不動産を相続すると、相続税だけでなく、さまざまな費用が発生します。登記にかかる費用、司法書士や税理士への報酬、そして不動産の維持費や売却時のコストまで、見落としがちな費用も多々。
そこで、本記事では相続発生前にこれらの費用を把握し、万全な資金計画を立てるうえで役立つ情報を1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏がお届けします。
※金額はあくまで目安です。不動産の状況などにより変動しますのでご了承ください。
相続開始時の手続きにかかる費用

まずは相続開始時にかかる費用を整理していきます。
後々揉めないために残しておく「遺産分割協議書」にかかる費用
遺産分割協議とは、相続が発生した際、法定相続人全員で亡くなった人の財産の分割方法や割合について話し合いをすることをいいます。
個人で作成することも可能ですが、専門家(司法書士や行政書士)に依頼すると5万円~20万円程度の費用(財産の種類や相続人の数によって変動)がかかります。
放置するとペナルティ…「不動産登記」手続きにかかる費用
不動産の相続人が決定すると、登記の手続きに必要な費用がかかってきます。登録免許税のほか、次の費用がかかります。
- 必要書類の取得費用:登記簿謄本の取得費用は1通600円、固定資産税評価証明書は300~400円程度
- 司法書士への報酬:5万円~10万円程度
自分で登記を行うことも可能ですが、書類不備や手続きミスが多発しています。不安な場合は司法書士等への相談をおすすめします。 - 不動産調査費用:土地家屋調査士への報酬(境界確定測量など)…5万円~40万円
相続登記は2024年4月より義務化されており、不動産を取得した相続人は取得から3年以内に申請しないと過料が科される可能性があるので、早めの対応が重要です。
相続後の不動産維持にかかる費用

相続後も継続的にかかる費用としては固定資産税がありますが、ほかにも次のような費用があります。
管理費(マンション)
マンションの場合は、管理組合に支払う管理費が発生します。管理費は、マンションの共用部分の維持・管理に使われる費用です。
たとえば、管理人の人件費(常駐・巡回の有無で費用が変動)、共用部分(エントランス、廊下、エレベーター等)の清掃・維持費、防犯設備(防犯カメラやオートロックの点検・修理)の維持費などが挙げられます。
管理費の相場はマンションの規模や設備によりますが、月額1万~2万円程度が一般的でしょう。
修繕費
建物には、老朽化に伴う定期的な修繕が必要になります。
戸建ての場合、屋根や外壁の修理に数十万円~数百万円の費用がかかります。設備の交換(給湯器、エアコンなど)は10万円~30万円程度、水回りの修繕も10万~100万円程度と、まとまったお金がかかってくるので注意しましょう。
マンションの場合は修繕積立金として、大規模修繕に備えて積み立てる費用があります。たとえば、
- 外壁や屋根の補修:経年劣化による塗装や防水工事
- 給排水設備の更新:配管の交換やポンプの修理
- エレベーターの改修:耐用年数に応じた交換やメンテナンス
- 耐震補強工事:建物の安全性を確保するための補強
といったところに使われます。修繕積立金の相場は、築年数やマンションの規模によりますが、月額7,000円~2万円程度が一般的です。築年数が経過すると増額されるケースもありますのでご注意ください。
修繕積立金は、マンションの大規模修繕工事に備える重要な費用ですが、入居後に積立金の増額が通知されるケースも少なくありません。修繕積立金が値上げされる主な理由は、修繕計画の見直しや物価上昇などが挙げられます。
また、マンションの修繕費には「修繕積立金」とは別に「修繕積立一時金」が発生することがあります。これは、大規模修繕の際に修繕積立金だけでは資金が不足する場合に臨時で徴収される費用です。
〈修繕積立一時金の注意点〉
- 徴収のタイミング:大規模修繕の際や修繕積立金の不足が判明したときに請求されます。
- 金額の変動:マンションの財政状況によって異なり、数万円~100万円以上になってしまうケースもあります。
- 負担の方法:マンションの管理組合が決定し、住民全員が負担する形です。
修繕積立一時金は、予期せぬタイミングで高額な費用を請求されることもあるため、住民のなかには支払いが難しい人も出てくるなど、資金がうまく集まらず修繕計画が遅れることもあります。
マンションの管理組合が作成する長期修繕計画を確認し、将来的な費用を把握しておきましょう。管理費と修繕積立金は、マンションの維持管理に欠かせない費用なので、購入や相続の際にはしっかり確認することが大切です。
その他の諸費用
火災保険と地震保険は、年間数万円の保険料がかかってきます。また、水道・電気・ガス代といった光熱費は、空き家であっても契約状況によって基本料金が発生する場合があります。さらに、マイカーを所有している場合は、駐車場代も考慮する必要があるでしょう。
売却時:不動産を手放す際の費用とは

相続した不動産を売却することも選択肢の一つとして考えられます。不動産の売却は、単純に現金化するだけではなく、売却に伴ってさまざまな費用が発生することを理解しておく必要があります。
また、売却によって利益が生じた場合には譲渡所得税が課税されることも忘れてはいけません。以下、主な費用の内訳を順に説明していきます。
仲介手数料
不動産会社に売却を依頼する場合、成功報酬として仲介手数料が発生します。金額は、売却価格の3%+6万円+消費税(売却価格が400万円以上の場合)です。たとえば、3,000万円で売却した場合、仲介手数料は105万6,000円となります。
相続した不動産を売却することも選択肢としてあり得るでしょう。不動産は売却して現金化するだけの単純なものではなく、売却するための費用がさまざま発生します。
また、売却益には譲渡所得税が課される点も忘れないようにしましょう。
印紙税
印紙税とは、売買契約書に貼る収入印紙の費用にあたります。金額の目安は、
- 500万円超~1,000万円以下:5,000円
- 1,000万円超~5,000万円以下:1万円
- 5,000万円超~1億円以下:3万円
となっています。
登記・抵当権抹消費用
売却によって利益が出た場合、譲渡所得税が発生しますが、このほかにも次のような費用がかかります。
住宅ローンが残っている場合は、抵当権を抹消するための手続き(抵当権抹消登記)が必要です。
登録免許税(1,000円:不動産1つにつき)のほか、司法書士報酬として1万円~5万円程度かかります。
測量費用
土地を売却する場合、境界確定測量が必要になることがあります。費用の目安としては30万円~80万円と、大きな金額となる可能性も視野に入れておきましょう。
その他の費用
売却前にハウスクリーニングを行う場合は、物件の状態によって3万円から10万円ほどかかる場合があります。
物件の売買契約にハウスクリーニングが明記されていない限り、売主がハウスクリーニングを行う法的な義務はありません。ハウスクリーニングの有無が売却価格に直接的な大きな影響を与えることも稀です。
一方で、ハウスクリーニングをプロに依頼すると、日々の清掃では落としきれない汚れや、ちょっとした修繕まで対応してくれるため、自身で掃除するよりも格段にきれいな状態になります。
これにより、買主へよい印象を与え、購入の後押しになることで、スムーズな契約につながりやすくなるというメリットも。
また、仮に建物を解体し更地として売却する場合は、その構造に応じて100万円から300万円の費用が見込まれます。ほかにも、引っ越し費用は移動距離によって10万円から20万円程度かかることを覚えておきましょう。
不動産売却にはこれらの費用がかかるため、事前にしっかりと資金計画を立てることが重要です。
不動産相続の失敗事例と回避のヒント

不動産相続では、計画不足や知識不足によって思わぬ金銭的な失敗が発生することがあります。以下、よくある失敗例をいくつかご紹介します。
相続税の支払いができない
不動産の評価額が高く、相続税が想定以上に高額になってしまうケースがあります。現金資産が少ないと、納税資金を確保できずに不動産を売却せざるを得なくなってしまいます。
共有名義によるトラブル
相続人全員で不動産を共有名義にした結果、売却や管理の意思決定が難しくなります。共有者の一人が亡くなった場合は、さらに相続人が増えて収拾がつかなくなってしまいます。
不動産の維持費が想定以上にかかる
固定資産税や管理費、修繕費が高額となる場合、維持が困難になります。また、空き家になると、管理が行き届かず、資産価値の低下を招きます。
相続登記を怠ることで、後々問題が発生
名義変更をしないまま放置すると、相続人が増えて手続きが複雑化してしまいます。2024年4月から相続登記が義務化されたため、未登記の場合は過料が科される可能性もあります。
相続する不動産によってかかる費用は、自身の老後資金に大きな影響を与えることもあります。上記を参考に、前もって準備を整えることが重要です。
特に資金面や手続きで不安があれば、税理士・司法書士・FPなどの専門家に早めに相談することをおすすめします。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、最新情報はホームページ等でご確認ください。