不動産投資というと、ひと昔前は「富裕層の資産運用手法」というイメージが強かったものの、近年は“サラリーマン大家”という言葉が生まれるなど投資家の裾野が広がっています。一方、投資のハードルが下がったことで、安易に始めて失敗するケースも少なくないようです。
そこで今回、不動産投資で失敗しないために押さえておきたい考え方と、投資家タイプ別の「最適な投資戦略」についてみていきましょう。自身も大家業を営む不動産投資専門FPの伊豫田誠氏が解説します。
劇的に変化する不動産投資環境

かつて、不動産投資といえば地主や資産家、機関投資家が中心でした。
しかし昨今、投資用不動産の物件タイプやREIT、小口化など不動産への投資手法が多様化するなか、副業として不動産投資を行う“サラリーマン大家”や積立投資感覚で不動産へ投資する人など、投資家の裾野が広がっています。
一方、不動産投資は単に物件を購入して賃貸に出せば成功するわけではありません。こうした新規投資家の増加とともに、不動産投資に失敗するケースも聞こえてきます。
では、不動産投資を行うにあたって成功する人と失敗する人にはどのような差があるのでしょうか?もちろんさまざまな要因が絡むため一概には言えませんが、今回は成否のカギを握る要素のひとつだと考える「投資スタンス」について解説します。
儲けたい?守りたい?…タイプによって異なる「最適な投資戦略」

不動産投資の目的は、大きく分けて以下の3つに分類できます。
- 「儲けたい」……積極的な利益追求型
- 「守りたい」……資産を減らさず安定運用型
- 「節税したい」……税務対策重視型
それぞれのゴールによって、最適な「投資戦略」も変わってきます。
「儲けたい」……積極的な利益追求型
このタイプの投資家は「キャピタルゲイン(売却益)」や「インカムゲイン(家賃収入)」の最大化を目指します。積極的な戦略としては、以下の手法が考えられます。
・価値上昇が見込まれるエリアの物件を狙う
たとえば、リニア中央新幹線の開通が予定されている東京都・品川区、再開発が進む大阪市・北区、人口増加と都市開発が進行中の福岡市・博多区、利便性向上が期待される神奈川県・川崎市、リニア開通による商業地拡大が見込まれる名古屋市・中区などが挙げられます。物件価格が多少高くても、キャピタルゲイン(売却益)の最大化を狙う手法です。
・リノベーションなどで物件の価値を高めて賃料アップを図る
たとえば、水回りの全面改修(キッチン・バス・トイレの最新設備導入)、間取り変更による居住空間の最適化、断熱性能向上のための窓や壁の改修、高級感を演出するフローリングや照明の変更、スマートホーム機能の導入などを行うことで、賃料の上昇が見込まれます。初期費用が多少増えても、中長期的な家賃収入を重視する手法です。
「守りたい」……資産を減らさず安定運用型
このタイプの投資家は、リスクを抑えながら安定した賃貸収入を得ることを重視します。主な戦略は以下のとおりです。
・需要が安定しているエリアの物件を選ぶ
たとえば、人口流入が続く東京都・杉並区/江東区、再開発が進む横浜市・西区、ビジネス需要が高い大阪市・中央区、観光と居住ニーズが共存する京都市・中京区、高所得者層の居住が多い福岡市・中央区などが挙げられます。
・空室リスクを避けるため、ファミリー向け物件や立地の良い物件を選ぶ
ファミリー向け物件は、単身者向けよりも入居期間が長く、引っ越しの頻度が低いため、空室リスクを抑えやすいというメリットがあります。また、学区や生活環境の整ったエリアでは安定した需要が見込めるため、長期的な収益確保につながります。
・ローンの借入額を抑え、キャッシュフローを安定させる
借入額を抑えることで毎月の返済負担を軽減すれば、家賃収入と返済額の差額が大きくなるため、手元に残る資金が増えます。これにより、突発的な修繕費や空室期間にも対応しやすくなり、安定した資産運用が可能となるでしょう。
リスクを低減しつつ、長期的に安定した資産形成を目指すスタイルです。
「節税したい」……税務対策重視型
不動産投資は税負担の軽減にも役立ちます。このタイプの投資家は、以下の戦略を取り入れるとよいでしょう。
・減価償却費を活用して所得税を軽減する
不動産の減価償却費・借入金利息・購入諸経費等は「経費」として計上できるため、課税所得を圧縮し、結果として所得税や住民税の負担を軽減することが可能です。特に築年数の古い木造アパートなどは短期間で減価償却が可能なため、高い節税効果が期待できます。
・相続税対策として不動産を活用する
たとえば、現金2億円を相続する場合、基礎控除(3,600万円+600万円×法定相続人数)を差し引いた課税遺産総額に対して相続税がかかります。
子ども2人が相続人の場合、基礎控除は4,800万円となり、課税遺産総額は1億5,200万円となります。これに法定相続分に基づく相続税率を適用すると、概算で約4,200万円の相続税負担が発生します。
しかし、不動産として所有することで評価額を圧縮できれば、相続税を数千万円単位で削減することも可能です。
・短期売買で節税効果を狙う
たとえば、会社員で1,000万円を超える収入がある場合など、不動産購入時の初期費用や減価償却費を活用することで、大きな節税効果を得る手法があります。
さらにこの手法であれば、譲渡所得税率が下がる所有期間5年超ごとに物件を買い替えることにより、売却利益も確保し続けることが可能です。
ただし、これらの手法はリターンが大きい分リスクも高いため、市場動向をしっかり分析し、適切なタイミングで売買するスキルが求められます。
・法人化して税制優遇を受ける
法人として不動産投資を行うことで、所得によっては個人よりも低い法人税率が適用されるほか、経費計上の幅が広がり、節税効果がより高まるケースがあります。また、役員報酬として給与を支払うことで所得分散が可能となり、個人にかかる税負担を軽減することも可能です。
ただし、節税目的の投資は税制の変更にも注意を払う必要があるため、必ず専門家のアドバイスを受けながら実践しましょう。
「ゴール」の設定が、不動産投資の成否を分ける

不動産投資を成功させるには、投資目的を明確にし、それぞれの目的に応じた投資スタンスを設定することが不可欠です。
- 利益を追求するなら、積極的な売買やリノベーション投資を検討
- 資産を守るなら、安定した賃貸需要のあるエリアで堅実な運用
- 節税を目的とするなら、税務知識を深めながら効果的なスキームを活用
- 年齢やライフステージに応じた適切な投資手法を選択し、リスクとリターンのバランスを考慮する
投資スタンスを明確にし、自分に合った戦略を採ることで、不動産投資の成功率を高めることができます。適切な情報収集と計画的な運用を心がけ、堅実な不動産投資を目指しましょう。
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