都市と地方、どちらか一方を選ぶのではなく、両方を行き来しながら暮らす「二拠点生活」。
テレワークの普及や働き方の多様化、自然志向の高まりなどを背景に、「週末は自然豊かな場所でリフレッシュしたい」「子どもに地方でのびのびとした環境を体験させたい」といった理由から、二拠点生活を検討する方も増えています。
とはいえ、実際に始めるとなると「どんな準備が必要?」「費用はどれくらい?」「どこに拠点を持てばいいの?」といった疑問が次々と浮かぶもの。
この記事では、実際に世界の他拠点生活を送る近藤ナオさんの体験談をもとに、後悔しないための準備や工夫を紹介します。理想だけでなく、現実の課題や乗り越え方も一緒にチェックして、自分に合った暮らし方のヒントを見つけてみてください。
なぜ今、二拠点生活が注目されているのか?

近年、ライフスタイルの選択肢が急速に広がる中で、二拠点生活(デュアルライフ・二地域居住)が注目を集めています。
二拠点生活とは、都市と地方といった異なる地域に生活の拠点を持ち、それぞれの利点を活かしながら暮らすスタイルのことです。
都市の利便性を享受しつつ、自然の豊かさや地域コミュニティのつながりも大切にしたいというニーズに応える形で広がっており、その背景には下記のような社会的変化があります。
リモートワークの定着で“生活の場所”が自由に
新型コロナ禍や「働き方改革」により、企業のテレワーク導入が進みました。パソコン1台あれば会社に出勤しなくても働ける環境が整備され、“住む場所”に縛られない働き方ができるようになりました。都市でも地方でも仕事ができる、人が自由に動ける時代になったのです。
都市部の生活コストとストレスの上昇
都心では住居費や物価が上昇し、混雑や騒音などのストレスも常態化。自然が少なく、心の休まる場所が見つけにくい環境に疲れを感じる人も増えています。
そんなストレスの多い都市部での生活の中で、二拠点生活者への調査では7割以上の方が「生活満足度が上がった」と答えています。特に「オン/オフの切り替えがしやすくなった」「創造的な仕事がはかどった」といった声が多く見られます。
地方移住・二拠点生活支援策の充実
完全移住よりハードルが低いとして注目されている二拠点生活ですが、令和6年(2024年)11月には「改正広域的地域活性化基盤整備法(二地域居住促進法)」が施行され、自治体の支援体制が整備されました。
また、お試し移住や体験会、空き家活用・シェアハウス・トレーラーハウスなど、住まいの多様化も進んでおり、地方でも比較的低コストで拠点を持ちやすくなっています。
参照元:国土交通省|二地域居住について
地方創生と地域活性化の視点でも期待
二拠点生活の促進により地方への人の流れが生まれることで、消費・雇用・地域づくりにプラスになるという見方も強まっています。
二拠点生活者による地域交流や副業参入が、地域の担い手や後継者確保につながるとの期待も高く、地方活性化のひとつの担い手として政策的にも後押しされています。
二拠点生活の最大のメリットは生活の安心感と柔軟性です。都市と地方、両方に拠点を持つことで、災害や仕事環境の変化といった予期せぬリスクを分散できるのです。
さらに、地方での生活を通じて地域の人々とのつながりが生まれ、孤立することなくコミュニティに支えられながら暮らせるのも大きなメリットといえるでしょう。
二拠点生活の基本スタイル

二拠点生活というと「平日は都市、週末は地方」というイメージが一般的ですが、実際にはもっと多様です。
たとえば、夏は涼しい高原、冬は温暖な地域と、季節ごとに拠点を移す方もいれば、実家と都市を行き来する“Uターン型”もあります。
仕事や家族の状況に合わせ、柔軟に組み立てられるのが二拠点生活の魅力です。働き方やライフステージによって選べるスタイルが幅広いため、自分に合った暮らし方を模索できる点も、二拠点生活が注目を集める理由のひとつといえるでしょう。
二拠点生活は魅力的ですが、誰にでも簡単にできるわけではありません。安心して過ごせる居場所を持つことは、生き物としての心の安定に直結します。
また、東京と地方では生活スタイルが異なるため、切り替えには体力も必要で、慣れないうちは負担に感じる方も少なくありません。
そのため、二拠点生活は「全員がやるべきもの」と考えるのではなく、自分が心地よく過ごせる場所を確保することが何より大切です。
二拠点生活を始める前に考えておきたいポイント

理想的な暮らし方に見える二拠点生活ですが、始める前にはしっかりと準備と検討が欠かせません。
たとえば「移動の負担をどうするか」「維持費や固定費をどこまで許容できるか」など、現実的な課題も多くあります。
近藤さんも「気持ちだけで始めてしまうと続けられなくなる。自分の働き方や家族の生活リズムに合うかを見極めることが大事」と話しています。憧れを現実にするために、事前に考えておきたいポイントを整理してみましょう。
生活コストと収入のバランス
二拠点生活は「住居が2つになる」ため、固定費が増えるのは避けられません。また、地域によっては車の購入やガソリン代、冬場の光熱費などの支出が増えるケースもあります。
家賃や光熱費が二重になるので、まずは自分の収入と支出のバランスを試算することが大切です。自治体の移住支援や補助制度を活用できるかどうかも、検討材料になるでしょう。
拠点となる住まいの確保は慎重に
二拠点生活を続けるうえで大きな鍵を握るのが「どこに、どんな住まいを持つか」です。
賃貸にするか、購入するか、シェアハウスや短期滞在型の施設を活用するかなど、ライフスタイルや利用頻度によって選択肢はさまざま。
特に最初は“お試し”の感覚で短期滞在型から始めてみると、無理なく続けやすい拠点づくりにつながります。
家賃や光熱費が二重になるので、まずは自分の移動が苦にならない距離かどうか、住まいの維持管理が負担にならないかは重要です。良い物件が出たからといっていきなり購入するのはおすすめできません。住まい選びは慎重に進めましょう。
コミュニティーマネージャーとの関わり
二拠点生活では、拠点となる地域の人々との関わりが暮らしの満足度を左右します。地域の情報の収集やイベントへの参加など、住民との交流がスムーズにできることが大切です。
そこで重要なのが、地域住民との橋渡しの役割を担う「コミュニティマネージャー」です。地域の情報提供やイベントの案内、住民との交流のサポートなど、生活のハブとなる存在で、特に移住初心者や短期滞在者にとっては心強い支えとなります。
地域とのつながりをどう築くかで、暮らしの充実度が変わります。
単に住むだけでは地域に溶け込めません。とはいえ、地元の人とつながるのも簡単ではありません。地域にうまく馴染むには、コミュニティマネージャーのように、地域との接点を作ってくれる人が欠かせません。早く地域の人たちとつながることで、生活が格段にスムーズになりますよ。
移動時間とアクセス
週末や季節ごとに移動するとなると、移動のしやすさは重要です。
近藤さんご自身も「車で2時間以内で行ける場所を選んだので、気軽に通えるので続けやすかった」と振り返っています。新幹線やLCC、リモートワークの活用も含めて、アクセスの良さを考えておきましょう。
地方に来ると、都市ではできないさまざまな仕事や経験が可能です。
例えば、東京では美容師として働きながら、地方では漁協での仕事やパン屋、ペンションのベッドメイクなど、さまざまな仕事に挑戦することができるかもしれません。こうした多様な経験を重ねることで、どんな状況でも柔軟な発想ができるようになるでしょう。
二拠点生活の費用と予算のポイント

二拠点生活を始めるにあたっては、費用面の計画が重要です。住居が2つになることに加え、交通費や光熱費などもかかるため、あらかじめ予算感を把握しておくことで安心して暮らせます。
ここからは、初期費用や月々の生活コストの目安と、コストを抑える工夫について紹介します。
初期費用と月々の生活コストの目安
二拠点生活では、生活拠点が増えるため、家賃や光熱費、交通費などの費用が増加します。
まずは各拠点でかかる費用の目安を確認し、自分の収入と支出のバランスを整理しましょう。
自治体の移住支援制度や補助金を利用すれば、初期費用を抑えることも可能です。
費用を抑えるための工夫
費用を抑えながら二拠点生活を始めるためには、短期滞在型の賃貸やシェアハウス、自治体の移住お試し住居や空き家の活用もおすすめです。
特に最初は“お試し滞在”として利用することで、生活費を抑えつつ二拠点生活に慣れることができます。無理のない予算設定と工夫が、長く続けるポイントです。
空き家を活用したコミュニティマネージャー付きのシェアハウスも、二拠点生活には有効です。私が運営する下田のコミュニティハウスでは、高齢夫婦の空き部屋を活用し、安価に滞在しながら地域に馴染める仕組みを整えています。
さらに、コミュニティマネージャーが地域の情報やイベントを紹介してくれるため、生活の拠点と地域とのつながりが自然に広がり、暮らしがスムーズになります。
まとめ:理想の二拠点生活は、まず試すことから

二拠点生活は特別な人だけのものではなく、工夫次第で誰でも実現できるライフスタイルです。最初から完璧を目指すのではなく、短期滞在やお試し拠点を活用して“まず体験する”ことが大切。
自治体のサイトや実践者の事例を参考にしながら、自分に合ったペースやスタイルを見つけ、無理なく理想の暮らしを形にしていきましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。