2024年、思い立って中古マンションを購入した文筆家のひらりささん。東京都江東区の築40年3LDKの物件を、愛猫と過ごせる2LDKの部屋へフルリノベーションしました。
マンションの価格が高騰し「一生賃貸派」も増えていると言われる今、マンション購入に至った背景や物件選びの段取り、不動産仲介エージェントの重要性についておうかがいします。
《インタビュー》

文筆家
文筆家
ひらりさ
1989年、東京都生まれの兼業文筆家。2021年からイギリスにある大学院・ロンドン大学ゴールドスミス校Gender, Media & Cultureへ留学。女性4人組ユニット「劇団雌猫」として活動を開始し、個人でも、女性、お金、消費、オタク文化などをテーマに取材・執筆を続ける。現在は「だいわlog」(大和書房)にてエッセイ『まだまだ大人になれません』を連載中。単著に『それでも女をやっていく』(ワニブックス)、『沼で溺れてみたけれど』(講談社)。「劇団雌猫」名義での共同編著に、『浪費図鑑ーー悪友たちのないしょ話』(小学館)、『だから私はメイクする』(柏書房)などがある。
30代になって、「不動産」という資産を意識した
新居に引っ越して数ヵ月経ちましたが、持ち家のある生活にメリットは感じていますか?
部屋が広くなったことと、自分好みの内装にリノベーションできた変化は大きかったですね。都内の一人暮らしの賃貸物件で私の収入で借りられるのは、1Rや1Kの間取りまで。困りはしないけど窮屈な暮らしだったんです。寝室とリビングが分けられたことで、快適に過ごせています。
私は兼業文筆家なのですが、本業では会社に出勤していたのもあり、自宅にデスクがない期間が長くて。カフェへ行ったり、ベッドに座って書いたりしていました。
でも、コロナ禍にステイホームが始まると難しさを感じたんです。留学から帰ってきたあとの家では、さすがにデスクを買ったんですが、なかなか窮屈で…。それで、「狭い家に住んでカフェへ通うくらいなら、豊かに過ごせる自宅がほしい」と考えるようになりました。

60平米以上ある現在の家へ引っ越してからは、デスクを2つ置いて作業出来るのが嬉しいです。これまで食卓兼ワーキングデスクにしていた長机をワーキングデスクのみとして、食卓に丸テーブルを買ったんですが、ワーキングデスクの方がどんどん雑然としていき…。
調べ物をしたいときは長机、執筆に集中したいときは丸テーブルで、結局どちらも仕事に使ってますね(笑)。

ただ、片付いた机と雑然とした机と2箇所あると、心理学的には作業効率が上がるらしいです。広い部屋に移り住んだことで、実践できるようになりました。
素敵ですね。そもそもひらりささんが家を買ったきっかけは何だったんですか?
この5年の内に、友人から「独身でマンションを買った」という話を2~3件ほど聞いて興味を持ったんです。30代半ばになってある程度お金が貯まり、不動産という「資産」の持ち方を意識するようになりました。
世間ではコロナ禍以降、不動産価格が上がっていて、「今買うのはちょっと…」と躊躇している人も多いと思います。ただそれは、日本円の力が下がっている証拠でもありますよね。そういった自分のライフステージと社会状況の双方を鑑みて、資産のポートフォリオを多様化する目的で手を出しました。
私は結婚をしていないからライフイベントがあまり発生しませんし、ちょっと大きなイベントを作ろうと思ったのも理由のひとつですね。
あとは単純に、子どもの頃から引っ越しが多かったので、いわゆる「自分の城」への憧れも募っていました。以前借りていた賃貸物件は気に入っていましたけど、オーナーさんも住んでいる物件で、共有部にも部屋にも「人の家に住まわせてもらっている」感覚が強く…。持ち家になったことで自分だけの居場所が出来た実感があります。
「家を買う=一生住み続ける」というイメージの方もいると思いますが、ひらりささんはどうお考えですか?
リセールするつもりです。この物件は購入価格が約3,000万円、リノベーション費用が約1,200万円でした。築古物件ってこれ以上大きくは価値が下がらないので、一定程度住んでから売ると、ローンの残債よりも、売れて入るお金が上回る分岐点が出てくる可能性が高まるんですね。そうしたタイミングを見計らって売却できればと思っています。
今は不動産相場が上がってきているから、賃料が浮くどころか、利益が出る人も多いみたいですが。私は物件の価格が上がり切った2024年に購入したのとフルリノベーションをしてしまったので、「まあ、広い部屋に実質安く住めたからよかった」と思える程度で売れれば十分です。
結局フルリノベーションって個人の趣味で贅沢な要素なので、売る時にどう評価されるか不透明なんです。最近は5年ほど住んだらリセールすることが多いようですけど、フルリノベーションをした私の場合、「10年間は住んだほうが、残債を割らずに済みそうかなあ…」とも思っています。
ちなみに、マンション購入をご家族に伝えた時の反応はいかがでしたか?
私の両親は離婚しているのですが、母は分譲マンションを早めに手に入れたことで生活を安定させたタイプなんです。だから、マンション所有にも理解はありました。
また、不動産購入には相続税対策になる側面があります。家族から生前贈与を受けて不動産購入に当てた場合、最大500万円(省エネ等住宅の場合には1,000万円)の贈与が非課税になる「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」(住宅取得等資金贈与の特例)という制度があるんです。それを利用するつもりだったので、早めに打ち明けましたね。
ちょうど、きょうだいも新築戸建てを購入する時期だったので、平等に贈与を受け取りました。そのおかげで、予算内での中古物件の取得が叶いました。
ただ、母からは「そのうち、私が住んでいるこのマンションを譲るつもりだから、買わなくてもいいんじゃない?」と心配されましたね。というのも、親が亡くなった時に自宅を持っていない子どもが、不動産を譲り受ける際の相続税を減額出来る「小規模宅地等の特例」という制度もありまして。母は、その特例を利用できなくなることを気にしていました。ただ、そこはリセール前提であることを強調して、納得してもらいました。
物件は、探し始めて約3ヵ月で申し込み
物件を探し始めて申し込みをするまでは、どれくらいかかったんですか?
およそ3ヶ月です。1月に中古マンションの購入を決めたのですが、不動産は1~3月がハイシーズンで4月以降は物件が減るので、1日に6~7件ほど内見してスピード感を持って進めました。
ただ、内見しても気に入る物件ってなかなか出ないんですよ。私は、再販リノベ(宅地建物取引業者が中古物件を買い取ってリノベーションした物件)の内装が好みではないと気がついて。物件探しを始めて早々に「フルリノベーションした個人宅を譲り受ける」か、「未リノベ物件を探す」ことに決めたんです。
でも、未リノベ物件が市場に出る数って少ないんです。この物件を購入した決め手も、「私が買える未リノベ物件は、ここ以外しばらく出ないだろう」と思ったのがきっかけでした。


地域を絞って、物件探しを進めたんですか?
地域は絞っていませんでした。最初は現在購入した物件と全然違うエリアを見ていました。というのも、私はエリアへのこだわりが薄くて、かなり広範囲を見ていたんです。だから大変でした。不動産仲介エージェントに「緑や川があるところがいい」と伝えたら、今の家を提案いただいたんですよ。
物件を探す際に大事にした条件は何ですか?
リセール前提だったので、駅近などの条件は外せませんでしたね。あとは物件自体に、自分のお気に入りポイントが見つけられるかを重視しました。
例えば、リビングから見える景色です。浅草でリバービューを謳うマンションを内見したんですけど、寝室の小窓からちょろっと見える程度で、リビングの掃き出し窓の外は殺風景で。「ちょっと違うな」と感じました。それからは、リビングから見える景色を大事に考えるようになりました。
マンションの外観や共有部の雰囲気もリノベーションでは変更出来ない部分なので、自分のお気に入りが見つけられるかをチェックしていましたね。

中古マンションを購入する際に、確認した方がいいことはありますか?
同じマンション内で過去にどれくらいの価格で売買されたかは、できるだけ申し込み前に調べてもらった方が安心です。リセールの判断だけでなく、高値掴みしないことにも役立ちます。
「中古物件は地震の時に不安だ」と言う方もいますけど、ひらりささんの価値観は?
どのラインを基準にするかは、自分で決めるしかありませんね。私は新耐震基準(1982年築以降)を満たすマンションというのは譲らない条件にしていました。でも、耐震基準より地盤が大事という意見もよく聞きます。私の場合、耐震だけでなく「10年後に売れるイメージのつく築年数」という点も重視して、新耐震を選択しました。
あとはハザードマップも確認しましたよ。あいにくこのエリアは水害リスクが多少高い地域なのですが、過去の浸水履歴などを不動産仲介エージェントに調べてもらい、「大きなリスクではないだろう」と自分で納得できるまで情報を集めました。
自分の要望を不動産仲介エージェントと共有することが不動産購入の決め手に
マンション購入を振り返って、「やっておいてよかったな」と思うことは何ですか?
資産計画を考える機会って、ライフステージの変化がないとなかなか訪れません。独身だと、尚更その機会は少ないんです。
だからこそ、家を買うか決める前にファイナンシャルプランナーへ相談に行くことは大切だなと思いました。私もマンション購入を考え始めた頃に、不動産仲介エージェントから紹介していただいたファイナンシャルプランナーに予算を相談しに行ったんですよ。

あとは、ちょうど同じ時期に家を買うことにした友人に勧められてやったんですが、Excelの関数を利用した計算シートを使って、物件の購入価格に合わせたローンの返済計画を入念に行いましたね。ローンは残債に利率がかかるので、毎年返済額が微妙に異なるんです。「この年に売るといくらの利益が出るか」というシミュレーションを繰り返しました。ただ、物件取得はスピード勝負なので、慎重さとのバランスも大切にしないといけませんね。
そして何より、自分に合った不動産仲介エージェントに出会うことも大切です。中古物件は不動産情報サイトで無限に探せますけど、「あなたの希望はこのエリアでも叶う」と提案いただけるのはエージェントならでは。その条件が自分にとってなぜ重要なのか?どんな生活を送りたいのか?自分の要望を言語化しておくことがポイントです。
2人以上で住む場合は、メンバー全員でコミュニケーションを取ることも不可欠でしょうね。後戻りできない大きな買い物なので、住み替えて叶えたいことや不安なことはとことん話し合った方がいいと思います。

逆に「賃貸の方がよかったな」と思うことはありますか?
不動産所得税、毎年の固定資産税など細かな出費が増えるので、マンション購入が割安感につながるかは物件次第だなと思いました。短期間で住み替える可能性が高い方や、お金の手続きが面倒な方は、賃貸が向いているかもしれません。
マンション購入を経て、家との付き合い方に変化はありましたか。
インテリアを選ぶのが、すごく楽しくなりました。持ち家が出来たことで自分の体が拡張した感覚になって。どの家具が心地いいものなのかをよく考えるようになりました。
それに、住んでみると、壁や床の塗装がちょっと汚れてきたりとか、結構メンテナンスが必要なんですよ。そのケアが面倒でもあるし、面白くもありますね。一緒に歳をとる感じで。
もし今の家をリセールしたら、賃貸に戻りますか?
家に合わせて大きな家具を買っているので、賃貸に戻るのは難しい気もします。今は自分好みの空間がすごく気に入っているから、できるだけここを維持したいですね。
(取材・執筆協力=ゆきどっぐ 撮影=小野奈那子 編集=鬼頭佳代/ノオト)