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【一級建築士が解説】相続した実家、本当に住んでも大丈夫? 「耐震」「雨漏り」で見落としがちな危険サインと建物チェックポイント

【一級建築士が解説】相続した実家、本当に住んでも大丈夫? 「耐震」「雨漏り」で見落としがちな危険サインと建物チェックポイント【一級建築士が解説】
三澤 智史 (一級建築士/一級建築施工管理技士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士)

執筆者

一級建築士/一級建築施工管理技士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士

三澤 智史

大手ゼネコン在籍中は、一級建築士としてマンションや事務所ビルなど数多くの建築施工に従事。現在は不動産会社にて、新築・リフォームの現場管理と並行して、土地の仕入れから収益物件の設計まで行っている。 投資経験は都内に3つの物件を所有し、不動産クラウドファンディングにも出資。これらの経験を活かして、不動産系の記事を手がけている。

不動産を相続する際には、権利関係や税金などの法的な問題だけでなく、「建物自体の状態」もそのまま引き継ぐことになります。

特に築年数の古い家は、耐震性、雨漏り、土地の境界問題など、住むにも売るにも大きな障害となるリスクを抱えているケースが少なくありません。

本記事では、一級建築士の三澤智史が、相続後に必ず確認すべき建物のチェックポイントと、問題が見つかった場合の対処法を解説します。

命と資産を守る最重要チェックポイント「耐震基準」は満たしているか

命と資産を守る最重要チェックポイント「耐震基準」は満たしているか

相続した実家に住むことを検討する際、最優先でチェックすることは「耐震基準」を満たしているかどうかの確認です。

日本の耐震基準は、建築基準法施行令の改正(昭和56年6月1日施行)を境に、「旧耐震基準」と「新耐震基準」に分かれます。この日以降に確認申請を受けた建物が新耐震基準、それ以前の建物は旧耐震基準です。

旧耐震基準は震度5強程度の揺れに耐えることを想定していますが、それ以上の大地震では倒壊の危険性があります。

一方、新耐震基準では「震度6強から7程度の地震でも倒壊・崩壊しない」ことを想定して設計されています。

さらに平成12年(2000年)6月には、建築基準法施行令が改正され、木造住宅の接合部や基礎構造などの仕様基準が強化されました。この改正は「2000年基準」とも呼ばれ、現行住宅の耐震評価における重要な指標となっています。

記憶に新しい令和6年の能登半島地震では、旧耐震基準の木造住宅に多くの被害が確認され、現行基準を満たさない建物の脆弱性が改めて注目されました。

相続した実家がどの耐震基準に分類されているかは、建築確認済証や登記事項証明書で建築確認申請日を確認すればわかります。昭和56年6月1日以降なら新耐震、それ以前なら旧耐震です。

建物が完成した日ではない点に注意してください。建物の規模にもよりますが、完成は申請日からおよそ1年後と考えるとよいでしょう。

もし旧耐震基準の建物だった場合は、必ず建築士などによる耐震診断を受けましょう。診断や改修、補強工事には、国や市区町村の補助制度を利用できる場合もあります。

また、空き家を長期間放置したままにすると、売却時に「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(いわゆる空き家譲渡特例)」の適用を受けられない可能性があります(租税特別措置法第35条の2)。

国土交通省も空き家に対しては、早期の耐震改修か解体を推奨していますので、早めに対応しましょう。

雨漏り、シロアリ、配管劣化…建物の寿命を縮める「見えないリスク」の見つけ方

雨漏り、シロアリ、配管劣化…建物の寿命を縮める「見えないリスク」の見つけ方

築年数が経過した家屋は、目に見えない場所で劣化が進行していることがあります。放置すれば建物の劣化を急速に進め、大規模な修繕が必要となることもあるため、注意が必要です。

雨漏り

雨漏りは、建物の構造材を腐食させ、シロアリ発生の原因にもなります。

天井や壁のシミ・変色、壁紙の剥がれは危険なサインです。屋根裏を確認できる場合は、木材の変色や腐食、断熱材が湿っていないかなどをチェックしてみましょう。屋根材の劣化や瓦のズレ、壁内部の防水シートの破れなどが主な原因として考えられます。

雨漏りは早期の発見や対応が重要です。雨漏りの兆候を見つけたら、専門業者に調査を依頼する必要があります。屋根裏に立ち入れる場合は、木材の変色や腐食、断熱材の湿り具合などを目視で確認しておくとよいでしょう。

シロアリ

シロアリは木材を食い荒らし、建物の耐震性能を著しく低下させます。

床下や畳の中に、シロアリが作った「蟻道(ぎどう)」という土のトンネルがないか確認しましょう。木材は変色や腐食がないか確認するとともに、柱などを叩いてみて、中が空洞であるかのような軽い音がした場合も注意が必要です。

シロアリ被害は専門知識がなければ発見が難しいため、専門業者による定期点検を実施するのが確実です。

配管劣化

給排水管の劣化は、水漏れや悪臭、衛生問題など生活に直結します。

蛇口からの水の出が悪かったり、赤い水が出たりする場合は、給水管内部のサビが原因かもしれません。また、排水の流れが悪かったり、嫌な臭いがしたりする場合は、排水管の詰まりや破損が考えられます。

これらの症状が見られる場合、部分的な修理では対応できず、給排水管全体を新しくする大規模な工事が必要になることもあります。

隣家とのトラブルの種に…相続後に必ず確認したい「土地の境界線」

隣家とのトラブルの種に…相続後に必ず確認したい「土地の境界線」

土地の境界線は、隣接する土地との関係性において非常に重要な要素です。相続した実家の土地の境界が不明確である場合、将来的に隣家とのトラブルに発展する可能性もあります。

起こり得るトラブル

隣家の塀や植木などが自分の敷地まで越境、つまり境界線をまたいで入ってきてしまっている場合、境界が不明確だと責任の所在が曖昧になります。

また、土地を売却する際は、買主から境界が明確であることを求められるのが一般的です。境界が不明確では、売買契約がスムーズに進まず、売却価格が下がってしまうことさえあります。

境界線の確認方法

現地で境界線を確定させるには、土地家屋調査士に依頼します。敷地の角などの地面に打ち込まれている境界標という目印を探し、必要に応じて境界標は新たに打ち込みます。

境界標は、石杭、コンクリート杭、金属標、プラスチック杭など、材質はさまざまです。探す際の参考にしてください。

測量が完了したら、必ず隣地の所有者にも立ち会ってもらい、境界確認書に署名をもらいましょう。

ときには、立ち合いを面倒に感じ、署名を断る所有者もいますが、将来のトラブルを防ぐために重要な工程ですので、事情を丁寧に説明し、隣地所有者の理解を得たうえで署名・押印を依頼するようにしましょう。

境界線が明確になったあとは、測量図や登記関連書類などを適切に管理することが重要です。境界線について隣家と認識が異なる場合、これらの書類を用いることで解決できます。

売却・解体費に影響大…築年数で判断する「アスベスト」調査の要否

売却・解体費に影響大…築年数で判断する「アスベスト」調査の要否

アスベストは、かつて建材として広く使用されていましたが、発がん性が明らかになったことで、現在では使用が原則禁止されています。しかし、築年数の古い建物にはアスベスト含有建材が使用されている可能性があります。

アスベスト有無の判断

日本では、2004年にアスベスト含有率1%を超える建材の製造・使用が、2006年には含有率0.1%を超える製造・使用が禁止されました。事実上、2006年からアスベストの使用は全面的に禁止されているのです。

したがって、これ以降に建てられた建物であれば、その建物にアスベストは使用されていないという判断ができます。

アスベストの調査方法

2006年以前に建てられた建物を解体したり、リフォームしたりする場合は、「石綿障害予防規則」および「大気汚染防止法」に基づき、事前にアスベスト(石綿)の有無を調査し、その結果を自治体へ報告することが義務付けられています。

調査は、厚生労働大臣または環境大臣が定める講習を修了した「アスベスト診断士」などの有資格者が行います。建築図面や現地での目視調査を行い、アスベストを含む可能性のある建材を特定したうえで、必要に応じてサンプルを採取し、分析機関で成分分析を行います。

アスベストが含まれていることが判明した場合は、飛散を防ぐための措置を講じたうえで、専門業者による除去・封じ込め・囲い込みなどの適切な処理をしなければなりません。

これらの工程には専門知識と安全管理が必要なため、処理費用は高額になる傾向があります。

一般的に、アスベストが存在しない場合と比べて、解体費用が1.5~2倍程度に膨らむケースもあるため、売却や解体の際にはその点をあらかじめ考慮しておくとよいでしょう。

おわりに…一級建築士からの助言

おわりに…一級建築士からの助言

相続した実家をどうするか考えるには、法律や税金の問題だけでなく、まず建物の現状を正しく把握することがスタートラインです。古い建物には、本記事で挙げたようなさまざまなリスクが潜んでおり、放置すれば資産価値を大きく損なうことになりかねません。

特に、建物の耐震性能はご家族の命に直結する最も重要な要素です。もし住み続けるのであれば、耐震性の確保を最優先に考えてください。

建物の劣化は日々進んでいきますし、手続きが遅れると税制的な優遇を受けられない恐れもあります。

不安な点がある場合は、早めに建築士などの専門家に相談し、建物の現状や今後の方針を整理しておきましょう。早期の確認と対応が、家族の安全と資産価値を守る第一歩です。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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