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入居者が「認知症」に→大家がとるべき対応は?…安定稼働のカギを握る「高齢入居者」との上手な付きあい方【弁護士が解説】

入居者が「認知症」に→大家がとるべき対応は?…安定稼働のカギを握る「高齢入居者」との上手な付きあい方【弁護士が解説】
山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

執筆者

山村法律事務所 代表弁護士

山村 暢彦

実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社からの複雑な相続業務の依頼が多数。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。

少子高齢化社会の日本では、賃貸運用の重要戦略として「高齢の入居者の受け入れ」が避けられなくなるでしょう。

高齢者固有のトラブルがあるのではないか、と身構える大家もいるかもしれません。しかし、保証人や保証会社、連絡網などの対策を行い、便利な民間サービスを利用することで、安心して迎え入れることが可能です。

安定稼働のカギを握る「高齢入居者」との上手な付きあい方について、大家経験のある弁護士、山村暢彦が解説します。

高齢入居者が「賃貸経営を支える存在」に

高齢入居者が「賃貸経営を支える存在」に

「高齢の入居者は、将来トラブルになりそうで不安」

「認知症と聞くと、正直なところ断りたい」

アパートを所有しているオーナーから、こうした声を聞くことがあります。

しかし、少子高齢化が進む現在の日本において、高齢入居者を避けた賃貸経営は現実的ではありません。むしろ、高齢者の入居を一律に敬遠することが空室リスクを高め、結果として経営の不安定化につながるケースも増えてきました。

もっとも、「高齢者であること」や「認知症の可能性があること」が、ただちに賃貸経営上のトラブルを意味するわけではありません。問題になりやすいのは、支援体制や契約設計が不十分なまま入居を迎えてしまうことです。

日本の人口推移と「高齢入居者」が当たり前になる時代

日本の人口推移と「高齢入居者」が当たり前になる時代

高齢者の割合は年々増加しています。特に注目すべきなのは、単身で生活する高齢者世帯が着実に増えている点です。これは、賃貸市場において「高齢の入居希望者」が今後さらに増えることを意味します。

一昔前であれば、「高齢者はできるだけ避ける」という判断も、賃貸経営として成立していたかもしれません。しかし現在では、入居者属性を若年層だけに限定すると、そもそも募集が難しくなるエリアも珍しくありません。高齢入居者は、もはや例外的な存在ではなく、賃貸経営を考えるうえでの前提条件になりつつあるのです。

そもそも、高齢者の入居はネガティブな側面ばかりではありません。転居頻度が低く、長期間安定して住み続けてくれるケースも多く、賃料水準や物件条件が合えば、結果的に安定稼働につながります。

重要なのは、「高齢者だから危ない」と一括りにすることではなく、高齢者が安心して住める環境をどう設計するかという視点です。その視点を持つことで、高齢入居者は賃貸経営におけるリスクではなく、むしろパートナーとして捉えることができるようになります。

高齢入居者が賃貸経営で問題になる場面とは

高齢入居者が賃貸経営で問題になる場面とは

「入居者が認知症になったら近隣住人とトラブルを起こし、経営に悪影響をおよぼすのではないか」

オーナーがこうした不安を感じるのは自然なことです。しかし実務の現場でみると、認知症そのものが直ちにトラブルを引き起こすケースは多くありません。

実際に問題になりやすいのは、認知症という医学的な状態そのものではなく、「何か起きたときに、誰も対応できない状態」が放置されてしまうことです。

たとえば、家賃の支払いが滞った場合に連絡先が分からない、体調の急変や生活上の異変があっても気づく人がいない、といったケースです。こうした状況が続くと、結果としてオーナー側の負担が大きくなってしまいます。

また、賃貸借契約との関係でよく挙げられる不安として、「認知症になると賃貸借契約が無効になるのではないか」「更新や解約の判断ができなくなるのではないか」といった点があります。

しかし、これらも過度に心配する必要はありません。多くの場合、問題になるのは契約時点の判断能力ではなく、その後の生活や支援体制の有無です。

近年は、賃貸保証会社のサービスが充実し、高齢者向けの見守りやサポートを組み合わせた仕組みも増えています。こうした制度やサービスを活用すれば、「認知症=管理不能」という構図は、必ずしも成り立たなくなりつつあります。

つまり、賃貸経営における本当のリスクは、認知症という言葉そのものではなく、事前の備えがないまま入居を受け入れてしまうことにあります。

逆にいえば、あらかじめ想定したうえで対応策を組み込んでおけば、必要以上に恐れる必要はないのです。

賃貸契約実務のポイント~保証人・保証会社・連絡体制の考え方~

賃貸契約実務のポイント~保証人・保証会社・連絡体制の考え方~

高齢入居者を受け入れるにあたり、多くのオーナーがまず気にするのが「保証人をどうするか」という点です。

かつては、親族を連帯保証人に付けることが、賃貸借契約の前提とされていました。しかし現在では、賃貸保証会社の普及により、連帯保証人の法的な意義は相対的に小さくなっています。

実務上は、家賃の支払いや原状回復といった金銭的な部分については、保証会社を利用することで十分にカバーできるケースがほとんどです。むしろ、重要になっているのは「お金の保証」よりも、「何かあったときに誰と連絡を取るのか」という点です。

そのため、高齢者との賃貸借契約では、連帯保証人を厳格に求めることよりも、緊急連絡先を明確にすることが実務的に大きな意味を持ちます。

親族である必要は必ずしもありませんが、入居者の生活状況を把握している人、あるいは定期的に連絡が取れる窓口があることが望ましいでしょう。

近年では、高齢者向けの賃貸保証契約に、見守りサービスや緊急時対応がセットになっている商品も増えています。こうしたサービスを利用すれば、オーナーが直接生活面まで関与する必要はなく、適切な距離感を保ちながら賃貸経営を行うことができます。

高齢入居者との契約で大切なのは、「責任を誰に負わせるか」を考えることではなく、「問題が起きたときに、きちんと回る仕組みを作れているか」という視点です。

保証人・保証会社・連絡体制を組み合わせて設計することで、高齢者入居は特別なものではなく、通常の賃貸経営の延長線上に位置づけることができます。

身寄りがない高齢者入居者との付き合い方

身寄りがない高齢者入居者との付き合い方

高齢入居者の審査では、「身寄りがない」という点を理由に入居を見送るケースは少なくありません。

確かに、家族や親族が近くにいない場合、何かあったときの対応を不安に感じるのは自然なことです。しかし近年の実務では、「親族がいるかどうか」よりも、「どのような支援体制が用意されているか」が重要になりつつあります。

現在では、いわゆる「おひとり様身元引受サービス」や高齢者向けの見守りサービスが充実してきています。これらのサービスでは、定期的な安否確認、緊急時の連絡対応、必要に応じた医療・福祉との連携、さらには死亡時の事務手続きまでを包括的にサポートするものもあります。

こうした民間サービスを利用している高齢入居者のほうが、親族によるサポートよりも対応が明確で、オーナー側にとって安心感が高いケースが多いです。

親族の場合、距離や関係性によって対応が曖昧になることもありますが、サービス事業者であれば、契約内容に基づいて一定水準の対応が期待できます。

重要なのは、「身寄りがないから不安」という感覚で判断するのではなく、「誰が、どこまで、どのように関与するのか」が事前に整理されているかどうかを見ることです。

支援体制が可視化されていれば、高齢者であることや単身であること自体が、賃貸経営上の大きな障害になることはありません。

高齢入居者との共生を考えるうえでは、家族の有無に目を向けるのではなく、制度やサービスを上手に活用し、安心して任せられる仕組みを整えることが、これからの賃貸経営に求められる視点といえるでしょう。

大事なのは「年齢」ではなく「入居者選別の視点」

大事なのは「年齢」ではなく「入居者選別の視点」

ここまで見てきたとおり、高齢入居者を巡る問題は、「高齢であること」そのものから生じるわけではありません。重要なのは年齢ではなく、入居者が安定した賃貸生活を送れる状態にあるかどうかです。

この点は、実は一般的な賃貸経営と本質的に変わりません。収入状況、生活の安定性、家賃支払いの見通し、トラブル時の連絡体制などを総合的に確認するという意味では、高齢者だから特別に厳しく見る必要も、逆に過度に構える必要もないのです。

重要なのは、「高齢者は不安だから断る」という判断ではなく、「この人はどのような支援体制のもとで入居するのか」「何かあった場合に、どこまで想定されているのか」を具体的に確認することです。

高齢者を一括りにして敬遠するのではなく、個々の入居希望者を丁寧に見ていく。この姿勢こそが、結果的に空室リスクを抑え、長期的に安定した賃貸経営につながっていくといえるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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