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創業期、成長期、成熟期…企業の段階で違ってくる!資金調達の選び方とは

創業期、成長期、成熟期…企業の段階で違ってくる!資金調達の選び方とは
岸田 康雄 (公認会計士)

監修者

公認会計士

岸田 康雄

岸田康雄税理士事務所代表/公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定) 一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。 平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

個人事業主やベンチャー企業の経営者にとって、資金調達は事業を動かすための重要なテーマです。たとえ革新的なアイデアがあったとしても、資金がなければ事業の立ち上げや拡大は思うように進みません。しかし、資金調達の方法は事業の成長ステージによって大きく異なります。本稿では創業期・成長期・成熟期という3つの段階に分けて、それぞれのフェーズで実践できる資金調達の手法を詳しくご紹介します。

創業期:最初の一歩をどう踏み出すか

創業期:最初の一歩をどう踏み出すか

創業期は事業の土台を築く重要な段階です。この時期には、売上や顧客基盤が未確立であり、資金の出入りも不安定なためです。そのため、外部からの信用を得るのが難しく、資金調達は主に自己資金や身内からの借入に依存しがちです。

【1】 自己資金は信頼の証

創業時には自己資金が重要です。金融機関の融資審査においても、自己資金が十分にあるかどうかが信頼性の指標となります。自己資金の有無は、「経営に対する本気度」を測るバロメーターと見なされることもあります。

たとえば、定年退職を機に、長年培ってきた経験を活かして小規模な法人でコンサルティング事業を立ち上げた方がいました。彼は退職金の一部を創業資金に充て、創業計画書を丁寧に作成した上で、日本政策金融公庫に融資を申請しました。その結果、必要額の融資を受けることに成功し、無理のない形でコンサルティング事業をスタートさせることができたのです。

【2】 公的支援制度の活用

創業期には、自治体や商工会議所、民間の金融機関が提供する創業支援制度の活用も有効です。たとえば、「創業支援等事業計画」の認定を受けた市区町村では、金融機関との連携による融資枠の拡大や利率の優遇措置が受けられます。こうした支援制度を活用すれば、中小企業診断士などの専門家から指導を受けられることもあり、事業計画を実現しやすくなります。

【3】 補助金・助成金の活用

国や自治体による創業支援制度は、創業期の資金調達において重要な役割を果たします。代表的なものに「創業補助金」や「小規模事業者持続化補助金」があり、事業開始時の設備投資や販路開拓などを支援します。認定支援機関のサポートを受けることで申請成功の可能性も高まります。

【4】 エンジェル投資家との出会い

エンジェル投資家とは、個人としてスタートアップに資金提供を行う投資家のことです。事業の将来性を評価して投資するスタイルのため、収益が出ていなくてもビジョン次第で支援を受けられる点が特徴です。ただし、事業計画の明確さやピッチ資料の完成度が問われるため、準備には相応の努力が必要です。

【5】 クラウドファンディングで市場の反応を見る

近年注目されているのが、クラウドファンディングです。プラットフォームを通じてアイデアや商品を世の中にアピールし、共感した人々から支援を受けます。資金調達と同時にテストマーケティングにもなり、顧客の反応を見ながら改善を加えることができます。

副業として手作り雑貨のECショップを始めた女性は、クラウドファンディングで初回生産資金を集めることに成功しました。想像以上の反響を受け、その後は自社サイトでの本格販売を開始しました。初期のファンづくりと資金調達を同時に達成した典型的な事例です。

成長期:次なる飛躍を目指して

成長期:次なる飛躍を目指して

事業が軌道に乗り、売上や顧客が増えてくると、次に必要なのは事業拡大のための投資です。成長期には、商品やサービスの拡充、設備投資、人材採用など新たな支出が増えていきます。資金調達の選択肢としては、銀行融資、ベンチャーキャピタル、社債発行があげられます。

【1】 地元金融機関からの融資:実績が信用を生む

成長期においては、地域の信用金庫や地方銀行など、地元の金融機関との関係構築が重要です。定期的に月次試算表や資金繰り計画を提出することで、金融機関側にも事業の健全性や成長性を理解してもらいやすくなります。

副業としてECショップを運営していたある女性は、最初は自宅の一角を作業場として活用していました。しかし、商品の人気が高まり、取扱量も増えてきたため、専用の倉庫を借りることを検討しました。そこで、半年間の売上実績と今後の展望をまとめた資料を持参し、地元の信用金庫に融資を申し込みました。その結果、事業性評価に基づく融資が実行され、副業とは思えない本格的な事業展開へと進むことができました。

【2】 ベンチャーキャピタルとの連携

成長スピードを加速させたいときは、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が有効です。VCはスタートアップ企業が新たに発行する株式に出資する投資家であり、資金だけでなく経営支援やネットワークの提供なども行ってくれます。

ただし、ベンチャーキャピタルから出資を受けるには、事業の成長性、市場性、経営陣のスキルなど多面的な評価が必要となります。また、出資を受けることで一定の経営権を持たれる可能性がある点も理解しておかなければなりません。

【3】 社債発行による信用力の証明

中堅企業以上であれば、社債を発行して資金調達を行う選択肢もあります。社債は借入金と異なり、直接市場から調達する仕組みであり、一定の信用力と発行体制が必要です。近年では私募債として金融機関経由での発行も広がっており、中小企業でも私募債の形で社債を活用する機会が増えてきています。

成熟期:さらなる成長か安定経営か

成熟期:さらなる成長か安定経営か

事業が成熟期に入ると、安定的な経営運営と、新たな成長戦略の策定が主な課題となります。この段階では、IPO(株式公開)や大型融資、そして社債発行など、スケールの大きい資金調達が選択肢に上がってきます。

【1】 IPO:成長の加速と知名度向上

IPOとは、株式を証券取引所に公開し、一般投資家から資金を集める手法です。上場によって多額の資金調達が可能となり、知名度や信用力も飛躍的に向上します。

一方で、公認会計士監査対応や金融商品取引法に基づく情報開示義務、ガバナンス体制の整備が必要となり、時間とコストがかかります。

成熟したベンチャー企業がIPOを目指すのは、自社の知名度を高め、次の事業展開に弾みをつけるためです。IPOはゴールではなく、新たなスタートと位置づけるべきです。

【2】 大型融資による設備投資

成熟期には、長期的な設備投資やM&Aによる事業拡大も視野に入ります。その際に活用されるのが大型融資です。財務諸表の信頼性、キャッシュフローの安定性、担保力などが問われますが、これまでの実績が評価されることができれば、比較的スムーズな資金を確保できる場合もあります。

ある事例を挙げますと、飲食店を開業して5年目の女性経営者は、次の一手として2号店の出店を計画し、地方銀行からの1,000万円の融資を受けました。過去の決算内容と将来の損益予測が明快だったことで、事業計画通りの資金調達が実現しました。

【3】 成熟期でも有効な社債発行

成長期に引き続き、成熟期でも社債発行は有効な資金調達手段です。とくに財務基盤が強化されていれば、金利の低い社債で資金を確保することができます。IPO後に信用格付けを取得できれば、広範な投資家層からの関心も集めやすくなります。

経営ステージに応じた柔軟な資金戦略を

経営ステージに応じた柔軟な資金戦略を

資金調達は、事業のステージによって適した手段が変化します。創業期には自己資金や補助金、エンジェル投資家やクラウドファンディングを駆使し、成長期には銀行融資、ベンチャーキャピタル、社債発行で事業を拡大させます。そして成熟期にはIPOや大型融資で、次のステージを目指すことが重要です。

【まとめ】

どの段階においても、事業の本質を理解し、数字に裏打ちされた説得力ある資料と事業計画、債権者や投資家からの信頼を積み重ねる経営姿勢が求められます。

資金調達は単なる「お金集め」ではなく、「未来を描く戦略の一部」と捉え、着実なステップを踏んでいくことが成功への近道となるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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