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負債による資金調達はどんな企業に向いている?企業の成長戦略と資金調達…負債という選択肢

負債による資金調達はどんな企業に向いている?企業の成長戦略と資金調達…負債という選択肢
黒瀧 泰介 税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

執筆者

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士

黒瀧 泰介

青森県弘前市出身。早稲田大学商学部卒。監査法人トーマツにて会計監査に従事し、税理士法人山田&パートナーズで相続コンサルや組織再編コンサルなど、法人個人問わず幅広く税務コンサルティング業務に従事。2015年税理士法人グランサーズを開設。スタートアップ企業からIPO(上場)準備支援まで、あらゆる成長段階の企業のサポートをしており、税務会計顧問にとどまらない経営を強くするためのコンサルティングサービスに中小企業経営者の信頼と定評を得ている。

企業の成長に不可欠な「資金調達」。そのなかでも、返済義務を伴う「負債」は、経営の主導権を保ちながら、迅速に資金を得られる手段として注目されています。コロナ禍や災害など不測の事態への備えにもなり、企業の財務的な安定性を高める選択肢でもあります。本稿では、負債による資金調達の基本構造から、活用に適した企業の特性、導入時の留意点までを公認会計士の黒瀧泰介氏がわかりやすく解説します。

企業の持続的成長と資金調達の重要性

企業の持続的成長と資金調達の重要性

企業が持続的に発展していくためには、事業規模の拡大、新たな市場への参入、技術革新への投資といった成長戦略の実行が不可欠です。これらを実現するためには、適切な資金調達が重要な基盤となります。

自己資金のみに依存するのではなく、外部からの資金調達も視野に入れることで、企業はより柔軟かつ迅速に成長することが可能になります。また、コロナ禍や自然災害のように突発的に資金繰りが悪化する事態においても、十分な資金があれば企業の防衛や従業員の保護につながります。

数ある資金調達方法のなかから、特に「負債による資金調達」に焦点を当て、その基本的な仕組みや企業にとっての意義、そしてどのような企業にとって有効な手段となり得るかを解説します。負債による資金調達は、適切に活用すれば企業の成長を力強く後押しする一方で、その特性を十分に理解し、慎重な判断が求められます。

負債による資金調達の基本構造

負債による資金調達の基本構造

負債による資金調達とは、企業が事業活動に必要な資金を、銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関や投資家といった外部の資金提供者から借り入れる行為を指します。この方法で調達された資金は、原則として将来の一定期日までに、借り入れた元本に加えて、資金の利用料としての利息を支払う義務が発生します。この点が、出資を受ける「資本調達(株式発行)」との大きな違いです。

負債による資金調達の代表的な形態としては、以下の2つが挙げられます。

①金融機関からの融資

銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関が、企業の信用力や担保に基づいて資金を貸し付けます。融資の種類は、短期的な運転資金を賄う短期融資、設備投資や事業拡大に対応する長期融資、一時的な資金不足に備える当座貸越など、企業のニーズに応じて多様な形態が存在します。

②社債の発行

企業が自ら発行する債券を通じて、投資家から資金を集める方法です。社債には償還期日(満期)や利率などがあらかじめ定められており、投資家は定期的な利息収入と満期時の元本償還が得られることを見込んで投資を行います。社債の発行は一般的に一定以上の信用力を持つ企業に限られる傾向があります。

資金の借り入れに際して、企業は資金の対価として金利を支払う必要があります。その水準は、市場の金利動向、企業の信用力、借入期間、担保の有無など、さまざまな要因によって決定されます。

また、融資の種類や企業の信用状況によっては、不動産や機械設備などの担保の提供や、第三者による保証が求められる場合もあります。これらの条件は、企業の資金調達コストやリスクに直接影響するため、慎重な検討が必要です。

負債による資金調達が向いている企業特性

負債による資金調達は、すべての企業にとって常に最適な選択肢とは限りません。企業の財務状況、事業の安定性、成長戦略、そして経営方針など、多角的な観点から総合的に判断する必要があります。以下のような特性を持つ企業にとって、特に有効な資金調達手段となります。

安定したキャッシュフローを持つ企業:確実な返済能力

安定したキャッシュフローを持つ企業:確実な返済能力

継続的に安定した現金収入(キャッシュフロー)を生み出せる企業は、借入金の返済義務を履行する能力が高く、負債調達に適しています。これは不測の事態にも対応できる企業体力の証しとも言えます。十分なキャッシュフローがあることは、予期せぬ経済状況の変化に対する企業の耐性を高めます。

該当企業例:

長期にわたり安定した収益を上げている成熟企業、継続的な契約収入が見込めるサブスクリプション型のサービス業、公共事業に関連する安定的な収益を持つ企業など。

収益拡大を目指す企業:成長投資による収益性向上

借入金を設備投資、研究開発、新市場開拓などに充てることで、将来的な収益増加が見込める場合、負債による資金調達は有効な手段となります。借り入れによる投資収益が利息負担を上回ることが前提です。成長投資は、将来の収益というリターンを得るための先行投資となります。

該当企業例:

新技術や革新的な製品の開発に成功し、高い成長が見込める企業、生産能力を増強することで更なる受注が見込める製造業、新たな地域や顧客層への展開を計画している企業など。

税制メリットを享受したい企業:損金算入による節税効果

借入金の利息は税務上の損金として認められるため、黒字企業にとっては、損金算入による節税効果が期待できます。節税効果は、企業のキャッシュフローを改善する側面も持ちます。

該当企業例

安定的に利益を計上しており、法人税等の負担が大きい企業

短期間での資金調達を必要とする企業:迅速な資金調達

急な事業機会の獲得、一時的な資金繰りの悪化への対応、または季節的な資金需要の増加など、迅速な資金調達が求められる状況において、負債による資金調達は有効な選択肢となり得ます。株式発行等の他の資金調達手段と比較して、一般的に手続きが簡便であり、比較的短期間での資金調達が可能です。迅速な資金調達はビジネスチャンスを逃さないための要素となります。

該当企業例

急な大型案件を受注するために運転資金が急に必要になった企業、自然災害などにより事業継続に必要な資金が緊急に必要になった企業など。

経営権の維持を重視する企業:株主構成の変化を回避、事業承継

経営権の維持を重視する企業:株主構成の変化を回避、事業承継

株式発行による資金調達は、新たな株主の参画を伴い、既存株主の持ち株比率の低下や、経営方針への影響が生じる可能性があります。一方、負債による資金調達は、原則として議決権の変動を伴わないため、既存の経営体制を維持しつつ資金調達を行いたい企業にとって適切な手段となります。また、事業承継の局面で株価が高騰している場合には、後継者が株式取得に必要な資金を確保しにくいことがあり、そうした際の資金調達手段としても有効です。

該当企業例

創業者が引き続き経営の主導権を維持したい企業、同族経営を重視しており、外部からの資本参加を避けたい企業、事業承継にあたり株式取得費用が資金不足のときなど。

負債による資金調達の留意点

負債による資金調達の留意点

負債による資金調達は、企業の成長を後押しする有効な手段となり得る一方で、返済義務や金利負担といったコストが発生します。企業の財務状況を十分に分析し、返済能力を超える過剰な借り入れは、資金繰りの悪化や経営破綻のリスクを高める可能性があります。

また、金利の変動リスクや、事業計画が予定通りに進まない場合の返済負担の増加なども考慮する必要があります。

負債による資金調達を行う際には、借り入れの目的を明確にし、調達した資金の使途を適切に管理することが重要です。また、複数の金融機関や資金提供元からから情報を収集し、金利や返済条件などを比較検討することも、有利な条件で資金調達を行うためのステップとなります。

【まとめ】

負債による資金調達は、企業の成長戦略における選択肢の一つであり、安定したキャッシュフロー、将来的な収益成長の見込み、税制上のメリット、迅速な資金調達の必要性、そして経営権の維持といったさまざまな観点から、その有効性を検討することができます。企業自身の特性を十分に理解し、慎重に判断することが、負債による資金調達を成功させるための鍵となるでしょう。

※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。

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