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不動産評価額は下げられる?相続税を適正に減らす「評価額見直し」のポイント【税理士が解説】

不動産評価額は下げられる?相続税を適正に減らす「評価額見直し」のポイント【税理士が解説】
川口 誠 (MK Real Estate 税理士事務所/税理士)

執筆者

MK Real Estate 税理士事務所/税理士

川口 誠

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。 国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。 そのなかで、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。

相続財産に不動産が含まれる場合、その「評価額」が相続税を大きく左右します。しかし、この評価方法は非常に専門性が高く、知識がないまま手続きを進めると、本来より過大に税金を納めてしまうケースも少なくありません。

こうした試算や数値例はあくまで一般的な前提に基づく参考情報であり、実際の判断には最新の法令・通達や個別事情の確認が欠かせません。

本記事では、不動産評価の基礎知識から、プロが実践する評価減の見極め方まで、不動産投資と不動産専門の税理士・MK Real Estate 税理士事務所の川口誠氏が解説します。

まず知っておきたい、不動産評価額「4つの顔」

まず知っておきたい、不動産評価額「4つの顔」

不動産の評価額には、目的によって主に以下の4つがあり、それぞれ算出方法や確認方法が異なります。

固定資産税評価額

固定資産税や都市計画税、不動産取得税、登録免許税といった税金の計算に用いられる評価額です。市町村(東京23区は東京都)が固定資産評価基準に基づいて評価し、原則3年ごと評価替えが行われます。

【確認方法】

  • 固定資産税納税通知書に同封されている課税明細書
  • 固定資産評価証明書(市町村・都税事務所で取得)
  • 固定資産課税台帳(市町村・都税事務所で閲覧)

 路線価

相続税や贈与税の計算に用いられる、国税庁が定める土地の評価額です。道路ごとに1㎡あたりの価額(路線価)が定められ、国税庁(各国税局長)が毎年公表します。

【確認方法】

国税庁ホームページ内の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」から調べられます。住所や地図から該当する土地を検索でき、最新の評価額を確認可能です。

 不動産鑑定評価額

不動産鑑定士が、不動産鑑定評価基準に基づき、さまざまな要因(土地の形状、周辺環境、交通利便性など)を考慮して算出する評価額です。適正な時価を把握したい場合や、裁判での証拠、M&Aなど、専門的な評価が必要な場合に用いられます。

【確認方法】

・不動産鑑定士に依頼して作成してもらった評価書

 実勢価格(時価)

実際に不動産が市場で取引される価格です。需要と供給のバランス、景気動向、個別不動産の特性など、さまざまな要因によって変動します。上記の公的な評価額とは異なり、法的拘束力はありませんが、売買の際の参考となります。

【確認方法】

  • 不動産ポータルサイトの過去の取引事例
  • 国土交通大臣指定の不動産流通機構(レインズ)の取引事例(宅建業者を通じて確認可能)
  • 不動産会社による査定

 相続税評価額は「下げられる」

 相続税評価額は「下げられる」

このように、不動産にはさまざまな評価額が存在します。そして、このなかで特に相続税に直結し、かつ専門的な知識を活かして評価額を適正に下げられる可能性があるのが、国税庁の定める「路線価」を基にした相続税評価額なのです。

では、プロは具体的にどのようなポイントを見て、評価額の見直しを行っているのでしょうか。

相続税の申告において、土地は原則として路線価で評価しますが、個別の土地が持つさまざまなマイナス要因を反映させることで、評価額を適正に下げることが可能です。重要なことは、正確な情報を基に、適用可能な評価減のルールを最大限に活用することです。

土地の広さに着目する「地積規模の大きな宅地の評価」

広大地評価は平成29年度税制改正により廃止され、平成30年1月1日以降の相続等により取得した財産については、「地積規模の大きな宅地の評価」が適用されています。

この評価方法は、三大都市圏では500㎡以上、それ以外の地域では1,000㎡以上の地積の宅地が対象となり、評価額を減額することができます。

これは、大規模な宅地を戸建て住宅として開発する場合には、広い道路(開発道路)を新たに設置したり、公園や緑地を設けたりする必要があることから、一般的な宅地よりも開発費用がかかり、その分だけ価値が下がると考えられるためです。

評価額は、適用される「規模格差補正率」によって減額されます。この補正率は、土地の面積や、都市計画上の地域区分などによって細かく定められています。

規模格差補正率等を用いて評価額を減額できますが、具体的な減額幅は個別の要件によって大きく変動します。実務では、もとの評価額から20%〜30%程度の減額となるケースが多くみられます。

[図表1]地積規模の大きな宅地の評価の計算例
[図表1]地積規模の大きな宅地の評価の計算例
出所:筆者作成

賃貸物件が建っている「貸家建付地(かしやたてつけち)」

所有する土地に賃貸アパートやマンション、貸家などが建っている場合、その土地は貸家建付地として評価減の対象になります。借地権や借家権が存在するため、土地の所有者が自由に利用・処分できない制約が考慮されるためです。

計算式は「宅地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合)」です。借地権割合は国税庁が定める地域ごとの割合(60%〜90%など)で、主要都市部ほど高い傾向があります。借家権割合は全国一律で30%です。

地域によって借地権割合は異なりますが、評価減の幅は借地権割合や賃貸割合によって変動します。実務では18%〜27%程度の評価減となるケースも少なくありません。

[図表2]貸家建付地の計算例
[図表2]貸家建付地の計算例
出所:筆者作成

使いにくい土地の「不整形地・がけ地」補正

土地の形状が歪な不整形地や、高低差のあるがけ地など、利用上の制約がある土地は、その利用価値が低いと判断され、評価減の対象となります。

個別の状況によって異なりますが、不整形地補正率やがけ地補正率を適用することで、数%~40%程度の評価減となる場合があります。特に利用が著しく困難な土地では、大きな減額となる可能性もあります(具体的な補正率は形状や立地条件によって変動します)。

[図表3]不整形地補正の計算例
[図表3]不整形地補正の計算例
出所:筆者作成
[図表4]がけ地補正の計算例
[図表4]がけ地補正の計算例
出所:筆者作成

公共性が高い「私道・通路」

私道や通路として利用されている部分の土地は、その利用が制限されるため、評価減の対象となる場合があります。不特定多数の通行に供されている私道などは、要件を満たす場合、評価額が大幅に減額され、場合によってはゼロ評価とされることもあります。

※評価減の可否や具体的な取り扱いは、財産評価基本通達に基づいて判断されます。

利用例に応じた「小規模宅地等の特例」

居住用や事業用として使用していた宅地を相続した場合、一定の要件を満たせば、その宅地の評価額を大幅に減額できる特例です。評価額そのものを下げるわけではありませんが、課税計算上の負担を軽減できるため、相続税対策として有効です。

特定居住用宅地等は330㎡までを評価額80%減額、特定事業用宅地等は400㎡までを評価額80%減額、貸付事業用宅地等は200㎡までを評価額50%減額することができます。

[図表5]特定居住用宅地等の計算例
[図表5]特定居住用宅地等の計算例
出所:筆者作成

「自分でできる」が一番危ない?専門家への相談と、よくある誤解

「自分でできる」が一番危ない?専門家への相談と、よくある誤解

ここまでみてきたように、不動産の評価額を適正に下げる方法は多岐にわたり、非常に専門的です。こうした知識がないまま自己判断で申告してしまうと、思わぬ不利益を被る危険性があります。

なぜ専門家に相談すべきなのか

専門家は、最新の税法を把握しているだけでなく、一般の方では気づきにくい評価減の要因までみつけだします。万が一、税務調査が入った場合でも、評価の根拠を明確に説明できるのが最大の強みです。

●最新の税法・評価基準の把握

税法や評価基準は改正されることがあります。専門家は常に最新の情報を把握しています。

●個別の状況に応じた的確なアドバイス

不動産は一つとして同じものがありません。専門家は、個々の不動産の特性を詳細に分析し、最適な評価減を提案することが可能です。

●見落としがちな評価減要因の発見

一般の方では気づきにくい、がけ地や私道、騒音、日当たりなどの評価減要因をみつけだすことができます。

●税務署への説明責任

万が一、税務調査が入った場合でも、専門家が評価の根拠を明確に説明することができます。

不動産評価で誤解しやすいポイント

不動産評価は奥が深く、専門家ならではの知識と経験が大きく差を生むことがあります。特に大規模な不動産や複雑な形状の土地の場合、専門家の介入が節税額に大きく影響します。

●「税理士なら誰でもできる」という誤解

相続税に強い税理士や、不動産評価に詳しい税理士を選ぶことが重要です。税理士のなかでも専門分野があります。

●「固定資産税評価額が低ければ相続税評価額も低い」という誤解

固定資産税評価額と相続税評価額は、算出基準が異なるため、連動しないこともあります。

●「一度評価額が決まったら変更できない」という誤解

評価額に不服がある場合、一定期間内に再調査の請求や審査請求を行うことが可能です。また、相続税の申告後に評価額の誤りに気づいた場合には、更正の請求ができることもあります。

不動産の評価は、税金だけでなく、売買や資産承継の計画にも大きく影響します。適正な評価を行うためにも、相続税に強い税理士や不動産鑑定士といった専門家への相談をお勧めします。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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