不動産相続では、弁護士、税理士、司法書士といった専門家のサポートが欠かせません。しかし、「どのタイミングで誰に相談すべきか」「信頼できる専門家をどう見極めるか」は初心者から中級者まで悩みがちなポイントです。
本記事では、各専門家の役割とともに、相談すべきタイミングを整理。さらに、資格や実績だけでなく、コミュニケーション力や費用対効果を基準にした「信頼できる専門家の見極め方」を不動産相続に精通する山村暢彦弁護士が紐解いていきます。
相続財産に不動産が含まれていたら

専門家といっても弁護士、税理士、司法書士などさまざまですが、不動産が絡む相続の際、誰に相談すればよいのでしょうか?
基本的には税理士or司法書士・行政書士へ依頼
不動産が絡む相続である以上、
- 相続税申告義務が発生する可能性が高いため、税理士に依頼する
- 少なくとも相続登記は発生するため、司法書士に依頼する
このような発想をもとに、専門家への依頼や手続き費用をあらかじめ想定して行動していくとよいでしょう。戸籍収集、金融資産の残高等の確認手続き、不動産の資料収集等の手続きは行政書士が対応しているケースも多く、資料収集手続きを行政書士に依頼し、そこから相続税申告は税理士へ、相続登記は司法書士へと依頼を分けていく方法もあります。
純粋に不動産が絡む相続がスタートしたというだけであれば、まずは、税理士・司法書士・行政書士のいずれかに相談にいくのがよいでしょう。大抵、相続手続きを中心に行っているこれらの士業であれば、自分の事務所でできない手続きは連携している事務所で対応することが多いです。そのため、いずれかの士業に相談にいけば、必要に応じて、その他の手続きの依頼先を紹介してくれることも多いと思います。
例外的にまず弁護士へ依頼するケースも
例外的に最初から弁護士に依頼すべき案件の特徴としては、以下のようなものがあげられます。
- 連絡不通の相続人がいて、その居所等から調査する必要がある
- 相続人が十数人いる可能性が高い
- 感情的対立が強すぎて、すでに他の相続で揉めた
- 被相続人の財産の使い込み等、純粋な相続手続きに留まらない
- 不動産が複雑で、その権利関係の調整にも弁護士が必要 等々
当初から、裁判所利用の可能性が高かったり、相続財産が複雑で弁護士の専門性が必要だったりするケースなどは、早いうちに弁護士に相談にいくのもよいかと思います。弁護士が絡むような手続きになってくると、相続税申告の段階でひと悶着あることも多く、内容によっては登記にもエラーが生じ得るでしょう。このような紛争性のある案件にも対応できる税理士、司法書士、行政書士等を紹介してもらったほうがよいこともあるため、弁護士事務所に相談にいき、そこから連携先を紹介してもらうほうが無駄なく専門家へと依頼できる可能性があります。
とはいえ原則としては、税理士、司法書士、行政書士へと相談し、必要に応じて他の士業を紹介してもらう、例外的に紛争性や複雑性が特に強いものは先に弁護士のもとへ相談にいき、必要に応じて各種士業を紹介してもらう、という認識をしておくことを勧めます。
各士業の特徴

仕事上での繋がり等がない場合、日常的に各専門家と密接な関わりを持っている一般の方は少ないでしょう。名前は当然知っていても、具体的にどんなことをしてくれるのか、曖昧な認識しかないという方もいるかもしれません。以下では、不動産相続の際に関わる可能性のある各専門家の特徴を説明していきます。
税理士
税理士は、税務署対応や税務申告が中核的な業務です。
現在の税理士業務は、企業の会計等を行う企業顧問系の税理士業務と、相続税申告を中心業務とする相続系の税理士業務が大きな二つの業務分野となっています。そのため、税務申告の際には、相続に注力している税理士に相談するとよいでしょう。
司法書士
司法書士は登記という法務局での不動産の名義変更手続きや、法人の役員変更登記など、法務局での名義変更手続きである「登記業務」が中核的な業務です。
司法書士業務は、不動産売買に伴う移転登記をメインにしている場合と、相続登記やその関連手続きを中心とする場合の、二つの業務分野があります。そのため、相続関連の相談の際には、相続に注力している司法書士に相談するとよいでしょう。
行政書士
行政の各種許認可等の申請を代行するのが基本的な業務内容なので、「行政」書士という資格ですが、相続分野では主に、戸籍収集手続きや金融機関の財産調査手続きなどを行っています。
金融機関の財産調査手続きは、シンプルなものであれば、相続人らだけでもできなくはないのですが、各地の信用金庫等や、有価証券が絡むような場合には、煩雑なことも多いです。そのため、この点の遺産承継業務に精通している行政書士は非常に頼りになる印象です。
弁護士
弁護士は裁判を利用する代理業務と、紛争性のある案件の代理業務が基本的に弁護士の独占業務となっております。これは弁護士法で定められており、紛争性のある事柄の代理行為を弁護士以外が対応すると「非弁行為」といって違法行為になってしまいます。
近年は見かけづらくなりましたが、一昔前は、立ち退き交渉を不動産会社がやっている行為が非弁行為として、多くの裁判例で違法と判断されたこともありました。そのため感情的な対立が高く、紛争にまで発展しているような遺産分割協議の交渉になってくると、弁護士でないと対応できないことになっています。
また、連絡不通の相続人がいる際の調査手続きについても、他の士業と「職権請求」という手続きで取得できる戸籍の範囲が異なってくるため、連絡不通の相続人が含まれているような場合も、基本的に弁護士への依頼がよいでしょう。
選び方のコツ

人柄や性格等の問題とともに、事務所カラーといいますか、事務所規模等を踏まえて、相性のよい士業を選択していくほかないと思います。一概に大規模事務所がよい、小規模事務所がよいといったことはいえず、相談者の性格や相性によっても変わってきます。
あくまで筆者の経験ベースですが、比較的少人数の事務所では、案件の繁閑や担当者の体調によって進捗等が左右されることもあります。
他方、人数が多い事務所ですと、組織的に活動してくれて誰かが体調不良でも誰かがリカバリーしてくれます。その代わりではないですが、そもそも多人数が関与する形態のため、連絡ミスや連係ミスが起きることも。
説明頻度や費用なども事務所ごとにまちまちです。細かく時間を取って手厚く説明してくれる代わりにその分の費用を見積もるような事務所もあれば、機械的、効率的に業務をやってくれて、費用も安いがその分、細かな説明が受けづらいといった事務所もあるでしょう。
「生前対策時」の相談先の選び方
今回、相続発生後の手続きをメインにお話ししましたが、生前対策の相談先の選び方も紹介したいと思います。生前対策では、節税対策、認知症対策、紛争対策の3つがメインになります。それぞれ、節税対策は税理士に、認知症対策は後見業務等に対応している司法書士に、紛争対策は弁護士に相談するのが基本です。
筆者は弁護士という立場にありますが、生前対策については、目的ごとに推奨される相談先があるものの、複数の士業に相談にいったほうがよいのではないかと考えています。仮に、弊所にご相談いただいたとしても、紛争性が低く、税金面対策のほうが重要であれば、税理士への相談を中核にすべきだと思います。認知症対策、特に長年後見人を必要とし得る状況であれば、後見業務に対応している司法書士の見解も参考に対策を進めるべきだと思います。
一方で、節税対策や認知症対策がメインであっても、紛争性の要素をどの程度重視すべきかどうかは、弁護士の見解を踏まえて対策するほうが安心ではないでしょうか。
まとめにかえて
意外と、相続手続きをどの士業に相談するとよいかというのは知られていない印象です。本記事もあくまで概説的なものであり、詳細に士業ごとのメリット・デメリットを語り尽くせたわけではないですが、相性のよい士業探しの一助になればと思います。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。