不動産投資と聞くと、アパートやマンションなど集合住宅をイメージする人は多いでしょう。
他方、主に不動産投資経験者のあいだで「新築戸建て投資」が注目されていることはご存じでしょうか?
なぜ「新築戸建て投資」が注目されているのか、そのメリット・デメリットや新築戸建て投資の具体的なポイントについて、不動産コンサルタントの小俣年穂氏が解説します。
戸建て投資が注目されている理由

戸建て投資が注目される理由としてまず挙げられるのが、賃貸住宅としての「供給量の少なさ」です。
賃貸住宅の多くは、1棟もの(マンション・アパート)であるケース、分譲マンションを賃貸しているケース、投資用ワンルームマンションなどでしょう。
このように、一般的に「戸建て=持家」というイメージがあるため、賃貸用戸建ての供給量が少ないことが実態です。
そのようななか、近年は木造系のハウスメーカーなどが共同住宅として成立しにくいバス便エリアなどで、当該エリアの地主に対して「戸建て賃貸」を提案することが増えてきました。
しかし、他の賃貸用不動産に比べると、新築戸建てはまだまだ少ないのが実状です。
他のアセットとの比較については中古戸建の筆者記事(関連記事リンク)にて述べているため割愛しますが、中古戸建との比較においては以下のような特徴があります。
■中古戸建と比較した場合のメリット
- ローンの調達が可能(金融機関によっては不可のケースも)
- 新築のため建物の劣化がない
- 最新の住宅設備であり賃貸に競争力を有する
- 新築のため投資家の意図した間取りとすることが可能
■中古戸建と比較した場合のデメリット
- 中古にくらべて割高(=利回りが低い)
- 時間の経過による資産価値の減少(建物部分の価値)
新築戸建て投資の具体的な方法

新築戸建てに投資をする方法は2つのパターンがあります。
ケース1……自ら投資商品を作る(土地購入+建物建築)
ケース2……完成した商品を購入する(建売住宅の購入)
ケース1……自ら投資商品を作る場合
ケース1では土地の探索から事業着手を行うため多くの手間や時間を要します。
主要な「工程」を示すと以下の通りです。
- 土地情報収集
- 金融機関への融資相談
- 土地購入(資金調達)
- 建築業者との工事請負契約
- 建築確認済証の取得
- 着工(資金調達)
- 上棟(資金調達)
- 竣工(資金調達)
- 入居開始
上記の通り土地購入から賃料発生までのタイムラグが長く、借入をして投資を行う場合にはイベントの都度、金融機関との手続きが必要であり、かつ土地購入時から期中利息(賃料発生までに負担する利息)がかかるため当該利息の確保も必要です。
また、賃貸開始までに具体的に要する「コスト」を列挙すると以下の通りになります。
- 土地購入代金
- 土地の仲介手数料(上限:売買代金×3%+6万円+消費税/国交省告示に基づく)
- 売買契約書の印紙(購入額により変動)
- 金銭消費貸借契約書の印紙税(契約金額区分により税額が変動)
- ローン手数料(約10万円)
- 所有権移転+抵当権設定 登録免許税及び司法書士報酬(固定資産税評価額及び借入額により変動)
- 建築代金(着手金+着工金+中間金+最終金)
- 工事請負契約書の印紙(請負金額により変動)
- 建物表示登記 土地家屋調査士報酬(約30万円程度)
- 期中利息
- 火災保険
- その他 設備工事(水道・ガス・電気)、外構工事、設計料など
- 賃貸借にかかる仲介手数料
- 不動産取得税
なお、購入した土地の地盤によっては地盤改良や杭工事などが発生し、想定外のコストがかかることがあるため留意が必要です。
ケース2……完成した商品を購入する
続いてケース2を検討しましょう。
この場合、土地建物をセットで購入するため、一般的には想定外のコストがかかることはありません。
また、ケース1のように時間も要しないため期中利息なども不要です。
必要な「コスト」を列挙すると以下の通りです。
- 不動産購入代金
- 不動産の仲介手数料(デベロッパーから直接購入の場合は不要なケースもある)
- 金銭消費貸借契約書 印紙(借入金額により変動)
- ローン手数料(約10万円)
- 所有権移転+抵当権設定 登録免許税及び司法書士報酬(固定資産税評価額及び借入額により変動)
- 火災保険
- 賃貸借にかかる仲介手数料
- 不動産取得税
このように、費用項目としては少ないものの、デベロッパーの利益が乗っているためケース1と比べて高額になっているのが一般的です。
また、人気エリアの物件は、デベロッパーは投資家ではなく実需層(自宅利用)に対して売却を行います。購入者の資金調達の点で住宅ローンのほうが有利であることが理由です。
どちらもメリットとデメリットはありますが、ケース1では物件選定や建築業者選定にかかる目利き力、投資経験が問われるため投資としてのハードルは高いでしょう。

出典:国土交通省の「不動産価格指数」※東京都2018年以降集計 2010年=100
戸建住宅とマンションの比較
不動産価格の上昇が顕著である東京都において、マンションの上昇と比較すると戸建住宅の上昇は緩やかです。
■2018年1月時点と2025年4月時点の変動比
- マンション……1.59倍
- 戸建住宅……1.19倍
戸建て投資は共用部維持費が不要でコストを抑えやすい点が特徴です。将来的な需要拡大によっては価格上昇の可能性も考えられますが、実際には金利・所得水準・供給状況などの外部要因に左右されるため、一概に上昇が見込めるものではありません。
新築戸建て投資の成否を分けるポイント

前述の通り、戸建て賃貸は供給量が少ない点で競争力を有しています。成功のポイントを列挙すると以下の通りです。
- 適正な賃料で借りる賃借人がいること
- 長期間入居をしてくれること
- 退去した際でも、すぐに次の入居者が見つかること
- 過度な設備投資はせずにコストを抑えること
戸建て賃貸のターゲットはファミリー層です。そのため入居を決める要素としては、立地のほかにも学区や自然などの住環境、生活利便性を重視します。また、駐車場は必須でしょう。テレワークとして利用できる部屋の設置、ペット飼育可能とすることでも差別化につながります。
また、子供を転校させたくないなどの考えから、入居期間が長期化する傾向にあります。小学生であれば6年間、またきょうだいがいれば、さらに長い期間の入居も期待できるでしょう。
入替が少ないことは原状回復コストの削減にもつながるため、長期間入居してもらうことで投資効率を高めることができます。
一方、昨今の賃料上昇局面から勘案すると、長期間入居の場合、大幅な賃料上昇は難しいでしょう。
不動産鑑定評価基準における継続賃料の考え方では、既存の賃貸借契約の直近合意時点からの変動分を求めるものであり、新たに賃貸する場合と比べて低くなることが一般的です。
例
現在の賃料:18万円
新規賃料 :22万円(新たな賃借人に賃貸する場合)
継続賃料 :19万円(既存の賃借人と交渉・合意のうえ賃料を上げる場合)
賃借権は、居住権の観点から賃借人が強い権利を有しており、賃料改定は借地借家法32条に基づき協議や手続きが必要です。そのため、オーナーが一方的に値上げや退去を求めることはできず、退去や更新拒絶にも「正当事由」が必要とされます。
あくまでも、インフレやコスト増加の現状、周辺の賃料相場をもとに説明のうえ、入居者に納得してもらう必要があります。
新築戸建て投資で失敗するケース
続いて、新築戸建てで失敗しやすいポイントを挙げていきます。
まずは、学区の評判が著しく悪いなど、そのエリアの競争力が低いケースです。そのエリアにファミリー層を惹きつける魅力がないと、価格で競争しなければならず、賃料を下げて収益性が悪化してしまうというリスクがあります。
また、物件に駐車場がなく自家用車を所有しているファミリー層からの入居希望がない、過度な設備投資によりコストがかさむ、といったケースも成功は厳しいでしょう。
投資効率を高めるためにも、コストを抑えた投資が肝要です。
筆者が実際に見聞きした「成功事例」と「失敗事例」

ここでは筆者が経験したいくつかの事例を紹介します。
成功事例…建築費高騰に伴い共同住宅から戸建て賃貸に変更
当初、マンション建築を企図するも、建築費高騰により当初期待していた利回りが取れないことが判明。戸建てにプランを変更し、コストを抑え当初の利回りを維持した事例です。
また、プロパンガスを導入することで、ガス会社からエアコンや給湯器などの設備提供を受け、初期コストを抑える手法もあります。
建築費の高騰にともなう戸建て賃貸への変更は、今後も増加するかもしれません。
失敗事例…戸建ての間取りに汎用性がないケース
好立地を確保したオーナー。エリアの競争力も高く、この投資は問題ないかと思われましたが、オーナーの“強すぎるこだわり”によって失敗したケースです。立地は問題なくとも、オーナーの趣味・趣向で独特な間取りとした結果、入居者がつかずに苦労していました。
間取り設計時の注意点
上記のケースのほかにも、例えば大きなリビングを設けたために部屋数が取れなくなってしまい、ファミリー層から避けられる物件になってしまうという話を聞きます。戸建においては、家族それぞれのプライベート空間を意識した設計が求められます。
自身の好みを優先するのではなく、そのエリアで実際に居住するファミリー層を想定して、汎用性のある間取りとすることで安定した稼働につながるでしょう。
戸建て賃貸は将来性のあるアセットタイプです。その可能性を最大限に生かすには、長期間安定稼働を意識し、入居者像を具体的に想定したうえで投資に取り組むことが重要です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。