退職後の健康保険について、お悩みの方もいるのではないでしょうか。何を基準に選べば良いのか、保険料はどれが一番お得なのかを見極めるのは難しいですよね。退職後の健康保険は、手続きできる期間が決まっているので注意が必要です。
このコラムでは、それぞれの健康保険のメリットやデメリット、健康保険を選ぶ際の注意点を詳しく解説します。期限までにスムーズに手続きできるよう、退職後に加入する健康保険について、一緒に理解を深めていきましょう。
1.退職後に加入できる3つの健康保険
日本は国民皆保険制度を採用しているため、退職後も公的医療保険に必ず加入しなければなりません。なお、国民皆保険制度とは、国民全員を公的医療保険で保障する制度です。ケガや病気など、万一のときでも安心して医療が受けられる制度であり、国民全員に加入が義務付けられています。
退職後すぐに再就職が決まっている方は、次の職場で健康保険の加入手続きをします。一方、以下のケースでは、ご自分でどの健康保険に加入するかを選択し、手続きしなければなりません。
- 再就職の予定がない
- 再就職まで一定期間が空く
- 転職先での健康保険加入ができない
退職後に加入する健康保険の選択肢は3つあり、どれかひとつを選んで手続きをすることになります。どんな選択肢があるか、順番に見ていきましょう。
1-1.健康保険の任意継続
健康保険の任意継続は、元々働いていた企業の健康保険に、退職後も続けて加入できる制度です。任意継続は退職後の健康保険として、多くの方に利用されています。
なお、保険料について何点か押さえておきたいポイントがあります。
1つ目のポイントは、保険料が全額自己負担になることです。会社に勤務している間は、企業と社員が保険料を半分ずつ支払います。しかし、退職後に任意継続をする場合、企業負担分がなくなり、保険料の全額を自分で負担しなければいけません。そのため、健康保険の任意継続に切り替える場合、会社の健康保険に加入していた頃と比較して保険料が高額になります。
保険料について押さえておくべきポイントの2つ目は、会社に勤務していた頃の報酬をもとに保険料が計算される点です。健康保険の保険料は、加入している健康保険組合によって異なります。例として「全国健康保健協会(以下、協会けんぽ)」と「東京実業健康保険組合」の保険料の決定方法を見てみましょう。
健康保険組合 | 保険料の決定方法 |
---|---|
協会けんぽ | 退職時の標準報酬月額に、居住している都道府県の保険料率(40歳以上65歳未満の方は、介護保険料率が含まれる)を乗じた額 ※退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合は、標準報酬月額を30万円とし、保険料率を乗じて保険料を算出する |
東京実業健康保険組合 | 以下のうち、低いほうに保険料率(0.1%)を乗じた額を保険料とする 1.退職した時の標準報酬月額 2.前年度9月30日現在の当組合の全被保険者の平均標準報酬月額(毎年4月1日に改定) |
参照元:全国健康保健協会「保険料について」、東京実業健康保健組合「任意継続被保険者について」
このように、健康保険組合によって算出方法に違いがあるため、任意継続を検討する際は加入先の公式サイトにて確認してください。
任意継続の保険料について押さえておくべき3つ目のポイントは、扶養家族分の保険料は引き続き不要になる点です。扶養家族が多い方は、健康保険の任意継続を選択したほうが保険料の負担を軽減できる可能性があります。
1-2.家族の健康保険
家族が会社の健康保険に加入している場合は、被扶養者として加入できる可能性があります。ただし、被扶養者として加入するためには条件を満たさなければいけません。申請が認められた場合は、保険料負担がなくなるため、最もお得に健康保険に加入できます。
1-3.国民健康保険
健康保険を任意継続しない場合や、家族の健康保険に入れない場合は、国民健康保険に加入します。
国民健康保険には扶養という概念がないため、家族も一人ひとり加入し、保険料を支払います。これまで被扶養者として保険料の支払いがなかった家族分も保険料が発生し、保険料が高額になるケースがあるため注意が必要です。
一方で、国民健康保険には減免制度があります。例えば、倒産・解雇・雇い止め等の非自発的理由による退職の場合は保険料の軽減制度があります。状況により、国民健康保険のほうがお得になる場合がありますので、減免制度に該当するかを確認しましょう。
2.健康保険の任意継続(任意継続健康保険)
退職後多くの方が利用する健康保険の任意継続制度について、詳しく見ていきましょう。
2-1.任意継続健康保険の加入条件
任意継続健康保険に加入するには、2つの条件を満たす必要があります。
- 退職前の被保険者期間が2ヵ月以上あること
- 退職日の翌日から20日以内に手続きを行うこと
どちらの条件を満たしている場合に限り、任意継続することができます。特に気を付けたいのは手続き日で、退職日の翌日等から20日以内に手続きしないと任意継続の資格を失います。他の保険と比較して決めたい場合は急いで検討し、期限までに手続きを行いましょう。
2-2.任意継続のメリット
健康保険を任意継続するメリットは、いくつかあります。
まず1つ目は、国民健康保険の保険料と比べると、保険料が安くなる場合があることです。特に退職前の給与が高額だった方はその可能性が高くなります。
2つ目は、家族の扶養が継続されるので、扶養家族が何人いても支払う保険料は一人分であることです。3つ目は、健康保険の福利厚生を継続して利用できる場合があることです。会社独自の給付を受けられる、保養所などが利用できるなど、任意継続中の給付や特典について調べておきましょう。
2-3.任意継続のデメリット
任意継続のデメリットは、在職中の保険料と比較して保険料が高くなることです。これは、退職後は企業の負担がなくなるため、上限額の設定はあるものの、保険料が全額負担となるからです。
任意継続中は保険料を滞納すると資格を喪失してしまいます。うっかり納付を忘れてしまった場合には、そのまま資格喪失となってしまいます。なお支払方法には、前納や口座振替がありますので、うっかり忘れを防止することも可能です。資格喪失とならないよう注意しましょう。
また、任意継続健康保険は、退職後最大2年間しか加入することができません。また、保険料は2年間変わることはありません。退職後働かない場合には高額な保険料を支払うことになるので、2年目も継続するかを検討する必要もあるでしょう。
2-4.任意継続健康保険に切り替える手順
任意継続健康保険へ加入する際には、まずご自分の加入している健康保険組合や会社の担当者に手続きを確認しましょう。
例えば、協会けんぽの場合には以下の手順になります。
①加入条件を確認する
- 資格喪失日の前日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上ある
- 資格喪失日(退職日の翌日等)から20日(20日目が土日・祝日の場合は翌営業日)以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出する
②任意継続健康保険の資格取得届出書の提出
資格取得届出書に必要事項を記載後、健康保険の資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内にお住まいの住所地を管轄する協会けんぽ支部に提出する
③勤務先に保険証を返却
その後、勤務先から協会けんぽへ資格喪失届と保険証が提出されます。協会けんぽで手続きが完了したあとに任意継続の保険証が作成され、新しい保険証が手元に届く、というのが一般的な流れです。
問題なく手続きが進めば、退職日の翌日には任意継続の資格を得られますが、実際に保険証が手元に届くまで通常2〜3週間かかります。ただし事業所の届出が遅れたり、4月等の退職者が多い時期に手続きを行った場合は、3週間以上かかる可能性もあるため注意しましょう。
令和6年12月に健康保険証の廃止が予定されています。12月2日以降は任意継続保険もマイナ保険証または資格確認証となりますのでご注意ください。
3.家族の健康保険に被扶養者として加入
家族の健康保険に被扶養者として加入すれば、保険料の支払いが不要になります。加入条件など詳しい内容を見ていきましょう。
3-1.家族の健康保険に加入する条件
家族に働いている方がいて、その方が健康保険に加入している場合、被扶養者として家族の健康保険に加入することができます。被扶養者になれる条件は、家族が加入している健康保険によって異なります。詳細は家族から企業に問い合わせてもらいましょう。
一般的に、被扶養者になれるのは主に次のような方です。
- (前提として)被保険者に生計を維持されている
- 被保険者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人物を含む)、子、孫、兄弟姉妹
収入要件として、年収が130万円未満かつ被保険者の年収の2分の1未満であること。(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の方は180万円未満)
3-2.家族の健康保険のメリット
家族の健康保険の大きなメリットは、保険料が発生しない点です。
被扶養者として加入するため、被保険者(あなたの家族)が保険料を支払っていれば、あなたは支払う必要がありません。またあなたが家族の健康保険に加入しても、追加の保険料は発生しないため、世帯の負担が大きくなる心配は不要です。健康保険料の負担なく健康保険に加入する方法は、家族の健康保険に被扶養者として加入する場合のみであり、一番メリットの大きい方法といえます。
3-3.家族の健康保険のデメリット
家族の健康保険のデメリットは、加入条件が厳しいことです。
条件は家族が加入している健康保険ごとに決められており、なかには収入の制限などが厳しく設定されている健康保険もあります。家族が働いているからといって、気軽に加入できるわけではない点には注意が必要です。
3-4.家族の健康保険に加入する手順
家族の健康保険に加入する手順は、加入先により異なります。今回は協会けんぽの例を見てみましょう。
まずは「自分の勤務先」と「扶養者となる家族(被保険者)の勤務先」に対し、家族の健康保険の被扶養者になる旨を伝えます。
その後、扶養者となる家族(被保険者)の勤務先の担当者(主に人事や総務)が「健康保険被扶養者(異動)届」を協会けんぽと日本年金機構に提出します。手続きに問題なければ、2週間ほどで保険証が送られてきます。一方、会社側の不備により保険の切り替えが遅れる可能性があるため、早めに勤務先へ家族の健康保険の被扶養者になる旨を伝えておいたほうが安心です。
加入先が協会けんぽ以外の場合は、勤務先の担当者に具体的な加入手順を確認してみてください。
4.国民健康保険
任意継続健康保険や家族の健康保険に加入できなかった場合は、国民健康保険に加入します。詳しい条件を見ていきましょう。
4-1.国民健康保険の加入条件
国民健康保険に加入できる条件は以下のとおりです。
- 任意継続保険や家族の健康保険に加入していない方
- 生活保護を受けていない方
- 後期高齢者医療制度の対象になっていない方
国民健康保険への加入手続きの期限は、退職後14日以内です。家族がいる場合は家族の分も加入手続きも必要になるので漏れなく手続きをしましょう。
4-2.国民健康保険のメリット
国民健康保険のメリットは、保険料の減免制度があることです。主な適用条件は以下のとおりです。
- 所得が国の定める基準を下回っている
- 被災した
- 病気など特別な事情がある
- 離職を余儀なくされた
上記いずれかに該当していれば、申請によって保険料の減免が受けられるケースがあります。
例えば、会社都合で退職した場合や、失業保険の特定受給資格者になる場合は、保険料が減免される可能性があります。減免制度の適用条件に該当する方にとっては、国民健康保険に加入するメリットは大きいでしょう。
4-3.国民健康保険のデメリット
国民健康保険のデメリットは、保険料の高さです。特に世帯人数が多い家庭は、一人ひとりの保険料が発生するため、デメリットが大きいといえるでしょう。
また、保険料は前年の所得によって決まるため、退職直後は保険料が高額になりやすいです。ただし1年経過後は、退職後1年間の所得に基づき保険料が算出されます。ほとんどの方は、在職中より所得が下がっているため、保険料も比例して下がる傾向にあるといえるでしょう。
4-4.国民健康保険に加入する手順
退職後に国民健康保険へ加入する場合、自分で窓口へ行って手続きする必要があります。手続きの前に必要書類を準備しましょう。国民健康保険加入手続きの必要書類は以下のとおりです。
- 健康保険資格喪失証明書
- 退職年月日がわかる書類
- マイナンバーカードまたは通知カード
また、自治体によっては郵送や電子申請を受け付けている場合もあるので、詳細な手続きの流れは各市町村の WEBサイトを確認しましょう。
国民健康保険へ加入する必要があるにもかかわらず手続きが遅れてしまうと、最長で過去2年度分まで遡って保険料を請求される場合もあります。忘れずに国民健康保険への加入手続きをしておきましょう。
5.退職後の健康保険を選ぶ際の注意点
退職後の健康保険を選ぶときは、どんなことに気を付ければ良いのでしょうか。順番に見ていきましょう。
5-1.健康保険の切り替えに空白期間ができないようにする
退職によって被保険者としての資格を喪失した場合、退職日の翌日からいずれかの保険に加入しなくてはなりません。健康保険への加入は任意ではなく強制であるため、加入する健康保険の検討と加入手続きは、速やかに行いましょう。
5-2.決められた期限内に手続きする
退職後に加入する健康保険によって、手続きできる日数が決まっています。特に任意継続の場合は、退職日の翌日から20日以内に手続きしないと加入資格を失ってしまいます。また国民健康保険に加入する場合は、退職後14日以内と決められています。家族の健康保険に加入する場合も、速やかに手続きするよう定められています。加入する健康保険を決めたら、早めに手続きしましょう。
5-3.加入条件や保険料を比較する
退職後に加入できる健康保険については、退職前から加入条件や保険料を比較検討しておきましょう。退職後に加入できる健康保険は、それぞれメリットやデメリット、加入条件が異なります。安易に比較できないため、退職前から比較検討しておき、退職後は速やかに加入手続きができるようにしておきましょう。
特に加入条件や保険料は、健康保険の種類によって大きく異なります。手続き後の変更はできないため、事前にきちんと比較しておくことが大切です。
5-5.定年退職なら特例退職被保険者制度が使える場合もある
定年退職をされる方で、勤務先が「組合健保」などといわれる企業や業界単位の健康保険へ加入していた場合は、特例退職被保険者制度が利用できる場合もあります。
特例退職被保険者制度は、定年退職後にも在職時とほぼ同じ内容の給付や保健事業サービスを、75歳の後期高齢者医療制度が始まるまで受けられる制度です。ただし、保険料は全額自己負担で、以下の4つの条件を満たさないと加入できないため注意しましょう。
- 当該健康保険の被保険者期間(加入期間)が20年以上、もしくは40歳以降10年以上ある
- 老齢厚生年金を受給している、もしくは受給開始手続き中である
- 日本国内に住民票を有する
- 後期高齢者医療制度に加入していない
また特例退職被保険者制度は、勤務先によっては利用できない場合もあります。まずは、利用できるか勤務先へ確認してみるとよいでしょう。
6.マイナンバー保険証では退職後の手続きが不要
マイナンバーカードの健康保険証等利用登録が完了している場合は、マイナポータルなどで、転職や退職、変更に伴う再度の登録手続きは不要です。しかし健康保険や共済組合、国民健康保険などへ新たに加入する場合は、それぞれ届出が必要なので注意しましょう。
また、マイナンバーカードの最新情報が更新されない場合は以下の2つの理由が考えられます。
- 現在加入中の保険者(健康保険組合、共済組合等。国民健康保険ご加入の方はお住まいの自治体)やお住まいの地域を所管する福祉事務所において、マイナンバーに紐づく資格情報の登録が完了していない。
- 旧保険者(健康保険組合、共済組合等。国民健康保険ご加入の方はお住まいの自治体)やお住まいの地域を所管する福祉事務所において、マイナンバーに紐づく資格情報について更新(喪失処理)が完了していない。
マイナンバーカードの更新が遅れている場合、上記の状況が発生している可能性があります。手続きが遅れている場合は、保険組合や福祉事務所へ問い合わせて、手続きの進捗について確認しましょう。
おわりに
退職後の健康保険加入手続きは早めにしましょう退職後の健康保険は、必ずいずれかの健康保険に加入しなければならず、未加入期間を作ることは認められていません。退職後すぐに再就職し、新しい健康保険に加入する場合は問題ありませんが、そうでない場合は必ずご自身で加入手続きを行う必要があります。
それぞれの健康保険には、メリットやデメリットがあります。また退職前の収入や在職期間、扶養家族の有無によっても加入できる健康保険は異なるため、個々のケースに当てはめて慎重に判断しなければなりません。
特に保険料は家計において大きな負担になります。よく検討したうえで加入する健康保険を決めましょう。また、加入手続きができる期間は決まっています。スムーズに手続きできるよう、退職が決まったら早めに検討を始めましょう。
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