築古アパート投資は、新築物件と比べて利回りが高い一方、修繕リスクをはらんでおり、場合によっては資金繰りに深刻な影響を与えることもあり、注意が必要です。
そこで本記事では、築古アパート投資における修繕費の相場や保険の適用範囲、予防策について、自身も大家経験のある弁護士が解説します。
「利回り10%」に潜む“甘いワナ”

不動産投資を始めようと思い立ったとき、まず確認するのがポータルサイト上の「物件情報」でしょう。そこには「利回り10%」や「満室稼働」といった魅力的なワードが並び、気づけば「築古アパート」を選択していた……ということも。
ところが、無事にローンも通り「これで安心」と思ったのも束の間、購入後まもなく天井からの漏水が見つかり、階下の部屋が使用不能に。
オーナーにとっては「利回り10%」どころか、修繕費や損害賠償によりキャッシュが一気に流出する――こうした失敗をしてしまう新米大家は決して少なくありません。
築古物件では、表面利回りだけでなく、数字に表れにくい「管理費(特に大規模修繕費)」のリスクを織り込んでおくことが不可欠です。
そこで、年収700万円の会社員Aさんの事例をもとに、築古物件に潜むリスクについて考えていきましょう。
はじめての不動産投資で「築古アパート」を購入したAさんの“末路”

Aさんは、年収700万円の会社員です。将来への漠然とした不安を抱いていたAさんは不動産投資に興味を抱き、ポータルサイトで物件探しに明け暮れました。そして見つけたのが「表面利回り10%」を謳う木造アパートです。
価格は4,000万円、築35年、表面利回り10%の木造アパート(6戸)。500万円は自己資金で、残りはフルローンに近い条件で購入しました。
購入直後は満室で、月の家賃収入は約33万円。ローン返済や管理委託料、固定資産税等を差し引き、月の手残りは目算で8〜10万円を想定していました。
しかし、引渡しから3ヵ月経ったある日のこと。共用配管のピンホールが経年劣化により漏水し、6戸のうち2戸で天井と壁の張替が必要になってしまいました。
さらに、下の階に住む入居者の家財が濡れてしまったために、使用不能期間の間、家賃を減額してほしいと交渉される事態に。
結果として、
- 配管設備交換・天井壁復旧:180万円
- 漏水原因調査・緊急対応:20万円
- 入居者家財の弁償・謝礼等:30万円
- 空室期間1.5ヵ月分の家賃減収(2戸):約25万円
⇒合計:約255万円
なんと、約255万円もの支出・機会損失となってしまったのです。
Aさんは当初、火災保険による補償を期待していました。しかし、経年劣化が原因の場合は保険対象外となる契約が一般的です。
また、施設賠償責任特約も「オーナーの過失が認められる場合」に限られるなど、補償には一定のハードルがあり、期待したほどの保険金は下りませんでした。
手元資金に余裕がなかったAさんは、急な支出に対応するため、やむなく自分の口座に追加でお金を入れたり、カードローンを使ったりして資金を補てんしました。
結果として、投資からたった数ヵ月で、当初の投資計画を見直さざるを得なくなってしまったのです。
「築古×高利回り」の“見えないコスト”

築古で表面利回りが高く見える物件は、家賃が特別に高いわけではなく、本来かかるはずの「修繕費」や「設備更新費」が先送りされているケースが少なくありません。
一見すると、管理委託費や清掃費、保険料、固定資産税などの運営費は明示されていますが、以下のような「潜在的コスト」は、販売資料では十分に示されないのが実情です。
- 給排水管(鋼管・銅管)の設備交換費や、漏水時の二次被害(内装復旧・家財弁償・家賃減額交渉など)
- 屋根・防水・外壁の大規模修繕(足場費を含めると一気に高額化)
- 電気・ガス設備の同時多発的な交換(法定耐用年数の前後でまとめて発生しやすい)
- 空室復旧や原状回復費の増加(老朽化による工期延伸や付随工事の増加)
たとえば、木造2階建・延床250m2程度の6戸物件で、屋根・外壁・防水の一体工事を行うと、仕様にもよりますが300〜600万円程度の費用がかかることは珍しくありません。
給排水管の区画の設備交換やヘッダー化を含めれば、さらに追加費用が上乗せされる可能性もあります。
キャッシュフローのシミュレーション
Aさんの物件に、初年度で300万円の一括修繕が発生したと仮定すると、年次キャッシュフローは以下のようになります。
- 年間家賃収入:400万円(利回り10%相当)
- 表面的な運営費(管理・固定資産税・保険・プロパティマネジメント等):−110万円
- ローン返済(年):−240万円(※金利・期間により変動)
- 修繕前の年次手残り:+50万円
- 大規模修繕:−300万円
⇒年次キャッシュフロー:−250万円
つまり、「利回り10%」のつもりが、初年度は実質的にマイナスです。さらに空室や賠償・調査費などが重なると、短期的な資金繰りが一気に厳しくなります。
したがって、築古かつ高利回りの物件を購入する際には、「最初の3年で300〜800万円規模の突発修繕が発生しても対応できるか」を逆算し、自己資金(予備費)や長期的な修繕積立の設計を事前に行っておく必要があります。
誤解されがちな保険の「守備範囲」

「火災保険」や「施設賠償責任保険」は大家にとって心強い味方です。しかし、すべてのトラブルをカバーできる“万能薬”ではありません。特に以下の3点は、事前にしっかり押さえておく必要があります。
「経年劣化」は原則として保険対象外
サビや腐食、摩耗、老朽化など、長年の使用による劣化が原因で起きた破損や漏水は、基本的に「保険事故」とはみなされず、通常は「維持管理の範囲」と判断されることが一般的です。
そのため、配管設備の交換や老朽化した部材の取り替え費用は、自己負担となることが多いです。
「過失の有無」が賠償を左右する
施設賠償責任特約などを付けていれば、入居者の家財に損害が出た場合でも保険で賠償できる可能性があります。
ただし、大家側に管理上の過失(予見できたにもかかわらず放置していた、点検が不十分だった等)が認められるかどうかが重要なポイントです。
たとえ漏水が偶発的なものであっても、構造的な老朽化を放置していたと判断されれば、保険金が制限される可能性があります。
「保険で直す前提」は危険
免責金額や時価評価、支払い限度額、事故認定までの時間などを踏まえると、保険金はあくまで「補助的なもの」と考えるべきです。突発的なトラブルに備えて、当座の資金を別途準備しておきましょう。
特に、区分所有物件の共用部が絡むケースや、上下階にまたがる複合的な事故では、原因の特定や関係者との調整に時間がかかることが多いです。そのため、解決までの家賃減収にも備えが求められます。
予防と対策…購入前・購入直後・運用中

築古物件への投資では、購入前・購入直後・運用中のそれぞれの段階で適切な対策を講じることで、思わぬトラブルを未然に防ぐことが可能です。
■購入前
- インスペクション(建物診断)
……配管の種類、防水施工の年次、外壁の仕上げ、屋根材、電気設備、シロアリ被害、建物の傾斜など、劣化リスクの高い箇所を専門家の視点で可視化しましょう。診断結果によっては、修繕費を見積もる前提で価格交渉の材料にもなります。 - 過去の修繕履歴の確認
……屋上防水、外壁改修、受水槽やポンプ設備の交換など、過去の修繕履歴を時系列で把握し、「次にいつ修繕が必要になるか」をカレンダー形式で整理しておくと安心です。 - 取得時の資金設計
……購入時の諸費用とは別に、最低でも家賃年収の6〜12ヵ月分を「修繕・トラブル対応用の予備費」として確保しておくことで、突発的な支出にも柔軟に対応できます。
■購入直後
- 「初期メンテナンス」の先手を打つ
……屋上ドレンやバルコニー排水、共用部のシーリング、漏水が疑われる配管の継手など、修繕リスクの高い箇所は早めに点検・小規模補修を行いましょう。数十万円の“先回り”が、数百万円規模の事故を防ぐことにつながる場合があります。 - 保険内容の最適化
……火災保険の水濡れ・漏水オプションや施設賠償責任特約、家主費用特約(訴訟対応費や臨時費用など)を、物件の構造や築年数といったスペックに合わせて見直すことで、万が一の際の備えがより確実になります。
■運用中
- 修繕積立のルールづくり
……たとえば、毎月の家賃収入の5〜10%を修繕積立として確保し、年単位では外壁、防水、配管などの中長期的な修繕計画を立てておくと、資金繰りが安定します。 - 点検・記録・コミュニケーションの仕組み化
……清掃スタッフや管理会社、入居者からの小さな水濡れ報告を見逃さないよう、写真・日付・場所などの記録を残す仕組みを整えましょう。早期発見が、賠償リスクや修繕費の増加を防ぐカギになります。
入居者トラブルを「法的に」最小化するには?

前述のとおり、漏水などで入居者の家財に損害が生じた場合、大家側の過失が問われる可能性があります。こうした法的トラブルを未然に防ぐためには、以下のような対応が有効です。
- 初動の迅速化
……被害範囲の記録、養生(応急処置)、第三者による調査を速やかに行い、状況を客観的に把握しておきましょう。 - 代わりの住まいやホテルの手配検討
……一時的な住まいの提供を検討する際は、期間や費用の上限をあらかじめメモしておくと、後の交渉がスムーズになります。 - 賠償対応窓口の一本化
……入居者との感情的な対立を避けるため、対応窓口を一本化し、書面ベースで冷静に提案・調整を進めることが望ましいです。
過失の有無が争点となる場合は、早い段階で保険会社・管理会社・専門業者・弁護士などの関係者を巻き込み、費目ごとの支払い可否を整理したうえで回答するようにしましょう。
安易に「すべて補償します」と約束してしまうと、後の保険査定と齟齬が生じる可能性があり、注意が必要です。
築古アパート投資は「利回り」ではなく「総リターン」で見る
今回みてきたように、高利回りを謳う築古物件は、一度の修繕で数年分の手残りを吹き飛ばすことがあります。
「表面利回り10%」は、あくまでもスタート地点に過ぎません。したがって、利回りよりも修繕・空室・賠償・資金調達コストを織り込んだ「総リターン」で投資判断を行いましょう。筆者も実は、これに近いトラブルで痛い思いをした経験があります。
老朽化物件を購入する際には、一定の余剰資金を確保しておくことを強くおすすめします。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。