不動産投資は、購入して終わりではありません。「売却」のタイミングや方法といった「出口戦略」を練ることが、売却益の最大化につながります。収益物件を高く売るために知っておきたい「4つのポイント」をみていきましょう。不動産投資専門FPの伊豫田誠氏が解説します。
不動産投資成功のカギを握る「出口戦略」

不動産投資は購入して運用するだけでなく、売却のタイミングや方法の検討が成功を左右します。すなわち、「出口戦略」を早期に視野に入れることが重要です。
出口戦略とは、保有する収益物件をいかに高く、かつ効率よく売却するかを計画・実行することを指します。
これをおろそかにすると、得られるはずだった利益が目減りしてしまうこともあります。逆に、事前にしっかりと準備しポイントを押さえれば、売却時に大きなリターンを得ることが可能です。
低コストでも物件の印象は大きく変えられる

収益物件を高く売るための第一歩は、「物件の印象をよくする」ことです。特に、内装の軽微なリフォームやクリーニングは費用対効果が高いとされています。
具体的には、以下のような工事は比較的低コストで物件の印象を大きく改善できます。
〈比較的低コストで行える工事の内容とおおよその予算〉
- 壁クロスの張り替え……6~30万円
- 洗面化粧台の交換……20~50万円
- トイレの改装……20~100万円
- システムキッチンの交換……40~80万円
- システムバスの交換……50~100万円
ただし、リフォームの内容や程度は、下記のように物件タイプによって「適性」が異なります。
ワンルームマンション
まずワンルームマンションの場合、想定されるターゲットは「単身者」や「投資家」です。
そのため、キッチンのリフォームや照明の交換など、小規模な改修が効果的です。20万円以内で見た目を整えるのがいいでしょう。過剰なリフォームはかえって損する可能性があるため注意が必要です。
ファミリーマンション
他方、ファミリーマンションの場合、想定される主なターゲットは「ファミリー層」です。このほか、投資用物件として購入する投資家もターゲットとなります。
ファミリーマンションの場合は、キッチンや水回りの清潔感が特に重視されるほか、収納や間取りの使いやすさも重要です。ただし、室内フルリフォームは費用対効果を熟考して検討すべきでしょう。部分改修と清掃で十分なケースも少なくありません。
1棟アパート・マンション
1棟アパート・マンションの場合、想定される主なターゲットは「投資家」や「経営者」です。
そのため、個室リフォームよりも「建物全体の維持管理状態」が評価されます。屋上や外壁の修繕履歴、配管更新の有無などが価格に直結するため、共用部の印象も重要です。
戸建て住宅
戸建て住宅の場合、想定される主なターゲットは自宅として購入する「エンドユーザー」です。
そのため、キッチンや浴室・外壁・外構など、見た目と機能性の両方をチェックされやすいです。中古でも「そのまま住めそう」と思わせる清潔感が重要です。
このように、物件タイプごとに「買い手がなにを重視するか」を踏まえたうえで、リフォームの規模や優先順位を判断することが過剰投資を避けるコツです。
売却益を最大化させる「コスト管理」と「節税対策」

収益物件の売却は、売却価格だけでなく「売却に伴うコスト」も手残りに大きく影響します。以下のような費用がかかることを把握し、可能な限り低く抑えられるよう工夫しましょう。
〈主な売却時コストとその目安〉
- 仲介手数料:不動産会社に支払う成功報酬(法律で定められた上限金額)
取引額× 3%+ 6万円+消費税※1 - 登記費用:登記簿の名義変更、抵当権抹消等の司法書士報酬
約2~5万円※2 - 書類発行費用:登記簿謄本、印鑑証明書など
登記簿謄本1通600円程度、印鑑証明書1通300円程度 - 印紙税:売買契約書に課税
例:売買価格1,000万円超〜5,000万円以下→1万円(軽減措置適用後)※3 - 測量、境界確認費:必要な場合、測量士に依頼する外注費
10万~30万円(土地面積・状況により変動) - リフォーム費:売却前の原状回復や印象改善のための工事費
5万~100万円以上(内容による) - 譲渡所得税:物件の売却で得た利益(譲渡所得)には、譲渡所得税+住民税+復興特別所得税がかかります※4。
所有期間5年超の「長期譲渡」……約20.315%
所有期間5年以下の「短期譲渡」……約39.63%
売却益を最大化するには、税金や諸費用を事前に把握し、適切な対策をとることが重要です。譲渡所得税は所有期間5年超で税率が約20%に軽減されるため、売却時期を1月1日以降にずらすことで節税できる場合があります。
また、仲介手数料は法律上の上限で、交渉により削減できる可能性もあります。その他、登記費用や印紙税などの細かなコストも見落とさず、売却後の手残りを意識して準備しましょう。
「誰に売るか」によって、アピールポイントは異なる

また、物件の売却は「誰に売るか」によってアプローチ方法が大きく変わります。大きく分けて、売却先は以下の2つに分類されます。
1.投資家への売却
投資家に売却を行う場合、重視すべきポイントは下記のとおりです。
- 利回り
- 資産価値
- 空室率
- 管理状況
- 収支実績
など
提示資料としては、「レントロール(賃貸明細)」や「修繕履歴」、「入居者属性」などが挙げられます。収益性や運用コスト、エリアニーズを交渉の軸に置くと、スムーズに進むでしょう。
2.エンドユーザー(居住希望者)への売却
一方、エンドユーザー(居住希望者)に売却を行う場合、重視すべきポイントは下記のとおりです。
- 住み心地
- リフォームの有無
- 近隣環境
- 設備の状態
など
提示資料としては、間取り図や周辺施設の情報、写真などを準備しておくことをお勧めします。耐震・断熱性能についても、わかりやすく説明できるよう資料があるとなおよいでしょう。
また、暮らしやすさや安心感、清潔感などをアピールすることも重要です。
なお、物件タイプ別によっても訴求すべきポイントは異なります。それぞれ下記のようなポイントをおさえて交渉しましょう。
- 1Rマンション
【ターゲット】投資家
【アピールポイント】資産価値、管理状況、修繕積立金、駅からの距離など - ファミリーマンション
【ターゲット】投資家/自住 両方
【アピールポイント】リフォーム状況(水回り・収納力)、周辺環境(学区・治安・お店)、ローン審査への対応 - 1棟アパート・マンション
【ターゲット】投資家
【アピールポイント】実質利回り、空室率、建物修繕履歴、管理コスト、出口戦略の説明 - 戸建て住宅
【ターゲット】実需(居住目的)
【アピールポイント】生活導線、周辺環境(学区・治安・お店)、駐車場の有無、ハウスクリーニングの徹底など
物件を高く売るには、「誰に売るか」を明確にし、そのターゲットに合わせて魅力を伝えることが重要です。投資家には収益性や管理状況、居住希望者には住み心地や設備の状態を訴求しましょう。
また、売却前にはレントロールや修繕履歴の作成、権利関係、境界線の確認などを徹底すべきです。こうした事前調査が不十分だと、価格交渉で不利になったり、契約トラブルの原因になったりします。
売却益の最大化は“早めの計画”が功を奏す
収益物件を高く売るためには、物件の魅力を引き出すリフォームや、無駄を省いたコスト管理、買い手のニーズに応じた販売戦略が不可欠です。
さらに、物件タイプごとの特性を理解し、市場動向を見極めることで、売却益の最大化が図れます。
ときには専門家の力を借りながら早めに計画を立て、納得のいく売却を目指しましょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。