賃貸経営において、入居者の退去時に発生する原状回復費用は避けて通れない課題の一つです。「どこまでを入居者に請求でき、どこからが自己負担になるのか」を正しく理解していないと、思わぬトラブルに発展しかねません。
この記事では、賃貸オーナーや不動産投資家の方に向けて、国土交通省のガイドラインに基づく費用負担の考え方から、具体的な修繕相場、トラブル回避策までを解説します。
- 原状回復費用の定義とオーナー・入居者の負担区分
- 壁紙や水回りなど場所別の修繕費用の相場目安
- 入居者との原状回復トラブルを防ぐための具体的な対策
- トラブル発生時の対処法と専門家への相談方法


賃貸の原状回復費用とは?オーナー負担の原則とガイドライン

賃貸物件の原状回復をめぐっては、オーナーと入居者の間で認識のずれが生じやすく、退去時にトラブルとなることがあります。こうした問題を防ぐため、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定しています。
このガイドラインでは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。つまり、原状回復とは「入居者が借りた当時の状態に戻すこと」ではありません。
引用:国土交通省|「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
ガイドラインでは、経年劣化や通常損耗による修繕費用は賃料に含まれるものとされ、原則としてオーナー(貸主)の負担となる考え方が示されています。一方、入居者の故意・過失による損傷は入居者負担です。
国民生活センターによると、賃貸住宅に関する相談のうち原状回復に関するものは約4割を占めています。2024年度の相談件数は13,277件に上りました。オーナーとしては、正しい知識を持ったうえで適切に対応することが、円滑な賃貸経営につながります。
オーナーが費用負担するケースと具体例
経年劣化や通常損耗に該当する損傷は、原則としてオーナー負担となります。つまり、これらの費用は入居者へ請求できません。
オーナー負担となる主な事例は以下のとおりです。
- 日照による畳やクロスの変色(日焼け)
- 家具や家電(冷蔵庫・テレビなど)の設置による床のへこみや壁の電気ヤケ(黒ずみ)
- ポスターやカレンダーを貼った程度の画鋲の穴(下地ボードの張替えを要しない程度)
- 湿気によるパッキンの黄ばみや、フローリングの自然な色落ち・ひび割れ
- 網戸や障子の自然的な劣化
次の入居者を確保するための設備グレードアップや、経年劣化による給湯器の故障対応もオーナー負担となります。
また、地震や台風など不可抗力による自然災害で生じた損傷(ガラス破損など)についても、オーナーが修繕費用を負担するケースに該当します。これらはいずれも原則として入居者への請求はできず、オーナーが自己負担すべき費用です。
入居者に請求できるケースと具体例
入居者の故意・過失や善管注意義務違反に該当する損傷は、原状回復費用として入居者へ請求できます。ガイドラインでも、これらは賃借人に原状回復義務があるとしています。
入居者に請求できる主な事例は以下のとおりです。
- 喫煙によるタバコのヤニ汚れや臭いの付着(壁紙の黄ばみなど)
- 飼育ペットによる柱や床のキズ、臭いの染みつき(特にペット不可物件や管理規約違反の場合)
- 飲みこぼしや結露、水漏れを放置したことによる床のシミ・カビ・腐食
- 日常の清掃を怠ったために発生した水回りの水垢やカビ、油汚れ(浴室、トイレ、キッチン)
- 引越し作業や模様替え時につけた不注意による壁や床のキズ
- 鍵の紛失や破損による交換費用
- 壁への釘やネジによる大きな穴(下地ボードの張替えが必要な程度)、落書き
入居者には「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」があり、これに違反して生じた損耗は入居者負担となります。通常の清掃を怠ったことによる汚損や、用法違反による毀損もこれに該当します。
なお、請求できる場合であっても、経年劣化分や耐用年数を考慮した「残存価値」までが上限となる点に注意が必要です。
【場所別】オーナーが負担する原状回復費用の相場目安

原状回復費用は修繕箇所や範囲によって大きく異なるため、事前に相場を把握しておくことが重要です。業者や時期によって費用は変動し、選ぶ素材のグレードによっても価格差が出ます。
以下で紹介する相場はあくまで修繕にかかる一般的な目安であり、入居者へそのまま請求できる金額を示すものではありません。正確な費用を把握するためには、複数の業者から見積もりを取ることが大切です。
壁紙・床材の張り替えにかかる費用
壁紙(クロス)の張り替え費用は、通常タイプで1平方メートルあたり800円〜1,500円程度が目安となっています。防カビや消臭機能付きのクロスを選ぶ場合は、2,000円〜3,000円程度に上がります。
なお、クロスの耐用年数は6年とされており、経過年数に応じて入居者の負担割合は減少します。
床材ごとの張り替え費用相場は以下のとおりです。
| 床材の種類 | 張替え費用(目安) |
|---|---|
| クッションフロア | 約3,000〜5,000円/㎡ |
| フローリング | 約7,000〜12,000円/㎡ |
| 畳(表替え) | 約4,000〜8,000円/1枚 |
| 畳(新調) | 約10,000〜18,000円/1枚 |
| カーペット | 約4,000〜8,000円/㎡ |
壁に開いた穴の補修費用は大きさによって異なります。30cm以上の大きな穴で石膏ボードの交換(下地処理含む)が必要になる場合は、25,000〜70,000円程度の費用が発生します。
水回り設備の交換や補修にかかる費用
システムキッチンやユニットバスの交換は高額になりやすい項目です。全体交換か部分補修(浴槽塗装など)かで費用は大きく異なります。ただし、水回り設備は経年劣化による部分が大きいため、原状回復として入居者に請求できるケースは限定的である点に留意が必要です。
トイレや洗面所などの設備交換にかかる費用の目安は以下のとおりです。
| 交換箇所 | 工事費用(相場) |
|---|---|
| トイレ本体 | 約10〜35万円 |
| ウォシュレット | 約3〜8万円 |
| 洗面台本体 | 約10〜20万円 |
| 洗面ボウル | 約3〜10万円 |
水回りのパッキン交換など軽微な修繕であれば、2,000円〜6,000円程度で済むこともあります。
ハウスクリーニングやエアコン等の設備費用
ハウスクリーニング費用は部屋の広さ(間取り)によって相場が異なり、広くなるほど高額になります。
| 間取り | 費用相場 |
|---|---|
| 1R・1K | 15,000〜25,000円 |
| 1DK | 20,000〜30,000円 |
| 1LDK | 25,000〜40,000円 |
| 2LDK | 35,000〜55,000円 |
| 3LDK | 45,000〜70,000円 |
| 4LDK〜 | 55,000〜90,000円 |
エアコンや給湯器を交換する際は、本体費用に加えて既存設備の撤去処分費用(3,000円〜5,000円程度)が発生する場合があります。リサイクル料(990円)、収集運搬費用(概ね1,000~3,000円)をふまえると6,000~1万円程度は想定しておくとよいでしょう。
さらに、エアコンの内部洗浄やレンジフードの清掃、浴室の防カビコーティングなどはオプション扱いとなり、追加費用が必要です。
なお、クリーニング費用は契約書の特約の有無で扱いが変わります。特約で入居者負担と定めている場合は入居者へ請求できますが、特約がなければ原則としてオーナー負担となります。
原状回復費用で入居者と揉めないためのトラブル回避術

原状回復トラブルを未然に防ぐためには、退去時だけでなく入居時や契約時の対応が重要となります。契約書の内容が曖昧なままだと、退去時に「言った」「言わない」の水掛け論に発展しかねません。
こうした事態を避けるためには、明確なルール設定と記録の保存が重要です。
入居時の状態を写真やリストで記録する
入居前からあった傷か入居中についた傷かを区別するために、入居前の室内状況を写真や動画で記録しておきましょう。撮影日時が記録される形で残しておくと、退去時の証拠として有効です。
「入居時チェックリスト」を作成し、入居者に記入・サインをもらう方法も効果的です。壁や床、設備の状態を双方で確認し書面に残すことで、退去時のトラブルを防ぎやすくなります。
日付入りの写真や詳細な記録を残すことが、正当な請求を行うための根拠となります。
契約書に特約事項を明記し説明する
クリーニング費用や原状回復の範囲については、賃貸借契約書に特約として明記しておくことが有効です。契約時に入居者へ十分説明し、内容を理解してもらったうえで署名捺印を得ることが重要となります。
「敷引き特約」を利用し、あらかじめ原状回復費用を敷金から差し引く取り決めをしておく方法もあります。これにより、退去時の費用精算をスムーズに進められるでしょう。
ただし、国土交通省のガイドラインに沿った内容であっても、入居者の合意がなければ特約が無効となる可能性があります。契約時に書面で説明し、入居者が納得したうえで署名をもらうことが重要です。
支払い拒否や破損の否定などトラブル発生時の対処法

万が一、入居者とトラブルになった場合でも、冷静に対処するための手順や法的手段があります。感情的な対立を避け、客観的な事実やルールに基づいて交渉を進めることが重要です。当事者間での解決が難しい場合は、専門家の力を借りることも検討しましょう。
請求内容の根拠を示し粘り強く交渉する
入居者が費用に納得しない場合は、一括請求ではなく具体的な明細や見積もりを提示して根拠を示すことが効果的です。どの部分にいくらかかるのかを明確にすることで、入居者の理解を得やすくなります。
請求内容に通常損耗や経年劣化分が含まれていないか再確認し、ガイドラインに沿った正当な請求であることを示しましょう。入居者が経済的な理由で支払えない場合は、分割払いなど柔軟な対応を提案することも有効です。
少額訴訟や弁護士への相談を検討する
交渉が決裂した場合は、内容証明郵便の送付や少額訴訟などの法的手続きを取ることが可能です。少額訴訟は60万円以下の金銭請求を対象に、原則1回の審理で判決が出る簡易な制度となっています。
ただし、相手方が通常訴訟への移行を希望した場合や、紛争内容が複雑な場合は通常訴訟に移行し、時間や費用がかかることもあります。
また、証拠が不十分な場合は請求が認められないこともあるため、事前の準備が重要です。
なお、保証会社を利用している場合は、保証会社による代位弁済を活用できる可能性があります。
法的な判断が難しい場合は、弁護士などの専門家に相談することも選択肢の一つです。
高額な修繕費用にはセゾンのリフォームローンがおすすめ

原状回復だけでなく、物件の資産価値を維持・向上させるためのリノベーションや大規模修繕には多額の費用がかかります。空室対策として設備を刷新したい場合や、築年数の経過した物件をバリューアップさせたい場合は、まとまった資金が必要です。
手元の資金を残しつつ必要な修繕を行いたい場合は、「セゾンのリフォームローン」の活用が有効です。投資用の区分マンションや戸建てなど、賃貸物件のオーナーも利用できます。
セゾンのリフォームローンは、担保や保証人が原則不要で、最高500万円まで融資を受けられます。最長25年の返済期間を設定できるため、キャッシュフローを圧迫せずに修繕計画を立てられるでしょう。さらに、忙しいオーナーにとって、来店不要でWEB完結できる点もメリットといえます。


おわりに
原状回復費用をめぐるトラブルを防ぐためには、国土交通省のガイドラインに基づく費用負担の原則を正しく理解することが大切です。経年劣化や通常損耗はオーナー負担、入居者の故意・過失による損傷は入居者負担という基本を押さえておきましょう。
トラブル防止には、入居時の状態記録や契約書への特約明記など、事前の備えが欠かせません。退去時の「言った」「言わない」を防ぐために、写真やチェックリストで証拠を残す習慣をつけることが重要です。
正しい知識に基づいた適切な対応は、入居者との無用な争いを避け、結果的に賃貸経営の収益を守ることにつながります。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。