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実家もアパートも!不動産相続の“まさか”の落とし穴を回避…最初に知るべき「分け方」と「手続き」【弁護士が解説】

実家もアパートも!不動産相続の“まさか”の落とし穴を回避…最初に知るべき「分け方」と「手続き」【弁護士が解説】
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

突然訪れる相続。特に不動産が絡むと、「誰が何をどう受け継ぐ?」と頭を抱えてしまう人も多いのではないでしょうか。

複雑になりがちな不動産相続の悩みを、不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が丁寧に紐解きます。法定相続分の基本から、揉めずに手続きを進めるための具体的なステップ、そして投資物件特有の注意点まで、不動産相続に関する疑問を解消しましょう。

誰がどのくらいの割合で遺産を受け継ぐか?

誰がどのくらいの割合で遺産を受け継ぐか?

まずは相続の基本を押さえていきます。相続が発生すると、まず「誰が相続人になるのか」を確認することが重要です。民法では、相続人となる順位と割合(法定相続分)が定められています。

配偶者は常に相続人

法律上の配偶者(夫または妻)は、他に誰がいても必ず相続人になります。

※内縁関係(事実婚)は対象外です。

法定相続人の順位

配偶者以外の相続人は、次の優先順位で決まります。

・第1順位:子(または孫)
・第2順位:直系尊属(親・祖父母) ※子がいない場合のみ
・第3順位:兄弟姉妹(または甥・姪) ※子も親もいない場合のみ

法定相続分

配偶者と他の相続人が一緒に相続する場合、それぞれの法定相続分が民法で定められています。

法定相続分の計算方法と具体例
組み合わせ       配偶者の相続分    他の相続人の相続分
配偶者+子ども        1/2     子ども全体で1/2(人数で均等)
配偶者+父母         2/3     父母で1/3(人数で均等)
配偶者+兄弟姉妹       3/4     兄弟姉妹で1/4(人数で均等)
配偶者のみ          100%
子どものみ(配偶者なし)  各自均等

具体例を通して、実際の家族構成に法定相続分を当てはめてみましょう。

■具体例1|配偶者と子ども2人

遺産:5,000万円
→ 配偶者:2,500万円/子ども各1,250万円

■具体例2|配偶者と父

遺産:3,000万円
→ 配偶者:2,000万円/父1,000万円

■具体例3|配偶者と兄弟姉妹2人

遺産:5,000万円
→ 配偶者:3,750万円/兄弟各625万円

■具体例4|子ども3人のみ

遺産:6,000万円
→ 各2,000万円ずつ相続

相続財産の中に「不動産」が含まれると…

以上が基本的な相続人と法定相続分の定めになります。注意しなければならないのは、あくまで「法定相続分」という相続財産を取得する割合が定められているだけであって、それ以外の点については、法律上の定めがないということです。

特に相続に不動産が絡む場合は、誰がどの不動産を取得するのか、売却して金銭を分けるのか、誰かが取得してその評価額に応じた代償金を支払うのか……など、分け方の種類もさまざまな方法が考えられます。加えて不動産の相続の場合には、各不動産の評価額がいくらになるのかという点で紛争になりがちです。以下にご説明するように、相続手続きにも時間がかかるため、迅速に手続きを進めていく必要があるといえるでしょう。

「死亡」とともに発生する相続、その後の基本的な流れ

「死亡」とともに発生する相続、その後の基本的な流れ

下記の民法の条文のように、相続は死亡の瞬間から始まります。

(相続開始の原因)
第八百八十二条 相続は、死亡によって開始する。

各手続きには期限があるので、注意して進めていく必要があります。順にみていきましょう。

(1)葬儀や死亡届等の手続き

死亡を知った日から7日以内に死亡届を役所に提出する必要があります。直後の手続きは葬儀会社のアドバイスなどによって適宜進めていくとよいでしょう。

(2)遺言書の確認

自筆証書遺言があれば、家庭裁判所で「検認」という遺言書を裁判所で確認する手続きが必要です。一方、公正証書遺言という公証役場で作成した遺言書であれば、この公正証書遺言に基づき、相続財産の移転手続きを行うことが可能になります。遺言書がなければ遺産分割協議という相続財産を相続人間で分けるための話し合いが必要になりますので、まずは遺言書の有無を確認して、どういうルートで進むのかを確認するとよいでしょう。

(3)相続人の確定=戸籍収集

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて取り寄せ、法定相続人を確定します。再婚が絡んでいたり、知らないあいだに養子縁組がなされていたりといったケースもあり、予想外の相続人がいる可能性もあるので、戸籍の収集と法定相続人の確認は非常に重要です。

戸籍収集は早ければ数週間で終わることもありますし、郵送を利用して行わないといけない場合には、1~2ヵ月程度かかることもあります。

(4)相続財産の調査

相続財産調査には時間がかかります。まず、戸籍が収集できていないと着手できませんし、各金融機関などの様式に従って、残高証明書の取得などを行っていく必要があります。不動産については、法務局で登記を取得し、固定資産税評価証明書を取得する必要があります。

どのような不動産を保有しているかが明らかであれば、それほど難しくありません。しかし保有している不動産がわからない場合、「名寄帳」と呼ばれる書類を役所から取得し、その名義をみて保有不動産を把握していく必要がでてきます。よくあるのが、「私道」関係。見落としてしまい、その部分が被相続人名義のまま残ってしまうと、売却時に追加の手続きが必要になるケースもあり、特に注意が必要です。

期限①相続放棄:3ヵ月

厳密には、「相続の開始を知った日から3ヵ月以内」ですが、事実上無難なのは、死亡日から3ヵ月を目安に考えておいたほうが安心でしょう。「知った日」という証拠によって動きかねない日を基準にするよりも、「死亡日」という固定された日を基準に考えたほうがクリアになります。

仮に法人が絡む相続などで負債が把握しづらいようなケースでは、早期に弁護士等の専門家に相談のうえ、相続財産調査から厳密な確認を徹底しておくほうがよいでしょう。

期限②相続税の申告:10ヵ月

相続税の対象となる場合、被相続人の死亡から10ヵ月以内に申告・納税が必要です。「10ヵ月もある」ではなく、実務を知っている側からすれば「10ヵ月しかない」ので、早急に対応する必要があります。

本来であればまず戸籍収集、金融機関等の財産調査を行い、その結果に基づいて相続税の申告準備を進めるべきですが、実際にはこれらの作業には時間がかかります。戸籍収集、金融機関等の財産調査を行うだけで、早くて3ヵ月、通常は半年ぐらい時間がかかってしまうことも少なくありません。

預貯金等の金融資産が中心であれば、それでも間に合うことが多いですが、不動産の相続になると大変です。誰が不動産を受け取るのか、その評価額をどうするのか、なかなか10ヵ月以内に終わらせるのはタイトなスケジュールです。

そして、この10ヵ月以内に話がまとめられるかどうかが、裁判利用する必要があるかどうかの分水嶺となっている印象です。揉めない相続は、だいたいこの期間までにまとまっていますし、ここを超えてくると、双方譲れない主張があり、裁判所利用による解決に発展してしまうことが多い印象です。

(5)相続手続きの終わり

遺産分割協議書がまとまれば、その書類を利用して法務局で不動産の登記名義を移転する、金融機関への手続きを行って預貯金を解約する、これで相続手続きは終わりです。

投資用物件が相続に含まれている場合は要注意

投資用物件が相続に含まれている場合は要注意

収益不動産、すなわち投資用アパートなどの物件が相続財産に含まれる場合には、これ以外にも心配する事柄が生じます。それは、投資用物件の融資の返済です。負債については、遺産分割協議を待たずに強制的に相続人が相続することになってしまいます。そのため、被相続人死亡後は、金融機関とどうやって返済するのか協議する必要が生じます。

もう一つ大変なのが、物件で収受している賃料の処理です。管理会社によっては、遺産分割協議がまとまっていない以上、賃料を相続人らに支払うことができないという対応の会社も存在します。こうなってしまうと、賃料が受け取れないのに金融機関の返済があると、非常に困った状態になってしまいます。

このような状態でも、一部の遺産分割協議を先に済ませたり、賃料収受のみに関する合意を取り付けたりするなど、柔軟な対応が求められます。金融機関も多少は待ってくれることがありますが、収益不動産が絡む相続にはこのような大変さが生じてしまいます。そのため、収益不動産が含まれる相続では、スムーズに相続財産を承継できるように遺言書を作成しておくほうがよいといえるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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