「資産形成を始めよう!」そう心に決めたものの、なにから始めればいいのか迷っている人もいるのではないでしょうか。実は、資産形成において重要なのは、「投資」そのものよりも「家計管理」なのです。本記事では、資産形成の基本的な考え方、家計管理の具体的な方法・項目について、FP dream代表FPの藤原洋子さんが解説します。
iDeCoやNISAの普及などによって、投資が身近なものに
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預貯金などの金利は、日本では1990年代後半から低い水準で推移しています。1990年代前半までは現在よりかなり高く、1990年12月の定期預金の金利は1年ものが6.08%でした。メガバンクでは、2025年1月の1年もの定期預金の金利は0.1250%となっています※1。
仮に、1990年に100万円を1年間預けると、税引き後の利息を4万8,640円受け取ることができました。一方、2025年に預ける場合の利息は1,000円です。現在、金利は上昇傾向にありますが、まだ大きな差があるといえるでしょう。多くの人が資産形成に活用できるよう、iDeCoやNISAなどの制度を政府が後押ししていることもあり、金利の観点からも、近年、資産形成への関心がより高くなっています。
運用商品には、株式や投資信託などさまざまな種類があります。投資を行えば、預貯金よりも高い収益を得られる可能性がありますが、元本は保証されていない点に注意しましょう。損失の生じる可能性を軽減し、収益を期待できる手法として、「長期投資」「積立投資」「分散投資」が勧められています。
「あらかじめ決めた金額を」「値動きの異なる複数の資産に分散して」「長い期間投資を続ける」という手法です。少額をコツコツ続けていく投資方法なので、投資は初めてという人にも取り組みやすい方法です。
一方で、「資産形成」=「投資」と考える人も多いのですが、資産形成の方法には、「貯蓄」と「投資」の2つがあることを知っておきましょう。資産形成を成功へ進めるには、投資だけでなく、ご自身に適した貯蓄との組み合わせを使い分けることが重要になるのです。
30代夫「妻と幼い子どもたちのため、投資で資産を増やしたい」
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ここで、Aさんの事例(35歳男性/千葉県在住/地方公務員)をご紹介します。家族構成は、Aさん、妻(33歳、会社員)と長女(3歳)と長男(0歳)の4人です。半年前に長男が誕生し、妻は育休中。Aさん夫婦は、結婚と同時に新居である現在の賃貸マンションに住んでいます。最寄り駅からは徒歩15分ほどで、病院や保育園、小学校が近くにあり、これからの生活に便利だからと決めた場所でした。
夫妻は、結婚まで実家暮らしで、給与はほとんど自分のために使うことができていました。幸いなことに、これまでお金が足りないと感じる状況に陥ったことはありません。しかし今になって大きな問題が。結婚して5年が経ちますが、独身だったころの金銭感覚がそのままだったのです。
最近のAさんは、仕事から帰宅して子どもたちの寝顔を見ながら、これまで以上に「夫として、父親として家族を守っていかなければ!」と強く考えるようになったそうです。「家族が楽しく暮らせる家を買いたい。ママは、子どもたちになにか習い事をさせたいと言ってたなぁ。塾や教育費は結構かかるらしいし、どうすればいいんだろう…」これまでお金に無頓着だったAさんは思い悩みます。
そんなとき、Aさんは職場の先輩に投資を勧められ、投資でお金を増やすことを決めます。証券会社が開催するセミナーに参加するなどして運用商品について勉強し、しっかりと商品を選んでから運用を始めることに。ところが、お金が増えると期待して始めたものの、増えたという実感はありません。
「いくら増えたのかなぁ。ひょっとして、始めたころよりも少し減ってる?そんなはずは…」妻には言い出せません。自分には向いていなさそうだからいっそ投資はやめようかとも思ったそうですが、「ここであきらめてはダメだ」と思い直し、FPのもとへ相談に行きました(個人の特定を避けるため、一部変更して記載しています)。
相談でわかった家計と投資方法の問題点
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Aさん夫婦は共働きで、2人とも収入があります。そこで、結婚後は、住宅費や水道光熱費、日用品費はAさんが担当する、食費や子どもにかかる費用は妻が担当する、と大まかに決め、その他の費用は独身時代と同じようにそれぞれが支出していました。
2人の支出を具体的に見てみると、2台分の自動車保険・ガソリン代・駐車場代、生命保険の保険料、スポーツジムの会費、スマートフォンなどにかかる通信費、複数の動画配信サービス利用料、交際費、被服費、美容費、医療費、急に必要になるお祝いなどの費用・旅行費用・家電購入費などです。
Aさんは、給与やボーナスの中からいくら使っていくら残せているか把握していません。いつのまにか銀行口座には、ほとんど現金がなくなっていました。急な支出があるときは、運用商品の価格が下がっているときでも売却するしかありません。
手取り収入と支出を把握できていないうえに、短期間で運用商品の売買を繰り返していたため、“増えたという実感が持てない”状況になっていたのでした。
資産形成を始める前に考えなければならないこと
結婚、出産、住宅の購入、子どもの入学・卒業など、人生には、さまざまなライフイベントがあります。仕事をリタイアするときに備えて老後資金の準備も必要です。資産形成を始める前に、まず、ご自身やご家族の夢や希望、計画などを具体的に表したライフプランを考えてみましょう。そのために、いつごろ、どれくらいのお金が必要か、そのお金を準備するには、いくらくらい貯蓄していかなければならないかを毎年・毎月に落とし込んでいきます。
資産を4つに分けてみると、資産形成の方法がわかりやすくなります。
- 日常生活に必要なお金
- 急な出費に備えるお金(生活費の3ヵ月~1年分)
- 10年程度の期間に使い道が決まっているお金
- 当面使う予定のないお金
そのうえで、手取り収入のなかから、①日常生活に必要なお金や②急な出費に備えるお金は、普通預金などの口座に、③10年程度の間に使い道が決まっているお金は、定期預金や個人向け国債などを活用して安定して増やしていきます。④当面使う予定のないお金で投資を行うと、長期間の運用が可能になります。
資産形成で最も重要なことは節約?
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Aさんが資産を4つにわけるには、手取り収入と支出を把握・管理し、貯蓄や投資に回せるお金を捻出しなければなりません。
総務省統計局の2023年家計調査では、世帯別の家計収支の内訳は以下のようになっています。
![[図表1]2人以上の世帯のうち勤労者世帯](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/02/ef92172c6757bc3e32a89a4f8a65dd85.jpg)
出所:総務省統計局の2023年家計調査※2より筆者作成
![[図表2]単身勤労世帯](https://life.saisoncard.co.jp/wp-content/uploads/2025/02/9865014b2d69e8888574d5c9396a1906.jpg)
出所:総務省統計局の2023年家計調査※3より筆者作成
「貯蓄等に回せるお金」を②③④の3つに分けて考えるとよいのではないでしょうか。しかし、あくまでも平均値です。さまざまなライフスタイルがありますので、「この表より少ないからダメなのでは?」ということは決してありません。一つの例として参考にしてみてください。お金の収支を把握・整理するには、次の分類方法が役立ちます。Aさん夫妻の家計を分類してみました。
住居費、水道光熱費、通信費、複数の動画配信サービス、自動車関連費、保険料、保育料、スポーツジムの会費
食費、日用品費、交際費、被服費、美容費、医療費、急に必要になるお祝いなどの費用・旅行費用・家電購入費
固定費は、減らすことが難しいと思われるかもしれませんが、一度見直して削減できると、それ以降は続けるだけで簡単に毎月の支出を抑えることが可能になります。変動費は、家計簿・家計簿アプリを活用して記録をつけることを習慣にすると、お金の流れがわかりやすくなります。
また、生命保険は家族が増えたことに対応できる内容になっているでしょうか?まだなら、増額する必要があるかもしれません。家族で目的を共有して話し合ってみてはいかがでしょうか。
まとめ:貯蓄額は最初に別口座に移しておく
収支を見直して資産形成に回せるお金が捻出できたら、残ったお金ではなく、給与から先に抜いて、預貯金や運用商品などの口座に移しておきます。
支出の削減計画や資産形成計画がまとまり、実行に移したあとも定期的に話し合ったり、見直したりすることも必要です。ただ、熱心になるあまり、細かく計算しすぎると負担感が増して円滑に長く続けられなくなります。うまくいかない月もあるかもしれませんが、あまり気にせず仕切り直して継続する、といった気持ちのゆとりを持ちましょう。
夫婦の場合は、夫婦で共有し管理するお金と、個人が自由に管理できるお金を分けておくことも大切です。節約を心がけたり、必要なときはしっかり使ったりとメリハリをつけて、楽しく円満な家計管理を続けてください。
参考
※1 日本銀行 時系列統計データ 検索サイト、日本銀行 統計 (参考)銀行預金金利
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。