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不動産投資の成否は出口戦略次第?…最適な「売却タイミング」を見極める4つの視点

不動産投資の成否は出口戦略次第?…最適な「売却タイミング」を見極める4つの視点
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

収益が安定しなくなってきた、資産の組み換えを検討したい、手間に見合わないと感じるようになった……投資用物件の売却理由はさまざまですが、「いつ・どのように売却するか」を間違えると、大きな損失や後悔を招きかねません。本稿では、自身も大家経験のある山村暢彦弁護士が、不動産売却の適切なタイミングを見極めるための視点を4つに分けて解説します。

市場動向の見極めが出口戦略の成否を左右する

市場動向の見極めが出口戦略の成否を左右する

不動産は“買ったときより高く売れれば勝ち”という単純な話ではありません。重要なのは、市場動向を的確に捉えて機会損失を防ぐことです。

たとえば、2013年以降のアベノミクスに端を発した不動産価格の上昇局面では、都市部の中古ワンルームが1.5倍近い価格にまで上昇した事例もあるようです。

しかし2023年〜2024年にかけては、金利上昇への懸念や人口減少による地方物件の需給悪化が一部で顕在化しています。また、既に物件価格が高騰しすぎている面もあり、売却のタイミングや購入層を誤ると買い手がつかない事態も生じ始めているようです。

筆者自身も、初めて購入した中古の収益物件を「これ以上持ち続けてもリスクが上回る」と判断し、すでに売却しました。

確かに「もっと上がるかもしれない、もう少し保有して収益を得たほうがよいのか」と思う気持ちもありました。しかし、素早く売り抜けておいたことで、リスクを限定して想定内の利益を得ることができたため満足しています。

ポイントは「価格が高いから売る」ではなく「今後の変動リスクと比較して、今売るべきか」を冷静に見極めることです。過去の相場や経済指標をチェックし、複数の不動産会社に査定を依頼して市場の「今」を客観的に把握することが、賢い売却への第一歩でしょう。

“売却のサイン”は物件が発している

“売却のサイン”は物件が発している

築年数が進んだ物件は“見えない劣化”が収益性を徐々に蝕みます。賃料下落・空室率の上昇・修繕費や管理費の増加といった数字が物件の“寿命”を教えてくれるのです。

たとえば、空室率が20%を超えはじめた物件は、安定収益を生み出すエンジンとしては限界が近い目安といえるかもしれません。

ただし、この数値はエリアや物件規模によって異なるため、あくまで参考としてください。

さらに、エレベーターや給排水管といった共用部分の更新が必要なタイミングで修繕積立金が不足している場合、突発的な大規模修繕でキャッシュフローが一気に悪化するリスクもあります。

筆者が売却を決断した物件も、老朽化による影響を幾つか発見し、「いま売らないと、あとで買い手がつきづらくなる」という判断に至りました。

当然、いつが最適な売却時点かは誰にもわかりません。ただ、老朽化物件はいざ「雨漏り」などの大きな不具合が見つかってしまうと大きな価格下落に通じるため、一歩早めの出口を探す、という感覚もリスクに備えるという点では大事だと考えました。

収益の悪化した物件を「失敗したな……」と過度に後ろ向きに捉える必要はありません。キャッシュフローを圧迫し始めたタイミングで“損切り”ではなく“次の投資への資金確保”と捉え直すことで、前向きに行動できるはずです。
またそう考えることで「次の物件」への思考に切り替わるため、戦略的な売却が可能になります。

売却コストを把握して「手残り」を最大化する

売却コストを把握して「手残り」を最大化する

売却金額が3,000万円でも、手元に残る金額はもっと少なくなる。これは、不動産投資家であれば誰もが直面する現実です。

たとえば、譲渡所得に対して発生する税金(長期保有〔5年超〕:20.315%、短期保有〔5年以下〕:39.63%)、仲介手数料(売却価格×3%+6万円+消費税)、司法書士報酬、登記費用など……合計すると数百万円単位の差が出ることもあります。

また、譲渡益が大きく出そうな場合は、売却タイミングを年内・年明けで調整するだけでも税負担が変わってくるため、事前に税理士など専門家に相談することが極めて重要です。

資金計画を組む際には、「売却価格-売却コスト=実質の次の物件の軍資金」という視点で、次の一手を考えていく必要があります。

売却時には「正直」な取引を

売却時には「正直」な取引を

売主からすると、当然「1円でも高く売りたい」「実際よりも価値があるように見せたい」と考えるでしょう。

しかし、不都合な点を隠して売却することは避けてください。不動産の売買では、後から判明した不具合は「契約不適合責任」という責任を負うため、売却後に紛争に巻き込まれるケースがあります。

一般的には、個人(※宅建業者以外)が売主の場合には「契約不適合免責特約」を付して売却するケースが多いでしょう。ここで「故意」に不具合を隠して売却した場合、この免責特約が無効になり「契約不適合責任」を負うケースが生じてしまいます。

不動産投資として収益不動産を保有管理する際には、単純な値動き以上に「どこまで自分の時間やストレスを使うのか」を考えて行動することも大切です。

仮に、高く売るために不具合を隠して売却した結果、あとから契約不適合責任を負うかどうかと争いが生じるのは本末転倒でしょう。もしも裁判沙汰になってしまった場合、弁護士費用が数百万円発生するようなケースも頻発します。

売却を「次のステージ」にするために

売却を「次のステージ」にするために

不動産投資は「買って終わり」ではありません。「売却こそが利益確定の場」であり、その成否が資産形成の行方を左右します。

筆者が売却を経験した際も、「はじめて買った思い入れのある物件」だからこそ手放す決断は容易ではありませんでした。

しかし、数字と状況を冷静に見つめ、手元資金とライフスタイルの変化を踏まえて「このタイミングが最良」と考えたことで、納得のいく出口戦略を描くことができました。

これにより、不動産投資は“終わり”ではなく「次のステージへの資産活用のはじまり」となるのです。売却後の資金をどう活かすかこそが、資産形成の真価といえるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、最新情報はホームページ等でご確認ください。

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