近年、スマートフォンやパソコンを使って医師の診察が受けられる「オンライン診療」が急速に広がっています。通院の負担が減り、気軽に相談できる便利さから、忙しい方や遠方に住む方にとっては心強い選択肢となっています。
しかし一方で、「そんな診察できできるの?」「診察料は高くなる?」「薬はどうやって届くの?」といった不安の声も少なくありません。
本記事では、オンライン診療を安心して利用するために、知っておきたいデメリットや注意点、上手な活用法を、オンライン診療に詳しい皮膚科医・松野藍さんにわかりやすく解説していただきました。
オンライン診療とは?まずは基本をおさらい

スマートフォンやパソコンを使って、自宅などから医師の診察を受けられる新しい診療スタイルが「オンライン診療」です。通院の手間を省き、より身近に医療とつながれる手段として注目を集めています。
ここでは、オンライン診療の基本的な仕組みや流れ、対面診療との違いなどを解説します。
オンライン診療の仕組みとは
オンライン診療とは、スマートフォンやパソコンを使って、医師とビデオ通話などを通じて診察を受ける仕組みです。利用者は専用のアプリやウェブサイトから診療予約を行い、問診票に症状や経過、既往歴などを入力します。
場合によっては写真やデータを事前に送信することで、医師が診察前により詳しく状態を把握することができます。
予約時間になるとオンライン上で診察が始まり、問診や視診(視覚的な確認)をもとに診断が行われます。診察後は、必要に応じて処方箋が発行され、薬は自宅に郵送されるか、薬局で受け取ることが可能です。診療後のフォローとして、再診の予約や経過報告の連絡を求められることもあります。
こうした一連の流れにより、自宅などで医師の診察を受けられるのがオンライン診療の特徴です。
対面診療との違いとは?
オンライン診療は、スマートフォンやパソコンを使って医師とつながる診療スタイルで、通院の手間を省き、自宅や職場などから手軽に受診できるのが大きな特徴です。一方、対面診療では、医師が直接触れたり、聴診器や検査機器を用いた詳細な診察ができるという強みがあります。
オンライン診療では、主に問診や視診(画面越しの確認)を中心に診療が進むため、軽度の症状や経過観察、定期的な薬の処方などに適しています。症状によっては、オンラインで十分な対応が可能な一方、検査や処置が必要なケースでは対面診療が推奨されます。
オンライン診療が注目される背景
近年、オンライン診療が注目を集めている背景には、いくつかの社会的・技術的な変化があります。まず、スマートフォンや高速通信の普及により、ビデオ通話や画像共有などが低遅延・高品質で利用可能となり、遠隔での医療相談が技術的に成立する土壌が整ってきたことがひとつの要因です。
加えて、コロナ禍での外出制限や対面診療へのリスクが浮き彫りになったことが、感染予防の手段としてオンライン診療の需要を急速に高めました。
また、医療政策の面でも、医療DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進や保険制度・オンライン診療ガイドライン等の整備が進んでおり、公的にも利用が後押しされていることも大きな要因です。
こうした動きが合わさることで、オンライン診療は「時間・場所を問わない医療アクセス」「通院に伴う負担軽減」「医療の選択肢の多様化」というニーズを満たす新しいスタンダードとして注目されてきています。
知っておきたいオンライン診療のデメリットと注意点

便利で身近な医療手段として広がるオンライン診療ですが、対面と同じようにすべての症状にに対応できるわけではありません。
トラブルを防ぎ、安心して活用するためには、事前に知っておきたいデメリットや注意点をしっかり押さえておくことが大切です。
医療機関ごとに異なる「システム手数料」
オンライン診療は保険診療の対象となりますが、初診料は原則として対面診療よりも低く設定されています。しかし、対面診察にはない「システム利用料」というものが発生します。
これは、ITインフラの維持費や、患者サポートの運営コストなどを補う目的で医療機関が設定しているもの。設定金額については医療機関ごとに自由に決められるため、数百円〜数千円と差があるのが現状です。
診療内容や保険適用は同じでも、実際の自己負担額は「診察料+システム利用料」などの合算で変わることがあるため、予約時には必ず事前に料金の内訳を確認しておくと安心です。
重症・急性の症状は診察できない
オンライン診療は、比較的軽度の症状や経過が安定している持病の診療には便利ですが、急に悪化した症状や緊急性の高い病状には対応できません。
例えば、高熱を伴う発疹、急激に広がる皮膚症状、外傷や腫れを伴う痛みなどは、画面越しの情報だけでは判断が難しく、対面での視診・触診・検査が必要とされます。
また、命に関わるような状態(強い呼吸困難、激しい腹痛、意識障害など)は、一刻も早く救急受診が推奨されるケースであり、オンライン診療には不向きです。オンラインはあくまで「医療の選択肢のひとつ」であり、症状や状況に応じて使い分ける判断が求められます。
サイトやアプリへの会員登録が必要なケースも
オンライン診療を受けるには、多くの場合で専用のサイトやアプリへの会員登録が必要になります。診療前に氏名・住所・生年月日・保険証画像などの個人情報を入力したり、SMS認証やパスワードの設定などを求められることもあるため、煩雑さを感じる方がいるのも事実です。
薬の配送料がかかるケースも少なくない
オンライン診療で処方された薬は、自宅への配送を希望すると別途送料がかかることがあります。送料の有無や金額は医療機関によって異なり、数百円程度の負担が発生することが一般的です。
対面診療では薬局での受け取りが主流のため、こうした費用がかからない場合が多く、「思わぬ出費だった」と感じる方もいます。便利さと引き換えに発生するコストとして、送料の有無や受け取り方法を事前に確認しておくと安心です。
オンライン診療の上手な使い方とは

オンライン診療は工夫次第で不安や不便を減らし、安心して活用することが可能です。
ここからは、よくあるデメリットへの対処法や、診療をスムーズに進めるためのポイントをご紹介します。
状況に応じて対面との使い分けを
オンライン診療は、自宅や職場から気軽に受診できる便利な方法ですが、すべての症状や状況に適しているわけではありません。軽い風邪や慢性疾患の定期処方、肌トラブルの経過観察などには向いていますが、検査が必要な症状や緊急性のある体調変化には、対面診療が必要です。
大切なのは、症状の内容や自分の体調、必要な対応に応じてオンラインと対面を上手に使い分けることです。無理にオンラインだけで完結させようとせず、必要に応じて医療機関と相談しながら柔軟に選ぶことが、安全で安心な受診につながります。
信頼できる診療サービスや医師を選ぶ
オンライン診療は、全国どこからでも利用できる便利な仕組みだからこそ、信頼できる医師やサービスを選ぶことが大切です。診療内容や料金が明確か、診療後のフォロー体制はあるかなど、事前にチェックしておきましょう。
24時間対応のサービスも増えており、ライフスタイルに合った選択がしやすくなっています。安心して利用するために、情報をよく確認して納得のいく診療先を選びましょう。
通信環境や操作方法を事前にチェック
オンライン診療をスムーズに受けるためには、通信環境とデバイス操作の事前準備をしておくと安心です。
具体的には、
・スマートフォンやタブレットが正常に動くか、カメラ・マイクの動作を確認
・アプリやWebサイトのログイン〜保険証登録などの操作を事前に試してみる
・写真撮影をするなら、光の当たり方やアングルを工夫して、見やすい画質で患部が分かるように撮る
これらをあらかじめ確認しておくことで、診察時のトラブルや時間のロスを防ぐことができ、医師とのやり取りもスムーズになります。とくに初めてオンライン診療を利用する方や、機械の操作に不安がある方は、余裕を持って準備しておくと安心です。
オンライン診療をおすすめできるケース・できないケース

オンライン診療は便利な反面、すべての症状に対応できるわけではありません。
ここからは、どんなときにオンライン診療が向いているのか、反対に対面での受診が必要なケースとはどんなものかを、わかりやすく解説します。
オンライン診療が向いているのはこんな人
オンライン診療は、「忙しくて通院の時間が取りにくい」「病院が遠くにある」といった方にとって非常に便利な選択肢です。特に、以下のような状況に当てはまる方には、オンライン診療が大きな助けになります。
・風邪や皮膚トラブルなど軽度の症状で受診したい
  症状が安定しており、検査や処置が必要ない場合にはオンラインで十分対応できます。
・持病の定期処方や経過観察が目的の方
  高血圧・花粉症・ニキビなど、慢性疾患で通院がルーティンになっている方には特に有効で す。
・子育て・介護中で外出しづらい方
  自宅で診察が受けられるため、外出が難しい方にとって大きな負担軽減になります。
・通院に負担を感じている高齢者や遠方の方
  交通機関の利用が難しい場合や、近くに専門医がいない地域にお住まいの方にも適しています。
このように、オンライン診療は「手軽さ」と「負担の少なさ」が魅力です。状況に合えば、生活の中に上手に取り入れることで医療との距離をぐっと縮めることができます。
オンライン診療では対応ができないケース
オンライン診療は便利な反面、すべての症状や医療行為に対応できるわけではありません。特に、以下のようなケースでは対面での診察や検査が必要とされます。
・検査や処置が必要な症状
 腹痛や動悸、発熱の原因を特定するためには、血液検査・画像検査・触診などが必要になることが多く、オンラインでは判断が難しい場合があります。
・症状が急激に悪化しているとき
 発疹が急に広がる、出血を伴うけが、呼吸の異常など、緊急性が疑われる症状は、すみやか     に対面または救急を受診するのが安全です。
・処方薬の内容や量に制限があるケース
 睡眠薬・向精神薬など、一部の薬はオンラインでは処方ができない・制限がある場合があります。
オンライン診療はあくまで「対面診療の代替手段」ではなく、「適した場面で活用する新しい選択肢」です。症状の内容や緊急度によって、適切な診療方法を選ぶ判断力が求められます。
まとめ:症状に応じて賢くオンライン診療を活用しよう

オンライン診療は、時間や場所にとらわれずに医師とつながれる、現代の医療スタイルのひとつです。軽度の症状や定期的な薬の処方、通院が難しいときなどには非常に便利な選択肢となります。
一方で、すべての症状に対応できるわけではなく、診断や処置に制限があることも理解しておく必要があります。
大切なのは、オンラインと対面の特性を正しく理解し、症状や状況に応じて使い分けること。信頼できる医師やサービスを選び、通信環境や費用の確認などもしっかり行うことで、より安心して活用できるはずです。自分の健康を守る手段として、オンライン診療を賢く取り入れていきましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。