秋風が涼しく感じられる頃、野山には秋の草花が咲きはじめます。その中でも「秋の七草」は、古来から日本人が愛でてきた 代表的な野草です。本記事では秋の七草の由来・見どころ・開花時期・鑑賞スポットや暮らしへの取り入れ方までをご紹介します。
秋の七草とは何か

秋の七草とは、秋の野に自生する七種の草花のことで、具体的には萩、尾花(ススキ)、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗を指します。色や香り、佇まいを通じて秋の深まりを味わう日本の鑑賞習慣です。
起源は万葉集に詠まれた歌
起源は奈良時代に遡ります。歌人・山上憶良が『万葉集』の一首で「秋の野に咲きたる花を指折りかき数へば七種の花」と詠み、この歌の続きで「萩の花 尾花 葛の花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花」と七種を並べました。
この列挙が詩的な季節表現として広まり、和歌や生け花、茶花などの鑑賞文化に取り入れられて定着したのが現在の「秋の七草」の始まりです。
ところで、万招集の「朝貌(あさがお)の花」は桔梗とされるのが一般的ですが、現在の朝顔のことではないかという説もあります。
しかし、朝顔は平安時代以降に中国から伝わった植物で、万葉の時代にはまだ存在していなかったとされます。
そのため、朝貌(あさがお)の花は、古くから日本に自生し、”朝に花を開き夕方に閉じる”桔梗のことを指していると解釈されているようです。
春の七草との違い
春の七草は「七草粥」に用いて無病息災を祈願する食文化である一方、秋の七草は野山に自生する草花を「見る」ことで季節の深まりを感じる鑑賞文化です。
「食する」のではなく、その花の色や姿かたち、香りから「季節を楽しむ」という点が大きく異なります。
秋の七草の特徴と見どころ

秋の七草一つひとつの形・色・香り・生育のし方に着目して、その鑑賞ポイントをご紹介します。
萩(はぎ)

萩はマメ科の低木で、枝先に細長い房状の小花が連なります。色は薄紫や白が多く、風に揺れる姿が野趣を醸し出します。生育場所は山道や林縁、里山の斜面で、見頃はおおむね8〜10月です。
枝先のシルエットを意識することで、夕方ややわらかな光の下で房の透け感が引き立ちます。観賞する際は、枝先の小花が少し揺れる程度の風がそよぐ、晴れた日の夕方がおすすめです。
尾花(おばな)=ススキ

尾花とはススキのことです。ススキはイネ科の多年草で、銀白色の穂が秋風にそよぎます。群生地では白銀色の穂が風により揺らぐ景色は圧巻です。ススキの撮影は、風と光線の具合を確認して白銀色の波の動きを捉えると素敵な1枚になるでしょう。
見頃は8〜10月で、月見の風習と結び付きやすいため夕暮れの時間帯が特におすすめです。
葛花(くずばな)=クズ

クズはつる性の植物で、枝を伸ばしてフェンスや他の植物に絡みます。淡紫から白の房状の花を垂らし、ほのかに甘い香りを放つことがあります。また、クズの根から作る葛粉は、透明でプルプルとした食感が楽しめる関西風の葛餅の原料になります。
生育場所は林縁や河畔が多く、開花は8〜9月が目安です。クズの花を見つける際は茂みを探すのがポイントです。
撫子(なでしこ)

撫子は、ナデシコ科の小型植物で、野生種ではカワラナデシコが代表的です。切れ込みのある繊細な花弁が特徴的で、微妙な色合いが魅力です。園芸種は赤やピンク、八重咲きや花弁がフリルになるものなど種類も多く楽しめます。カワラナデシコの開花期は7〜9月頃、園芸種の多くは四季咲きです。
撫子の花言葉「純愛・貞操・無邪気」や「大和撫子」のイメージとも結びつくため、俳句や短歌の題材にも使いやすい素材です。
女郎花(おみなえし)

女郎花はオミナエシ科の多年草で、小さな黄色い花が多数集まって房を作ります。実は黄色なのは花だけではありません。つぼみや茎までも黄色い色素が含まれ遠目に見ると、すべてが花のように見えるはずです。群生すると丘や斜面が黄金色に見え、遠景で見ごたえがあります。
見頃は7〜9月で、撮影する場合は広角で風景として撮ると色のインパクトを活かせます。
藤袴(ふじばかま)

藤袴はキク科の草本で、淡い紫色の小菊状の花が房状に揺れる姿が印象的です。「藤色の花が袴のように見える」ことが名前の由来とされています。
藤袴は生ではほとんど香りはありませんが、葉や茎を乾燥させることで甘く桜餅のような芳香がします。湿り気のある草地や林縁を好み、開花はおおむね8〜10月です。
藤袴の自生は非常に稀で、多くの地域で絶滅危惧種や純絶滅危惧種にしていされています。河原などで藤袴を見つけても採取は避け、撮影やスケッチで楽しみましょう。
朝貌(あさがお)=桔梗(ききょう)

桔梗はキキョウ科の花で、一般的には星形の花弁と澄んだ青紫が特徴ですが、園芸店では品種改良された白やピンク八重咲きなどの花もあるようです。
咲き方が端正で、茶花や句材として扱いやすい性格を持っています。一般的な開花期は6〜9月ですが、秋にをじさせる色合いとして季語に定着しています。
朝に開き、夕方には閉じるはかなさが、秋の涼やかさや物寂しさを感じさせます。
秋の七草を生活に取り入れる方法

ここからは生花や俳句、押し花やドライフラワーなど、日常で七草を楽しむ具体的な手法と実践のコツをご紹介します。
茶花や生け花のアレンジ
萩や桔梗、尾花は一輪挿しや小さな生け込みで季節を伝えやすい素材です。
一輪挿しであれば華道の心得が無くても気軽に玄関やテーブルに飾ることができるのでおすすめです。小さな生け込みであれば、桔梗とススキのアレンジはいかがでしょう。紫の桔梗の清雅さとススキの穂の柔らかな白が秋を演出してくれるはずです。
秋の七草7種をすべて使うアレンジはハードルが高いので、気に入った花材を器のサイズに合わせて選らんでみましょう。長さの違う枝を用いて「線」を作ると野趣が出ますし、主役を決めて脇役は控えめにすると落ち着いた佇まいになりますよ。
花材を扱う際は葉や茎の向きに注意して、素材が本来持つ形を尊重するのが美しくまとめるポイントですね。
俳句・短歌で詠む
「俳句や短歌は難しくて・・・」と思っている方も多いのではないでしょうか。俳句は、五・七・五の17文字で構成し、季節を表す「季語」を1つ入れた短い詩です。短歌は、五・七・五・七・七の31文字で構成し、季語を入れるなどの決まりもないため俳句よりも自由に表現できるといえます。
家族や友人と肩ひじ張らず、季語・モチーフを秋の七草に絞って俳句や短歌を詠んでみるのも楽しいかもしれません。草の色や香り、秋風を感じながら、目の前の風景を表現してみましょう。
俳句では季語(萩・尾花など)を1つ置き、一瞬の情景を五・七・五の中で切り取ることが要です。余韻を残すテクニックとして、「や・かな・けり」などの”切れ字”や対照的なことを並べることで印象を強める”対比”を使うことで短い句でも深みが出ます。
短歌では五・七・五・七・七の流れを利用して、前半で情景を描き、後半で心情や解釈を添えることで物語性を生み出せます。短歌に季語を使う決まりはありませんが、萩・尾花といった季語があると季節感や奥行が広がります。
押し花・ドライフラワー
撫子や萩は「押し花」、女郎花や藤袴は風合いを残す「ドライフラワー」に適しています。
押し花は新聞紙と重しでじっくり水分を抜き、仕上がったら耐酸性の台紙に貼ると劣化を抑えられます。ドライフラワーは風通しのよい暗所で逆さに吊るすと色が比較的長持ちします。
押し花はグリーティングカードにすると素敵です。台紙に押し花を配置し、フィルムやラミネートシートで覆うと完成です。また、シンプルな額に押し花をデザインしたり、ドライフラワーをリースの一部として暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。
まとめ:秋の七草で秋の深まりを楽しもう

秋の七草は、山上憶良の歌に端を発する野趣豊かな植物文化です。野山を歩いて実物を見つける散策も、茶花やドライフラワーにして室内に季節を取り込む暮らしの工夫も、どちらも秋を深く味わう手段です。
まずは比較的身近にあるススキやクズなどを見つけて、色や香り、風になびくリズムに意識を向けてみてください。観察した記録を写真や短歌に残すと、季節の記憶がより豊かになります。ぜひ、近くの公園や植物園、里山に、秋の七草を探しに出かけてみましょう。
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