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不動産投資の失敗事例…「利回り」に固執しすぎた投資家の末路【FPが解説】

不動産投資の失敗事例…「利回り」に固執しすぎた投資家の末路【FPが解説】
山中 伸枝(株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役)

執筆者

株式会社アセット・アドバンテージ・代表取締役

山中 伸枝

1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務し、人事、経理、海外業務を担当。留学経験や海外業務・人事業務などを通じ、これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、お金のアドバイザーであるファイナンシャルプランナーを目指す。2002年にファイナンシャルプランナーの初級資格AFPを、2004年に同国際資格であるCFP資格を取得した後、どこの金融機関にも属さない、中立公正な独立系FPとしての活動を開始。金融機関や企業からの講演依頼の他、マネーコラムの執筆や書籍の執筆も多数。

不動産投資は安定した家賃収入を得られる魅力的な資産運用方法です。近年では、会社員や公務員が副収入の柱として始めるなど、投資家のすそ野も広がっています。そのようななか、表面的な数字にとらわれて冷静な判断を欠いた結果“痛い目”をみる初心者も……。事例をもとに、不動産投資における落とし穴とその対策についてみていきましょう。ファイナンシャルプランナー(FP)の山中伸枝氏が解説します。

「利回り10%」に惹かれて中古アパート投資を始めた40代会社員

「利回り10%」に惹かれて中古アパート投資を始めた40代会社員

加藤さん(仮名・40代)は、都内のIT企業に勤めています。年収は800万円と安定しており、老後資金の準備や資産形成を目的に「不動産投資」を検討していました。

不動産のみならず、投資自体が初めてだった加藤さんは「不動産投資初心者向け」がテーマのセミナーに数多く参加。

こうしたなか、「利回り10%以上」というフレーズに惹かれた加藤さんは、あえて地方都市にある2,400万円の中古1棟アパート(築28年、総戸数8戸)を購入することにしました。

当該物件は都内の自宅から遠方にあるため、加藤さんが直接物件を見たのは1度だけ。築年数は経過しているものの、外観に問題はなく、セミナー講師がおすすめしていたこともあって、ほぼ即決でこの物件を選びました。

購入当初の想定家賃収入は年間240万円(満室稼働時)で、単純計算で表面利回りは10%。加藤さんは、「銀行預金では到底得られない利回りだ」と大満足です。

しかし、購入後わずか1年で状況は一変しました。

まず、3戸が空室となってしまい、入居率は約60%に低下。加えて、築年数が古いため、外壁のひび割れ補修や屋根の防水工事などの修繕が必要になり、初年度だけで約180万円の出費が発生しました。

さらに、管理費や固定資産税も年間30万円以上かかり、加藤さんの手元にはほとんど現金が残らない状況に陥ってしまったのです。

実質利回りを計算すると、下記のようになります。

  • 年間家賃収入:240万円×入居率60%=144万円
  • 年間支出:修繕費180万円+管理費等・固定資産税30万円=210万円

実質収支:144万円-210万円=▲66万円

人任せでした…加藤さんが不動産投資に失敗した「3つの原因」

人任せでした…加藤さんが不動産投資に失敗した「3つの原因」

加藤さんは、多くのセミナーに参加し情報収集には熱心だったとはいえ、物件選びやその管理などはその講師が言っていたことを鵜呑みにし、ほとんど人任せにしていました。

「不動産投資のいいところばかりに目がいき、甘く見過ぎていました」

加藤さんは、のちにこう振り返ります。加藤さんが失敗してしまった主な原因は、下記の3つです。

1.老朽化した物件の見極め不足

建物の老朽化により突発的な修繕が必要になれば、利回りは一気に悪化します。加藤さんは築28年という物件の経年劣化を軽視し、将来的な修繕費や維持管理コストを十分に見積もっていませんでした。

2.立地と需要の分析不足

加藤さんが購入した物件は、地方都市で最寄り駅から徒歩18分の立地にあります。周辺には新築アパートの供給も多く、賃貸需要が年々低下しているエリアでした。入居率の維持が難しくなるエリアだったにもかかわらず、加藤さんはこのリスクを過小評価していたのです。

3.空室・管理リスクの見落とし

加藤さんは、自身が不動産投資初心者だったこともあり、物件の管理については業者に委託していました。そのため、空室対策が十分でなく、管理の質のばらつきが収益に直結してしまいました。

とはいえ、やはり、加藤さんの失敗の最大の要因は、表面利回りという”見せかけの数字”に囚われてしまったことにあるでしょう。

利回りはあくまで“参考指標”

利回りはあくまで“参考指標”

不動産投資において、利回りはあくまで“参考指標”に過ぎません。そのため、数字の裏にある前提条件やリスク要因を丁寧に読み解くことが重要です。

不動産投資において重要なポイントは下記の3つです。

1.表面利回りよりも「実質利回り」を重視する

実際、表面利回りが高くても「実質利回り」では赤字になるケースは少なくありません。

そのため、税引き後のキャッシュフローや修繕・管理費・空室リスクなどを加味した「実質利回り」で収益性を評価するようにしましょう。加藤さんは自ら検証するという作業を怠ってしまいましたが、必ず自分で確認するようにしましょう。

2.物件の「収益構造」と「ライフサイクル」を把握

築年数に応じて、その物件にどのような支出が発生するか、どのタイミングで大規模修繕が必要になるか、購入前にシミュレーションすることが不可欠です。事前に「インスペクション(建物調査)」を実施することもいいでしょう。

加藤さんは不動産投資の経験がないとはいえ、もう少し慎重に将来のコストを考えるべきでした。

3.地域需要の綿密な調査

加藤さんは現地で物件こそ見たものの、そのエリアの人口動態や駅からの距離、競合物件など、周辺情報についてはまったく収集していませんでした。

いま挙げたような入居需要を裏づけるデータについては、最低限分析しておくべきでしょう。単に「利回りが高い」という理由で地方に手を出すのは危険だといえます。

丸投げはダメ…「管理会社」に任せるメリット・デメリット

丸投げはダメ…「管理会社」に任せるメリット・デメリット

さらに、物件が地方にあるからといって、管理会社に丸投げした点もよくなかったと考えられます。たしかに、物件管理を専門業者に委託することで空室リスクの低減や手間の軽減が期待できるものの、注意すべき点もあります。

メリット・デメリットは下記のとおりです。

〈メリット〉

  • 入居づけの強化
    ……管理会社は募集力があり、広告展開やネットワークを活用して空室を埋める力に長けています。
  • 手間の削減
    ……家賃回収やクレーム対応、修繕手配などを代行してもらえるため、オーナーは本業に集中することができます。
  • トラブル対応
    ……家賃滞納や設備トラブルに対して専門知識をもって対応してくれるため、精神的負担が軽減されます。

〈デメリット〉

  • 管理費が発生する
    ……通常、月額家賃の3〜5%程度が管理料として差し引かれます。収支計算には必ず反映させるようにしましょう。
  • 質の差がある
    ……すべての管理会社が優れているとは限りません。地元の評判や実績の確認が大切です。
  • サブリースのリスク
    ……家賃保証をうたう「サブリース契約」では、実際には相場より低い賃料設定がされていたり、契約途中で賃料が減額されたりするリスクがあります。契約内容を細かくチェックすることが重要です。

なお、管理会社に業務を委託する場合は月々の管理委託料のほか、下記のような費用がかかることが一般的です。

〈費用感の目安〉

  • 管理委託料:家賃の3〜5%程度(例:家賃8万円なら2,400〜4,000円/月)
  • 修繕時の手数料:実費+5〜10%程度
  • サブリース契約:家賃の85〜90%がオーナー取り分となるケースが多い

不動産投資は“戦略的”に

不動産投資は、正しい知識と現実的な視点を持てば、安定収入を得る手段として有効です。しかし、数字の魅力に踊らされてしまうと、思わぬリスクに足をすくわれることもあります。

読者の皆さんには、今回の事例を教訓に、慎重かつ戦略的に投資判断を行っていただきたいと思います。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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