相続した不動産を有効活用する方法の一つに、賃貸経営があります。相続によって手に入れた不動産という資産が、さらに資産を増やす結果になれば嬉しいですよね。
しかし、初期投資にはどのくらいかかるのか、本当に安定した収益を見込めるのか、など、さまざまな不安も付きまとうでしょう。
そこで本記事では、相続した不動産で賃貸経営を始めるにあたって知っておくべき基礎知識と成功のためのポイントについて、司法書士の近藤崇氏がわかりやすく解説していきます。
不動産を相続したあとの3つの選択肢

賃貸経営のメリット・デメリット
筆者は横浜市にて司法書士法人の代表を務める傍ら、別会社において宅地建物取引業免許を取得し、小規模ながら不動産投資事業および不動産仲介業務を展開しています。
司法書士法人における業務は、相続関連が全体の5割を占め、残りの半分は不動産登記、会社登記や成年後見等、その他の業務です。
さて、司法書士としても宅建事業者としても、不動産を扱っているなかで、不動産の活用法は以下の3つしかないように感じます。
- 住む → 家族が同居していた場合や、相続人がIターンやUターンをする場合
- 売る → 空き家の管理が大変な場合や、現金にして分割したい場合
- 貸す → 住む予定はないけれど、売るのは忍びない場合など
REITなどの特殊なケースを除けば、一般的な不動産の活用方法としては、この3つ以外はないといえます。
特に相続した不動産(以下、相続不動産といいます)においては、故人と同居していた家族がいる場合、当然1の「住む」という選択肢に辿り着きます。
ただそれ以外の場合ですと、たまたま転居を考えていたとか、これを機に相続した実家に戻ろう、などという場合以外は、相続不動産に「住む」という結論にはなかなか至らないでしょう。
2の「売る」というのは、不動産相続の場面でもよくみられる選択肢です。特に、一人暮らしで子のいない方が亡くなられた場合。
いままで住んでいた故人には唯一の拠り所であった相続不動産が、相続人にとっては無用の空き家となっていまい、売却という選択肢を取ることも多いことでしょう。
3の「貸す」という選択肢については、故人の相続不動産に住むことは現実的ではないが、売却もちょっと避けたい……という方にみられる選択肢といえます。
ただ、もともと故人が収益不動産としていた一棟アパートやマンションなどを除けば、相続人がなんらかの加工をしない限り、賃貸不動産として商品化することが難しいでしょう。
いうまでもなく、賃貸経営の最大のメリットは、毎月の安定した家賃収入が得られることです。特にローンがすべて完済済みの物件であれば、貸し出した場合は、ほぼ家賃がそのまま収入になります。
一方で、空室リスクや設備のトラブルの対応、修繕費用など、手間やコストがかかることも忘れてはいけません。
賃貸経営を始める際は、事前に市区町村の窓口や管理会社・専門家へ相談し、必要な届け出や用途規制(用途地域、建築基準法、消防法など)を必ず確認しましょう。
無届け営業や規制違反は、後から是正指導や罰則の対象となるケースもあるため、開始前の法的チェックは必須です。
相続不動産を賃貸する際、最も手間となる「リフォームコスト」

相続不動産を賃貸物件として活用する場合において、最も手間となるのがリフォームコストです。相続による承継ですので、前の所有者は亡くなられています。直前まで住んでいた場合がほとんどでしょう。そのため、生活感がそのままの部屋が多いです。
たとえば、相続した戸建ての場合、
- 生活感の強いキッチンやお風呂
- 古い内装や汚れた壁紙
- 荷物が残っている
といった問題が頻繁に見受けられます。
なかには残置物が山のようにあることも珍しくありません。こうした残置物撤去の費用と、リフォームのコストを支出しなければならないのが、相続不動産を賃貸に出す際のハードルとなります。
特に水回り(風呂・トイレ・キッチンなどの総称)をリフォームするとなると、あっという間に300万円程度は掛かってしまうでしょう。
さらに、近年では世界的な物価高の影響により、リフォームコストが年々上がるばかりです。
それでも相続不動産を賃貸で活用していくと決断された場合、リフォーム工事は目安として、おおむね下記のような費用感ではないでしょうか。
![[図表]リフォーム工事費用の目安(筆者作成)](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/8bd430306b56556e4ad14e5c9600da78.jpg)
賃貸不動産を持つということは、こうした初期投資がかかります。そのうえ、所有中途でもさまざまな修繕コストがかさむことがあります。
資金調達の観点から、リフォーム資金をサポートしてくれるパートナーとして、金融機関との付き合いを深めておくことも重要といえるでしょう。
相続不動産で賃貸…「ならでは」の落とし穴

相続不動産は、戸建てにしても区分所有(マンションタイプ)にしても、築年数が経過していることがほとんどです。かなり築年数が経過している物件に対し、どこまでリフォーム費用をかけるべきか、投資する側にとっては判断を迫られるポイントになるでしょう。
相続した戸建ての土地面積が広く、アパートなどに向いている場合は、解体して新築を建てる選択肢も出てくるでしょう。しかし、相続不動産はその多くが被相続人の生活していた不動産です。つまりほとんどが「普通の一戸建て」程度の面積なのです。
戸建ての用地に対しては、アパートを建築できるほどの土地面積を確保するのは難しく、仮に新築を建てられるくらいの土地面積があったとしても、建築価格の確保が課題となります。
新築のアパートとなると木造でも数千万円単位、ともすれば数億円単位での投資になるでしょう。昨今の建築費の著しい高騰も考慮しなければなりません。
かといって戸建てをそのままリフォームしたとしても、建物自体は築年数が経過した建物であることに変わりありません。
戸建てということは、賃貸物件としては「1部屋」のみの貸し出しをするほかなく、家賃の収益性という面では中途半端な状態に陥ってしまうことも多いです。
区分所有(マンションタイプ)の場合、相続した部屋のみを取り壊すことができませんので、相続不動産を賃貸にて活用する選択をした場合、必然的にリフォームせざるを得ません。
リフォーム業者側も、いまは人手・原材料双方ともに不足している状態ですので、一見さんで1つの工事現場のみを好んで受けてもらえるとはいえない状況です。大ロットで大量発注してくれる大手業者等の工事を優先して受けるのは、やむを得ないことでしょう。
相続不動産で賃貸した場合のありがちな失敗

戸建てもそうですが、特に区分所有(マンションタイプ)の場合、不動産の立地がより大きな客付け要素を占めています。
リフォーム工事でかなりの費用を使ったとしても、駅から遠い不便な立地の場合、思ったように賃借人の客付けが出来ずに苦戦するケースもみられます。
借りて住んでくれる入居者がいて、初めて収益を生むのが不動産です。
初めての不動産投資でよくみられるのは、張り切ってこのリフォーム工事に費用を掛け過ぎてしまい収益が悪化してしまう、というケースです。
そもそも初めてのことなので、リフォーム工事の相場がわからないという理由には同情できます。
しかし、たとえば家賃を1万円あげても年間の収支は12万円増すだけです。100万円かけてキッチンを最新の食器洗浄機つきのアイランドキッチンにしたとすると、この100万円を回収するのに8年以上かかってしまいます。
どうしても初めての不動産経営だからと、初期費用をかけてしまいがちな傾向があります。それならばいっそ、あえて一部のリフォーム工事はせずにいい意味で手を抜いて、家賃を1万円下げてしまったほうが、かえって入居者が決まりやすいこともあるのです。
筆者も初めての賃貸経営でのリフォーム工事には、どうしてもこだわってしまい、工事費用をだいぶ高くかけてしまいました。
家賃相場については、それぞれの地域ごとにある程度の坪単価、平米単価が形成されているため、設備が豪華だからといって、いきなり家賃が2倍3倍になるわけではありません。
特に相続不動産の場合では、これまで不動産オーナーの経験がない方がいきなり大家になるケースもあります。相続不動産の築年数や周辺環境を確認し、「借り手がつきやすいか」を冷静に判断する必要があるといえるでしょう
賃貸経営で失敗しないためのポイント

相続不動産を賃貸経営で活用することは、相続財産を「収入源」に変える有力な選択肢です。ただし、リフォーム工事に必要な資金の調達や適正な家賃設定、空室リスクなど注意すべきポイントも多岐にわたります。
入居者の管理や家賃回収、万が一のトラブル対応も重要です。
初めての賃貸経営の場合は、信頼できる管理会社の活用や、契約書の整備、家賃保証会社の利用も検討しましょう。自己管理をする場合も、トラブル時の相談先(弁護士や専門家)を事前に決めておくと安心です。
不動産はよほど優れた立地でない限り、放っておいて勝手に家賃を運んできてもらえるものではありません。
よく「不動産投資」といわれますが、現実には個別性が強く所有者の努力によって差別化も可能なため、「不動産経営」と呼ぶほうが適しているのではないでしょうか。
経営である以上、自ら戦略を築く必要がありますし、自分でできないところは外部の専門家に頼んで補う必要があります。
また初期コストを抑えやすい相続不動産での賃貸とはいえ、不動産経営には変わりがありませんので金融機関との付き合いが必須となります。
初めて不動産経営をする方こそ、信頼できる管理会社や金融機関、専門家の力を借りつつ、一歩ずつ賃貸経営を進めてみてはいかがでしょうか。
なお、賃貸経営を始めた後は毎年の確定申告が必要です。家賃収入は「不動産所得」として申告し、修繕費や管理費、減価償却費などを経費にできますが、経費計上の範囲や申告方法で損をしないためにも、税理士や専門家に相談しておくことをおすすめします。
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