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知らないとぼったくられる?…不動産投資の成否を左右する「コスト管理」の教科書

知らないとぼったくられる?…不動産投資の成否を左右する「コスト管理」の教科書
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

投資用不動産を長く安定的に運用するには、「物件価値の維持」と「修繕費用のコントロール」が欠かせません。外壁のひび割れ、水回りの劣化、エアコンや給湯器の故障——これらは築年数が経過すれば避けられない問題です。しかし、事前の準備と計画次第で費用とリスクを最小限に抑えることができます。では、具体的にどのような準備と計画が必要なのでしょうか。大家経験のある弁護士・山村暢彦氏が、修繕計画の立て方や業者との交渉のポイント、大規模修繕に備える資金対策を解説します。

修繕は「出費」ではなく「資産防衛」

修繕は「出費」ではなく「資産防衛」

 修繕費は、単なるコストではありません。物件の寿命を延ばし、空室率を下げ、将来的な収益を確保するための「資産防衛策」として位置づける必要があります。

たとえば、外壁の塗装を先延ばしにした結果、建物内部にまで雨水が浸透し、数百万円単位の補修が必要になるケースは少なくありません。

反対に、計画的に12~15年周期で外壁塗装を行えば、美観を保ちながら構造躯体を守ることができるため、大規模修繕のリスクも下げられます。

つまり、「今直せば数十万円」で済むものを、「後回しにしたら数百万円かかる」という状態にしないことが、長期運用には欠かせない視点です。

設備更新や点検の「タイミング」と「優先順位」

設備更新や点検の「タイミング」と「優先順位」

修繕計画を立てる際に迷いやすいのが「どこから手を付けるべきか」という優先順位の問題です。

一般的には、以下のような周期を目安に見直します。

  • 外壁塗装・屋上防水……12~15年
  • 給排水管の更新……20~30年
  • エアコン・給湯器などの設備……10年
  • エントランスや共用部の内装……5~7年

これらはあくまで一例ですが、実際には現地の状態や入居者の声をもとに柔軟に調整していくことが重要です。

たとえば、騒音トラブルが起きやすい物件であれば、防音性を高める内装リフォームを優先するなど、「収益に直結する修繕」から手を付けるのが効果的です。

入居者の声をもとにした定期点検を欠かさないことで、トラブルの芽を早期に発見し、結果的に費用を抑えることができます。

最近では、入居者の意識も「安く住めれば良い」から「安心して住める物件を選びたい」へと変化してきています。この傾向を踏まえると、従来の目安期間の8割程度を基準として点検・更新していくことが望ましいでしょう。

また、環境基準など近年の新しい設備基準に応じたアップデートもおすすめです。新たな設備基準に近づけることで先出費用はかさみますが、空室期間が短縮することで結果として収益性がアップするといわれています。

修繕費の見積もりで失敗しない業者選びの視点

設備更新や点検の「タイミング」と「優先順位」

修繕費の見積もりをとる際、投資初心者が陥りがちなのが「相場が分からないまま言い値を受け入れてしまう」ことです。これを防ぐには、次のようなステップを心がけましょう。

  1. 必ず3社以上の相見積もりを取る
  2. 内容の内訳を明確に比較する(材料費・人件費・管理費)
  3. 工事実績のある業者かを確認する(口コミ・実物件など)
  4. 緊急時の対応力や保証の有無もチェック

また、修繕項目のなかには、単価が高いものほど「過剰請求」が起きやすい傾向にあります。外壁の塗装や設備交換はその典型です。

交渉の際は「他社ではこの価格だった」「内容を項目別に比較して再検討したい」といった言い方で、強引な値下げ要求ではなく、論理的に価格妥当性を問い直すスタンスが効果的です。

これはSNSなどで流れている値切り交渉とは切り離して考えるべきでしょう。「不動産・建設業界は値切れる」という安易な思考は禁物です。一方的な値引き要求は、業者から敬遠され、結果的に自身の不利益につながります。

一方、大雑把な見積もりを出す業者がいるのも事実です。必ず複数社から見積もりを取り、「なぜこの金額になるのか」という根拠を冷静に確認する姿勢が大切です。ただし、過度に細かく追及しすぎず、バランス感覚を持った交渉を心がけましょう。

大規模修繕に備える資金計画とリスク対応

大規模修繕に備える資金計画とリスク対応

物件が築20年を超えると、給排水管の更新や防水設備の全面改修など、1回あたり1,000万円以上の修繕が必要になる場面も増えてきます。

このタイミングで「資金が足りない」となれば、賃料の下落、空室リスク、最悪の場合は売却や借り入れでの対応を迫られる事態にもなりかねません。

そこで重要なのが、突発的な修繕に備える「積立計画」です。

家賃収入のうち、毎月1割程度を「修繕準備金」として積み立てることで、いざというときの備えになります。マンション管理組合のような制度設計を、個人所有物件でも取り入れるイメージです。

また、資金が潤沢でない場合は優先順位をつけて段階的に修繕を行う、あるいは融資を活用する方法もあります。最近では、修繕費に特化した不動産投資ローンを用意している金融機関もあるため、選択肢として検討しておくとよいでしょう。

まれに、不動産賃貸業を始めたばかりの方のなかには、手残りキャッシュを「利益=使ってしまってよいお金」と勘違いして散財してしまう人がいます。

不動産賃貸業は、非常に長期的に薄い利益を積み立てていくビジネスモデルです。突発的な修繕トラブルなどで「年単位の利益」が飛ぶこともあり得ます。そのため、修繕費や修繕計画を織り込んで、積み立て計画もしっかりと考えて行動していきましょう。

稼働率と物件寿命を両立させる管理術

稼働率と物件寿命を両立させる管理術

「家賃を下げても空室が埋まらない物件」と、「家賃が高くても満室を維持できる物件」との差は、単に立地や築年数だけではありません。

定期的なメンテナンスが行き届き、設備が清潔に保たれていること——それが、入居者にとっての「安心感」と「満足感」に直結し、口コミや紹介による入居にもつながるのです。

入居者の満足度は単に「安い」だけでは高まりません。実際の入居理由として「共用部が綺麗だったから」「管理会社の対応が早かったから」といった声が多くあがっていると聞きます。

目に見える修繕だけでなく、日々の清掃や巡回、点検といった「目に見えない部分」こそが、結果的に稼働率に影響するという点は、意外と見落とされがちです。

修繕は“攻め”と“守り”の両面戦略

修繕は“攻め”と“守り”の両面戦略

不動産投資における修繕とは、「老朽化への対応」という受け身の作業ではありません。むしろ、資産価値を維持して収益を安定させるための「戦略的行動」です。

優先順位を見極め、点検と計画を重ね、適切なタイミングで設備を更新していくことが、長期的な運用における最大のリスクヘッジになります。

防災・省エネへの対応や入居者ニーズの変化への柔軟な対応も含め、物件を育てる意識を持つことが不動産投資成功のカギとなるでしょう。

法的な観点からも、修繕不備による損害賠償や近隣トラブルといったリスクを回避するためには、日々の管理の積み重ねがなによりの予防策となります。

本記事をきっかけに、ご自身の物件の修繕計画と資金対策を見直し、「長く稼げる物件」を目指して一歩踏み出していただければ幸いです。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、最新情報はホームページ等でご確認ください。

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