義務はほぼ0%になると考えて構いません。

出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)|国土交通省
つまり、同じ部屋で10年以上暮らしていたのであれば、部屋の傷みや汚れが経年劣化として認められる可能性が高いということです。もちろん「タバコの火でフローリングを焦がした」など、借主による破損・汚損はこの限りではありません。
なお、補修箇所と修繕費用の相場は以下のようになっています。ただし、これもあくまで目安であり、実際の費用は汚れや傷の状態、対応する専門業者によっても異なる点に注意してください。
補修箇所と修繕費用の相場一覧
補修箇所・内容 | 修繕費用(相場) |
---|---|
浴室のカビ・水垢 | 5,000~20,000円 |
トイレのカビ・水垢 | 5,000~10,000円 |
キッチン周りの汚れ | 15,000~25,000円 |
床材の汚れ | 10,000~25,000円 |
サッシの汚れ | 10,000~20,000円 |
壁や天井の下地ボードの取り換え | 20,000~60,000円 |
床材の張り替え/1枚 | 8,000~15,000円 |
クロスの張り替え/1㎡ | 800~1,000円 |
壁や床に大きな傷があると、下地ボードの取り換えや床材、クロスの張り替え作業が大規模になるため、当然費用も高額になります。できるだけ傷をつけないように注意しましょう。
また、浴室やトイレのカビ・水垢はある程度自分で掃除することで、影響を少なくできます。入居した当初から掃除を入念にし、できるだけきれいに保ちましょう。
地域による退去費用の違い
退去費用と関連する特約は、地方によってもやや事情が異なる点に注意が必要です。有名な特約として、以下の2つが挙げられます。
- 西日本の敷引き特約
- 和室の畳・襖張り替え特約
まず、西日本の敷引き特約について解説します。敷引きとは、賃貸借契約を結ぶ際に保証金から差し引かれるお金のことで、家賃の滞納や退去時の原状回復費用に充てるのが目的です。ただし、似たような名前である敷金とは違い、一切返還されません。どちらかといえば礼金に近いと考えましょう。なお、敷引きの相場は家賃の1~3ヵ月分となっています。
このような習慣の違いがあるため、関東と関西では敷金、礼金、更新料、退去時の費用負担が大きく異なるのが実情です。
項目 | 関東 | 関西 |
---|---|---|
敷金 | 1〜2ヵ月分 | 3〜6ヵ月分(保証金) |
礼金 | 1〜2ヵ月分 | なしが多い |
更新料 | 家賃1ヵ月分 | なしが多 |
退去時の費用 | クリーニング費用を請求されることが多い | 償却で精算、追加費用は少ない |
和室の畳・襖張り替え特約とは、和室がある物件に入居していることを想定した特約です。本来、和室の畳や襖は「タバコで焦がした」「子どもが派手に落書きした」など借主の故意・過失、善管注意義務違反によるものでなければ、大家の費用負担により修繕します。ただし、特約を結ぶことで借主が負担する形にすることも可能です。
借主が払わなくていい退去費用とは

退去に際し、原状回復費用をどこまで借主が支払うかの判断基準として、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を示しています。同ガイドラインによれば、借主と貸主の負担区分は以下の4つに区分することが可能です。
原状回復費用の負担区分表
区分 | 内容 | 負担者 |
---|---|---|
A | 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの(例:クロスの日焼け) | 貸主 |
B | 賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの (明らかに通常の使用等による結果とはいえないもの、例:クロスへの落書きによる汚れ) | 借主 |
A(+B) | 基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの(例:カーペットに飲み物等をこぼし放置したことによるシミ、カビ) | 借主 |
A(+G) | 基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの(例:インターフォンの故障によるハイグレード機種への交換) | 貸主 |
参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
なお、2020年4月に改正民法が施行されましたが、旧法では明文化されていかった原状回復義務について「経年劣化の原状回復義務はなし」という規定が盛り込まれました。その他、賃貸住宅に関する論点を盛り込み表としてまとめたので参考にしてください。
現在 | 改正 | |
---|---|---|
敷金 | 規定なし | 契約終了時に原則として借主に返金 |
原状回復 | 国土交通省ガイドライン | 経年変化原状回復義務なし |
個人の連帯保証の範囲 | 規定なし | 極度額を定めなければ無効 |
借主の修繕権限 | 規定なし | 貸主が必要な修繕をしない時や急迫な場合、借主は自ら修繕できる |
賃借物の一部滅失等による賃料の減額 | 借主は減額請求できる | 賃料は当然、減額される |
経年劣化と通常損耗の具体例
経年劣化と通常損耗の具体例は以下のとおりです。
経年劣化 | ・日焼けによる天井、壁、床の変色 ・下地が傷ついてない場合の画鋲による壁の穴 ・通常に家具を置いたことによる床のへこみ ・設備の故障 ・浴室、トイレの壁の黄ばみ |
通常損耗 | ・タバコのヤニによる天井、壁、床の変色 ・下地が傷ついた場合の画鋲、釘、ネジによる壁の穴 ・鋭利なものや重すぎるものを置いたことによる床の傷 ・壊れた設備の使用 ・故意、不注意による傷や汚れ ・ペットの飼育による傷や汚れ ・子どものいたずらによる傷や汚れ ・掃除を疎かにして発生した汚れやカビ |
また、家や付随する設備は年数が経つほど古くなり、傷むのは当然です。たとえ、借主の故意・過失によって発生した傷みや汚れについて修繕費を負担する場合でも、経年変化(劣化)・通常損耗分は賃料として払っている以上、差し引かなくてはいけません。
そのため、原状回復費用を求める際は、耐用年数と入居期間を踏まえて減価償却をし、そのうえで具体的な金額を求めます。一例として、壁クロスの原状回復費用の計算例を示すので、参考にしてください。
入居年数が2年経過した時点で借主が退去することになった。壁クロスに子どもの落書きが複数あったため、費用の一部を借主が負担することになる。壁クロス(法定耐用年数6年)の原状回復費用が10万円であった場合、入居期間中の損耗分は大家、未償却分は借主が負担することとすれば、各々の費用は以下のようになる。
・大家負担分:10万円 × (24ヵ月/72ヵ月)=33,333円
・借主負担分:10万円 × (48ヵ月/72ヵ月)=66,667円
貸主負担となる原状回復費用
貸主=大家の負担となる修繕項目の具体例は以下のとおりです。
- フローリング・畳・壁紙の日焼け
- 通常使用による凹み・傷
- グレードアップに該当する工事
- 破損・紛失以外の理由による鍵の交換
- エアコン設置跡の修繕
グレードアップに該当する工事の具体例として、以下のものが挙げられます。
- システムキッチンの交換
- インターホンをカメラつきのものにグレードアップ
国土交通省ガイドラインの活用方法
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、同省の公式Webサイトから確認できます。
また「国土交通省 原状回復 ガイドライン」と検索すれば、簡単に確認することが可能です。退去に際しての原状回復費用の扱いについて大家と合意に至らない場合は、ガイドラインを根拠として交渉を進めていきましょう。より具体的には、以下の手順で進めると効果的です。
- 原状回復費用の内容・内訳の明細を示すよう求める
- 賃貸人負担部分と賃借人負担部分を明確に区分する
- 借主側でも見積もりを取り、金額に不当な部分がないか確認する
なお、同ガイドラインによれば、原状回復に関する特約が法的に有効と判断されるためには、少なくとも以下の3つの条件を満たさないといけません。
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
高額請求されやすいケースと対策

高額の原状回復費用が請求されやすいケースを一言でまとめると「通常使用の範囲を超えた」場合と言えます。そのため、基本的に通常使用の範囲と判断される使い方をしていれば、高額請求をされる可能性は低いの事実です。
ここでは、高額請求されやすいケースと事前に講じることができる対策について解説します。
ペット・タバコ・カビによる高額請求パターン
壁紙のひっかき傷、建具の噛み跡や臭いなど、ペットによる損傷の場合、原状回復費用の請求額も高額になりがちです。特に、ペット不可物件で隠れてペットを飼っていた場合、契約違反であることも加味されて値段が跳ね上がる可能性があります。
タバコのヤニによる汚れ、臭い、焦げ跡も、程度によっては壁のクロスを全面張り替えなくてはいけません。
また、洗面所やキッチン、トイレなどの手入れが悪かったためカビが生じて家が傷んだ場合も、フローリングの修繕やコーキング打ち替えなどクリーニング以外の対応が必要になります。
これらの損傷に対する原状回復費用は、具体的にどのような工事をするかによっても異なりますが相場は以下のとおりです。なお、実際の金額は地域や依頼する工務店によっても異なるため、事前に確認しましょう。
<フローリングの修繕の場合>
修繕箇所 | 費用の目安 |
---|---|
居室6畳~10畳 | 10万~18万円程度 |
キッチン | 8万円程度 |
トイレ | 6万円程度 |
洗面所 | 9万円程度 |
廊下 | 8万円程度 |
<クロスの張り替え>
修繕箇所 | 費用の目安 |
---|---|
居室6畳~10畳 | 4万~7万円程度 |
キッチン | 4万円程度 |
トイレ | 4万円程度 |
洗面所 | 4万円程度 |
玄関・廊下 | 4万円程度 |
<柱の傷・汚れ>
修繕の程度 | 費用の目安 |
---|---|
浅いキズ | 2万円程度 |
浅くて長いキズ | 3万円程度 |
深いキズ | 4万円程度 |
尿のシミ | 5万円程度 |
<脱臭・ハウスクリーニング>
部屋の広さ | 費用の目安 |
---|---|
ワンルーム・1K | 2万~5万円程度 |
1DK・1LDK | 4万~6万円程度 |
2DK・2LDK | 4万~9万円程度 |
3DK・3LDK | 6万~10万円程度 |
4DK・4LDK | 8万~12万円程度 |
<コーキングの打ち替え>
1m辺り3,000~5000円程度
特約事項で注意すべきポイント
賃貸借契約を締結するにあたり、原状回復に関する特約が盛り込まれていた場合は、その特約に従う形で費用を払うことになります。
特に注意が必要なのは、ハウスクリーニング特約です。これは、家を退去する際に行うハウスクリーニングについて、本来は大家が負担する費用を故意・過失の有無を問わず借主が負担することにできる特約を指します。「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず専門業者による清掃を実施し、賃借人はその費用として2万5000円(消費税別)を負担する」といった文言が盛り込まれていないか注目してください。
また、地域によっては和室の畳・襖張り替え特約や敷引き特約が盛り込まれていることもあります。これらについても、特約の内容を「何をしたらいくらかかるのか」を中心に確認しておきましょう。
退去時の立会いで確認すべき項目
退去時は、大家が立ち合い、家に問題がないか確かめるのが一般的です。その際、契約内容や元からあった傷・汚れを確かにするために、契約書や入居時の記録写真などを用意しておきましょう。
また、立ち合いの際は、以下の点についてチェックされます。
チェックされる場所 | チェックされる内容 |
---|---|
壁紙・クロス | 汚れやキズがないか |
網戸・障子・襖 | 破損や汚れがないか |
床 | 汚れやキズがないか |
畳 | シミ・カビや大きなキズがないか |
水回り | 水垢やカビがないか |
ウォシュレット・エアコン・換気扇 | 問題なく動作するか |
ドア | 開閉がスムーズか |
臭い | タバコやお香などのにおいが部屋に染みついていないか |
鍵 | 紛失していないか |
法律上立ち合いを行う義務はありませんが、不当な原状回復費用を請求されないためにも、できるだけ参加しましょう。また、立ち合いの際に以下の点についても、大家と借主との間で認識をすり合わせる必要があります。
- 損傷の原因
- 耐用年数
- 減価償却の適用
仮に、請求内容に納得できない場合は、請求書にサインを求められても断りましょう。サインをすると認めたことになってしまうためです。一度持ち帰って、2~3日後をめどに返答するという形も取れますが、それ以降も返答しないと家賃を追加請求される可能性があります。性急にサインを求められた場合、悪質な会社であることも疑い、慎重に行動しましょう。・
退去費用を抑えるための実践的な方法

状況にもよりますが、基本的に退去費用はきれいに使うほど安くなる傾向にあります。そのため、入居時からきれいに使うことを意識し、日常的な管理と退去前の入念な準備を欠かさないようにしましょう。退去費用が抑えられれば、敷金の返還額も増えるかもしれません。
ここでは、具体的にチェックすべきポイントとして、以下の3点を詳しく解説します。
入居時の記録と日常的な掃除
マンション、アパートなどの賃貸住宅に入居する際は、元からあった傷・汚れの証拠とするために、写真を撮り、記録として保存しておきましょう。その際「いつ、どこにあったか」を確かにするために、以下のポイントを意識してください。
- 撮影する場所に日付を書いた付箋を貼る
- 具体的な位置がわかるよう「全体の引き」「汚れ・傷の拡大」の2パターンの写真を撮る
また、部屋をきれいに保つためには、日常的に以下の掃除を行いましょう。
- 水回りのカビ、水垢の除去
- キッチンの油汚れの除去
- じゅうたんの染み抜き
掃除ではありませんが、タバコのヤニで室内が汚れると原状回復の費用が上がりやすいため、できるだけ室内では控えましょう。また、湯沸かし器やインターホンなど、設備の異常を発見した場合は、管理会社に早急に連絡し、修理をしてもらうのも重要です。放置したり、自分で業者を手配して修理したりした場合、退去時にトラブルに巻き込まれる恐れがあります。
退去前のハウスクリーニングの活用
退去前に自分でハウスクリーニングを依頼するのも効果的です。部屋をきれいにした状態で立ち合いを迎えられれば、原状回復費用を減らせる可能性があります。
プロに依頼することのメリットは、時間対効果が非常に高いことです。掃除のコツを心得ているプロが対応するため、短時間で幅広い部分を掃除できます。ただし、相応の費用はかかることに注意が必要です。
一方、自分でやると費用はかからない反面、掃除に慣れていないと効果は見込めません。そのため、自分でできそうな部分は自力で対応し、取りこぼしている部分をプロに保管してもらう形で利用しましょう。
なお、ハウスクリーニングを業者に依頼する場合の費用の相場は以下のとおりです。ただし、これはあくまで目安であり、実際の金額や時間は個々の状況により異なる点に注意してください。
清掃箇所 | 一般的な費用相場 | 所要時間目安 |
---|---|---|
キッチン清掃 | 15,000円〜25,000円 | 2〜3時間 |
浴室清掃 | 12,000円〜20,000円 | 1.5〜2.5時間 |
エアコンクリーニング | 1万円〜15,000円/台 | 1〜2時間/台 |
1LDK全体清掃 | 3万円〜5万円 | 4〜6時間 |
引越し前後の清掃 | 4万円〜8万円 | 5〜8時間 |
火災保険の借家人賠償責任保険の使用
借主の不始末により部屋に損傷が生じた場合でも、状況次第では借家人賠償責任保険が使える可能性があります。
借家人賠償責任保険とは、借りている部屋で火事などの事故が起きた場合、貸主に対する損害賠償を行うための保険です。部屋の損傷が以下のいずれかの理由で生じた場合、借家人賠償責任保険の対象となり、大家に保険金が支払われます。
火災、破裂・爆発 | 水濡れ |
---|---|
例) ・ストーブを消し忘れてボヤを出した ・寝タバコが原因で火災になった ・カセットコンロに大きすぎる鍋を置いたことでガスボンベが加熱し爆発 | 例) ・洗濯機のホースがはずれ、室内の内装を汚損 ・お風呂の水があふれて、脱衣所の内装を汚損 ・寒さで水道管が破裂し壁紙を破損 |
なお、借家人賠償責任保険に関して免責金額が設けられている場合、修理代のうち免責金額は借家人が自己負担することになります。
退去費用が払えない・高額請求された時の対処法

原状回復費用について、高額の請求をされた場合の対応の流れは以下のとおりです。
- まずは内容を確認する
- 確認した内容をもとに大家と交渉をする
- 大家との交渉がまとまらなければ専門機関や弁護士などの専門家に相談する
- 最終的には訴訟など法的措置での解決を目指す
なお、金額に納得がいかないからといって、原状回復費用を踏み倒すのは厳禁です。連帯保証人に請求が行ったり、逆に借主が債務不履行で訴えられたりする可能性もあります。以下のポイントを意識し、あくまで冷静に行動することを心掛けましょう。
管理会社との交渉テクニック
管理会社と交渉をする際は、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を根拠として交渉する必要があります。その際、耐用年数と減価償却を考慮した適正額を計算しておくのも効果的です。自分で計算できない場合は、後述する専門機関、専門家にも相談し、協力を仰ぎましょう。また、交渉の際は以下の点も意識するとさらにスムーズに進められます。
- 契約内容を確認する
- 退去時の物件の状態を記録しておく
- 見積もりを比較する
- 冷静な態度を保つ
- 書面で記録を残す
逆に、原状回復費用を請求されたとき、以下のことをやってしまうと不必要な費用まで払わされてしまうので絶対に避けてください。
- 納得できないのにその場でサインしてしまう
- 請求額をすぐに支払う
- 口約束で済ませ、書面(メール含む)で証拠を残さない
- 面倒だからと放置する
消費生活センターなど相談窓口の活用
原状回復費用に関してトラブルが生じた場合は、以下の専門家もしくは専門機関に相談しましょう。
国民生活センター | 消費者ホットライン(188)もしくは各都道府県の消費生活センターや消費生活相談窓口を通じて相談する。 |
日本賃貸住宅管理協会 | 全国の賃貸住宅管理会社、関連会社で組織された賃貸住宅管理業界の適正化と発展を目指す公益法人の業界団体。Web、FAX、手紙で相談すると、担当者が電話で回答をしてくれる。 |
弁護士 | 国民生活センターや日本賃貸住宅管理協会で相談により解決ができなかった場合は要検討。相手方との交渉を行う際に代理人として任命することもできる。 |
相手方との交渉が不発に終わった場合は、裁判所に申立てをし、民事調停や裁判での解決を目指すことになります。民事調停とは、裁判とは異なり、調停委員や裁判官を交えた話し合いで解決を目指す方法です。相手方の住所を管轄する簡易裁判所に申し立てをしますが、だいたい2~3ヵ月程度で解決できるのが一般的となっています。
申立てにかかる手数料は、原状回復の費用によっても異なりますが、100万円までであれば10万円ごとに500円と非常に低く抑えられているのが特徴です。
一方、調停で解決できなかった場合は訴訟=裁判で解決を目指します。一般的な裁判と同様三審制が取られているため、解決できずに上告審(最高裁判所)までもつれこんだ場合、数年単位で時間がかかることに注意しなくてはいけません。当然、弁護士に支払う報酬も高くなる点に注意をしましょう。
なお、原状回復費用について専門家等に相談する際は、賃貸借契約書や大家とのやり取りがわかるもの(メールなど)、家の汚れの傷や写真、これまでの経過をまとめたものを用意しておくのをおすすめします。
退去費用の支払いでセゾンカードローンを検討するメリット
退去費用が高額であり、一括払いが困難な場合の支払手段としてセゾンのカードローン「MONEY CARD GOLD」の活用も検討しましょう。実質年率は年6.62%~8.62%(利用コースにより異なる)とコースごとに金利が一定でわかりやすくなっており、。また、新規契約&利用で最大2ヵ月分の利息が実質0円になります。
ただし、お金を借りることに変わりはないため、綿密な計画を立てるのが重要です。また、さまざまな会社から借りるのは多重債務を負うリスクを高めるため、あくまで補助的な手段と考え、一社に絞ったうえで賢く利用しましょう。
セゾンのカードローン「MONEY CARD GOLD」の詳細はこちら


おわりに
国民生活センターの統計を見てもわかるように退去費用(原状回復費用)に関するトラブルは頻発しており、自分が巻き込まれてもおかしくないと考えましょう。そのため、賃貸住宅を退去する際は、早いうちから国土交通省のガイドラインを読み込み、原状回復費用の決まり方や自分が払うべき部分について理解を深めておくことが重要です。また、管理会社や地主から高額の退去費用を請求されたとしても、納得ができなければサインをしてはいけません。一度持ち帰ったうえで熟考し、必要に応じて専門機関や専門家に協力を求めるのが効果的です。この記事を参考に、退去する際に納得できるよう、入念に準備を進めましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。