暑い季節は、人間だけでなくペットにとっても過酷な時期。特に犬や猫は人間のように汗をかいて体温を下げることができず、室温や湿度の変化に弱い傾向があります。熱中症や脱水症状を防ぐには、日中の過ごし方や留守番中の対策が重要です。
今回は獣医師の内田恵子先生に、ペットと暮らす飼い主が知っておきたい「夏の暑さ対策&快適な留守番のコツ」を教えていただきました。
ペットが暑さに弱い理由とは?体温調節の仕組みを知ろう

夏になると、私たち人間以上に暑さに弱いペットたち。特に犬や猫は、体温をうまく下げることができず、熱中症になるリスクが高くなります。その理由は、身体のつくりや体温調節の仕組みにあります。獣医師の内田さんにお話を伺い、分かりやすく解説します。
犬・猫は人間のように汗をかけない
人間は全身にある汗腺(かんせん)から汗をかき、その蒸発によって体温を下げることができます。しかし犬や猫などの動物は、汗腺が発達しておらず、肉球(パッド)など限られた部分からしか汗をかけません。
そのため、主に口を開けてハァハァと呼吸する「パンティング」や鼻・口からの蒸気の放出によって熱を逃がしています。ただしこの方法は効率が悪く、気温や湿度が高い日には上手く体温が下げられないため、熱中症になりやすいのです。
体の構造上、熱がこもりやすい
ペットは地面に近い場所にいるため、アスファルトの照り返しやこもった熱の影響を強く受けます。さらに、被毛で覆われた身体は空気の通りが悪く、熱がこもりやすい構造になっています。
また、年齢や犬種によっても暑さへの耐性は変わります。子犬・子猫やシニアは体温調節機能が未熟・低下しており、暑さの影響を受けやすくなります。さらに、パグやシーズーなどの短頭種(鼻が短い犬種)やミニチュアダックス、柴犬といったダブルコート(毛が二重構造)の犬種は特に熱がこもりやすく、呼吸もしにくくなるため、注意が必要です。
室内でも熱中症になるケースが増加中
「外に出ていないから大丈夫」と思われがちですが、実は室内でもペットが熱中症になるケースが増えています。特に近年は猛暑日が続くことが多く、エアコンを切った締め切った部屋では、室温が想像以上に高くなってしまいます。
さらに、留守番中に起こる熱中症は発見が遅れることが多く、重症化しやすい傾向にあります。
犬種だけでなく、その子の性格によっても差があり、興奮しやすいタイプは体温が急上昇しやすく、熱中症のリスクが高くなります。また、「室内=安全」ではありません。大切な家族であるペットが快適に過ごせる環境づくりを飼い主が責任をもって心がけましょう。
快適な室温と湿度の管理ポイント

室温25〜28℃、湿度40〜60%が目安
「犬や猫にとって、快適な室温って何度くらいなんだろう?」——そんな疑問を持つ飼い主さんも多いかもしれません。
一般的に、ペットが過ごしやすい室温は25度前後とされています。これは人間が快適と感じる温度とほぼ同じですが、実際には個体差があります。体格や年齢、被毛の量、体質などによって、感じ方は大きく異なるのです。
大切なのは、「この温度に設定すれば安心」という考えではなく、ペットが自分で快適な場所を選べる環境を整えてあげることです。暑いと感じたら涼しい場所へ、寒いと感じたら暖かいところへ移動できるようにしてあげましょう。
たとえば、エアコンが効いている部屋にいても、風が直接当たる場所を嫌がる子もいます。そんなときは、風を避けられるスペースや、風の通り道以外の寝床を用意しておくのが理想です。また、猫はもともと砂漠地帯出身の動物といわれており、比較的暑さには強いとされていますが、それでも猛暑や熱帯夜のような極端な暑さには注意が必要です。温度の数字だけにとらわれず、その子自身の行動やしぐさを通して“快適さ”を見極めることが何より大切。飼い主がその子の一番の理解者、いわば“専属プロフェッショナル”になる意識が求められます。
エアコン+サーキュレーターで効率よく冷却
夏場の室内温度管理には、エアコンとサーキュレーターの併用が効果的です。エアコンだけでは冷気が部屋の一部に偏ってしまうことがありますが、サーキュレーターを使って空気を循環させることで、室内全体を効率よく冷やすことができます。
ポイントは、ペットの寝床を風が直接当たらない場所に設置すること。風が当たりすぎると体を冷やしすぎてしまい、体調を崩す原因になることもあります。床に近い場所は冷気がたまりやすいため、サーキュレーターで空気を上下にかき混ぜるようにすると、冷えすぎも防げて安心です。
温湿度計を複数設置して環境を見える化
ペットが快適に過ごせるようにするためには、室内の温度や湿度を正確に把握することが大切です。リビングのエアコン付近だけでなく、ペットの寝床やケージの近くにも温湿度計を設置して、場所ごとの環境の違いをチェックしましょう。
特に夏場は、天井に近い場所や風の通らない場所が予想以上に暑くなっていることもあります。温湿度計を複数設置することで、どのエリアが熱がこもりやすいのかが「見える化」でき、必要な対策を早めにとることができます。
エアコンの効きすぎによる冷えや乾燥にも注意が必要です。温度と湿度の両方をチェックできるタイプを選ぶと、より安心して環境管理ができます。日々の小さな気配りが、大切な家族であるペットの健康を守ることにつながります。
ペット用クールグッズの正しい選び方

暑さ対策として人気のペット用クールグッズですが、ただ使うだけでは十分な効果が得られないことも。大切なのは、ペットの性格や年齢、生活環境に合わせて適切なものを選び、正しく設置・使用することです。ここでは、冷感マットやアルミプレートなどの選び方のポイントをご紹介します。
冷感マットやアルミプレートは使い方がポイント
冷感マットやアルミプレートは、ペットが「自分のタイミングで移動できること」が快適さのカギになります。ひんやりとした場所と、いつもの寝床のような普通の場所を両方用意してあげることで、ペット自身が気温や体調に合わせて最適な場所を選ぶことができます。
無理に冷感グッズの上で過ごさせようとすると、かえってストレスになってしまうことも。自由に選べる環境づくりが、快適な夏を過ごすための第一歩です。
素材・形状は性格や年齢に合わせて選ぶ
クールグッズはペットの性格や体の状態に合わせて選ぶことが重要です。たとえば、噛み癖がある子には中身が出てしまうジェルタイプのマットは避け、硬質アルミプレートや陶器タイルなど誤飲のリスクが少ないものを選びましょう。また、老犬や関節に不安のある子には、柔らかくて滑りにくい素材のマットがおすすめです。関節に負担をかけず、安心して横になることができます。
特に注意が必要なのは高齢のペットや自力で動けない子たち。冷たい場所から離れられず、深部体温が下がりすぎてしまうこともあります。特に高齢の犬や猫は皮下脂肪が少なく、体温を保持しにくいため、冷えすぎには十分注意しましょう。
クールウェアは体質を見て選ぶ
クールウェアなどの衣類タイプのグッズもありますが、犬は人間と違って汗をかかないため、「冷感素材」が本当に効果を発揮するのかは慎重に判断する必要があります。密着しすぎる素材は熱がこもる場合もあるため、体から少し浮いて通気性のあるデザインがおすすめです。
熱中症対策として、普段から体温を測る習慣をつけておくことも大切です。ペット用の体温計を使い、正しく測定しましょう。最近の人間用体温計は短時間で測れますが、ペット用とはセンサーの構造が異なるため、専用のものを使うのがベストです。嫌がらずに体温を測れるよう、小さい頃から学習理論に基づいた「陽性強化(ほめて慣らす)」でトレーニングするのがおすすめです。
留守番中の安全対策Q&A

ペットが快適で安全に過ごせるように、留守番中の環境づくりはとても重要です。特に夏場は室温の急激な変化や熱中症のリスクが高まるため、エアコンの使い方や水分補給、スペースの確保など、注意すべきポイントがたくさんあります。ここでは、ペットの健康を守るための基本的な安全対策について、よくある疑問にお答えしながらわかりやすく解説していきます。
タイマー設定は基本NG。つけっぱなしが安心
エアコンのタイマーが切れてしまうと、そのあと室温が急に上がり、ペットが熱中症になる危険があります。留守中でも、在宅時と同じようにエアコンをずっとつけておくと安全です。
ただし、エアコンの機種や製造年によっては注意が必要です。例えば、一部のエアコンには動くものが感知できないと自動的に運転を停止するセンサーが搭載されている場合があります。ペットが長時間動かないと、エアコンが意図せず止まってしまうことがあります。特に、足元で寝ている犬や猫など、動きが少ない場合でもエアコンが作動しているかどうか確認が必要です。
ペットが自由に動ける環境を整える
最近はペットをケージやサークルに入れて留守番させる家庭が増えています。しかし、狭い場所に閉じ込められると暑さを避けにくくなり、熱中症のリスクが高まることがあります。夜寝るときや安心できる場所としてケージを使うのは問題ありませんが、留守中はできるだけ自由に動けるスペースを用意し、ペットが自分で快適な場所を選べる環境を整えてあげましょう。
実際、猫や犬は自分で快適な場所を探す能力に優れています。ペットがどこで過ごしているのか、どの場所を好んでいるのかを日頃から観察することで、その子にとっての「ちょうどいい室温」や「快適な空間」が見えてきます。
停電・エアコンの不調への備え
停電やエアコンが故障したときに備えて、遮熱カーテンで日差しを遮ったり、冷却グッズを複数用意しておくことが大切です。冷感タイルや保冷ジェルマットを組み合わせると、より安心してペットを守ることができます。
水は複数設置&こまめに交換
暑い日には水が蒸発しやすく、一つの水入れだけでは足りないことがあります。ペットが移動して飲めるよう2〜3か所に置き、外出前にはしっかり水を補充しておきましょう。
夏は特に水が腐りやすいので、留守中の水の置き方には工夫が必要です。ペットが自由に動き回りながら飲めるように、水は複数の場所に置くのがポイントです。流れる水が好きなペットには、流水式の給水器もおすすめですが、全てのペットに合うわけではないので、性格や飲み方に合わせて選びましょう。また、倒れにくい容器を使って水がこぼれないように工夫することも大切です。ペットボトルを逆さにして飲ませる方法は、水が十分に飲めず脱水になる危険があるので避けましょう。また、日頃から水を飲んでいるときに、口や舌の動きを見てちゃんと飲めているか確認しましょう。
夏場の食事&水分補給で気をつけたいこと

夏は暑さでペットの食欲が落ちたり、水分補給が難しくなることも。体調管理のために、食事や水分の与え方を工夫しましょう。
食欲が落ちたときはどうする?
暑さのせいで食欲が落ちるのはよくあることです。無理に食べさせようとせず、食いつきの良いウェットフードに変えたり、食事の時間を早朝や夕方の涼しい時間帯にずらしてみましょう。
暑さで食欲が落ちることはよくありますが、実は動かないことで体重が増えてしまうケースも少なくありません。特に都心部では暑さのため散歩や遊びが制限され、運動量が減るため、食欲があまりなくても食事の量を調整せずに与えてしまいがちです。その結果、秋口になって食欲が戻ったときに体重が増えすぎてしまうこともありますので注意が必要です。
水分補給のコツ
水分補給が上手くいかない場合は、ゼリー状のおやつを使ったり、食事にスープを混ぜるなど水分を取りやすくする工夫が効果的です。ただし、冷たすぎる飲み物は胃腸に負担をかけるため、適度な温度を意識しましょう。
水分補給については、年を取ったペットは特に注意が必要です。歯が弱くなったり抜けてしまうと、うまく飲めなかったり噛めなかったりするため、水分をゼリー状のおやつや柔らかい食べ物で補うのも効果的です。また、食後の口腔内の清潔を保つことも大切です。唾液が減ると口内環境が悪化し、口臭や誤嚥性肺炎の原因になることもあるため、口の中を洗浄するなどケアをすることをおすすめします。
食べ残しには要注意
ウェットフードは特に傷みやすく、長時間放置すると食あたりのリスクが高まります。食べ残したらすぐに片付けて、清潔な環境を保つようにしましょう。
冷たいものばかり与えすぎない
夏でも冷たいものばかり与えるのは避けましょう。お腹を壊したり、食欲がさらに落ちる原因になることもあるので、あくまで補助的な対策として使うのがポイントです。
子犬や子猫の場合は、まだ消化機能が未熟なため、水分の与えすぎに注意が必要です。離乳期はミルクやふやかしたフードで様子を見ながら与え、下痢など体調の変化があればすぐに動物病院に相談しましょう。また、成長に合わせて徐々に固形のドライフードに切り替え、新鮮な水をいつでも飲めるようにしておくことが大切です。
まとめ

夏はペットにとって命に関わる危険が潜む季節です。エアコンをつけていれば安心と思いがちですが、室内の温度や湿度の細かな変化、熱がこもる場所、そして留守番中のトラブルなど、気をつけるべきポイントはたくさんあります。
「うちの子は大丈夫」と過信せず、室温・湿度の管理や冷却グッズの活用、そして食事や水分補給の工夫をしっかり行うことが、ペットの健康を守るために欠かせません。今年の夏は、あなたのちょっとした気遣いで、大切なペットが快適に過ごせるようサポートしましょう。
まずは、自分のペットの状態をよく観察し、口の中の脱水や体温の変化など、細かな変化にも気づけるようになりましょう。また、犬と猫は身体の仕組みや感染リスクが異なるため、マニュアル通りにするだけでなく、日々の様子をしっかり見て、柔軟に対応してあげることが、健康で安心できる暮らしにつながります。ペットも人間と同じようにそれぞれ違う個性があります。愛情と気配りをもって、毎日を過ごしてくださいね。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。