不動産投資において、利回りは重要な判断指標です。都心の物件は旺盛な需要を背景に年々価格が高騰しており、利回りの観点からは投資妙味が薄れています。
一方、利回りの高い地方物件には、地方ならではのデメリットもあり、都心と地方どちらの物件に投資すべきか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回、メガバンク出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が、都心と地方それぞれのメリット・デメリットと、キャリア別にみた最適な投資物件について解説します。
「都心」と「地方」それぞれの強み

不動産投資において、「エリア選び」は成否を左右する重要な判断です。そしてこのエリアについて、大別すると「都心」と「地方」の2種類に分けられる。以下、それぞれの強みをみていきましょう。
都市物件の強みは、なんといっても「人を引き付ける力」です。下図のとおり、東京都と周辺3県が突出して人口が増加していることがわかります。
![[図表1]都道府県別社会増減数※(2023年、2024年)](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/f97774f6a89d095599ca90068270e813.jpg)
出典:総務省統計局|住民基本台帳人口移動報告 2024年(令和6年)結果
※社会増減数=(転入者数-転出者数)+(国外からの転入者数-国外への転出者数)+移動前の住所地不詳-職権消除等
都心は「職住近接」の環境にあり交通網も発達しているため利便性が高く、多くの人を引き付け、不動産需要も底堅いです。人口の増加は、賃料の上昇および不動産価格の上昇を表すことから、都市圏は投資先として良好な市場です。
一方、地方物件は相対的に投資需要が低いことから、不動産価格も安く、利回りも高いことが強みといえます。
ただし、利回りについては「実態」を勘案する必要があります。不動産投資においては満室時の「想定利回り」で検討することが多いですが、半分程度空室がある場合は「実態利回り」は低くなります。
〈例〉
満室利回り:10%
実態利回り:10%×稼働率50%=5%
なお、物件資料などに表示される利回り(表面利回り)は、実際の経費や空室リスクなどを考慮していない場合が多いです。管理費・修繕費・固定資産税などを差し引いた「実質利回り」で検討することが、失敗を防ぐポイントです。
地方においては、人気の地域とそれ以外との差が大きいことから、立地や建物のスペックなど市場調査が欠かせません。
地方物件は「インバウンド増加」も味方につけられる
また、昨今では訪日外国人(インバウンド)の増加が顕著である。観光資源の多い地方都市の場合、「簡易宿泊所」や「民泊」として利用することで、不動産収入をより増やすことが可能となっています。
![[図表2]訪日外国人旅行者数・出国日本人数の推移](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/f786889bb94bb1738c76d0348e243204.jpg)
出典:日本政府観光局|訪日外国人旅行者数・出国日本人数
投資初心者は「すぐ見に行ける場所」を選んで

このように、投資物件には都心・地方それぞれに強みがある一方、リスクも存在します。
まず、どちらのエリアにも共通するリスクといえるのが「不動産収入の下落」と「コストの上昇」です。
物件購入後に空室が発生し、長いこと入居が決まらない場合は、自ら要因を分析して早期に行動に移さなければならない。ローン返済を家賃収入でカバーできなければ持ち出しが続き、金銭面もさることながら精神的なダメージも大きくなるからです。
具体的には、近隣の不動産会社を複数訪問のうえ募集の依頼を行い、早急に入居者を探す必要があります。
また、空室が発生すると「原状回復工事」を行わなければならない。これを不動産会社任せにすると、現状でも十分そのまま使える箇所までリフォームを提案してくることがあります。
自ら確認していないと、いわれるがままリフォームを実施することになり、その結果余計なコストが増えかねないため注意が必要です。
したがって、これから不動産投資を検討している人が首都圏在住者であると仮定すると、もっとも重要なのは居住地からすぐに見に行ける場所(おおむね30分以内)を選ぶことをおすすめします。
最初の投資においては、なるべく居住地の近くの物件を購入し、購入後に起こる一つひとつの出来事を腹落ちさせ、主体的に関与することが重要です。
都心部は前述のとおり、人口増加地域であることから大きな空室損が発生する可能性は低いです。しかし、賃料やコストの妥当性については常に注意を払う必要があります。
一方、地方物件を購入する場合は、人口減少のリスクがあることから、入居者の維持が不可欠です。入居者の減少は不動産収入の下落を意味し、物件価格の下落にもつながります。
周辺の競合物件との差別化が図られていないと、すぐに収入の下落につながりかねないため、対策は必須といえます。
なお、居住地と投資先物件に距離がある場合、人任せとなることによるリスクを抱えることになります。したがって、業者に騙されないための仕組みづくりが欠かせません。
地方物件成功の秘訣は「仕組みづくり」

筆者が銀行員として働いていたころ、都内に住みながらも地方へ集中的に投資をしている顧客A氏がいました。その当時、利回りが20%程度の物件を複数地方に所有しており、確定申告をみると安定的に稼働していました。
A氏は他の顧客と明らかに異なる投資スタンスであったことから成功の秘訣を聞いてみたところ、その地域において募集を行っている不動産会社や建物管理を行う不動産会社、リフォームを行う施工会社などとチームを組み、定期的に現地訪問のうえ親睦を深めることがカギとのことでした。
A氏がつくり上げた仕組みのポイントは、自ら労を惜しまず現地へ出向きながら、信頼できる人脈づくりを行ったことにあるでしょう。
このように、地方であっても適切に募集・管理・修繕ができる仕組みをつくることができれば、大きなリターンに繋がることもあります。
地方にあるからといって、その段階で投資対象から外すのではなく、地方ならではの「仕組みづくり」を行うことが成功への第一歩となります。
ただし、現地に頻繁に足を運べない場合や、信頼できる管理会社が確保できない場合は、思わぬトラブルや管理不全が発生するリスクもあるので注意しましょう。遠隔地投資の場合は、管理体制や現地との連携をしっかり整えておくことが大切です。
下図は、不動産価格の推移(前年からの変動率)を示したものです。5列ある棒グラフのうち、最右列(青線)が地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)を表しています。
上記をみるとわかるように、地方都市であっても東京圏以上に上昇している地域もあることから、地方物件の投資においては地域選びが極めて重要だといえます。
![[図表3]地域別に見た住宅地における不動産価格の推移(2015年以降)](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/fc0fed5af56f0a0f7100d2c149b833d4.jpg)
出典:国土交通省|地価・不動産鑑定 地価公示」をもとに筆者作成
キャリアに合った最適な投資エリアの見極めで、成功率は上げられる

都心、地方それぞれのメリット・デメリットをまとめると、[図表4]となります。
![[図表4]都心物件と地方物件それぞれのメリット・デメリット](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/a09f5ad21ec2de3538d7bb0034602254-1024x323.jpg)
出典:筆者作成
また、投資家タイプを「初心者」「中級者」「上級者」とセグメントし、それぞれの投資物件の適正を落とし込むと[図表5]のようになります。
![[図表5]不動産投資レベル別に見た、投資物件の立地(地域)の適正](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/4df510c2e1856da4100fa730e2fa00f6.jpg)
出典:筆者作成
投資初心者の場合は、経験を積む意味でも最初から高利回り物件に投資するのではなく、人口が一定数あり、収入が安定している地域を投資対象とすることをおすすめします。
また、都心物件は価格が高いため、初期投資額や自己資金も大きくなります。一方で、地方物件は比較的少ない資金から始めやすいですが、そのぶん地域の選定や安定収益への見極めがより重要になります。
他方、中級者の場合はポートフォリオ(分散投資)組成の観点から、「利回りの高い地域」への投資も積極的に検討したいところです。
また、地方物件は先述したように、物件選びやチームアップ、利用方法などで都心とは異なる収益力を発揮できる可能性がありますが、それを実現するための知識や経験などが不可欠です。したがって、不動産投資に実績を有する中級者以上の能力が必要になってきます。
上級者はすでに多くの実績や経験を積んでいることから、ローリスクの物件からハイリスクの物件まで投資を行い、さらなる投資スタイルの確立を進めていくことになるでしょう。
投資上級者もかつてはみな初心者として、多くの失敗と成功を繰り返しながら、そのスキルを高めてきました。
したがって、リスクとリターンの見極めは重要でありますが、初心者だからといって怯みすぎることなく、まずは一歩踏み出すことをおすすめします。
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