賃貸物件の退去時、壁紙張り替え費用をめぐるトラブルを経験した大家さんも多いのではないでしょうか?本記事では、大家として知っておくべき費用負担の基本ルールから、適正な請求額の計算方法、入居者とのトラブル回避策まで、国土交通省のガイドラインに基づいて解説します。これから物件管理を始める方や、原状回復費用の請求に不安を感じている方は、ぜひ最後までお読みください。
| 原則負担区分 | ・通常損耗・経年劣化 → 大家負担 ・過失損耗・善管注意義務違反 → 入居者負担 |
| 相場目安 | ・量産クロス:1,000〜1,500円/㎡ ・6畳(壁+天井:約45㎡)=4.5万〜6.8万円程度 |
| 計算の勘所 | ・耐用年数は6年。 ・残存価値を按分し、居住年数が長いほど貸主の負担は大きくなる |


賃貸の壁紙張り替え、費用負担の基本ルール

入居者とのトラブルを避けるために、貸主側が必ず理解しておくべき費用負担の原則について解説します。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づき、どのような損傷が誰の負担となるのか、明確な基準を把握しておきましょう。
貸主(大家)の負担となる損傷の範囲
経年劣化や通常の使用によって生じる損耗(通常損耗)は、原則として貸主(大家)の負担です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、これらの損傷の修繕費は賃料に含まれる通常損耗と解釈されており、入居者に請求することはできません。
参考:国土交通省|原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
貸主負担となる損傷の具体例と、その理由を以下の表にまとめました。
| 損傷の例 | 大家負担となる理由 |
|---|---|
| 日焼けによる壁紙の変色 | 日光による自然な劣化であり、入居者の責任ではない通常損耗の範囲内のため |
| 家具の設置による床・カーペットのへこみ、跡 | 通常の生活で家具を置くことは避けられず、通常の使用範囲内のため |
| テレビ・冷蔵庫裏の壁紙の黒ずみ(電気ヤケ) | 家電製品の通常使用による変色であり、経年劣化の一種のため |
| 画鋲・ピンの穴 | ポスターやカレンダーを掲示する程度の小さな穴は通常使用の範囲内のため |
これらは賃貸住宅の通常の使用に伴う劣化であり、入居者の負担にはなりません。
借主(入居者)に請求できる損傷の範囲
入居者の故意・過失や、通常求められる注意を怠ったこと(善管注意義務違反)によって生じた損傷は、借主の負担となります。
借主負担となる主なケースは以下の通りです。
- タバコのヤニによる変色や臭い
- 落書き
- 掃除を怠ったことによるキッチンの油汚れ
- 結露を放置したことによるカビやシミ
- 下地ボードにまで達する深い釘やネジの穴
喫煙によるヤニ汚れは壁紙だけでなく、エアコン内部清掃費用も請求対象になる場合があります。また、ペットによるひっかき傷や臭いがついた場合も、通常の使用を超えるものとして借主負担となります。
なお、壁紙の張り替えは部分的な貼り替えでは境目が目立つため、一面単位での補修が原則です。この「面単位補修」の費用も、損傷が入居者の過失による場合は請求対象となります。
請求の可否を分ける「経年劣化」と6年ルール
壁紙の価値は時間とともに減少するという「経年劣化」の概念があります。ガイドラインでは壁紙の耐用年数が6年と定められており、この期間で価値がゼロになるという前提で計算されます。

入居から6年が経過すると壁紙の残存価値は1円とみなされるため、原則として入居者に張り替え費用を請求できなくなります。これは貸主が知るべき重要ルールです。
ただし、タバコのヤニ汚れや臭いなど、通常の使用を大きく超える損傷については、6年以上住んでいても別途費用を請求できる可能性があります。これは善管注意義務違反に該当するためです。
適正な請求額の算出に必要な費用の相場

入居者への請求や自身での張り替え工事予算を立てる上で、貸主側が把握しておくべき費用相場について解説します。適正な相場を知ることで、過剰請求によるトラブルを避け、適切な資金計画が立てられます。
壁紙張り替えの一般的な単価
壁紙の張り替え費用は、一般的な量産品(量産クロス標準施工)の場合で1,000〜1,500円/㎡が相場です。最低価格帯では800〜1,000円/㎡で施工できる場合もあります。
この単価には、古い壁紙を剥がす手間や新しい壁紙を貼る施工費が含まれています。下地処理や廃材処分費なども基本的にこの単価に含まれるのが一般的です。
機能性クロス(防汚・防臭・抗菌など)を選ぶ場合は、通常の量産クロスに比べて+300〜500円/㎡程度の追加費用が発生します。グレードによって単価が変動することを覚えておきましょう。
【広さ別】張り替え費用の目安
貸主が工事を発注する際の費用目安として、一般的な部屋の広さごとの費用相場を以下の表に示します。前提条件として、天井高2.4m、壁+天井全面張替えで計算しています。
| 部屋の広さ | 壁・天井の面積(目安) | 費用相場(単価800~1,000円/㎡の場合) |
|---|---|---|
| 6畳 | 約45㎡ | 36,000円~45,000円 |
| 8畳 | 約54㎡ | 43,000円~54,000円 |
| 10畳 | 約64㎡ | 51,000円~64,000円 |
壁紙の張り替えは、傷や汚れがある箇所だけでなく、その壁一面(面単位)で行われるのが基本です。これは部分的に貼り替えると新旧の境目が目立ってしまい、見た目の品質が損なわれるためです。
下地ボードの補修が必要な場合は、別途+500円/㎡〜の追加費用が発生する可能性があります。また、窓やドア周りなどの開口部周辺も施工の手間がかかるため、別途費用がかかることがあります。
入居者への請求額の正しい計算方法
経年劣化による価値の減少(減価償却)を考慮した、入居者への負担請求額の正しい計算方法を説明します。例として、「入居時に新品だった壁紙(1㎡あたり1,000円)を、入居4年の入居者が退去する際に30㎡分張り替える場合」を見てみましょう。
- 計算式:30㎡(張り替え面積)×1,000円(単価)×((6年(耐用年数)-4年(経過年数))/ 6年(耐用年数))=10,000円
この計算の内訳を、以下の表で詳しく見ていきます。
| 項目 | 計算内容 | 金額 |
|---|---|---|
| ①壁紙の張り替え費用 | 30㎡ × 1,000円/㎡ | 30,000円 |
| ②残存価値の割合 | (6年 – 4年) ÷ 6年 | 1/3 (約33%) |
| ③入居者の負担額 | ① × ② | 10,000円 |
居住年数が6年を超えると壁紙の残存価値は1円とみなされるため、入居年数が長いほど入居者への請求額は減少する仕組みです。ただし、通常の使用を超える著しい汚れや損傷(善管注意義務違反)がある場合は、6年以上経過していても別途費用を請求できる可能性があります。タバコのヤニや故意の破損などが該当します。
安定経営のための原状回復費用の管理術

退去時のトラブルを避け、原状回復費用を適切に管理するための貸主側の実践的な対策について解説します。適切な管理により、入居者との信頼関係を維持しながら、物件の資産価値を守ることができます。
入居者とのトラブルを未然に防ぐ方法
入居者とのトラブルを未然に防ぐためには、入居時の契約書に原状回復に関する特約を明記することが基本です。
どのような損傷が入居者負担となるのか、具体的な内容を契約書に記載しておくことで、退去時の認識のズレが防げます。ただし、特約は消費者契約法に違反しない範囲で設定する必要があります。
ペット可物件では、入居前に敷金増額契約を結んでおくことが特に重要です。ペットによる壁紙のひっかき傷や臭いの付着は通常損耗を超える損傷として入居者負担となりますが、退去時に高額な原状回復費用が発生するケースが多く、トラブルになりがちです。
通常の敷金1〜2か月分に加えて、ペット飼育による敷金を1か月分程度上乗せする契約を結んでおくことで、退去時の費用負担についての合意がスムーズになります。
退去立会い時の具体的な行動ステップは以下の通りです。
- 国土交通省のガイドラインを印刷し、立会いに持参する
退去の立ち会いの際には、必ず国土交通省のガイドラインを印刷して持参しましょう。損傷箇所を確認しながら、どの部分が貸主負担で、どの部分が借主負担となるのか、ガイドラインに基づいて丁寧に説明することが大切です。写真を撮影し、証拠を残すことも忘れずに行いましょう。 - 請求根拠を明確に示す(面単位、単価、按分計算、処分費)
請求書には、どの箇所の修繕にいくらかかったのか、具体的な内訳を明記します。壁紙張り替えの場合は、面単位での補修範囲(何㎡)、単価(円/㎡)、経年劣化による按分計算(居住年数に応じた減価償却)、廃材処分費など、すべての項目において透明性を持って記載することが信頼関係の維持につながります。 - 複数業者から見積もりを取り、適正価格で請求する
原状回復工事を発注する際は、可能な限り複数の業者から見積もりを取得し、適正価格で請求することを心がけましょう。不透明な高額請求はトラブルの原因となります。入居者から価格について質問があった場合は、見積書の根拠を丁寧に説明できるよう準備しておくことが重要です。
万が一トラブルが発生した場合の相談先を、入居者にも案内しておくことで、貸主側の透明性と誠実さを示すことができます。主な相談先は以下の通りです。
- 国民生活センター(消費者ホットライン):188(いやや)
- 住宅紛争審査会:各地の弁護士会に設置されており、建物の原状回復に関する紛争を専門的に扱う
投資用物件の原状回復費用に「セゾンのリフォームローン」
原状回復費用が発生する際、手持ち資金を運転資金や次の投資に残しておきたい場合の資金調達手段として、「セゾンのリフォームローン」が活用できます。
このローンは投資用物件のリフォームにも利用可能です。一般的なリフォームローンでは投資用物件に利用できないケースが多い中、セゾンのリフォームローンは賃貸経営の強い味方となります。30万円から利用できるため、比較的安価な壁紙張り替えのみの場合の費用にも利用できます。数部屋分の原状回復をまとめて行う場合や、複数の業者で工事が必要になった場合でも、柔軟に対応できます。
また、返済期間は最長25年まで選べます。そのため、長期返済を選択することで、資金繰りにゆとりを持たせることも可能です。
WEBサイトから24時間365日申し込みが完結し、来店不要である手軽さもメリットです。忙しい大家業の合間でも、スマートフォンやパソコンから簡単に申し込めます。 担保や保証人が不要で、審査結果が最短1日でわかるため、次の入居者募集を急ぐ場合にもスピーディーに対応できます。


おわりに
賃貸物件の壁紙張り替え費用は、通常損耗や経年劣化は貸主負担、故意や過失による損傷は借主負担です。
張り替え費用の相場は1㎡あたり1,000〜1,500円、6畳なら約4.5万〜6.8万円程度です。壁紙の耐用年数は6年と定められており、居住年数が長いほど入居者への請求額は減額されます。
トラブルを未然に防ぐには、契約時に原状回復の特約を明記すること、特にペット可物件では敷金増額契約を結んでおくことが重要です。原状回復費用が複数重なり資金面に不安がある場合は、投資用物件にも利用できるセゾンのリフォームローンも選択肢の一つとして検討しましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。